孫悟空死す?三蔵地獄へ行く!?
孫悟空と因縁のあった混世魔王も撃退し、旅も快調と思いきや・・・
こんな事もあったのだ。
どーも、俺は三蔵だ!
んっ?
どうして語りが孫悟空じゃないかって?
それが、話すと長くなるのだが…
それは旅先で起きた出来事。
俺と孫悟空は襲い掛かる妖怪達を、いつもの如く薙ぎ倒していた。
「三蔵!こいつ達が終わったら、たらふく飯食うからなぁ!」
妖怪達と戦いながら俺に奢れと催促する孫悟空。
「だったら早く片付けろ!」
「おうさぁ!」
孫悟空が獣王変化し、その身体が金色の大猿へと変わっていく。
後は一気に妖怪達の残党を蹴散らしたのだ。
その後、俺達は飯を食いに行ったのだったが、
「バグバク!ムシャクシャ!ハムハム!うまうま!」
孫悟空の奴は店の食べ物を全部注文したかと思うと、一心不乱に食べ始めたのである。
「おい!そんなに急いで食ったら」
「オゴッ?ウグッ!オゴッ!グッグググ…!!」
「馬鹿者が!案の定、咽を詰まらせやがった」
孫悟空は顔を青ざめながら悶えていた。
「み…水!…何か…飲み物を!」
その時、孫悟空に一杯の液体の入ったコップが差し出されたのである。
「ありがてぇ!」
孫悟空の奴は差し出されたコップの中身を迷う事なく一気に飲み干した。
「待て!猿!お前、何を飲んだのだ!?」
「えっ?」
その直後、孫悟空は胸を抑えながら突然苦しみ出したのだ。
口から泡をふき、そのまま意識を失い倒れたのだった。
「クッ!」
俺は辺りを見渡し、孫悟空が飲んだコップを差し出した犯人を探した。
だが、既にその者の姿はなかった。
「クソッ!逃がしたか!」
その後、俺は意識を失った孫悟空を担いで、この場から離れたのだった。
いつ追撃が来るか解らなかったからだ…
夜になると俺は目を覚まさない孫悟空を寝かして、野宿の準備をする。。
俺達の旅は大半が野宿なのだ。
俺は火を起こした後、焚火の前に孫悟空を移動させた。
俺は寝ないで孫悟空の様子を見ていた。
間違いない…
この孫悟空の症状は『毒薬』によるものだ!
しかも、この世の毒薬じゃない。
地獄の毒薬…
しかし一体何者が?
俺は出来る限りの『解毒術』を施した。
後は孫悟空の生きようとする力だけが頼りなのだ…
焚き火の音が聞こえる?
俺は座禅を組み、ただ静かに孫悟空を焚き火越しに眺めていた。
油断は出来ない。
必ずまた襲って来るはずだ…
孫悟空に毒を盛った犯人が!
俺は…
(うっ?)
気付くと俺は意識が途切れ眠っていたのだ!?
(俺は何をしている?眠ってしまったのか?)
辺り一帯を漂うお香のような匂いがした?
(この匂いに眠りを誘う何かが混じっていたのだろう)
俺は辺りに意識を集中させた。
何かいる?
すると孫悟空の寝ている近くで、何か影のような者が動いている事に気付く。
俺は目を凝らし正体を突き止めようとした。
眠っている孫悟空の上に何かがいる!
それは、鬼!
黒い亡者のような鬼が、孫悟空の上に乗り掛かり、何かを引っ張り出そうとしていたのだ?
あれは、まさか!
孫悟空の魂!?
「貴様ァ!何をしているかぁ!」
俺は鬼に向かって叫んだのだ!俺は鬼に向かって錫杖を投げつけたが間に合わず、鬼は怪しい笑みを見せて黒い空間の穴に飛び込み消えた。
「待てぇ!」
俺は直ぐ様孫悟空の元に駆け寄ったが、鬼が消えた黒い穴も既に塞がってしまっていた。しかも孫悟空の身体は冷たくなっていたのだ。
魂を抜き取られたのか?では、鬼が持っていたあれは間違いなく孫悟空の魂か!それに鬼が消えた空間の穴は間違いない…地獄への入口だ。
どうする?
だが、このまま手を子招いている俺ではなかった。
俺は孫悟空の周りに結解陣を張り、真言を唱え始める。
『ナウマク・アンマンダ・ボダナン・エンマヤ・ソワカ!』
俺が唱えたのは焔摩天の真言だった。
『地獄の大王!焔摩天よ!我に地獄へと続く道を開きたまえ!』
俺の目の前には、先程鬼が消えていった空間と同じ黒い穴が出現したのである。
ん?
