妖怪皇帝の過去と最後の儀式!
牛角魔王を罠にかけ倒した妖怪皇帝が、その恐るべき本性を現したのだ。
俺(妖怪皇帝)は宮殿の天井に張り付けにされている石化した兄者(牛角魔王)の姿を眺めながら、酒を汲みつつ一人勝利の余韻に浸っていた。
そして兄者との因縁の歴史を振り返り思い出していたのだ。
俺はかつて、この世界[天上界・地上界]を支配していた女媧一族として生を受けた。
異端の子…
この世界は今こそ聖天と呼ばれる神々が君臨しているが、それ以前は女媧一族が世界を支配していたのだ。そして俺の父神である神農はこの大陸を統べる大魔王…いや?三皇と呼ばれていた大神なのだ。
神農の一族は牛頭の姿をした一族であった。
ジョカ一族は魔神の中でも驚異的な力を持つ者が多数現れた一族の中で、俺よりも先に生を受けた牛角魔王はその中でも異常な潜在能力を持って産まれた。
父親である神農と后は、長男である牛角魔王の誕生を多いに喜んだ…のだが、
その弟である俺に対しては、嫌悪感を抱いていた。
何故なら元来牛角一族は黒い髪、黒い角を持ち産まれてくる。
しかし、俺は白い髪、白い角を持って産まれてきた異形種だったのだ。
まさに一族に災いを呼びこむ異端児。
「何故こんな子供が?」
「不吉じゃ…」
「この子供は必ず一族に災いを呼び寄せるに違いない。今のうちに殺してしまわねば!」
神農は手にした刀を抜くと、赤子であった俺に向けて突き刺そうとする。
「んな?」
がしかし、神農の突き刺した刀は赤子の俺に当たる寸前で止められたのだ。
それは幼少時代の牛角魔王によって。
「お前、どういうつもりだ?」
「殺させないよ!コイツは僕の弟だ!」
神農は確かに渾身の一撃で刃を突き刺したはずだった。
それを幼き牛角魔王は手に血を流しながら刀を掴み止めたのだ。
(頼もしくもあるが末恐ろしい子供だ)
「ソイツは我が一族にとって不吉な子供だ!生かしておけば、いずれお前にも必ず災いを呼びこむぞ!」
「災い?もし僕に災いを呼ぶのであれば、その時は僕が始末する!だから、今は僕がこの命を預かる。良いですね?父上よ」
それは父親に向けての威圧的覇気が込められていた。
「そうか…仕方あるまい…お前がそこまで言うのであれば…ただし、決して油断するでないぞ?」
牛角魔王は自分の手から流れた落ちる血を神農に向けて、掌を強く握ったのだ。
それは牛角魔王にとっての決意表明であった。
そんな幼少の牛角魔王の持つ存在感に、父親である神農すら怯み後退りするほどであった。
それから数年が経ち…
成長した俺は、兄である牛角魔王の下で副将として仕えていた。
その頃の俺は兄である牛角魔王を憧れ尊敬していた。
だが同時に別の負の感情をも常に抱いていた。
それは嫉妬?
両親からの愛、生まれ持った品格、威厳、魔王として資質、まさに完璧なる存在である兄の牛角魔王。
俺にないものばかりを全て手に入れた完璧なる存在。
嫉妬と憧れ…
合間見れぬそんな複雑な感情を抱きつつ、俺は牛角魔王に付き従えていた。
俺は結局兄である牛角魔王を誰よりも必要としていたから。
当時の地上界は力を持った多くの妖怪達が政権を奪おうと争いあっていた。
そんな中、牛角魔王は大陸統一を目差そうと意気込み勢力をあげ常に戦いに身を投じていたのだ。
そんな兄者に俺は夢を抱いていたのかもしれない。
世界の王になる兄者の姿を。
そして、その傍らにはこの俺が並び立つ姿…
そんなある日、父神である神農と兄者との間で、地上界の政権を二分する戦争が起きたのである。
俺は当然、牛角魔王に付いていた。
だが、後々俺は知る事になる。
この戦争の原因が、俺にあった事を!
