俺、頑張ってみます!
竜宮城の結解から抜け出す事に成功した浦島だったが、
そこで力尽き、死を待つしかなかった。
だが、そこに乙姫が選択を迫ったのだ。
えっと…
俺、浦島です。
瀕死の状態から俺は再び命を取り戻した。
ただ…人としての俺はあの日に死んでしまったのだけど…
俺は今、乙姫様の血を受けて半人半竜になったんだ。
亀老人も驚いていた。
人間が竜神化出来る確率は数億分の1あるかないかとか?
それに竜宮城の結解を破壊した事にも驚くばかりだと目を丸くしていた。
(俺って、運が良いのか?)
で、それからの俺はと言うと?
俺は乙姫様に連れられて竜神界に来ていた。
乙姫様の帰還は龍神界ではそりゃ~大歓迎だった。
しかし俺は?
俺は半竜化した人間。
龍神の血を高貴としている龍の民にとって俺は厄介者であった。
乙姫様の帰還の功労者でなければ竜神界に入るのは勿論、踏み入れた途端に殺されていただろうなぁ~くわばらくわばら。
俺は乙姫様直属の護衛として身の回りのお世話をしていた。
龍神界では力が有れば階級も上がり、昇格出来るのだそうだ。
だから半竜の俺にもチャンスがあるんだ・け・ど?
臆病な俺にはやはり無縁だった。
乙姫様はそんな俺に強さを求めはしなかった。
ただ傍にいて世話さえすれば良いと…あはは。
地上で人間として生きていた時より、贅沢な飯を毎日食べられるし、龍神族の娘達もべっぴんさんばかりだから目の保養になるし、そんな生活に不満はなかったんだ。
まさに腰巾着のコバンザメ生活。
そんなある日、龍神殿にて集まりがあった。
そこでは竜神兵が自らの力量を試すために闘技場で鎬を削っていた。
本来なら乙姫様の側近として亀老人が出場する予定だったのだが、遅刻した。
「亀老人は何をしているんだ?困ったもんだぞ?出場者がいなきゃ乙姫様が恥をかくのだぞ?」
が、乙姫様は言った。
「気にするな?所詮は祭りだ。別に構わんさ」
「…………」
が、俺は聞いたのだ。
乙姫様は四海龍王の一人であり、今は毒絶龍王の反乱により四海龍王は二人しかいない現状。
そのため、龍神族の間で乙姫様に対しての不信感がある連中がいるのだと…
それは噂…
乙姫様は策師である事は有名で、実は毒絶龍王は乙姫様の陰謀にて始末されたとでっち上げの噂があったのだ。しかも龍神族の中にはいまだに毒絶竜王に対して忠義のある者達がいて、乙姫様に敵意を剥き出しにしていた。当然、噂は奴らが回したに違いない。
「俺は…何も出来ないしなぁ~見てるしか出来ないさ…」
その時、数人の龍神兵達が大きな袋を抱えて駆けて行く姿を見かけたのだ。
「はて?」
何か嫌な感じがした。
俺は、竜神兵達の後を付ける事にした。
龍神兵は袋を檻の中に入れると、その場から早急に消えて行った。
「何なんだ?あいつらは?」
俺は興味本意で檻に近付くと袋を開けてみた。
そこで俺は見てしまったのだ。
場所は変わり、ここは闘技場。
闘技場では四海龍王の部下同士の力比べをしていたのだ。
現在四海龍王は二人のみ。
乙姫様と青龍王であった。
乙姫様の部下達は一人も青龍王の部下達には勝てないでいた。
頼みの綱である亀老人が不在の今、戦える者がいなかったのだ。
「仕方ない…」
乙姫の腕のたつ殆どの配下は、先の四海龍王・毒絶龍王との戦いにて戦死していたのだ。
乙姫は隣に座る青龍王に言葉をかける。
「もう私の負けだよ。これにて終わりにするとしよう」
「そうか。だが、まだのようだぞ?」
「ん?」
そこで乙姫は目にしたのだ。
闘技場にひょっこり現れた俺、浦島を!
