牛角魔王の見せた涙!
ナタクによって三蔵一行より引き離されてしまった孫悟空。
孫悟空はナタクの雷網から抜け出すも、そこで炎を操る紅孩児と名乗る少年と出会うのだった。
俺様は孫悟空様だ!
三蔵と離れてから一日が過ぎようとしている。
俺様は今、ダチになった紅孩児と一緒にいたのだ。
「なぁ?悟空はこれからどうするんだ?何処か行く所あるんか?」
「ん?俺様は…俺様は西へ向かうつもりだ!三蔵の所へ戻る!」
「西?三蔵?」
「そうだ!俺様を待っている仲間がいるんだ!だから少しでも早く仲間達と合流しないといけないのだ!」
「何?悟空?お前には俺様以外にも仲間とか友達てのがいるのか?」
「ん?ああ!豚とか河童とか…三蔵とか…な!」
「オォー!スゲーな!お前もしかしてダチマニアか何かか?」
「違うわ!何がダチマニアだ!紅孩児にはいないのか?そういう仲間とか友達?」
紅孩児は少し考え始める。
「…………」
まだまだ考え込む。
「…………?」
振り絞るようにして悩み込んだ後、
「…………!」
何か泣きそうな顔になっている紅孩児に、俺様まで涙が出そうになる。
コイツ何か可哀相な奴なんだな?
「わっ!悪かった!そんなに悩むなよ!気を悪くしたらごめんな?」
「よくわかんないや!」
無邪気な顔で笑う紅孩児に、俺様は少し救われた気分になった。
「俺様は今まで一人で旅をしてきたようなもんだからな~」
「旅?旅行とかか?」
「いや!そんなんじゃないぞ!俺様には仇の妖怪がいてな?ソイツを倒すために武者修業の旅をしているのだぞ!」
「仇?一体どんな妖怪だ?お前なら大概の妖怪相手に負けたりはしないだろ?」
「馬鹿言え!その妖怪はそこいらの妖怪とは格が違うんだぜ!」
「紅孩児がそういうとは…一体何者なんだ?ソイツは?」
しかし紅孩児の口から出た仇の名前に、俺様は自分の耳を疑った。
「知っているか?妖怪世界の六大妖魔王と呼ばれている『牛角魔王』って奴を!」
「ぎぃ?牛角魔王だってぇー!?」
「知っているのか?」
「あっ…いや…有名だからな…で、一体何をしたんだ?その牛角魔王が?」
俺様は話が話だけに俺様と牛角魔王との関係を隠す事にしたのだ。
すると紅孩児は俺様が考えていたよりも根深かった。
「牛角魔王は……俺様の母様の仇だ!俺様が産まれて間もない頃、牛角魔王の奴が俺様の母上様を手にかけた上、母上様を庇った父上様にも卑怯な手段で深い手傷を負わせたのだ!今も父上様は動けないでいるのだ。だから!俺様が動けない父上様に代わり牛角魔王を討ち取ってやるんだ!」
「!!」
俺様は唾を飲み込んだ。
紅孩児と牛角魔王の因縁は深すぎた。
「ちなみに紅孩児の母ちゃんの名前は何て言うのだ?」
「あん?変なこと聞くな~?聞いてどうするんだ?まぁ、良いけどよ?母上様の名前は羅刹女って言うんだってよ。実際、俺様が産まれて直ぐに亡くなられたから、よくは憶えてないのだけどな…」
「羅刹女だって!?」
その名前を聞いて声に出して驚いてしまった。
同時に俺様の中で一つの仮説が繋がった。
それは、俺様達三蔵一行が牛角魔王の住む火炎山に行った時の話である。
俺様は牛角魔王との激闘の後の話だ。
実際は小手合わせだったのだが…
「なぁ?牛角よ?今日は会えて良かったぞ」
「俺もだ!久しぶりに楽しんだ…しかし本当に運が良かった」
「どういう事だ?」
「俺は今日、この地を出るつもりだったのだ」
「出るって?どう言う事だ?」
すると、俺様は牛角の様子が何かおかしい事に気付いたのである。
「孫悟空」
「なんだよ?」
そして牛角の奴は俺様に驚く話を聞かせたのだ。
「俺にはお前が封印されている間に嫁さんと子供が出来たのだ…」
「そうか…それはすげぇ…ん?さっ?さっ?妻子持ちだとぉー!!」
俺様は突然の告白に驚いて目を丸くしていた。
「そうだ」
「すげぇ!すげぇー!だったら紹介してくれよぉ?なぁ?何処にいるんだ?」
すると牛角魔王の奴が右腕を岩に叩きつけたのである。
岩は一撃で粉砕し、牛角の凄まじい覇気が大地を揺らす。
「どっ!どうした…んだ??」
そう言いかけた時、俺様は牛角魔王の怒りの形相の中に一粒の涙を見たのだ。
そして俺様は気付いた。
牛角魔王の奴に何かとんでもない過去があった事を…
「牛角…話せ!何があったのだ!?」
牛角魔王は冷静になった後、静かに自分自身に起きた経緯を語り始めたのである。
「あの日…」