それは父である神農が、俺に対して再び刺客を送ったのが発端だった。
俺は瀕死の重傷を受け、それを知り怒りを抱いた牛角魔王が父神に対して反旗を翻したのだ。
結果、牛角魔王は父である神農をも倒し、地上界を手に入れた。
素晴らしい!
これからは兄である牛角魔王が世界の頂点として支配するのか!
俺は輝かしい兄者の偉業に対して、自分までも誇らしくなっていた。
なのにだ!
それ以降兄者は地上界王権を放棄した上、牛神城の中で1人隠居し始めた。
牙が抜けた魔王…
それから数百年が経ち、天上界は新たに進軍して来た神々によって支配される事になる。
地上界はと言うと、神々の監視下で構成された新たな魔王達が再び政権を握る事となった。
兄者もまた、天界支配下の魔王の1人として監視下にくだった。
戦わぬ兄者に俺は何度も説得を試みたが、兄者は聞く耳を持ってはくれなかったのである。
そんな堕ちた牛角魔王の下に従っていた家臣達は一人一人と減っていく中でも、俺はいつか必ず兄者が再び立ち上がってくれると信じて仕えていたのだ。
そんな中、兄者の前に現れた者がいた。
そいつは愚かにも魔王である牛角魔王に対して、怯む事なく喧嘩を吹っ掛けて来て言い放ったのだ。
「俺様と世界を奪うぞ!一緒に世界を手に入れようぜ!」
そいつは金色の猿妖怪『美猴王』と名乗った。
美猴王は兄者以外にも地上界でも指折りの魔王達と義兄弟の契りを結んだかと思えば、この大陸全ての魔王達に喧嘩を売り、地上界統一を成し遂げていく。
そんな何処の馬の骨か解らない猿妖怪に兄者を奪われて、俺の腹の立ちようはなかった。
いや、まだ救いもあったのか?
牙が抜けた魔王と言われていた牛角兄者が再び剣を手に、その力を奮っているのだから…
が、が、が、やはり許せん!
自分が嫉妬し憧れていた牛角魔王が、美猴王なる妖怪と同格扱いされている事がか?
いや…地上界妖怪統一の中、美猴王の副将として平然としている兄者の態度が許せなかったのだ!
「兄よ!いつまで美猴王とつるむつもりなのだ?悔しくはないのか?あんな猿の妖怪に良いように使われて!」
そんな俺の説得にも兄者は耳を傾けはしなかった。
「俺は今の状況を楽しんでいる。それに奴といると胸が熱くなり、血が騒ぐのだ!これは今までに感じた事のない高揚感。お前にもいずれ解るさ?」
「兄よ…」
その後、地上界妖怪統一を果たした美猴王率いる妖怪軍の快進撃は、遂に天界に宣戦布告をし、神々との戦争とまで広がっていった。
天界での戦いは熾烈をきわめた。
多くの仲間が傷付き、戦場に消えていった。
この天界での結末は…
美猴王の死をもって終幕。
俺もまた瀕死の状態で戦場から離脱し、地上界へと逃げ延びる。
それから俺は天界で負った傷を癒しながら、同じく生き延びた兄者を探したのだ。
兄者さえ生きていれば必ず再起出来る!
そしたら今度こそ憎き天界の奴等を一人残らず八つ裂きにしてやるぞ!
だが、俺は噂で知る事になる。
敗戦し地上に戻った兄者が、天界の最高神より地上界の北の大地を任される魔王として、再び地上界に君臨する事を命じられていたのだ。
兄者はその命令をのんだのか?
地上界を四つに分け君臨する事になった牛角魔王。
しかし俺は許せなかった!
これでは同じじゃないか?
天界の犬に成り下がっただけではないか?
このままで良いのか?兄者よ!
俺達は何のために天界に攻めこんだのだ?
どれだけの同志が死んだと思っているのだ?
俺は許せん!天界の連中が!
そうだ!再び地上界妖怪軍の勢力を上げて、
今度は兄者である牛角魔王を筆頭に天界に攻めこめば良いではないか?
