万聖魔王[龍王]として!
龍神界を裏切った蛟魔王。
そして浦島もまた、反逆したのだ。
どれくらい経っただろう?
俺は浦島…
俺は生きてるのか?
俺はあの日、乙姫様を逃がすために自爆をしたはず?
気付くと俺は海の真ん中に漂っていた。
身体は…動かなかった。
首だけが海を漂っていたのだ。
こんな状態で生きているなんて、俺は本当に化け物になっちまったんだな。
それからまた時が経つ。
俺の身体は人の姿を留めるだけ回復していた。
海岸に流れ着くと、その地を見て驚いた。
「ここって…俺がいた土地じゃないか?」
地形は変わっていたが見間違う事はなかった。
記憶に残っていた海に突き出た岩山がある。
地上には変わらない山が見えた。
「俺…戻って来ちまったのか?」
俺は故郷を歩いてみた。
あはは…
何にも残っちゃいない…
俺が龍神界に行ってから何年経ったのだろう?
地上界では百年以上が過ぎていたみたいだな。
人間達も少しばかり残っていた。
知り合いは勿論生きてはいないが、恐らく子孫らしいと思われる者達がいた。
変な気分だった。
俺を知る者が誰もいない…
俺には帰る場所がなかった。
龍神界に帰ったら、きっと俺は投獄されるか、その場で死刑だろうな。
こわこわ…
生きてる事がバレても竜神界から討伐隊がやって来るに違いない…
俺は考えた。
このまま人間として身を潜めて生きていくか。
それとも…
答えは直ぐに出た。
「俺はぁ~乙姫様のいる所に行くわ~」
恐らく乙姫様は今頃竜神界からの追手だけでなく、三種の神器を奪って逃亡した事は天界にバレていてもおかしくない。
龍神族と天界からの討伐隊を相手に一人で逃亡しているに違いない…
「俺が行かなきゃ…」
俺は旅立とうとしたが、俺の身体は未だ完全回復とは言えなかった。
人間の姿を留めているのがやっとの力しかなかったのだ。
このままでは、足を引っ張ってしまうに違いない…
俺は力が戻るのを待つために暫らく人間として過ごす事にした。
俺は自分の住んでいた村に旅人として迎えてもらい、漁をして生活した。
「長く漁をしてなかったが、まだ現役並みに出来るもんだな?あはは」
そんな生活を送っていたある日、俺の住む村に化け物が現れたのだ。
「化け物だと?」
村の集会に俺も呼ばれて話を聞いた。聞くに大木ほどの何倍もある化け物が近くの村を襲い、この村に近付いているとの事だった。
俺はその夜、一人で村を出た。
暗闇の中の一本道を歩きながら進むと何者かの視線を感じたのだ。
間違いなく俺を狙う視線だった。
視線の者は四人か?
暗闇の中を素早い動きで駆け出し、四方から同時に俺に向かって襲い掛かって来た。
「やれやれ~」
俺は四人の攻撃を躱すと、その額を殴った。
思ったより弱かった。
俺は目を回している四人の正体をマジマジ見たのだ。
「冗談…じゃないよな?何で?」
身汚い格好だった。衣服は破け、半裸に近いみすぼらしいその正体は四人の娘?いや?まだ子供か?いやいや?それよりもこの子供達は?