「あの馬鹿ァ!何をしているんだよ」
ざわめく闘技場の中で、俺は観客達にお辞儀する。
「俺ぇ~乙姫様の側近としてなんだけどよ?この闘技場に出場する事に決めたんだよ~!参加良いっすか?」
龍神の観客達が爆笑すると同時に、怒る観客から物が投げ込まれた。
「直ぐに止めさせねば!」
乙姫様が立ち上がるより先に、闘技場の観戦に来ていた八大龍王が立ち上がる。
八大龍王とは四海竜王と同じく龍神族の最高神であった。
難陀、跋難陀、沙伽羅、和修行吉、特叉迦、阿耨達、摩那斯、優鉢羅、
八龍の王の事を言う。
「面白い!その半龍の若者にチャンスを与えよ!」
難陀の言葉は龍神兵を黙らせ、乙姫もその言葉に逆らえないでいた。
「青龍王、お前も構わんな?」
「はい」
青龍王様は基本的に無口だった。
「兄よ?どういう意図ですか?半竜人が生粋の竜神に勝てると思いますか?」
跋難陀の問いに難陀は面白い事が始まるように闘技場に視線をやる。
「まぁ、見てるが良い」
「?」
そして闘技場には俺の他に青龍王様の側近である龍神兵が前に現れた。
見るからに強そうだ…
そもそも俺は何故、この闘技場に出場したのだろう?
それは…
あの檻の中にあった袋を開けたのが原因だった。
あの袋には何かの術で眠らせられた亀老人が閉じ込められていたのだ。
察した。
亀老人を闘技場に出場させないようにして、乙姫様に恥をかかせるのが目的なのだと。
亀老人は術で眠らされて幾ら起こしても目を覚まさないでいた。
そこで仕方なく俺が闘技場に出る事にしたのだけど…
どうしようかな~?
俺は、武術は勿論、喧嘩すらした事がないのだ。
今から泣いて謝っても許してくれないだろうしな~
すると、相手の竜神の方が俺に戦う前に頭を下げる。
龍神の方は礼儀正しいのですね?
その調子で素人の俺を見逃して欲しい…
あっ… 殺気を感じた。
目の前の龍神さんから自分に対してビンビンと殺気を感じる。
ヤバッ…俺、死んじゃうのかな?
俺は仕方なく用意されていた槍を手に取ると、素振りをした。
良し!
何が良しなのか?自分でも解らなかった。
とにかく解った事がある。
剣とかは使い方が解らないという事だ。
槍は漁で使っていたから多少なら…
突くだけだし・・・
そして、闘技場が一端静まりかえった後に、闘技の合図の鐘が鳴らされたのだ。
俺は取り敢えず槍を持って駆け出すと、目の前の対戦者に向かって突き刺した。
あれ?やった?
「痛くないですか?」
俺の質問に対戦者はニヤリと笑うと、筋肉を硬直させた。
同時に突き刺した槍が脆くも折れたのだ。
「ひぃえええ!」
俺は恐怖で後退りすると、対戦者はゆっくり近付いて来て、
「あっ…」
俺を殴ったのだ。
俺は飛ばされ闘技場の壁に衝突した。
呆気ない終わりだった。
血だらけの俺は立ち上がれないでいた。
頭がフラフラする?
あ~もう帰りたいよ~
そんな俺に向かって対戦者は剣を突き付けて来た。
「ちょっ?俺はもう立ち上がれ…」
対戦者の剣を俺は転げるように離れて躱す。
「あれ?立てた?俺、動けるみたいだぞ?」
すると対戦者の龍神は剣を振り回し、俺に襲い掛かる。
俺は頭を抱えながら闘技場を逃げた。
闘技場の観客達は呆れ、爆笑し、もうここは闘技場とは言えなかった。
「あちゃ~もう止めさせる。これは恥の上塗りだわ」
乙姫様も俺の勇姿に顔を覆っていたが、
「そろそろか…」
「えっ?何がさ?」
乙姫様は青龍王に言われ、意味も解らずに闘技場の俺を見た。
「!!」
同時に観客の何人かも、その違和感と異変に気付き始めた。
当たらないのだ?
