人間なんて嫌いだ! 紅孩児の過去?
孫悟空が氷狼妖怪の銅角を倒し紅孩児もまた炎狼のボスを撃退した。
そして孫悟空は炎狼のボスに名前を聞き出すのだった。
俺様、孫悟空・・・
俺様は今、紅孩児と旅をしている。
俺様は沈黙しながら歩いていた。
いろいろと考える所があったんだ。
それは炎狼妖怪ボスと氷狼妖怪ボス(銅角)を退治した後の話。
それは炎狼妖怪ボスを追い詰めて、奴の名前を聞き出した後の事だった。
「お前の名前を言ってみろ!」
俺様の問いに観念した炎狼妖怪ボスが、怯えながら自分の名前を告げたのだ。
「俺の名前は…炎狼魔王・獄狼…」
ん?獄狼だと?
妖怪皇帝じゃなかったのか?
その時だ!
突然、俺様の後方より妖気弾が放たれたのだ。
「ンナッ?」
妖気弾は俺様を避けて獄狼の胸を貫き、そのまま獄狼は息絶えたのだ。
妖気弾を放った相手とは?
「紅孩児!」
紅孩児は何事もなかったかのように俺様に近付くと、笑みを見せていた。
「どうやら、一仕事終わったようだな~」
仕事?
そう言えば前にも言っていたが、仕事って?
紅孩児は懐から何やら奇妙な文字が印された小さな袋を取り出すと、獄狼に向ける。
すると獄狼の屍から光る玉(邪魂)が抜け出し、袋の中に吸い込まれて行ったのである。
「それは?」
「ん?これか?これは邪魂を集める神具だぜ?さっき、向こうの奴(銅角)のも手に入れて来た!」
魂を集める神具?
金角や銀角が持っていた瓢箪みたいなもんか?
いや、それより!
魂を奪われたら…
ソイツは二度と転生が出来なくなるのだ。
三蔵に聞いた話だが、俺様達の身体には魂ってものがあり、その肉体が滅びた後も魂は再び浄化されて生まれ変わるのだそうだ。そこで今世、罪を犯した者も新たな人生を送り前世の罪を償うのだと。
かくいう俺様も、かつては美猴王なる大魔王だったのだが、
今は孫悟空として転生して来たのだから間違いない!
前世の記憶を残すのは珍しいケースらしいのだが…
三蔵から言われていた事は、例え何があっても!
『魂には手を出すな!』だった。
転生する機会を奪うなと言う教えだったのだ。
それが邪悪なる者の魂でさえもだ!
俺様は紅孩児に理由を説明して袋を奪おうとしたが、紅孩児の奴は頑なに渡そうとしなかった。
紅孩児の言い分はこの邪魂を集めて父親に献上すると言うのだ。
袋の邪魂を得る事で、父親は傷ついた身体を癒せるのだと言うのだ。
そんな事って?ん?待てよ?
俺様は紅孩児に恐る恐る質問してみた。
「なぁ、紅孩児よ?お前の…お前の父親の名前は何て言うのだ?」
俺様は今旅をしている。
紅孩児が俺様に構ってくれと、チョッカイ出してくるが、
「いい加減~機嫌なおせよ~!ゴ~ク~ウ!」
俺様は思い出す。
紅孩児から聞いた父親の名前を…
「俺様の父上の名前はこの西の大地を統べる『妖怪皇帝』なんだぜぇ!ビックリしたか?そして俺様がその一人息子!紅孩児様だぜぇ!」
妖怪皇帝が紅孩児の父親だって?
牛角魔王の因縁を別にしても…
ナタクからの依頼で俺様は紅孩児の父親である『妖怪皇帝』と戦う事になるのか!?
そして同時に、俺様は紅孩児と戦う事になるかもしれない。
俺様は全ての状況を把握し覚悟を決めて紅孩児に言ったのだ。
「なぁ?紅孩児よ!お前の父上に会わせてくれないか?」
どんな結末が待っていようとも…
俺様は後戻り出来ねぇ…
俺様と紅孩児は、紅孩児の住んでいる『魔炎城』なる城へ向かっている。
そこに妖怪皇帝がいる!
俺様と紅孩児が旅を始めて三日の夜が過ぎていた。
この日、俺様と紅孩児は人間達の住む村で宿をとる事にしたのだ。
えっ?金?そりゃあ~奪ったさ!
えっ?アッ!違うぞ!
勘違いするな?
この近辺を荒らしていた妖怪の山賊をこてんぱんにして手に入れた正当な報酬でだぞ!
すると紅孩児の奴が何かモゾモゾしながら黙っていたのだ?
