想いの果てに・・・
蛟魔王の豹変?それはいったい??
その真実に、万聖龍王が一人挑む。
俺は万聖龍王
それは俺が地上界の魔王として君臨して間もない頃だった。
俺の城に、龍神族の追っ手がやって来たのだ。
「ついに俺の正体が龍神界にバレてしまったようだな…」
魔王になれば天界から睨まれる事がなくなる。
それは俺に仕える者達を守る事に繋がる。
しかし龍神界は話が別だ…
裏切り者の俺を討伐に来たのだろうな?
仕方あるまい…
少し痛め付けて帰って貰うか?
俺は城から出て、結解に入って来た龍神族に迎え出る。
結解は既に消えていた。
すると四龍姫が慌てて出て来て、俺に言った。
「おさがりください!ここは私達が!」
任せるだけの力は既にあった。
だが、俺は龍神界からの追っ手の姿を目の当たりして考えが変わった。
「あの者達の相手は俺がする。お前達は手を出すな」
「何故ですか?」
「あの者達は…」
俺は龍神界からの追っ手を自分の城に招き入れた。
まさか…
俺は椅子に座るとため息をついた。
「まさか貴方達がはるばる龍神界を離れて俺の討伐に出向いて来るとは思ってもみませんでしたよ」
俺の前に現れたのは八大竜王の娑伽羅様と和修吉様だった。
「久しぶりね?元気にしていた?浦島?」
「そこそこ元気にやっていますよ。ちなみに今は万聖魔王と名乗っています」
「なら、万聖魔王。俺達がはるばる出向いた理由だが…」
額に冷や汗が流れた。
流石に八大龍王を相手に戦うのは部が悪いか?
だが、娑伽羅様は俺に対して予想だにしていない話を持ち掛けて来たのだ。
「貴方に蛟魔王についてやって貰いたいの」
「?」
恐らく犯罪者である俺に蛟魔王を始末させ、自分達は手を汚さないで被害を避けるつもりなのか?確かに裏切者を共倒れさせるには好都合だな。
「どちみち俺が蛟魔王を始末する。俺を裏切ったあの女を俺は許すつもりはない!」
「それは少し待ってはくれないか?」
「あぁ…待つさ!今すぐにな…なっ?待つだと?」
「そう。お前には真相を調べて貰う!あの日の真実をな?」
「真相?」
あの日とは蛟魔王が反逆して三種の神器を奪い逃げた時の事だろう。
だが、そこにどんな真相があると言うのだ?
「意味が解らない…俺に知っている事を全て話してください!話はその後です」
それは、忌眼体蝕者の伝説。
それは神を殺し、世界を終わらす力の話だった。
かつての神々の戦争。
仙界大戦の恐ろしき隠蔽された真実。
その事実を知る者は僅かな者のみ、
だが、その話が本当で、蛟魔王の反乱と何か関係しているとしたら?
俺は娑伽羅様に話を聞いた後、その持ち掛けに了承した。
これは他の八大龍王様方はご存知ない。
まさに極秘任務だった。
「これは本来私達が調べるべき事。だけど、お前は知る権利がある。誰よりも先に知る権利が!私はそう思ってお前に頼みたい」
だが、それは恐らく命をかける事に繋がる。
真相と命を天秤にかけて俺の出す答えは既に決まっていた。
「その極秘任務、この万聖魔王…いや、浦島が引き受けました」
あの話を聞くまで、確かに俺は蛟魔王を恨み、怒り、その命を奪う事だけを生きる目的としていた。知った真実が俺を裏切る事だったら、俺の手で蛟魔王を始末すれば良い…
だが、もし娑伽羅様が疑念していた通りの真実だとしたら…俺は?
そして俺は今、その真実を目の当たりにした。
蛟魔王は豹変したかのように、その瞳を銀色に輝かせ、その忌まわしき神殺しの力を解放させたのだ。
「イヒヒ…イヒャヒャヒャヒャ!」
不気味な笑い…
俺を見る殺意の籠った目…
完全に俺の知る蛟魔王ではなかった。
「カミ…コロス…」
蛟魔王の姿が俺の視界から突然消えた。
「!!」
蛟魔王の指先に自らの血が集まり爪のように伸びる。
その血爪を使い、俺に向かって襲い掛かって来た。
「速い!」
俺は龍気を使った防御の壁を作る。
これで時間を稼げるは…ず?
が、防御壁は存在していなかったかのように蛟魔王が入って来て、血爪を突き付けた。
俺は油断しつつ辛うじて避けるが、腕に傷を負った。
「龍気壁が?消えただと?」
まるで無かったかのように目の前から消えたのだ。
しかも…
俺は自らの再生の力で傷付いた腕を治そうとしたが治る気配がしない?
すると染み付いた血が俺の腕を侵食している事に気付いたのだ?