俺様が大戦で封印された後、牛角魔王には羅刹女と呼ばれる女妖怪と知り合い、夫婦となったそうだ。
そしてこの地にて地下神殿を造り、幸せに暮らしていたと言う。
そんな幸せな日々を過ごしていた牛角魔王を腑抜けになったと、牛角魔王の配下達をたぶらかし自分の配下として反旗を覆した者が現れたのだ。
その日は羅刹女が牛角魔王との間に生まれる子供の出産の日であった。
牛角魔王は何やら不穏な空気を感じた。
「貴方…大丈夫?」
「ふっ…俺を誰だと思っている?六大妖魔王の一人、牛角魔王様だぞ。心配する事はない!お前はただ、これから産まれてくる俺達の子供を無事に産んでくれれば良いのだ」
そう言うと牛角魔王は鎧を纏い、武器(斧)を手に取り戦の準備を始めたのである。
「貴方…気をつけて…」
「では、行って来る。所詮、己の力量も計れぬ者が俺の首をとって、名前を挙げようとしているのだろう!」
牛角魔王は城を飛び出し、自分の領地に入って来た妖怪を探す。
「何処だ?確かに気配はするが…」
牛角魔王は叫んだ。
「何処の輩か知らんが、俺はいつでも相手になってやる!だから姿を現せ!それとも臆病風にふかれて出て来られぬのか!」
すると、何処からともかく炎の矢が牛角魔王目掛けて飛んで来たのだ。
牛角魔王はその矢を片手で軽々と受け止めた。
「ふん!」
だが、見ると牛角魔王の手が焼き焦げていたのだ。
「この炎の矢?俺の手を焦がすか?どうやら、ただの臆病者ではなさそうだな」
しかしその後、何の攻撃もなく謎の妖怪の気配は消えてしまった。
仕方なく牛角魔王は神殿に戻る事にしたのである。
羅刹女の待つ神殿に…
しかし、そこで牛角魔王が目にしたのは胸を槍で貫かれている妻・羅刹女の姿であった。
「羅刹女ーー!」
羅刹女は既に瀕死の状態であった。
「ぎぃ…牛角?ご…ごめんなさい…私…」
「喋るな羅刹女!ぐっぐぐぐ…一体誰が?誰がお前を!!」
牛角魔王は怒りに奮えていた。
牛角魔王は今にも危険な状態の羅刹女になすすべもなく、羅刹女の身体を抱きしめ涙する事しか出来なかったのである。
が、直ぐにその身体から血の気が引いた。
「貴方を…貴方を愛していました…」
その言葉を最期に羅刹女は息絶えてしまったのだ。
「ら…羅刹女?…羅刹女…羅刹女!羅刹女ー!うぐゎあああああ!」
冷静な牛角魔王が取り乱し涙を流す。
「ウググオオオ!」
そこに幾つもの妖気を感じたのである。
それは、牛角魔王の配下…
いや?配下だった妖怪達であった。
頭上に角を持つ妖怪達が下品な笑みを浮かべて近付いて来たのだ。
「き…キサマ達か?キサマ達が…羅刹女を?」
「俺達はあんたにはもう従わねぇ!死にさらせ!牛角魔王よ!城の外には十万以上の仲間達がお前の首を狙って集まって来ているんだよ!」
妖怪達は一斉に牛角魔王に襲い掛かって来たのだ。
が、今の怒れる牛角魔王の相手ではなかった。
振り払った斧の暫撃が妖怪達を細切れにした。
その後は…反旗を起こした十万以上の妖怪達の屍の上で立ち尽くす牛角魔王。
涙を流し、怒りに奮える牛角魔王の胸には『復讐』の二文字が刻まれたのだった。
なぜなら、そこに黒幕と思われる奴がいなかったからである。
俺様は牛角魔王の話を聞いた後、
「許せねぇ…仇の見当はついているのか?」
「いや…だが、生きていれば…俺の…俺の息子がいるはず…」
羅刹女が命の灯が消える間際に牛角に言ったのだ。
「連れ去られた息子をお願い」と…
俺様も話を聞いて怒りが込み上げていた。
「息子?生きているのか?何か目印みたいのはあるのか?」
「俺の息子なら、間違いなく…これがあるはずだ」
牛角魔王は自分の頭上の角を指差したのだ。
それ以上、俺様は何も言えなかった。
そうか間違いない!
俺様は紅孩児の頭上を見る。
紅色の髪の毛から黒く光る二本の角!
紅孩児、コイツは間違いない。
三蔵…悪い…俺様…
ダチのために、ちょっと…
寄り道してくるわ。
許してくれるよな?
だから、もう少し待っていてくれよ…
次回予告
紅孩児「なあ~?何かして遊ぼうぜ!遊ぼう!遊ぼう!」
孫悟空「って、お前は子供か!お前だって、そんな事している場合じゃないだろ?」
紅孩児「・・・そうだな!俺様は母上の仇の牛角魔王を討たねばならない!遊んでなんかいられないぜ!」
孫悟空「ちょっと・・・遊ぼうか?」
紅孩児「本当か?よし!悟空が言うなら仕方ないな?だったら目一杯遊ぶぜ!」
孫悟空「・・・・・・・・・」