屈強の猛者である闘技場の対戦者の剣が、俺に全く当たらないのだ。
最初は不恰好に避けていたが、その攻撃が激しく鋭くなるにつれて、その剣先を紙一重で躱し始めたのだ。
「あれ?」
自分でも驚きだった。
逃げる事にだけ集中し、恐怖で相手の剣のみを見ていたら、次第にその剣の動きが遅く見え始めたのだ。
あはは…何これ?
俺の目は龍気に纏われていた。
そして身体も同じく龍の持つ気に覆われていたのだ。
「小癪な半竜がぁ!」
対戦者の剣が俺の眼前に突き付けられた時、
「もしかして出来るかな」
俺は対戦者の剣を眼前で躱して折れた矛先のない棒を突き付けた。
「あ、マジか」
が、そこまでは良かったのだが、粉々になって砕けたのだ。
龍神の鱗…
龍神の鱗は強度な防御力を持つ。
対戦者は鱗を腕に集中させると絶対防御の龍神の盾とした。
「こりゃ?攻撃出来ないじゃんかさ?」
俺が出来る事は?
人間時代に持っていた再生の力と、再生を与える力?
ダメじゃん?
これでは逃げるだけで攻撃が出来ないぞ?
いつか掴まってボコボコにされちまうじゃんかさ?
が、そんな事を考えている俺に、対戦者が投げた剣が飛んで来たのだ。
油断?油断?油断したぁー!!
咄嗟に俺は「再生の力」を使って防御してしまったのだ。
もし剣が当たって何処か斬れたとしても、直ぐに治るように…
痛いの嫌だから!
が、飛んで来た剣は俺の再生の力の前で止まり、俺の目の前で弾けて砕け散ったのだ??
えっ?何が起きたの??
状況掴めない??
観客席の八大龍王の難陀が口にする。
「奇跡的に半人半龍に転生した者の中に、稀に生粋の龍神を上回る力を持つ者が表れると聞く。あの者はどうやらその力を得た特別種のようだな?跋難陀」
「しかし半竜半人の特別種は驚異的な戦闘力を得る代わりに、再生力は人間のそれのまま。その命は短命で戦う度に命を削ると聞くが…」
「あの者の本来持つ再生の力がそれを補っている。まさに長所のみを手に入れたラッキー者のようだ!それに、あの再生の力は…使い方次第で恐るべき刃へと変わるだろう」
八大龍王達は俺に興味を持ち、その戦いに注目した。
「再生の力で飛んで来た剣が砕け散った?もしかして…意味は解らないけど何かイケそう?」
俺は驚く対戦者に向かって駆け出したのだ。
対戦者は一瞬怯むも直ぐに殴りかかって来た。
俺は一発一発の拳を冷静に躱した後、再生の力を拳に凝縮して対戦者の身体目掛けて殴った。
「馬鹿め!拳で竜神の防御にどうこう出来るものか!砕けるのはお前の拳の方だ!」
が、対戦者は冷たい感覚が身体中に走った。
それは命を狩られる一瞬の間だった。
身体中の鱗が塵になっていく。
そして肉体にその再生の力が触れた時、身体を覆う竜の鱗の鎧が消え……
その直後、対戦者と俺の間に割って入った者がいた。
その者は対戦者と俺に同時に気を放ち、突き放すように弾き飛ばしたのだ。
俺は今の衝撃で意識を失っていく…
だが、その割り込んだ者の姿を、薄れる目で見た…
青龍王…
次回予告
浦島の謎の力の覚醒?
そして浦島が化ける!!




