ファンの暴走?ファン!俺の声を聞け!
一件落着と思いきや、三蔵達の話を聞いてしまったファンは、
フォンを連れて三蔵達から逃げだした。
そして、ファンの身に?
はい!沙悟浄です!
私と三蔵様は、私達の密談を聞いて逃げ出してしまったファンさんとフォン君を追っているのです。
しかし時間帯的に真っ暗で、二人は闇に紛れて姿を消してしまったのです。
「三蔵様!まさか逃げ出すとは思いませんでしたね!」
「あぁ…急がねばならないな…二人の足ではそう遠くにはいけないはずだ!」
「はい!」
その頃、孫悟空兄貴と八戒兄貴は空から雲に乗って二人を捜していたのです。
「豚!確かにこっちか?真っ暗で視界がアテにならねぇよ!」
「オラの鼻を信じるらよ!オラは一度嗅いだオナゴの匂いは忘れないらよ!」
「今はお前のその変態ぶりが頼りだよ…」
すると、孫悟空兄貴は暗闇の中を走って逃げる二人を見付けたのでした。
「あっ!あそこにいたぜぇ!」
「待てぇーー!!」
私と三蔵様は孫悟空兄貴達の降りた方向から、
逃げるファンさんとフォン君の前に先回り出来たのでした。
「二人とも!話を聞くのだ!」
「いや…いや…いやぁー!!」
ファンさんはもう聞く耳をもちませんでした。
完全に警戒されされていたのです。
その時です!
私達はファンさんの身体から異質な力を感じたのです?
一体、何が起きているのでしょうか?
「絶対に…離れない…邪魔する者は誰であろうと…」
するとファンさんが右手をこちらに向けたのです。
直後、私達は金縛りにあったのです!
「グッ!」
「さ…三蔵様…身体が動かない…です…」
「待ってろ!」
三蔵様は両手を組み印を結ぶと、
『喝!』
三蔵様の術返しの技で、私達の身体を縛っていた金縛りから解き放たれたのです。
「ファン!俺の話を聞くのだ!」
「うるさい!うるさい!うるさい!あぁあああああああ!」
取り乱すファンさんは既に正気の目をしてなかった。
私達に憎悪の気を放ち、その身体から不思議な力が漂っていたのです。
「お姉ちゃ…」
ファンさんの豹変ぶりにフォン君は心配している様子でした。
するとフォン君はファンさんの気に当てられ、気を失ってしまったのでした。
「待ってて…フォン!今、済むからね…」
フォンさんは私達を睨むと更に力が膨れ上がり不思議な光りが四方八方に飛んでいったのです。
「さぁ…私達を助けて…そして私達姉弟の邪魔物を消し去って!」
すると私達は気付いたのです。
私達が今いる場所が墓場であったことに。
そして辺り一帯から足音が聞こえてきたのです。
そいつ達は、何処からともなく我々の行手を妨げるように現れたのです。
あああああ!!
「あれは!?」
それは僧侶の姿をした者達?
しかし、その姿は見るからに異常な状態だったのです。
だってぇ~
首がなかったり、腕がもがれてたり、身体中血を流し、身体が腐り異臭を放ち、腕や首が変な方向に折れ曲がっている者や、身体が潰された者達。
異常を通り越して尋常じゃないのですから!
それは動く屍!
「うきゃああ!あれは化け物[ゾンビ]ですよ~!!」
これは本当に恐いのです!
だってぇ~見るからに気持ち悪い姿の皆様が、こちらに向かって襲い掛かって来たのですから~
あまりの恐怖に泣き叫ぶ私。
「うるさい!お前も妖怪だろうが!」
「あ…」
「妖怪が動く屍見て恐いのか?」
「見た目が生理的に…」
「お前も人間から見たら尋常じゃない化け物なのだぞ?」
「酷いですよ~私は化け物じゃないです!河童です!」
「もう良い!それより囲まれたぞ?」
「あわわ!」
あれ?この屍はもしかして?
