牛角魔王の説く力と三蔵の声?
火炎山の外で戦う孫悟空と紅孩児の死闘!
そして火炎城の内部では牛角魔王と魏神暗鬼が戦いを繰り広げていた。
俺様は孫悟空だ。
俺様と紅孩児が戦っている頃、火炎城の内部では牛角魔王と魏神暗鬼が戦いを繰り広げていたのだ。
「六手暫刀斬!」
※ロクシュザントウザン
魏神暗鬼の六本の腕から繰り出される斬撃が牛角魔王を襲う。
牛角魔王は大斧を盾のように使い受けていたが、次第に押され始めていた。
「手も足も出まい?覚悟しろ!牛角魔王!」
「確かに一撃一撃が洗練され磨かれてはいる!力もスピードも昔とは桁違いだな?」
「当たり前だ!かつて私はお前の圧倒的な強さに恐怖し敗北した。だが、お前への憎悪が私達を強くさせた!お前を倒すために手に入れた力なのだ!」
魏神暗鬼の憎悪の言葉に対して牛角魔王は呟いた言葉は予想外の台詞だった。
「残念だ…」
「何と?残念とぬかしたか?何が残念だと言うのだ?」
「恨みや怒りのみの力など、恐れるに足らんと言う事だ!良いだろう…本当の力というものをお前に教えてやろう!」
「本当の力だと?」
牛角魔王は手にした大斧を振り回して後方に飛び上がり退くと、大斧を床に突き刺したのだ。
すると大斧の中から二本の黒い刃の剣が現れたのだ。
まさか大斧の中に隠し武器があったのか?
牛角魔王はその二本の刀を手に取ると、静かに妖気を高める。
「隠し武器だと?それで私に勝てると言うのか?片腹痛いわ!」
魏神暗鬼は牛角魔王に向かって襲い掛かって来たのだ。
「見せてやる!これが本当の力だぁー!」
魏神暗鬼の六本の腕から繰り出される斬撃の中を掻い潜り、牛角魔王の奥義が炸裂する。
「嵐気流奥義・二刀返三角刑」
牛角魔王の抜き払った両刀から放たれた凄まじい抜刀から乱気流が発生して魏神暗鬼の身体を巻き上げ、その斬撃が身を斬り裂いていく!
「うぎゃああああああ!」
魏神暗鬼は身体を回転させられ宙に飛ばされた後に轟音を立て、牛角魔王の足下の床に落下したのだった。倒れた魏神暗鬼の身体は、元の魏王、蜀王、呉王の三人に分かれ、身体中に傷を負い身動き取れないでいた。
「これ程のものなのか?魔王の力とは?我々もあの日より更に強くなったというのに…こんなにも差が開いているなんて…何故だ??我々に何が足りなかったと言うのだ?」
すると牛角魔王は背中越しに答えた。
「お前は言ったな?かつて戦場で刃を交わした時、この俺に恐怖したと。だが、それは俺とて同じ事だった。俺もお前達の強さに恐怖していたのだぞ?あの時に俺が勝ったのは、ほんの少し運が俺に味方しただけに過ぎない。今回も、かつてのお前達になら負けていたかもな?」
「!!」
「だが、今のお前達には恐怖どころか負ける気もせんかった!」
「何故だ?教えてくれ!私にはさっぱり分からぬ!」
「まだ分からないのか?教えてやろう!恨みや怒りの力など、たかが知れている。今のお前達になくて、かつてのお前達にあったもの!それは守るための力だ!お前達は天界の武将として俺と戦った。そこには守るモノがあったのだろう?戦う誇りがあったのだろう?俺達のような戦馬鹿は何かを守るために戦う時、自分でも信じられぬ力を発揮出来るのだ!」
「!!」
魏王は戦意を失っていた。
傍で黙って聞いていた蜀王と呉王もまた同じであった。
「私達は武人として全ての意味で、お前に敗北したようだな。さぁ…トドメを刺すが良い!牛角魔王よ!」
だが、牛角魔王は魏王達にトドメを刺さずに先を進もうとしたのだ。
「待て!情けをかけるつもりか?私達を武人として死なせてくれ!」
すると牛角魔王は立ち止まり、
「はぁ~?お前何を言ってるのだ?今のは戦いでも何でもない!俺がお前達に戦いの指導とウンチクを講義していたに過ぎん!悔しかったら次に俺と刀を交わすまでに、かつての誇りと守りたいモノをもう一度考えてみるのだな?その時が本当の戦いだ!そんじゃあ~バイナラ!」
バイナラって…
魏王達は目を丸くして、牛角魔王が去ろうとする背中を見ていた。
しかし三人は肩にのし掛かっていた何かが抜け落ちる感じがしていた。
が、それもつかの間であった。
「流石は牛角魔王よ!将軍達では相手にならんようだったな?」
それは今まで黙って見ていた妖怪皇帝が牛角魔王の前に現れたのだ。
その妖怪皇帝に向かって牛角魔王は叫ぶ。
「次はお前の番だ!我が愚弟よ」
「兄者…」
そこには黒い鎧を纏った二本角の長い黒髪の牛角魔王と、相反して白い鎧を纏った長い白髪の二本角の妖怪皇帝が対峙していた。
その両者の顔は紛れもなく瓜二つであったのだ。
それが牛角魔王と妖怪皇帝が兄弟である事実??
