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聖輪奇聞・転生記!~神を導きし救世主~  作者: 河童王子
天上天下・美猴王伝説!
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現実幻想?

美猴王は錬体魔王の過去を聞いて、


憎しみと同情の狭間の中にいた。


俺様は美猴王。

もう、何もかもが解らない。

解らない…


錬体魔王の過去を聞き、その言葉に嘘は感じなかった。

そして罪を償うために生きる今の姿に、俺様は復讐する事が出来なかった。

暫らく見張るように共に旅を続けた後、

俺様は旅立つ錬体魔王と別れ、再び蓮華の待つ村に帰った。


それから俺様は蓮華と暮らした。

かつての戦場を捨て、平和で安楽な生活に身を委ねる。


もう、過去は過去…


俺様は新たな生を送る。


これで、良いんだよな?


それに錬魂魔王への復讐の理由であった蓮華が目の前にいる事。

俺様は飯を作っている蓮華を見つめながら思った。


こんな生活も悪くないよな?

いや?これが本当の幸せなんだよな?


俺様は背後から蓮華を抱き締めて言った。



「子作りすっか?」


「………」



蓮華は顔を赤らめて俺様の顔面をグゥで殴ると、そのまま突き倒して走って行き毛布にくるまって怒鳴っていた。



「このエロ猿ぅ!バカァ~!!」



それは恥じらい、嫌じゃない感じか?


このまま本当に…


俺様は蓮華と共に暮らしていくのも良いのかもな?


それが、俺様の求める幸せ、なんだよな?




だが、だが、だが、だが、だが、だが、何かがまだ俺様の中で引っ掛かっていた。


本当にこれは罠ではないんだよな?


一番怪しい錬体魔王は間違いなく白だった。


じゃあ、誰が俺様に幻覚を見せているのだ?


そもそも本当に幻覚なのか?

痛みも味覚も触感も間違いなく感じる。


他に怪しいモノが全く見つからねぇんだよ!


疑わしいもんが何もない…


こんな完璧過ぎるなんて有り得るのか?


穴が一つでも…


「!!」


そこで俺様は気付いた。


どうして俺様はこんなに否定しているのだ?

まるで今の世界が偽りであって欲しいみたいじゃんか?

昔、蓮華が死んだ時、俺様はかけがえのない幸せを失ったと思い、悲しみから戦場に身を委ねた。今度は何だ?

気付いたら戦場を失い、蓮華が生き返り、再び心休まる生活が戻って来たのに何が不満なんだ?

美味い飯を食って、蓮華が傍にいて、他愛ない会話に毎日が楽しい…これは間違いない!

それに、多分、この先俺様は蓮華との間にガキなんか出来て、俺様は蓮華だけじゃなくガキも守らないといけないわけだ?なのに何が不満なんだよ?


俺様は今となって戦場を求めているのか?あの血生臭い戦場を?バカな?我ながら我が儘過ぎるだろ?そんなの!


あの血湧き肉躍るような戦場はもうない・・・


俺様は…どうしたいのだ?


グゥ~


あっ…考えてたら腹が減ってしまった。



俺様は蓮華が作ってくれた飯を食いながら会話していた。



「だからよ?畑に新しい作物を育てるつもりなんだよ?隣の親父が育ててるのを見て羨ましくなった!俺様は絶対に作るぞ!カボチャ!!」


「あはは!何、それ?美猴は大きいモノが好きだからね」



と、蓮華は笑いながら目の前にあった椎茸を食べる。


椎茸…

俺様の大好物の椎茸…


はて?


「!!」


俺様の顔が青ざめた。

そして俺様は飯を食い終わった後、外に出ようとする。



「どうしたの?何処か行くのかい?」


「ん?ちょっとな?ちょっと風に当たりに出るだけだ!直ぐに戻る」



そう言って外に出た後、俺様は駆け出して、大木の前で立ち止まると力任せに殴った。

昔の俺様なら大木は一発で倒れただろうが、逆に俺様の拳から血が流れる。


確かに痛みがある。

だが、違和感を感じてしまったのだ。


蓮華は椎茸が食えないはず?


直接聞いた事はなかったが、昔、蓮華が椎茸を皿から外して食べていたのを、ふと思い出したのだ。俺様はただ、蓮華にも好き嫌いあるんだな?としか思ってなく、今の今まで忘れていた記憶。だが、どうして食べたんだ?