「どうしたよ?」
紅孩児は頭にターバンを巻いて、頭上の角を隠していた。
俺様も尻尾をズボンの中に隠している。
無駄に人間に変化しなくても、俺様達はあんまし人間と区別ないのだ。
小さな宿屋の一室を借りて一息つくと、紅孩児はまだ不満そうだった。
「俺様は人間が嫌いだ!」
「ん?そりゃ何故だ?」
「だって…弱い癖に貪欲で…悪意の塊みたいなもんだろ?俺様にだって角を見ただけで恐怖して逃げて行くし…それに…」
すると紅孩児は俺様に過去に起きた自分の体験談を話し始めた。
それは紅孩児が幼少の頃、好奇心で初めて人間達の住む村に紛れ込んだ時の話らしい。
たまたま来たその村は、運悪く荒くれ者の妖怪達に襲われていたのだ。
紅孩児は気まぐれでその妖怪達を退治したのである。
そこまでは良かった。
紅孩児の人間離れした戦いに不信を抱く大人達…
それでも、人間の子供達は無邪気に村の英雄である紅孩児に憧れを抱き、懐いて来たのだ。
紅孩児もあんまり悪い気がしなかったらしく、ちやほや英雄扱いされ嬉しい気分になっていたと言う。
そんな時だ…
「紅孩児の兄ちゃん?どうして紅孩児の兄ちゃんはいつも頭にタオルを巻いているの?」
(それは、頭上の角を隠すため)
「これは、俺様のオチャレだ!気にするな!」
オチャレ?オシャレと言いたいつもりだったのだろうか?
そんな紅孩児の言い訳に、子供達の好奇心を止める事は出来なかった。
悪ふざけのつもりだったのだろうか?
子供の一人が、紅孩児の頭に巻いていたタオルを取ってしまったのだ。
「アッ!」
その時、紅孩児の頭の上には人間には無いはずの『角』がさらけ出たのだ。
「キャアアアアア!」
その角を見た大人の女性が悲鳴をあげた。
そこに集まる村の大人達。
大人の人間達は、その忌ま忌ましい『角』の持つ紅孩児を異端の者として恐怖し、一斉に紅孩児に石を投げ始めたのである。
(ヤメロ…)
(何故?)
(俺様は人間達を助けたはずなのに…何故こんな仕打ちを受けないといけないのだ?)
飛んで来た石が紅孩児の額に当たり血が流れ落ちる。
額を抑えながら紅孩児は叫んだのだ!
「俺様がお前達に何をしたのだ!俺様が何故こんな目に合わないといけないのだ!」
そんな訴えに対して人間達から返って来た言葉は…
「それは、お前が妖怪だからだぁー!」
村人の一人が言った台詞に、紅孩児は強いショックを受けた。
「妖怪だから?そんな理由でか?…だったら…俺様は…」
その後、紅孩児は暴れた。
村を炎上させ、一つ一つ家を燃やしていった。
その目に涙を浮かべながら…
すると泣き声がして紅孩児が振り向くと、そこには子供が逃げ損ね転んで怪我をしていたのだ。
見覚えがあった。
(確か俺様に懐いていた子供の一人?)
恐怖する子供に紅孩児は手を差し出す。
襲おうとしたんじゃない。
ただ、起こしてやろうとしただけだった。
その時、その子供を庇うように一人の女が飛び出して来たのだ。
多分、それは母親…
「許してくださいませ!許してくださいませ!どうか、この子供だけは…お願いします!私はどうなっても構いません!だから…この子だけは助けて下さい!」
涙を流し、震えながら子供を庇う母親の姿。
自分の命を投げ出してでも、子供の命だけを助けて欲しいと懇願する母親の姿。
その母親の姿に…
紅孩児は見た事のないはずの自分の母親と被って見えたのだった。
「違う…違う!お…俺様は…ただ…ただ…違うんだぁ~!」
紅孩児はその場を逃げる様に走り去って行ったのだった。
(あんな苦しい気持ちになるなんて…)
それ以来、紅孩児は人間の村にはなるべく近寄らなくなった。
俺様は話を聞いた後…
「なるほどな…」
「だ・か・ら!こんな人間の村なんか早く出て行こうぜ!」
そんな事言われてもな~
「!!」
そこに突然、俺達のいる部屋のドアがけたましく音を立てて開いたのだ?
そこには、この旅館の主人らしき女が立っていた。
「あんた達!そこに座りなさい!」
………えっ?
次回予告
孫悟空「次話はちょっと・・・うん?伏線的な?ネタ話みたいな?」
紅孩児「何だよそれ?」
孫悟空「読めば分かる!・・・かな?かもしれない」
紅孩児「余計に分からないぞ?それよりも、俺様は早く人間の村から出たいんだよ~」
孫悟空「往生際が悪いな~」




