三将軍の過去!魏王将軍の感じた温もり?
孫悟空は妖怪皇帝と対面した時、その計り知れぬ潜在能力に恐怖を感じてしまった。
孫悟空は己への試練と、呉王と蜀王を怒らせて同時に相手する。
しかし、そこに新たな敵・魏王将軍が向かっていたのだ。
私の名は魏王
紅孩児様は火尖槍の手入れをしながら、私が孫悟空を連れて来るのを待っている。
「悟空の奴早く来ないかなぁ~?あいつが来たら、俺様が留守の間この城に入り込み、兵士達を襲っていると言う侵入者を病の父上に代わり退治してやるぞ!」
意気込む紅孩児様を後にして、私は呉王と蜀王が侵入者〔孫悟空〕と戦っている戦場に向かって長い通路を歩いていた。
「友達か…あの紅孩児様が…」
私は昔の事を思い出していた。
かつて天界の将軍であった魏王、呉王、蜀王の三将軍。
私達はかつて天界を守る武神であり、誰からも誇られていた。
だが、運命の歯車を変える事件が我々の身に起きたのだ。
それは『第二次天界大戦』と呼ばれる戦争であった。
地上界の妖怪達が僅か三年で一人の魔王の下に統合して、妖怪軍を結成したのである。
その首謀者の魔王の名は『美猴王』と呼ばれる金色の猿の妖怪。
その者は他にも力の強い魔王クラスの妖怪と義兄弟の契りを交わして、六大妖魔王と名乗り天界に攻め入って来たのだ。
天界を守る我等三将軍も当然応戦するべく、戦場にて妖怪軍討伐に力を奮った。
しかし我等は六大妖魔王の一人、牛角魔王との一騎打ちにて重傷を負ってしまったのだ。
「牛角魔王」
敗れた私と二人の将軍はその後、第二次天界大戦終幕まで、やむ無く身体の治療のためと療養する事になってしまった。そのため天界に住む周りの者達は、そんな我々を『戦場より逃げた三将軍』と罵る者達まで現れたのだ。
その後の我々三将軍は天界人達からの信頼を失い、酒に溺れて、その後は荒れた人生を送った。
我々は逃げてはおらぬ!
我が誇りにかけて勇猛に間違いなく戦った!
我々は何も恥じる事はしていない。
だが、周りはそうとは見なかった。
私達への中傷と罵声の毎日。
そんな私には息子がいた。
息子は将軍である私を慕い尊敬していた。
そのために息子は周りの同い年の子供達からイジメにあっていたのだ。
それでも息子は、こんな私を最後まで信じていた…
最後まで…
天界にはその頃、大戦より天界に居残った妖怪の残党が各地の村を襲っていたのである。
ある日、その残党が私の住む村を襲ったのだ!
村は炎に包まれていた。
私はその日も、呉王と蜀王とともに酒に溺れていたのだが、たまたま酒場に逃げて来た男から私の住む村が妖怪達に襲われていると耳にしたのである。
即座に村に向かうと言った私に対して、「放っておけ!」と言う二人。
「村の奴達が俺達に何をした?」「どんな仕打ちをした?」と引き止める。
だが…私は村に残して来た息子の安否が気になっていたのである。
私は一人、急ぎ足で村に戻ったのだ。
頼む…無事でいてくれ!
そして、村に着いた私が目にしたのは…
まさか!?有り得ぬ!
妖怪の残党に命を請う村の者達が、よりにもよって…
私の息子の命と引き換えに村を救って欲しいと懇願している姿だった。
妖怪の残党はそれを承知した。
何故なら、その残党は過去に私に恨みのある妖怪達だったからだ。
妖怪達は私の息子を掴み上げると、
「魏将軍の子よ!恨むなら、情けない父親を恨むのだな?」
しかし息子は言った。
「父さんは…僕の憧れ…恨む事なんかない…父さんは尊敬出来る立派な父さんなんだ!」
その目に迷いはなかった。
が、妖怪達にはそれが許せなかった。
私が辿り着いた時…
私が目の当たりにしたのは、妖怪が自分の息子を手にかけた瞬間だった。
「あぁああああ!」
その直後、私の中で何かが壊れた。
何をした?
私がこの世界に何をしたのだ?
この世界を守るため!
力のなき弱き者達のため、戦うすべのない者達のために、生きてきた人生全てをなげうって厳しくも荒々しい修行に耐え、血の滲む思いで私は天界の武神となった。
死にもの狂いで戦う日々、救って来た命も数知れずあった。
だが、その仕打ちがこれか?
たった・・・たった一度の敗北が?
わからん!分かるはずがない!
何故、息子が?
まだ、未来があったはずの息子が…
俺が悪いのか?
敗北した事が罪だったのか?
力がなかった事が罪だったのか?
なら、何故私を裁かぬ?