「血が力を喰らっているだと?」
俺は逆手で傷付いた場所を肉ごともぎ取ったのだ。
血が噴き出したが直ぐに再生の力で元に戻した。
「あの血に触れると龍気…いや?神の力が失われてしまうというのか?」
蛟魔王は自我を無くした獣のように四つん這いになり、獲物を狙うように俺を見ていた。
鳥肌が立った。
まさか恐怖?俺が恐怖を感じているだと?
しかも蛟魔王に??
違う…
蛟魔王を支配している別の殺意に、神[竜神]である俺の本能が逃げろと教えているのだ。
「だが、ここまで来て逃げる事は出来ん」
俺は全身から漲る覇気を放ち、龍気を高める。
「見定めよう!お前の全てを!」
俺は万聖の槍を構えて蛟魔王の動きに付いていく。
蛟魔王は俺に襲い掛かり、俺はその動きを見極める。
「嘘だろ…」
削られている?
俺の龍気が削られていく。
いや?まるで俺の魂が削られているようだ?
あの血の瘴気が原因か?
生きた心地がしない。
気持ち悪く、俺の存在が削られて…
「ウォオオオ!」
俺は踏みとどまった。
俺は正面に向かって来る蛟魔王に万聖の槍を突き付ける。
が、槍が?槍の尖端が粉と化して零れ落ちていく。
まさか!?万聖の槍までも消されるのか?万聖の槍は俺の身体より産み出された神具。
どんだけダメージを与えても瞬時に再生し蘇る槍なのだぞ?
龍気も神具も効かないと言うのか?
直後、蛟魔王の鋭い爪が俺の身体を裂いた。
「うぐぅおお!」
俺は再び傷口を自ら抉り再生した。
だが、体力が…
俺の再生の力も無限ではない。
しかも蛟魔王の力によりどんどん力が削られてしまっている状況で…
「!!」
俺に名案が過った。
俺は思い出す。
八大龍王の娑伽羅様の言葉を…
龍神界の護りし三種の神器。
蛟魔王が盗んだのは神喰の魔眼と蛟の盾。
その蛟の盾には役目があった。
蛟の盾は絶対防御の硬度を持つだけでなく、触れる力を無効化させる封じ御する役目があると聞く。つまり蛟の盾とは神喰の魔眼を御するために用意されたのだ。
「ふっ…」
俺は変わり果てた鮮血に染まりし蛟魔王の装着した蛟の盾を見る。
確かにそこだけは鮮血が付いてなかったのだ。
ふふふ…自らを守るはずの盾が自らを縛る弱点になるとはな。
「俺は…」
俺は万聖の槍に残りの主力を籠める。
ほころびていた万聖の槍は再生しながら今までにない光を放っていた。
「俺の魂をも持っていくが良い!万聖の槍よ!そして、俺に蛟魔王を!」
俺は豹変した蛟魔王に向かって駆け出した。
それは特攻に等しかった。
蛟魔王の床の血溜まりから血が浮き出し、槍のように俺に向かって伸びていく。
「ウオオオオオ!」
血の槍が突っ込んで来た俺の身体を貫くが、構わずに向かって行く。
「………」
身体に染み付いた蛟魔王の血が身体を溶かす。
万聖竜王は駆けながら止まらなかった。
鎧が消えて、肉体が露わになり変色していく。
「ヌオォオオオオ!」
そして、残された万聖の槍で突き刺したのだ。
万聖の槍は蛟魔王の左腕に装置された蛟の盾にと止められた。
同時に槍先から塵と化して消えていく。
次第に俺の身体を纏う鎧も塵となっていくた。
「ギィヒャ!」
蛟魔王が飛び掛かり、動きの止まった俺の首元に嚙みついた。
血が噴き出して、意識が朦朧とする。
俺の身体が消えていく・・・
だが、俺にはもう一つ策があった。
俺は手に霊薬を握っていたのだ。
この霊薬は龍殺しと呼ばれる龍族のみを殺す禁忌薬。
これは、万が一のために娑伽羅様が去る直前に俺に手渡したのだ。
万が一の場合に蛟魔王を殺すためにと・・・
だが、俺はその薬を自ら飲み込んだのだ。
自我を無くした化け物と化した蛟魔王が本能的に獲物を仕留めたと思った瞬間、俺の鎧は全て弾け飛び、俺は目の前から消えた。
「!!」
だが、俺は死んではいなかった。
そこには万聖竜…いや?人の身となった俺、浦島が蛟の盾に向かって
「龍神の力を失った俺はもう人間だ…神の力を殺す血は人間には効かないようだな…」
が、それも時間の問題だった。
人間の身となった脆い身体では蛟魔王から放たれる障気に耐えられるはずがなかった。
だが、「問題ない…」この僅かな時があれば十分だ…
浦島は蛟の盾に向かってありったけの再生の力を注ぎ込んだのだ。
再生の力は蛟の盾へと吸収されていく。
「こ…これで…」
その瞬間、閃光が俺の身体に反射した。
眩しい・・
思い出す。
昔、俺が初めて龍神界に来た時、乙姫様は龍神城から龍神界を一望出来る場所に俺を連れて行き、見渡しながら言った。
「私は好きだ・・・」
「えっ?」
「この龍神界が・・いや?地上界も含め、この世界を愛しているんだよ」
「は・・はぁ~」
「この美しくも愛おしい世界に、私は生かされている。
だから、私は恩を返したいのだよ。
この身をもって、尽くし、捧げたいとさえ思える。
母親のように、我が子のように・・・
この私の力を使い、いつまでも守っていきたいのだ」
・・・俺は見惚れながら思った。
「だったら、俺も守りたい!だけど、それは乙姫様をだ!