何故、俺にこのような芸当が出来るかだって?
今は、そんな場合ではない!
「待ってろ!猿よ!今、お前の魂を取り戻してやるからな!」
俺は身体に光る縄を縛り付けると、躊躇なく穴の中に向かって飛び込んだ。
穴の中を抜けた先は闇だった。
俺は漂っていた。
方向感覚がつかめない。
上下の感覚も分からない。
ここが地獄か?
何故だか懐かしく感じる場所だ…
と言っても、まだ地獄の一丁目!
孫悟空の魂を取り戻せば、まだ生き返らせることも可能だ!
感じるぞ…まだ近くにいる!
俺の行く手に先程、孫悟空の上にいた鬼が地獄の底に向かっている姿を見て捕らえたのである。
腕には光る魂を抱きしめながら…
「ふっ…見付けたぞ!」
鬼は俺に気付いて慌てふためいていた。
まさか、人間が地獄にまで追って来るとは思ってもみなかっただろ?
鬼の名前は『走無常』
地獄の鬼であった。
「何なんだ?あの人間は!人間が地獄にまで追って来るなんてありえな~い!」
俺の腕が逃げる走無常に届こうとしたその時、走無常は突然異様な奇声をあげたのだ!
俺は、あまりの奇声音に耳を塞いでしまった。
「な…何だ?一体!?」
その時、何かが飛んで来て俺の頬を掠めた。頬から流れる血を抑えながら顔を上げると、目の前には走無常と同じ姿の鬼がぞろぞろと現れ、逃げた鬼を守るように道を塞いでいた。
数は…
面倒だし、どうせ数えきれないから止めておこう。
「こりゃ…骨が折れるな…猿よ!起きたら、この借りを倍にして返して貰うからなぁ!」
すると鬼達が同時に俺に向けて金棒や槍をもって向かって来た。
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
俺が真言を唱えると掌から炎が燃え盛り、降魔の剣へと変わる。
「地獄の鬼共よ!俺の所有物を盗んで、ただで済むと思うなよ!」
さらに俺の背中から炎の化身たる魔神が現れたのだ。
こいつが我が守護神・不動明王だ!
燃え盛る業火を操り向かって来た走無常達を消し去る。
俺は数えきれぬ鬼達を相手に向かって、飛び込んでいた。
(ハァ…ハァ…)
俺の目の前には、まだ鬼達が囲んでいた。
しかし、それ以上に…
俺の後ろには山積みになった鬼達が積まれていたのだ。
「全然数が減らん…早くしないと…」
俺は地獄に来る際に己の肉体を外界に置いて来ていた。
つまり魂のみが地獄に来ているのである。
長い時間肉体と魂を切り離していると、その繋がりが薄れて元の肉体に戻れなくなるのだ。
どうする?
このままでは俺まで元に戻れなくなるぞ?
だが今引き返したら、猿の魂は二度と戻っては来ない。
自分の命と猿の命…
どっちが大事かって?
その答えは決まっているだろ?
それは・・・
『両方ダァーッ!!』
何かを手に入れようと願うなら後ろを見てはならぬ!
無理と決め付けてはならぬ!
最初から諦めている者には、手に入る物でさえ届かなくなるのだ!
俺は己を信じ、前だけを見る!
手に入れるという事を決して疑ったりはしない!
それが何かを手に入れると言う事なのだぁー!
『うおおおお!』
俺は孫悟空の魂を持って逃げている走無常に向かって行く。
俺の魂が次第に弱まりつつあっても…
群がる鬼が行く手を阻もうとも!
燃え盛る降魔の剣を振り回して、鬼達を蹴散らす。
一体一体は大したことはない。
しかし数が尋常じゃない。
俺の身体は傷つき、霊力も弱まりつつあった。
後少し…
後少しなのだ…
後少しで届くのだ…
そして俺は、
『起きろ…猿よ!いつまで寝ているのだ?この軟弱者がぁー!』
走無常の持つ孫悟空の魂に向かって叫んだのだ。
『猿よ!猿よ!…俺の声を聞けぇー!』
俺の身体を追い付いてしがみつく鬼達が押し潰していく。
ダメだ…
力が入らぬ
猿よ…猿…目覚めよ!!