「龍人?」
龍人とは龍神族と人間との間で産まれた混血種。
因みに俺は元人間だが、龍神の血を得た事で誕生した奇種。
半人半龍なんだ。
「どうして龍人の子供がこんな所に?」
俺は仕方なく四人の龍人の子供を抱き抱えて自分の小屋に引き返した。
俺は眠っている子供達に飯を作っていた。
魚を煮込んだ簡単な食べ物だった。
すると匂いに気付いた子供達が目を覚ます。
「おっ?起きたか?」
その瞬間、子供達は牙を剥いて俺に噛み付いた。
「いたた…飯は俺じゃないぞ?こっちのが美味いぞ?」
そう言って噛み付く娘達に飯を差し出したのだ。
娘達は震えていた。
「怖くないぞ?安心して食え?」
暫く焦れていたが、腹の音が響き、奪うように飯にがっつき始めた。
「あはは!」
その日を境に俺は拾った娘達を育てる事にしたのだ。
それは俺の孤独を癒してくれた。
そして俺は娘達の境遇を聞いたのだ。
南の大陸に現れた地上界の妖怪が暴れているとの事だった。
しかもその妖怪は神族、妖怪だけでなく龍神をも相手に大量虐殺する程の化け物だとか…
その虐殺から逃れた龍神族の生き残りが、人間の娘を襲い産まれ、使い捨ての兵士として育てられたのが、この子供達だと言うのだ。
「とんでもないなぁ?その化け物も竜神の連中も?よし!だったら俺が懲らしめてやろう?」
子供達は俺の袖を掴み、涙目で首を振った。
子供達は震えていた。
それは境遇だけでなかった。
恐怖?
龍神族の親は龍人の子供達を、その化け物の贄に使ったのだ。贄が餌食になっている隙を付いて化け物退治を試みた。が、返り討ちにされ全滅し、その隙を見て子供達は逃げ出したのだ。
「そんな酷い事が?子供を贄なんて…馬鹿げてる!」
俺の中で怒りがわいた。
その化け物だけでなく、子供達の親である龍神族に対してもだった。
俺は子供達に言った。
「俺…お前達の呪われた未来を変えてやる…過去の恐怖も全て消し去ってやるぞ!」
その直後、俺の掌から白い光が満ちて俺の身体を覆うと、その姿は龍神の鎧を纏った姿へと変わった。子供達は俺の姿に目を丸くしていた。
翌朝、俺は子供達を小屋に残して一人、南の孤島に向かう。
ここに例の化け物が?
闘気がぶつかり合う力を感じた。
龍神族の気か?
激しい戦いの気を感じる?
数十?数百?
こんな数を相手にどんな化け物だよ?
俺はその戦場を目の当たりにして固まった。
その者は龍神族の兵を手当たり次第に消し去っていく。
しかも残虐に非道に…
まるで恐怖を植え付けるかのように…
脅えて戦場から逃げて離脱する者にまで、
俺は身を潜めて戦場を見ていた。
戦場は既に静まり返りっていた。
大地は焦げ、竜神族の死体が無造作に転がっていた。
そして、その中心に立ちすくんでいる化け物から俺は目を離せなかった。
まさか…
いや?俺は最初から解っていたのかもしれない…
この地を荒らす化け物の正体とは?
「お…乙姫様?」
その直後、殺気を感じた。
強力な覇気が俺の身体を縛り付けた。
だが、俺も負けられない…いや?勝ち負けじゃない!
俺は覇気を打ち消して乙姫様の立っている場所に向かって歩いて行く。
「!!」
乙姫様もまた俺の存在に気付いた。
だが、その瞳は俺の知る優しい乙姫様ではなく、険しく闇を持った殺意ある瞳だった。
「浦島か?お前、生きていたのだな?」
「お…乙姫様?俺…俺は!」
だが、その直後俺の身体は弾けた?