それが世界を守る事に繋がるなら同じ事ですよね?」
「お、お前・・・」
「へへっ・・任してください!」
「やはりお前は変な男だな?」
「そんな~照れるわ~俺」
(あの日の約束、今こそ!守り・・)
浦島の口元に笑みが?
だが、その直後、反動の閃光が浦島の身体を飲み込み塵も残さず…
消滅させた。
全てが終わった。
…かに思えた。
蛟魔王の持つ蛟の盾が光輝き、蛟の盾の持つ力を媒介にして盾から腕へ、肩から胸へ、その光は蛟魔王の身体を覆っていき、流れる血を止め傷を塞ぎ、蛟魔王を回復させていったのだ。
「!!」
蛟魔王は意識が戻ると状況も解らずに、一人城の中心で立っていた。
蛟魔王は辺りを見渡し自らの異変に何が起きたのかを知る。
「あっ…あぁ…」
蛟魔王は残留思念から状況を把握した。破壊された城の状況、失ったはずの腕も含めて回復治癒されている事、更に戦っていたはずの万聖龍王がいない事…
全てを理解した時、蛟魔王の目から涙が溢れ出した。
「うぅわあああ!」
蛟魔王は床を何度も叩きながら、その場にうずくまる。
そこに殺気が自分に向けられた。花龍姫と他の四龍姫達だった。
「主を殺した私に仇討ちに来たのか?」
蛟魔王に戦意はなかった。
「今なら簡単に討てるぞ?」
だが、四龍姫達は憎しみを抱きつつも攻撃はして来なかった。
「私達は見届けに来ただけ…万聖様に与えられた最後の命令を実行するために…」
すると四龍姫達は蛟魔王を残して消えていく。
「う…浦島…」
そこで、ついに蛟魔王は己の胸の内を言葉にした。
「私は…私が再びお前の前に現れたのは…
お前に討たれるためだったのだ…お前になら…」
あの日、この神器の魔眼を手に入れてしまった時、私としての生は終わった…
私は魔眼の力の暴走を抑えるためだけの器…
この魔眼はやがて私の自我をも喰らい、龍神族のみならず、神族、生きとし生ける全ての魂を狩り尽くす。そうなれば、もう誰も私を止められない…
私が…この世界を滅ぼす。
私が愛したこの世界を!
そして、お前さえも…
だから、私はお前を拒んだ。
私から引き離した…
本当なら、お前と一緒にいたかった…
生きたかった…
私は素直じゃないから、お前の真っ直ぐな思いが嬉しかった。
私を一人の女として、私に追い付こうと努力するお前の姿を見ているのが好きだった。
私に向ける、屈託のない笑顔が眩しかった…
いつかお前と一緒になれる夢を抱いていた私が変な気分で不思議で、嫌じゃなかった。
だがら!!
私がこの手でお前を殺してしまう事が一番怖かったんだ!
たとえ、お前を裏切り嫌われようとも、お前には生きていて欲しかった…
せめてお前だけは幸せになって欲しかった…
だからお前の前から消えたと言うのに…
私が表の世界に再び現れてしまった事で、お前が私の存在に気付き、呼び付ける手紙が届いた。
だがその時、私はもう…長くはなかった。
私は既に肉体も魂も魔眼の侵蝕に、精神も肉体も耐えられないでいたのだ。
このままでは…いずれこの身が滅びるまで殺戮を繰り返す自我のない化け物に変わり果てるのも時間の問題だった。
美猴王の反乱に手を貸したのも、私の死期を早めるためだった。
だけど、
せめて死ぬ前に、お前に会いたかった…
もう一度!
叶うなら、愛した男の手で私を終わらせて欲しかった…
そんな自分勝手な私の欲が、お前を殺してしまった…
あっあああああああ!」
その時、蛟魔王は自らの身体の異変に気付いた。
魔眼の力が蛟の盾によって制御され再び自らの身に封じられている事に。
魔眼の浸蝕が止まっている事に。
「浦島…お前が?お前が自らの命と引き換えにしてやったのか?こんな私に生きろと言うのか?
お前は本当に最後の最期まで私なんかのために…」
再び蛟魔王は涙し、立ち上がる。
「なら、私は生きよう!お前から貰った命をお前の分まで生きてみせる!」
蛟魔王は拳を天に掲げて誓ったのだった。
龍宮伝説編…終
次回予告
再び物語は美猴王達へと繋がる。
美猴王は新たな強敵・金剛魔王の領地へと進軍していた。