この動く屍は金角と銀角によって惨殺された僧侶達の生理的変わり果てた姿だったのです。
「三蔵様もしかして?」
「ああ…お前の想像通りだよ。そして、あの娘は…」
『死霊使い』
死霊使いとは死者の身体や霊魂を操る呪術者の事です。
実は私達は三蔵様の友人である大僧正様から、この二人の子供を救って欲しいと連絡があって寺院に向かっていたのです。金角と銀角の件は本当に予想だにしなかった不幸な出来事でした。
人間には稀に特殊な力を持って産まれた子供がいる。
その子供達は人間達に疎まれ、恐怖の対象とされ…
妖怪同様、化け物として扱われてしまうのです。
また、妖怪や化け物達からはその能力を奪うために、レアな獲物とされてしまうのでした。
本来、そんな特殊な人間達は『力』を覚醒する前に能力を封印する事で、一般の人間と同じ生をおくれるのですが、ファンさんは稀にみる強い力の持ち主で、覚醒したら大僧正様でも手に負えないと三蔵様に援助を求めたのでした。
その『力』が私達の目の前で覚醒してしまったのです!
一度覚醒した力は簡単には封じ込める事は出来ない。
その力が暴走してしまえば、覚醒者の命を奪わなければならないのです。
「私達姉弟を引き裂く者は…誰であっても許さない!お前達も、あの金角や銀角と同じよー!」
更に力が強まっていく忌まわしき力。
そして屍達が私達に向かって襲い掛かってきたのです。
「ふぎゃああ!」
「沙悟浄!火札を使え!」
えっ?
あっ…はい!
私は炎の念を籠めた術札を屍達に向かって投げつけると、屍は業火とともに燃え上がったのです。
「なるほど~!屍ゾンビは炎に弱いのですね!」
「だが、キリがないな…せぃや!」
三蔵様は群がる屍ゾンビ達を薙ぎ倒していく。
その頃、孫悟空兄貴達は?
「うぎゃあ!うぜぇー!」
「こなくそ!こなくそらぁ!」
空から降りて来ようとしていた孫悟空兄貴達は、
死霊の大群に襲われていたのです。
ちなみに死霊とは幽体の悪霊の事です。
「こいつら生身じゃないから、ウザくてたまらん!殴っても空気を殴ってるみたいだし、絡み付いてきて気持ち悪いぜぇ!」
「どうするら?」
「そうだな。一気に吹き飛ばすか?」
「賛成ら!」
孫悟空兄貴と八戒兄貴は妖気を集中させると、悪霊達に向かって一気に解き放ったのです。
「ふぎゃあぁあぁああ!」
死霊達の呻き声が響き渡る。
死霊達は孫悟空兄貴達の妖気で、一瞬で全て消え去ったのでした。
「三蔵ぉー!」
死霊達を追い払った孫悟空兄貴と八戒兄貴が、私達のもとに降りてきたのです。
「猿!豚!」
「待たせたな!それにしても、厄介な事になってるみたいじゃねぇかよ?」
「ファンちゃん…」
私達の目の前にいるファンさんの形相はまるで悪鬼のようでした。
「力が足りないわ!こんな雑魚では…奴達は倒せない?
もっと…もっと強い力がいる!でも、何処にそんな力があるの?
いる!いるわ!あいつ達なら…三蔵達を始末出来るわ!さぁ来なさい!」
すると辺り一帯が冷え込んでいき、ファンさんの周りに異様な冷気が集まっていったのです。
「一体何が起きているのでしょうか?」
「凄まじい妖気を感じるぞ?これは以前に感じた事が!?」
「見るらよ!ファンちゃんの頭上を!」
「まさか!?」
すると巨大な禍々しい妖気を持つ悪霊がファンさんの上空に現れたのです。
しかも二体も!?
《ダレダ…ワレラ…ネムリ…サマタゲル…ノハ…》
《ウラメ…シイ…ウラメシイ…》
「お前達の力!私が使わせてもらうわ!」
凶悪な二体の悪霊はファンさんの身体の中に吸い込まれていったのです。
「うぐわぁああああ!あぁあああああああ!」
余りにも強い力をその身に取り込んだ事でファンさんは嘔吐しながら苦しみだしたのです。
そして落ち着き顔をあげると、凶悪な悪霊をその身に宿したファンさんの背中から、二つの膨らみが盛り上がり何かの形を作っていく?
「あっ…あれはまさか!?」
「よりにもよって…」
「う…嘘らろ?ファンちゃん」
私も孫悟空兄貴も八戒兄貴もその姿には見覚えがありました。
ファンさんの背中から金色の狼と銀色の狼の首が現れたのです。
そうです!
その正体は金角と銀角の邪悪な魂だったのです!
