後は頼んだぜ?頼りになるお前達!
蛟魔王がいない間、美猴王達は新たな戦いを始めていた。
その戦いとは?
俺様は美猴王!
俺様率いる水廉洞闘賊団は黄風魔王の城を落とした後、新たな魔王の地へと向かっていた。
その魔王は、かつて地上界に君臨する七十二魔王の頂点にして、実質最強の強さを持つ元ナンバー1[現在はナンバー2]の妖魔王・金剛魔王の支配する領域だった。
そこは見渡す限りの砂漠地帯。
俺様達は進軍すると同時に交戦となったのだ。
「ぐぅおりゃ!」
俺様は襲い掛かる岩石のゴーレムを殴り砕く。
木っ端微塵になったのを確かめた後、仲間達に拳を振り上げ叫んだ。
「前衛!そのまま蹴散らせ!」
仲間達が俺様に続き、岩石のゴーレムを蹴散らしていく。
そこには剛力魔王と怪力魔王の姿もあった。
すると岩石のゴーレム達が重なり合い、更にデカイ巨人兵となる。
そこに後方から雷や炎の矢が飛んできてゴーレム達を貫き砕いた。
後方からの六耳達の援軍射撃だった。
「美猴王様に近付けさるなきゃ!」
更に空中から炎の玉が落下して来て、巨人ゴーレム兵の頭上に直撃した。
見れば鵬魔王の奴だった。
「うふふ…」
俺様達は勢いに乗っていた。
このまま突き進め……ばっ?
が、俺様は視界がボヤけ足がよろめき膝を付く。
ここに来て、疲労か?情けねぇ~
ゴーレムが岩のこん棒で俺様目掛けて殴り付けてきた。
「ムン!」
ゴーレムのこん棒は刀剣魔王の刀剣で一刀両断された。
そのまま居合いの如くゴーレムを斬り伏せる。
息を切らす俺様を、前衛に救助のために現れた気火猿と岩猿が肩を貸し時軍へと運んでくれた。
「美猴王様!無理はしないでください」
「そうですよ!」
俺様が離脱した後も戦場は続いた。
俺様は息を切らしていた。
情けない…
俺様はまだ虎先鋒と黄風魔王との戦いで傷付いた身体が癒えていなかったのだ。
それでも水廉洞闘賊団を率いて俺様はここまで来たのだ。
大丈夫…まだいける!
だが、俺様達は次第に追い詰められていく。
敵のゴーレム達は倒しても倒しても甦る不死の兵団なのだ。
だから俺様が…
俺様は立ち上がると戦場へと再び舞い戻る。
足が重い…
俺様が…俺様が戦わなければ!
俺様は如意棒を握り、杖にして戦場へと向かった。
そんな満身創痍の俺様に気付いた岩石ゴーレムが向かって来る。
「しゃらくせー」
俺様は身を捻らせ如意棒を振り回し目の前のゴーレムを粉砕し、突き出す如意棒が囲んで来たゴーレムの顔面を貫いた。
「俺様の首が欲しければ死ぬ気でかかって来いやぁー!」
俺様の戦いは正に闘神だった。
その強さは仲間達をも奮わせ、その背中を見て活気が戻る。
頭である俺様が先頭に立って戦闘する事が、指揮を高めるのだ。
俺様が俺様を信じる連中を引っ張らないといけないのだ。
「伸びろぉー!如意棒!」
如意棒がゴーレム達を貫きながら伸びていき、そのまま振り回すと、向かって来たゴーレムに激突させて粉々にしていく。
俺様に感化された仲間達もまた敵の軍を蹴散らしていった。
「よ…し…」
俺様の腹部から血が滲む。
だが、俺様は堪えた。
直に信頼出来る仲間達が戻って来るはずだ…
だから、それまで俺様は倒れてはいけないのだ。
だが、気付くと俺様はゴーレム達に囲まれていた。
「くそったれ…」
そこで俺様は糸が切れたように倒れる。
えっ?まさか限界だと?
倒れる俺様に向かって囲んでいたゴーレムが一斉に襲い掛かって来るのが解る。
くそ!立ち上がれ!
その時、視界がボヤける中、俺様を中心に凄まじい妖気が放たれ向かって来たゴーレム達を吹き飛ばしたのだ。だが、それは俺様の妖気ではなく俺様に向かって上空から降りて来た者の妖気だった。そいつは倒れる俺様を片腕で掴むと、ニッ!と笑って言った。
「待たせたな?」
そして再び向かって来たゴーレムに向かって、腰の刀を抜刀したのだ。
そいつの斬撃はゴーレム達を一瞬にして粉々にした。
そして安堵する俺様は笑みを見せて答えた。
「へへっ…遅かったじゃねぇか?」
俺様が見上げたソイツは、
「待たせた!」
義兄弟の杯を交わした牛角魔王が戻ってきたのだ。
そして上空から飛行雲から降りて来た援軍が加わる。
蚩尤率いる別同隊。
「兄者に続けぇ!」
それは形勢を逆転させた。
ゴーレムの軍は勢いを付けた水廉洞闘賊団によって後退していく。
だが、そんな甘くない…
ゴーレムの軍は倒しても倒しても、再び蘇り数を増やして向かって来る。
奴等は恐怖もなく怯みもしない。
ただ俺様達に向かって来るのだ。
俺様達もゴーレムの軍にもう何日も何日もこんな戦いを繰り広げていた。
体力を失えば、そこで終わりならば突っ切るしかないと、最後の賭けに出たくらいなのだ。
と、そこに見知らぬ奴が現れたのだ。
強烈な妖気が奴から感じる?
何者だ?
ソイツは牛角魔王の前に降り立つと、
「牛角様?この場は妾に任せてくれますか?」
「うむ。出来るのか」
牛角の知り合い?仲間?まさか?