乙姫様の放った覇気が俺の身体を吹き飛ばしたのだ。
「な…何を?俺は乙姫様と一緒に!」
伸ばした腕が、俺の目の前で転がった。
「うわぁああああ!」
乙姫様は無言で見下ろしていた。
かつての優しい乙姫様とは異質の恐怖の対象に感じ震えが起きた。
「どうして、あの日・・最初から俺を連れて行ってくれなかったのですか?」
「・・・・・・」
無言の乙姫様に、俺は今まで堪えていた涙が溢れだして叫んだ。
「俺は?俺は乙姫様にとって…何だったんですか?」
俺の叫びに乙姫様は見下すように俺に答えた。
「雑魚は邪魔なだけだよ?下手に私の周りを彷徨かれると面倒だ!」
『消えな!!』
更なる覇気の光弾が俺に直撃する寸前、
『再生負荷!』
俺の再生負荷の力が乙姫様の覇気を打ち消した。
が、倒れたままの俺に向かって、乙姫様の蹴りが顎に直撃し蹴り飛ばされた。
「うがぁあああ!」
俺は落下すると同時に立ち上がり見上げる。
「乙姫様…貴女はもう私の知っている乙姫様ではないのですか?」
乙姫様は容赦なく上空にて龍気を高め、破壊弾を俺に向かって撃ち落とした。
破壊弾は俺を飲み込み大地を崩壊させ、その一帯は全て消え去ったのだ。
乙姫様の姿はもうその場から消えていた。
俺は…
「不死身の俺を…殺せたりは…しない…」
俺は辛うじて生きていた。
身体は焼き焦げ、意識を失う間際、
「俺は…あんたを信じていたんだぞ?貴女を慕い、恋い焦がれもした…貴女のためになら喜んでこの命を捧げられたんだ!それなのに…それなのに…」
かつての乙姫様との思い出が硝子のようにひび割れ、粉々になって割れた。
俺は力尽き倒れ再び目覚めた時、俺は自分の小屋にいた。
助けた龍人の子供達が俺を人目から隠しながら運んでくれたのだ。
「お前達…」
子供達は目覚めた俺に向かって泣いてくれた。
俺に涙をくれるのか?
俺のために泣いて?
乙姫様を失い、全てを失ったと思った俺に残された新たな目標?
こいつ達を守りたい…
俺は決心した。
俺は俺の国を造る!
神族も龍神も竜人も分け隔てない国を作る!
そのために俺は自らの名を捨てた。
地上界の魔王を倒し、新たに万世魔王と名乗り君臨したのだ。
配下には俺に共感を抱いた討伐隊万だった龍神族、妖怪も神族もいた。
まさに分け隔てない万国。
やがて俺は地上界を君臨する魔王の中でも最高位に位置された。
第四魔王…
色欲の万聖魔王と呼ばれる。
「長き時を経ったが、ようやく…叶う!」
俺の座す王の玉座には四人の美しい女達がいた。
彼女達はあの日、俺が拾った娘達だ。
四人は俺から離れずに今日まで付いてきた。
成長するに連れて、龍戦士としての力をも覚醒させた。
俺は四人に生き残るための力を与えた。
技を磨かせ、あらゆる戦い方を叩き込んだ。
そして俺は自らの『再生の力』をも与え、その力は今やかつての四海龍王の域に達していた。
「俺は手に入れる。この地上界を俺の…否!俺達の世界へとするのだ!」
そのためには地上界に残る魔王達が邪魔だった。
一度、似た境遇の黄風魔王と手を組む事を考えたが、奴は人間以外の全てを消し去る野望を抱いていた。それを知った俺に対して黄風魔王は、「お前は最後にしよう…」と、立ち去った。
他の魔王に至っては興味持つ者はいなかった。
仕方あるまい。
ならば俺が全て潰すまでだ。
だが、何から始めるべきか?
現在地上界を実質支配している第一魔王を潰すか?
それとも周りから潰すか?
手始めに反乱の狼煙をあげるとするか?
が、俺が決行する前に動いた奴がいたのだ。
金色の魔猿・美猴王と呼ばれる下級の魔王だった。
興味はなかった…
たかが下級の魔王の反乱で世界が変わるはずないのだから…
が、その後の報告を聞いた時に、俺の心がざわついたのだ。
美猴王が仲間にした三人の魔王の中に、あの…
乙姫…
いや、蛟魔王が所属していると聞いたからだ。
「見付かった…」
俺が先ずやるべき事が見付かった。
それは…
俺を裏切った憎き、あの女をこの手で消し去る事!
それが俺の中にくすぶる未練と後悔との決別!
蛟魔王よ?
お前は俺が踏み出すための贄にしてやろう!
次回予告
ついに蛟魔王が動き出す。
蛟魔王と万世竜王の因縁の行方は?