「フフフ…死ね…死ね…死ね…死んでしまえ!お前達皆死んでしまえ!私達姉弟を引き離す者は皆死んじゃえーー!」
ファンさんの背から盛り上がって現れた二体の狼の口から吐き出された冷気が無数の氷柱と化して、私達に向かって飛んで来たのです。
「うぐわああ!」
氷結の攻撃を受けて私達は吹き飛ばされる。
「くそぉ!こうなったら、また俺様が転生変化で!」
「止めろ!俺に任せるのだ!」
「三蔵?どうするのだ?何か方法があるのかよ?」
「…………」
三蔵様は向かって来る無数の氷柱を一皮一枚で躱しながら、単身ファンさんに向かって突き進んで行く。
すると氷の刃が三蔵様の衣を切り裂いていく。
「三蔵はん!」
「大丈夫だぁ!お前達は控えていろ!」
私達の心配を制して、更に三蔵様は臆する事なく向かって行く。
「近付くなぁ!こっちに来るなぁ!来るなぁ!来るなぁ!来るなぁーー!」
ファンさんの身体から閃光が放たれると、辺り一帯に散らばっていた数百もの骸達から、モヤが抜け出して来たのです。そのモヤは一つ一つ骸から離れ宙に浮き出すと、吸い込まれるかのようにファンさんの体内に入っていったのです。
あれは魂??
骸達から吸いとった魂で、ファンさんは更に強力な力を手に入れたのです。
ファンさんの血管は浮き出し、目は充血し、歯や爪が伸びて行く。
その姿はもはや邪悪な妖怪のようでした。
『ゴロジデヤル!ゴロジデヤル!ゴロジデヤル!』
三蔵様の頬が氷の破片で切れ、血がたれる。
「三蔵ぉー!」
「来るなぁ!猿よ!」
助けに入ろうと飛び出そうとした孫悟空兄貴を再び制止する三蔵様。
「グルナ!ギィザマガ、グルナ!!」
「ファンよ…つれない事を言うな?俺が救ってやる。俺がお前達を救ってやるからな!」
三蔵様は金の錫杖を握り締め真言を唱える。
『オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ…』
『オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ…』
三蔵様が真言を唱えると、背後に異界の神が後臨したのです。
「あれは?」
あの神様は?地蔵菩薩??
「ファンよ…今こそお前を解放してやるぞ!」
三蔵様は手にした金の錫杖に気を籠めると、天上に振り上げた後に大地に向かって突き刺したのです。
『オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカァー!』
直後、三蔵様の祈りで大地が盛り上がりながら揺れ始め、地下深くから神々しい光りが天上高くまで昇っていったのです。
「あがぁああ!!」
同時に辺り一帯の汚れた障気が浄化され消えていく。
「この大地の力は浄化の光り!地蔵菩薩の加護により、全ての汚れから霊魂の苦しみを解放せん!」
『浄火炎・極楽浄土!』
三蔵様の不動明王の浄火の炎は、悪しき魂を浄め滅っする白き炎!
しかし、この炎は?
何て優しいのでしょうか?
はわわ…おっと!
危なく私まで浄火する所でした。
三蔵様の白き浄火の炎はファンさんを包み込み、取り込んだはずの悪霊達の魂をも解き放っていく。
「ウググ…止め…止め…止めて…ああ…力が抜けて…あぁ…いく…」
そして全ての力を失ったファンさんは、うずくまって動かなくなってしまったのです。
「いい加減に止めないか?」
「…………」
ファンさんは三蔵様の声に反応し、無言でゆっくりと顔を上げる。
「フォンよ!」
えっ?ファンさんじゃなくてフォン君?
「何を?」
ファンさんは三蔵様の視線が自分ではなく背後に向けられている事に気付き振り返ると、今まで気を失っていたはずのフォン君が立ち上がっていて、三蔵様を睨みつけていたのです。
そしてその口から発せられた言葉は、
「いつから気付いていたんだ?」
えっ?えっ?えええ??
どうなってるの~??
この続きは次話!
次回予告
沙悟浄「えっ?ええええええええ??ここに来て、またまたの大どんでん返しなんですかぁ~~??」
孫悟空「俺様はもう話に付いていけない。むしろ出番がどんどん無くなっていくのがわかる」
沙悟浄「また~!自分の事ばかり!」
孫悟空「お前は良いよな?語りで出番あるしな?どうしてお前ばかり語りに選ばれるのだ?ずるいぞ!」
沙悟浄「そんな事言ったって~!」
三蔵「お前達!ふざけてないで、続話の俺の見せ場を黙って見ていろ!」