まだ兄上は俺が生き延びた事を知らない。
直ぐにでも牛角魔王に会わねばならない。
だが、そんな俺の野心を邪魔し、更に兄者を堕落させる新たな邪魔者が現れた。
その者とは女妖怪を統べる殺戮の女王と異名を持つ妖怪…いや、魔神族の女『羅刹女』であった。
これからだと思っていた矢先だったのに…
よりにもよって牛角魔王は、その羅刹女と夫婦になった挙げ句、魔王の任を降り、妻と静かに暮らすと言い残して隠居し始めたのだ。
俺は自分が生きている事も告げず兄者に顔を合わせる事なく去った。
俺は兄者に対して激怒した。
だが、腑抜けになった兄は仮にも魔王なのだ。
力で敵うはずもない!
怒りは募るばかりであった。
月日は流れ、俺は牛角魔王と羅刹女との間に子供が産まれる事を風の噂で知る事になる。
こんな兄者…
見ていたくない!
ならば、せめて殺してやりたい!
この俺の手で!この手でな!
敬愛さ余って憎悪百倍とはこの事だ!
その殺意は俺を行動へとつき動かした。
俺は内密に牛角魔王の配下だった者達に手を回していく。
牛角魔王の配下は元々気性の荒い猛者ばかりであったため、今の衰退した牛角魔王には内心反感を抱いていたのだ。そこに付け込んだのである。
牛角魔王を亡きものにし、再び我々の妖怪王国を築きあげるのだ!と…
俺は天界の大戦で俺と共に生き残った氷狼族の銅角と、炎狼族の獄狼と手を組み計画を立てていった。
この頃から俺は己の名を妖怪皇帝と名乗り、牛角魔王の元配下達全てを自分の配下にしたのだ。
そして計画の決行日は『その日』に決めた。
その日とは牛角魔王と羅刹女との間に産まれるガキの出産日である。
何故その日を決行日にしたかと言えば、牛角魔王にとって一番最良の日を一番最悪な日にする事で、精神的に絶望の淵に陥れようと考えたのだ。
既に俺の兄者への敬愛心は、憎悪へと変わり果てていた。
そして羅刹女が赤子を出産する日、俺達は決行した。
そこで俺は羅刹女を殺害し、牛角魔王のガキを拉致。
そして今…
妖怪皇帝である俺は今まさに、念願の打倒牛角魔王を討ち果たし満足げに微笑んでいた。
「ふふふ…全ては俺の掌で回る。俺の前では、あの牛角魔王でさえこのザマだ。それもこれも、あの不思議な遺跡のおかげだな!あははは!」
遺跡とは?
牛角魔王に手を出す意味。
当初、俺も牛角魔王からの復讐を怖れて下手な真似は出来なかった。
だが、突然俺の前に幸運が転がり込んで来たのだ。
俺はこの西の地にて発見したのだ!
『謎の西遺跡』
誰が造った物なのか?
何のために造られた物かも分からない謎の遺跡。
だが、そんな事は関係なかった…
調べていくうちに、この遺跡は俺にとって都合よい物だと判明する。
強力な結解で天界の神達がこの火炎城…いや?この西の地への侵入を妨げ、また牛角魔王にこの居場所を突き止めさせぬ事も出来たのだ。
更に俺は遺跡の中に封じ込められていた力を俺自身とを融合させ、更なる強さと進化をも手に入れた。
この頃か?新たに配下に天界から堕ちてきた三将軍を側近にしたのも。
こいつ達は馬鹿みたいに俺に従順に従ってくれた。
同時に問題も発生した。
この遺跡の鍵である赤と青の水晶が、
俺に反旗を抱いた銅角と獄狼によって盗み出されてしまったのだ。
後に銅角と獄狼の元から遺跡の鍵である水晶を、三将軍に取りに行かせ再び三つの水晶を取り戻させた。
俺にとって牛角魔王の存在は既に脅威ではなかった。
この水晶と遺跡が揃えば敵はない!
あの美猴王と六大妖魔王でさえ成し遂げられなかった天界征服も夢ではないのだ!