私一人を裁けば良いではないか!
有り得ぬ…
このような世界…
「断じて、あってはならなぬのだぁーー!」
その後…
私は目の前にいる妖怪の残党達を、手にした刀で斬っていった。
妖怪を皆殺しにした私を喜ぶ村の民。
だが、私の怒りは止まらなかった。
その矛先は?天界の民ををも斬った。
私はその手で今まで守ってきたはずの村を滅ぼしたのだった。
それから私は反逆者の汚名で天界より討伐の命令が下された。
だが、そんな私の傍らには今まで戦地を共に戦い、義兄弟の契りを交わした二人が着いてきてくれた。
「良いのか?」
「ツマラヌ事を言うな!俺もこの世界には不信を抱いていたのだ!」
「それに、我々は三人揃って三将軍でしょ?」
私と共に呉王、蜀王は逃亡の挙げ句、天界から派遣された討伐隊により天より落とされたのだった。
そして我々の魂は、地上界に堕ちて…
妖怪として転生したのだった。
【神堕ち】
それから妖怪として地上を彷徨い旅をしていた我々三将軍は、妖怪皇帝様によりその力を見込まれ…
再び天界に反逆を起こす同盟を結び、我々三将軍は妖怪皇帝様に仕えたのだ。
それから間もなく…
妖怪皇帝様が私を呼び出したのである。
「いかがなさいましたか?妖怪皇帝様!」
「お前にソイツの世話係を任命する」
「世話係ですか?」
私の視線の先には、産まれて間もない炎に包まれた赤毛の赤子が眠っていたのである。
「その赤子は一体?」
「驚くなよ?その赤子は牛角魔王の赤子だ!」
「なっ?牛角魔王のですか!それが何故?」
牛角魔王…
かつて私が戦い敗れただけでなく、敗者としての汚名を与えた張本人。
「何故、私が世話を?私と牛角魔王の因縁はご存知でしょう!」
私は妖怪皇帝様に向かって、荒々しく抗議した。
しかし、妖怪皇帝様は笑みを見せながら私に説明したのだ。
「だからだよ!お前はその赤子に戦闘技術を叩き込むのだ!」
「?」
「そして、いずれその赤子は牛角魔王を殺すための切り札となろう!」
なるほど…
そういう事か…
牛角魔王には、これ以上ない屈辱を与える手段だ。
「そう言う事でしたか…ですが、私には自信がありませぬ。怒り誤って、この手で殺してしまうかもしれませぬ。私の恨みはそれ程…」
「それなら、それでも構わぬよ!所詮はいらぬ命。ただ、使えるなら使ってみようと思った遊び心程度の余興だ」
「は…はぁ…それなら…承知致しました」
私は仕方なく、その赤子を引き受けたのだ。
部屋に戻った後、私はその赤子を見た。
恨みが!
怒りが込み上げて来る…
いっそう、この手で殺してやりたい!
私の息子は死んだ。
なのに、牛角魔王の息子は生きている。
そんな理不尽が許されるのか?
無意識に私の手が、赤子の首に向けられたのだった。
別に殺しても構わんだろう…
だが、その私の差し出した指をその赤子は、その小さな手で握り返して来たのだ!
「!!」
指から伝わる温もり…
それは、かつて感じたものと同じだった。
それは私の死んだ…
かつての息子の温もりと同じ?
同じだったのだ!
更に赤子は殺そうとした私に向けて、無邪気な笑みを向けたのである。
まるで父親に向けるような安心した顔で…
私は…
私は自分の手を止めた。
同じ…
この子も我が子も同じなのだ。
愛おしき守られるべき尊い命なのだ!
怒りに任せ己の弱さでその手を血に染めれば、それは私の子供を殺した奴達と同じじゃないかぁ?
私は大粒の涙を流し声をあげて泣いた。
それから、私はその赤子を育て始めたのだ。
ありとあらゆる戦闘技術を叩き込む。
それは、生きるための手段…
呉王と蜀王はあんまり良い顔はしていなかったが、妖怪皇帝様の命令と仕方なく渋々諦め付き合ってくれた。が、私にはその子に対して別の感情が湧いて来ていた。
その赤子の名前は…
『紅孩児』
「紅孩児様は私の命を懸けても守り抜く。だから、紅孩児様を迷わす輩は絶対に許さぬ!」
私は孫悟空と将軍達が戦っている戦場へと足を踏み入れた。
次回予告
孫悟空「まさか!あんなに盛り上げていて、俺様一度も登場していないなんて?全く持ってありえないぞ!」
孫悟空「しかし、まさか俺様の引立て役だと思われていた三将軍にまで重い過去話があったなんて・・・少しやりづらいなぁ~」
孫悟空「しかし関係ないぜ!俺様にはもう引き返す道はないからよ!」
孫悟空「続話も盛り上がるぜ!」