二つの強力な妖気がぶつかり合う中、妖気の渦に押し潰される三将軍達。
妖怪皇帝と牛角魔王は妖気渦巻く中、お互い同時に動いたのだ。
城全体が揺れるような衝撃が響き渡る。
その衝撃は火炎城の地下にある火炎山の熔岩を活性させた。
その頃・・・
再び場面は俺様に戻るわけだが、俺様は紅孩児に蹴り落とされ火炎山下層の溶岩に向かって落下していたのである。
俺様は薄れゆく意識の中で紅孩児の事を考えていた。
どうしたら良いんだ?
俺様は紅孩児の奴が嫌いじゃないんだ…
我が儘で、我が儘で、本当我が儘で、我が儘過ぎるほど我が儘な奴だけど…
何か憎めないと言うか?
他人と思えないと言うか…
とにかくダチなんだ!
ダチなんだよ!
なぁ…三蔵?
お前なら何て言うかな?
ダメだ…力が出ない…
もう…無理だよ…
俺様は落下に身を任せ考える事を止めた。
「!!」
その時、聞こえたのだ!
「甘ったれるなぁー!」
えっ?この声は…?
三蔵なのか!?
それは何処とも分からないが、確かに俺様の脳に直接声が聞こえて来たのである。
しかも間違いない、この声は三蔵!!
三蔵は言った。
「お前はどうしたいのだ?お前がやりたい事!望み!叶えたい事!求める夢や手に入れたいモノがあるなら、どうして半ばで投げ出すのだ?最後まで中途半端にするな!自分自身の限界まで出し尽くせ!嫌なら最初から何も求めるんじゃねぇ!」
「俺様は…」
「猿!お前に諦められるのか?お前の望みはその程度のものなのか?お前の望むものは何だ?言ってみろ!」
俺様の望み?俺様の望みは…
「今直ぐに三蔵のいる場所に行く事…」
「はぁ~?俺のいる所に帰るのがお前の望みか?普段から強欲とか抜かす割には、案外欲がないのだな?」
「だって、お前は今!」
「ふざけるなぁ!お前の望みはそんなもんじゃないだろ?」
本当の望み?
俺様の望み…
それは、
「紅孩児を!紅孩児を取り戻したい!もう一度あいつとダチに戻りたいんだ!」
だが、直ぐに俺様は今の状況に気落ちする。
「だけど俺様どうしたら良いか分からない。今の紅孩児に何を話して良いのか分からないんだ…」
さらに弱気な俺様に対して三蔵の叱咤が続いた。
「ウダウダと考えてるんじゃねぇー!いつまで寝てるんだ?時を無駄にするな!さっさと起きやがぁれ!この馬鹿猿がぁー!」
その言葉に俺様はびくつき、目を丸くした。
「もう、答えが出てるのだろ?」
「!!」
その瞬間、俺様は目を見開いたのだ!
落下中の俺様は身体を捻りながら体勢を整え、突き出ていた岩石に着地したのだ。
「ナハハ~!三蔵キビチィ~!でも、あいつならそう言うよな…やっぱ!」
そうだよな…
分からない事をどんなに悩んでいてもしょうがない!
分からないなら自分から道を切り開かないとな!
俺様に出来る事は行動あるのみ!
やらないで後悔するより、やって後悔した方が死ぬほどマシだ!
そういう訳だから…
「じゃあ、やれる事から始めるか!」
ありがとうよ…
三蔵!
先程の声が本当に三蔵の声だったのか?
幻聴だったのか?
そんな事は分からないが、確かに俺様は三蔵の言葉で開き直れたのだ。
俺様は辺り一帯溶岩の地底の奥底から上空に見える火炎城を見上げると、
「今、行くからな!紅孩児!」
俺様は戦う決意を胸に金斗雲に乗り再び戦地へと飛び立つのだった。
次回予告
牛角魔王「さすが俺!」
孫悟空「何を自画自賛してるんだよ!説教好きなだけだろ?昔からそうだったよな?いつもいつも口うるさい小姑みたいによ!」
牛角魔王「誰が小姑だ!それよりお前は誰と話していたんだ?落下しながら独り言をブツブツと?マジに怪しい奴だぞお前?」
孫悟空「そんなんじゃねえよ!」
牛角魔王「それより次の話じゃ俺が妖怪皇帝と一対一でバトルからお前の出番はもうないかまな?がははははは!」
孫悟空「そんな簡単に終わるとは思わないがな・・・」