『聖天大聖・孫悟空よぉー!』
その時、
走無常の持っていた孫悟空の魂に異変が起きたのだ。
(誰だ…?俺様を呼ぶのは…?俺様は…)
「ん?何だ?」
『俺様は軟弱者じゃねぇーぞ!』
直後、孫悟空の魂から凄まじい妖気が爆発したのだ!
「なっ?なんだこれわぁ…あぎゃあー!」
走無常は孫悟空の爆発した妖気に飲み込まれ、消滅した。
「さ…さる…?」
孫悟空の爆発した妖気は、辺り一帯の鬼達をも飲み込みつつ消滅させていく!
その余波は俺にも向かって来た。
「うぐおおお!」
俺は咄嗟に結解で防いだのだ。
「猿!もぅ良い!止めろ!止めるんだぁ!」
が、孫悟空の妖気の爆発は一向に止む事はなかった。
それどころか更に威力が増していくようだ。
クッ!この妖気の量…
ハンパない!
ん?
その時、孫悟空の声が聞こえて来たのである。
《こ…わ……こ…わ………》
「何だ?何を言っているのだ?」
《こ…わす…全て…消し去…る嫌だ…誰か……》
「これは…猿なのか?猿…お前…??一体どうしたんだ?」
《…嫌だ…消してやる…苦しいのはもう嫌だ!苦しい…苦しい…嫌だ…消して…
全てを消して…やる。『アイツ』を消してやる…》
『うわあああああああ!』
まさか…
猿の奴、暴走しているのか?
「あの馬鹿猿!面倒ばかりかけやがって!」
俺の魂…持つかな?
俺は暴走する孫悟空の魂に向かって近付いて行く。
それは、簡単な事ではなかった…
少しでも気を抜いたら、俺の魂すら一瞬に消し去られてしてしまうだろう。
「うぐおおお!待っていろよ!猿ぅー!」
俺は暴走する孫悟空の魂に手を伸ばした。
伸ばして…
俺の魂が消し飛びそうだが、諦めん!
『うぐおおお!』
『鎮まれ!荒ぶる魂よ!』
『ナウマク・サマンダ・ボダナン・アビラウンケン・ア・ヴィ・ラ・フーン・カハン!』
これは胎蔵真言…
俺の背後に炎の魔神である不動明王が出現したかと思うと、その姿が新たな神へと変わっていったのだ。
太陽神『大日如来』の姿へと…
『この地獄の地に太陽の光りを!』
その瞬間、閃光が走り、闇に包まれた地獄の世界に温かい太陽の光りが照らされていく。
その光は荒ぶる孫悟空の妖気をも包み込み、鎮めていった。
そして俺は荒ぶる孫悟空の魂を抱きしめたのだ!
「もう良い!しっかりしろ!孫悟空!もう良いんだぁ!お前の闇は俺が全て受け止めてやる!」
俺の光が孫悟空の闇を打ち消しながら、
すると、孫悟空の姿に異変が起きていたのである。
孫悟空の魂から強烈な光りが放たれ、その姿が次第に人の姿へと変わっていったのだ??
「こ…コイツが…猿?この姿が…本来の孫悟空の姿なのか?」
そこで俺は…
ぐっ…ダメだ!
俺の魂が…もう、もたない…
だが、猿よ!必ず…お前だけは…
地獄の世界から太陽の光りが消えていき、再び地獄に闇と静けさが戻っていく。
うっ!生きているのか?俺は?
目覚めると俺は、自分の肉体に戻っていたのだ。
戻れたのか?
どうやって?
ハッ!
それより猿は!?
俺が振り向くと、そこには猿の姿の孫悟空が眠っていた。
「猿!」
どうやら、猿の奴も無事に戻ってこれたようだな?
孫悟空の奴は…
「ふぴぃ~ふぴぃ~ネムネム…ふぴぃ~」
何もなかったかのように、気持ち良さそうに眠っていやがったのだ。
「この猿…俺がこんなに苦労していたと言うのに、呑気に寝ていやがって!」
《バコン!》
俺は腹いせに眠っている猿の奴の頭を殴ったのであった。
後に、孫悟空が飲んだ飲み物は毒と言うより、肉体と魂を分離させる薬だと分かった。
それに、俺の結解に誰かが入り込み…
何者かが俺と猿を地獄から引っ張り上げた者がいる事を知ったのは、ずっと先の話になる。
ぐうすか~ネムネム・・・
ん?俺様が寝ている間に今回は何かあったのか?まあ、よいか?
さて、次の話は・・・いよいよ!あいつが登場する話なのだ!
誰が出るかは、次の話までのお楽しみだぜ!