確証はなかった…


以前、たまたま食べなかっただけかもしれないし、今の蓮華は生前の複製体だから味覚が変わったのかもしれない?


けど、違和感を見付けてしまったのだ。


もしかしたら?


俺様は目の前にある大木の裏に回ると、そこには俺様の名前が刻まれていた。

そして隣には蓮華の名前が刻まれていた。


やはり、そうか…


俺様はカラクリを見付けてしまったのだ。



この偽りの世界の!






次の日、朝飯を一緒に食べる蓮華は、皿に椎茸を外していた。

俺様は横目にその仕草に気付きながらもいつも通りの生活する。


やはり…


記憶にある確かな事に関しては世界が順応している。

だが、俺様自身の記憶に不確かな事に関しては…


俺様はその日からがむしゃらになってカボチャを作り始めたのだ。

時間をかけて作ったカボチャ!


俺様は育てたカボチャを持って、蓮華に料理を頼んだのだ。



「あんた?何?そんなに真剣な顔で?そんなにカボチャが好きだったの?」


「まぁな?」



俺様は料理されたカボチャのスープを食べた。


「!!」


やはり、そうか…


俺様は涙を流しながらカボチャを食べた。


「変な美猴…」



その夜、再び俺様は外出すると、そのまま旅支度をした。

俺様が向かった先は牛角のいる城だった。


これが本当に仕組まれた幻術なら、解く手段がない訳でもなかった。

通常は痛みを与えたり、ショックを与えるが主流だが、この幻術には痛覚だけでなく他の五感まで感じる厄介者だ。


俺様はかつて仙界で修行中に読んだ巻物に、この幻術を記した記述を思い出す。


決して見破れない最高幻術・幻香妖思。


己が体験し記憶した全てを幻術の中で実体験する。

それは五感を感じ、記憶から幻術を再構成し疑う事が出来ない迷宮。

幻術の中で世界を作ってしまうと言った方が良いか?

難しい事は解らないが、幻術を受けた者自身が、幻術を完成させてしまうのだそうだ。


俺様は立ち止まる。


この幻術を解く手段は巻物に書かれていた。

先ず気付く事が一番困難なのだが、ちゃんと解く手段も書かれていた。


だが、それは…


俺様は仲間達がいる牛角の城へと忍び込む。

俺様は誰にも気付く事なく。


門の見張りをしていた連中は喉元から血を流しながら倒れていた。


誰が?犯人は俺様だった。


俺様は片っ端からかつての仲間達を殺して行く。

俺様を目の前に油断した所にナイフを突き付ける。

誰もが「何故?」って驚きと悲しい顔を見せて息絶えた。


嫌な気分だった。


当然だ。幻術とはいえ仲間達を自らの手で殺めるなんて吐き気がする。


だが、仕方ないのだ。


この幻術を解くには出会った全ての者を殺すしかないのだから。

幻術の中で出会った者は俺様を拘束する呪術なのだ。

俺様が見て感じて信じる事を積み重ねる事で、この幻術は完成する。

だから、それを全て否定せねばならないのだ!


俺様が城の連中を一人一人始末していく。

泣きながら怯えていた六耳、信じられない顔をしていた怪力や刀剣、それに剛力と玉面。

牛角のガキ達・・・


俺様は無慈悲に殺した。


手に血が染み渡り、飛び散った血が壁や床を染める。


血の匂いがする。


そして、最後に牛角が俺様に剣を向けていた。



「気でも狂ったかぁ!美猴!」



牛角の怒り悲しむ顔が、俺様を敵として見ていた。

妖気を失い、妖怪の力を失ったとはいえ、牛角は腕の立つ剣士だ。

そう容易くは倒せない。

だから…


すると、牛角が苦しみ出して膝を付いたのだ。



「先に、この城の飲み物や食料に毒を盛っておいた。そうでもしないとお前は勿論、他の連中を始末出来ないからな?」


「ぐぅ…卑劣な…どこまで腐り…堕ちてしまったのだ…」



俺様は静かに近寄ると、牛角の首を跳ねた。


これで良い…


はずだ…


その後、俺様は他の村を渡り歩き、情報を集めて、そいつの前に現れた。


錬体魔王!