その手初めに…
当初の脅威であった牛角魔王をこの地におびき寄せ、今こうやって仕留める事に成功したのだ。
しかし…
まだ、俺の牛角魔王への復讐が全て終わった訳でなかった。
この復讐を終えてこそ、牛角魔王への復讐を成し遂げれたと言えるのだ。
そう…
牛角魔王の実の子である紅孩児の手により、牛角魔王の命を完全に絶つ事!
「全てはここから始まるのだ!」
俺は自室の部屋に待機させていた紅孩児を呼び寄せる。
暫くすると紅孩児が入って来た。
俺の座している前に紅孩児が挨拶をし、膝をついて頭を下げた。
ふふふ…何も知らぬ愚かなガキが…
「お父上!お呼びにより、この紅孩児、参上致しました!」
「うむ」
「父上!三将軍の姿が何処を探しても見えぬのですが?やはりご存知ありませんでしょうか?」
「三将軍だと?知らぬわ!」
三将軍の名前を出して機嫌が悪くなる俺に対して、紅孩児は畏縮する。
「申し訳ございません」
「そう恐縮にするな?お前には話してはいなかったが三将軍には別件で城を出て貰っているのだ。心配するでない?怒鳴ってしまい悪かったな?お前には一つ頼みがあって呼んだのだ」
これからが見物なのに、少し気を急いたようだな?
俺は紅孩児に優しい言葉をかけてやった。
そう。これからが面白くなるのだ…
我慢我慢…
「勿体無いお言葉です!そうですか…三将軍は城を出ているのでしたか?そして頼みとは?」
ククク!
本当に馬鹿なガキだ!
笑いを堪えるのが辛いぜ…
「お前に名誉ある仕事を頼みたいのだよ」
「何なりと!で、名誉ある仕事とは?」
俺は指差し紅孩児に天井を見る様に言い付ける。
天井には牛角魔王が石化した状態で張り付けになっていた。
「牛角魔王でしょうか?それが何か?」
「名誉ある仕事とは、我が子であるお前が私に代わり、あの牛角魔王にトドメを刺して貰いたいのだ!」
「牛角魔王にトドメでしょうか?それを私に?」
「うむ。やってくれるな?我が自慢の息子…紅孩児よ!」
「はっ、はい!勿論です!喜んで!」
(我が自慢の息子か…何か嬉しい。父上が俺様にこんな大役を任せてくれたのだ!期待してくれたのだ!俺様は父上の子として恥じない働きをせねばな)
「お任せください!」
すると薄暗かった部屋にあった数百ものロウソクが一度に火が燈り明るくなっていく。
まさに儀式…
それも知らずに実の父親を始末させる非道なる儀式!
「では、今直ぐに始めるが良い!」
「今直ぐに?分かりました!」
儀式が終われば、その後は俺が直々にお前を始末してやろう?
くっくくく…
紅孩児の手から炎が燈ると、次第に炎の槍の形へと変化していく。
「神具・火尖槍!」
紅孩児は火尖槍を片手に構えると、俺の前で火尖槍を振り回しながら炎の演舞を行った後、天井に石化し張り付けになっている牛角魔王に向かって飛び上がった。
「うおおおお!」
火尖槍の尖端が赤く高熱を発していた。
あの一撃は、必ず牛角魔王の身体を貫き内部から燃やし消し去るだろう!
その一撃には、一切の迷いはなかった。
これで牛角魔王との因縁の全てが終わる!
そう確信した時!
火尖槍の尖端が身動き出来ぬ牛角魔王に直撃する寸前、異変が起きた。
飛び上がった紅孩児の身体を薄白い光が包み込むと、
「これは何だ?俺様の身体に何が??」
白い発光は牛角魔王への紅孩児の一撃を止めたのだ。
一体、何が起きたと言うのだ??
次回予告
孫悟空「しまった・・・出番に間に合わなかった」
孫悟空「そう言えば、最近俺様見せ場ないよな~」
孫悟空「やはり、ここは俺様の面白い駄洒落で閉めないと後味悪いよな?
よし!では、心して聞けよな?では!俺様の面白いダ・・・・・・」
紅孩児「次話は俺様が語りをやるぜ!張り切るからな!」