この尋常じゃない力に新たな仲間と言う事は?
アイツが噂の?
「玉面魔王!?」
玉面魔王の周りから水玉が幾つも浮かび上がって上空へと昇っていく。
「震え~震え~ゆらゆら~」
「あれは!」
見上げると、上空に湖が浮いているではないか?
「良い水加減のようじゃ…」
玉面魔王は指を上空に向けて回すと、上空の湖がかき混ぜられながら渦を巻いた。
『死の突く雨』
※シノツクアメ
玉面魔王が指を下ろすと上空の湖から雨のように激しい水玉が降り出したのだ。
水玉は仲間達を反れてゴーレムの兵のみに降り注がれた。
水玉はゴーレムを貫通すると、その形がみるみると崩れ動かなくなった。
更に?
「あそこか」
玉面魔王は人差し指を離れた先に向けると、水玉が飛んで行く。
「ウギャア!」
水玉は隠れていた何者かを貫通し、そして消滅させたのだ。
「今のは?」
「気付かなかったか?ゴーレムを操っていた呪術者ぞ?確か岩石魔王と呼ばれる傀儡使いだ」
って、事は?
もう、この厄介なゴーレム連中は出て来ないのか?
俺様は安堵し力が抜けた。
「お前は少し休め?これから先は俺が軍を率いる」
「頼む。任せたぜ」
「おう!」
俺様は牛角に後を任せて一時、戦線離脱したのだ。
そんで、俺様が復帰する間、牛角魔王が新たに水廉洞闘賊団を率いる事となった。
「………」
牛角魔王は自軍の疲弊の様に、これまでの激しい戦いを思い心痛めた。
自分がいない間に黄風魔王の軍と雷我の闘賊団を沈めた。
代わりに俺様と獅駝王が戦線離脱。蛟魔王も未だに戻らず…
牛角魔王は仲間達を見回す。
現状の戦力は新たに仲間に加わった玉面魔王。
怪力魔王に剛力魔王。
六耳と、蚩尤。
黄風魔王の配下から寝返った刀剣魔王に…
鵬魔王?
「はぁ~?何で僕がお前の下で働かないといけないわけ?意味不明だね?僕は美猴王様にしか従わないよ」
「………」
鵬魔王は牛角魔王に対して強気にふてぶてしくも喧嘩を売る。
「勝手は許さん!俺の命令が聞けないなら軍を出て行け!」
「だ・か・ら?何故に僕がお前の命令を聞かなきゃい・け・な・い・んだよ?」
「ユトリか!」
そこに玉面魔王が口を出す。
「お前、牛角様に無礼であろう?なんなら妾が牛角様の代わりにお前を仕置きするぞ?」
「何?お前?女のくせにムカつくよ?殺してしまおうか?」
「ヤれるならやってみるが良い!」
同時に二人から強烈な妖気が放たれ、覇気がぶつかり合う。
「オィオィ…」
そこに、剛力魔王と怪力魔王が割り込んで来た。
「イラッ!」
「姉様が自分を差し置いて牛角魔王の女気取りで、でしゃばるなんて許せないと言っているぞ!」
無口な剛力魔王の言葉を怪力魔王が要約して言葉にすると、
「待て!それがし?何故に玉面さんが牛角魔王に入れ込む?許さんぞ!牛角魔王!」
刀剣魔王が牛角魔王に刀を向けて怒りに震える。
「待て待て…」
「てめぇら!兄者が黙っているうちに謝れ!」
そこに我慢出来ずに蚩尤まで怒鳴り散らすと、
「謝る?牛角が僕にお願いしろよ?」
「牛角魔王!お前が悪い!この浮気者!」
「オィオィ…」
鵬魔王と刀剣魔王が牛角魔王に敵意を向けている。
「………」
「姉様が牛角魔王は浮気をしないと強く信じてるぞ!と、言っているぞ!」
守るように剛力魔王と怪力魔王が牛角魔王の前に立つと、
「さっきから黙っていれば、そこの女?お前は牛角様の何なのじゃ?」
玉面魔王が剛力魔王に敵意を向けて挑発し始めた。
何か、至るところで睨み合っていた。
「あ…無理」
牛角魔王は面倒になって匙を投げた。
「とりあえず全員力付くで従わせるのが手っ取り早い事が流れ的に解ったぞ!」
なんか牛角魔王までやる気になって、どうするの??
仲間内からただならぬ妖気と覇気が漏れだし、そのヤバさをいち早く気付いた六耳が走った。
まさに一触即発の状態の時に、
「なぁ~に、やってんの~??」
事態を六耳に聞いた俺様が呼び戻されたのだった。
「俺様がいなくなった途端に内部分裂って何?なんでお前達、戦場じゃない場所で怪我しているの?もうボロボロやんけ?俺様、悲しくて臍からゴマ飛び出すぞ!これはギャグなの?ギャグだよね?」
俺様の説教に無言で反省する馬鹿連中・・・
「やっぱり俺様が水廉洞闘賊団を仕切る!!」
でっ?やっぱり・・・
俺様は一人一人をテントに呼び出して個人面談したのだ。
俺様が戻れば鵬魔王も黙って従うし、玉面魔王と剛力魔王には牛角魔王を振り向かせたかったら、戦場で成果を出すように説得し、刀剣魔王にはいずれ牛角と剛力魔王を賭けて一騎討ちさせると約束して黙らせた。
牛角は「あはははは!」と、笑って誤魔化したので後頭部を殴ってやった。
ぜぇ…ぜぇ…
俺様、全然休めません…
次回予告
美猴王達、水廉洞闘賊団の進軍を邪魔する新たな問題が行く手を阻む。