「美猴王ではないか?どうしたのだ?こんな場所で出会うなんて、何か私に用でも?」



俺様は錬体魔王に近付くと、その胸にナイフを突き刺した。


「えっ…?」



錬体魔王は倒れ、そこに現れた患者が悲鳴をあげる。

だが、そこには既に俺様の姿はなかった。


そして最後に向かった場所。


それは…


俺様は無言で、その者の前に現れた。


「美猴?」


俺様の目の前にいるのは蓮華だった。



「あんた?今まで何処に行っていたのさ!何も言わずに姿を消すなんて…」


蓮華は泣いていた。



「どうしたの?そんなにボロボロの格好で?それに何?まるで死人みたいよ?美猴の顔?」



蓮華は俺様の身を心配して毛布をかけてくれた。


優しい…

いつも軽口を叩いているが、蓮華は俺様を包み込んでくれる。

俺様を愛してくれている。

そんな蓮華を、俺様は…


首を絞めていた。



「び…美猴?」



驚くように、俺様を見た蓮華は俺様を恨む訳でもなく、ただ悲しい顔をして言った。



「美猴?理由は解らないけど…ごめんね…」


「何故?…何故、お前が謝るんだよ?何故、俺様を責めないんだよ?」


「だ…だって…あんた?」


「………」


「そんなに苦しんで辛そうな顔をしているじゃない?まるで今にも壊れそうな…」


「れ…蓮華…」



蓮華の首を絞める指の力が緩む、が…



「すまない…すまない…俺様の事を憎んでくれ!恨んでくれ!」


「どうしてさ?私は美猴…何か理由があるんだろ?あんたが信じた事をすれば良いよ…」



そして、覚悟したように瞼を綴じたのだ。


何もかもが蓮華その者じゃないか?

本当に幻術なのか?

いや、迷うな!


迷う事が、この幻術が完成し、俺様は二度と抜け出せなくなるのだ。

俺様は涙を流していた。

それでも、やはり蓮華を殺せな…ぃ…


いや!俺様はもう仲間達を手にかけたのだろ?

もう引き返せないんだ!


俺様は指に力を入れる。

指から伝わる蓮華の脈打ちと温もり。

柔で、今にも壊れそうな蓮華…


サラバだ…


指に力を入れた。

鈍い音がして力を失い倒れる蓮華を抱き締めた。


これで、全て終わった…


これで、幻術が解ける!


解けるはずなんだ!!


だが、一向に幻術は解ける様子はなかった。


亡骸となった蓮華を抱き締めた状態で、1日が過ぎた時に、初めて俺様は自分のしでかした事に気付く。まさか?この世界は幻術なんかでなく現実だったのでは?


迷いが俺様の胸を締め付ける。

だが!迷ったら再び俺様は幻術から抜け出せなくなっちまう!信じろ!信じるのだ!


そうだ?椎茸の件…それにカボチャ!


カボチャを食べた時に味が…なかった。


食べた事のない食べ物に幻術は後出しジャンケンになった。が、隣の畑の親父が言ってたカボチャの味を思い出した途端、カボチャは甘い食べ物として認識したのだ。食べていたカボチャに甘さを感じたのだ。記憶と連動して修正されたのだ。


それに…


一番の確信こそ、蓮華だったのだ。


たとえ、その肉体を複製し甦らせたとしても、その魂までは再生出来ない。

これは世界の理なのだ!

それは神とて叶わぬ禁忌であり、不可能なのだ…


魂は再生出来ない!


だから…


お願いだから…


幻術よ!解けてくれぇー!






だが、願い空しく何も変わらない…


冷たくなった蓮華の身体が俺様に告げた。


まさか?


俺様は二度も蓮華を自らの手で殺してしまったのか?


まさか?


俺様はただ戦場の代わりに血を求めていただけ?


平凡な生活から抜け出したくて、戦場を自ら作り出したのか?


そうだ…


俺様はいつもそうやって戦乱を作り出し、仲間達の死を礎にして来たのでは?






俺様は…


この世界が偽物だと思い込みたかったのではないか?


自己暗示?


そういえば…


幻術を解く巻物なんて読んだ事事態が本当だったのか?

曖昧だ?何故?読んだと思い込んだのだ?

そうあって欲しいと思った願望が自分に暗示をかけていたと言うのか?

俺様、何をやっているんだ?


俺様は仲間達を?蓮華を?自らの願望と妄想で殺してしまったのか?






あっ…


あはは…ははは…




俺様は腰の短刀を抜くと、その刃を心臓に突き刺した。


痛みが伝わる。


身体が冷たくなる。


間違いない…


この世界は、




現実だったんだ…

次回予告


愛する全てを自らの手で・・・


そして、美猴王自身もまた


自らの手で命を絶ったのだった。

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