蚩尤の涙・・・
玉面魔王を仲間に引き入れるために牛角魔王達は別行動を取っていた。
そんな中で牛角魔王は蟻地獄に捕まり、残された蚩尤達が奮闘する。
俺は蚩尤。
俺は玉面魔王を仲間に引き入れるために、剣を振り上げ突っ込む。
(ん?これは頼んでいるのか?)
とにかく襲いかかっていた。
が、俺は玉面魔王の操る水縄の拘束で捕縛され身動き取れなくされた。
そして仲間達も同じく捕らえられていた。
そんなわけで、俺達は今…
水縄に縛られた状態で城から吊るされていた。
「………」
俺…何をやっているのだか?
すると同じく吊るされている氷狼が俺に言う。
「なぁ?蚩尤の兄貴よ?」
「何だ?」
「兄貴が玉面魔王に突っ込んだ時に、何か寸前で手を止めてなかったか?」
「………」
今度は炎狼が口を挟む。
「それは玉面魔王を倒す事が目的じゃなく仲間にするためだろ?」
「でもよ?このままじゃ俺達…」
俺達の真下には俺達を喰らおうと待ち構える化け大蛙が口を広げていた。
「来たぞ!」
俺達に向かって来たのは化け蛙の伸ばした舌だった。俺達は身体をくねらせて身を揺らし、化け大蛙の舌を躱す。だが、他の仲間が舌に捕まりひと飲みされた。
「マジにコェ~」
「俺達もいつ喰われるか解らねぇ~」
確かにこのままでは、いつ喰われてもおかしくない。しかし、玉面魔王の水縄はほどけないだけでなく俺達の妖気を封じていた。しかも、俺達が足掻いている姿を見て楽しんでいるのだ。
しかし…
俺が玉面魔王に突っ込んだ時に、俺が手を止めた理由は別にあったのだ。
玉面魔王を隠していたカーテンを斬り裂き、その先から見えた玉面魔王の姿は…
美人だった!!
俺は目を奪われ心臓を掴まれたようになり、血が逆流し身体中が熱くなって胸が張り裂けそうになった。透き通るような色白の肌に、キツそうだが気高さが伝わる美しい容姿…
これは初めての恋心??
まさか、この俺が?
あり得ない…
俺は兄者だけいれば、それで満足なはずなのに?
まさか魅惑の術か?そんな仕草はなかったはず?じゃあ、何なんだ??
俺は気付く…
恋と変は似てると…
と、馬鹿な事を考えてる余裕はないな?俺は化け蛙の舌を躱しながら、城から俺達の情けない様を見て余興としている玉面魔王を睨みつけ、頬をあからめる。
赤らめてどうする!!
集中するのだ!!
食い入るように見るのだ!
頑張れば胸元が見えるはずだ!!
俺の思いが伝わったのか?
「…何か寒気がするぞぇ?」
「玉面魔王様?それでは部屋に戻りましょう?朝にはあの者達も残ってはいませんわ?本当にいい気味ですわ!ホホホ!」
亜蜘蛛は火傷を負って包帯を巻きながらも、しぶとく生きていた。
「はて?」
「いかが致しました?玉面魔王様?」
すると城全体が突然揺れ始めたのだ。
地震?
すると今度は化け蛙が何者かに持ち上げられていく。
まさか?まさか?やっぱり~??
そこから現れたのは片手で化け蛙を持ち上げる牛角兄者だった。
「ふぅ~!ようやく抜け出せたぜ~」
牛角兄者は化け蟻地獄に砂の中へと引きずりこまれた後、化け蟻地獄を倒して抜け出したは良いが、そこはまだ地下空洞だった。仕方なく地上に向かって地下空洞を突き進んでいると今度は化け大蟻が大群となって襲い掛かって来たのだ。
「マジか…」
兄者は地下空洞の中で化け大蟻の大群と死闘を繰り広げ、女王蟻を見付けて人質にし、何とかこの場所にまで辿り着いたのだそうだ。
「何者?」
亜蜘蛛は突然の侵入者である牛角兄者から身を隠させるように玉面魔王を城の中へと誘導した後、再び現れて今度は化けスズメバチの大群に襲わせる。
「次から次へと!蟻の次は蜂か?」
牛角兄者は二本の刀を構えると妖気を籠める。
『乱鬼流奥義・自妖我意乱刀!』
※ジヨウガイラントウ
乱れるように飛び交う斬激が襲って来た化けスズメ蜂を次々と落として行き、同時に俺達を拘束していた玉面魔王の水縄をも斬ってくれた。
解放された俺達は牛角兄者に続き、化けスズメ蜂を撃退していく。
「これで最後か?」
俺が残り一匹を仕留めると、牛角兄者が俺に近付き言った。
「悪かったな?俺が不甲斐ないばかりに仲間達が…」
「兄者は悪くねぇよ!悪いのは全部、あの綺麗な、あの…あの…」
「綺麗な?あのあの?」
「何でもねぇです」
俺は顔を赤らめて顔を隠した。
何をやっているのだ?俺は?マジにどうしてしまったんだ?
≪ケケケ…それは恋だな?≫
なぁ~?
それは俺の魂に寄生している魂喰魔王の奴だった。
コイツはたまにこうやって俺に話し掛けて来るのだ。
≪惚れたんだろ?確かにベッピンだったよな?≫
「俺はそんなんじゃ!」
≪素直になれよ~?てかお前が力ずくで自分の女にしてみろよ?≫
「なっ?なっ?何を?」
≪お前の動揺は俺に筒抜けなんだぜ?てか、まぁ…実際無理だろうがな?≫
「なっ?何故に無理だと言い切れる?」
≪だってよ?相手は超ド級の魔王だぜ?お前とは比べならないくらいのな?≫
「そんなのやって見なきゃ解らねぇだろ?」
≪まぁ~俺はお前の中から見ててやるから、せいぜい頑張ってみろよ?≫
「おぃ?大丈夫か?」
そこに俺に話し掛けて来たのは兄者だった。
「蚩尤?お前大丈夫か?」
「えっ?お…俺は大丈夫だ!おぅ、大丈夫!」
「最近、一人言が多いぞ?頭を打ったのかと思ったぞ?」
「違っ…心配ない!心配ないさ~あはは!」
と、誤魔化した。
そして再び俺達は牛角兄者を筆頭に、玉面魔王の城に再び潜入した。
牛角兄者がいれば百人力!
いや?それ以上だ!
これ以上頼もしく心強い存在はいやしねぇ!
だが、最初に侵入した時とは売って代わり俺達は何のトラブルもなく玉面魔王の間にまで辿り着いたのだ。何か拍子抜けだ…
罠か?
それに目の前にはいつの間にか用意されている宴会の準備?
何故に?やはり罠か?
出されている料理に猛毒が仕込まれているとか?
しかし今さら料理に毒入れて俺達を殺すなんて真似をするのか?
解らない事ばかりだ…
それに解らないと言えば、もし玉面魔王を仲間に取り入れる事が出来ないのであれば、後々の災いとして今ここで倒しておかなければならない。
だが、どうする?
牛角兄者と玉面魔王が戦って、兄者が負けるとは考えにくいが、あの…
≪板挟みだな?よぉ?兄弟?≫
「何が板挟みだ?俺は兄者に従う!それまでだ!」
…が、未練が残る。
と、拍子抜けしている俺達の前に、亜蜘蛛が現れたのだ。
「お前達?これは玉面魔王様からの有難い祝いの席じゃ!遠慮はいらん?食うが良い!」
女官達が新たな料理を運んで来る。
完全に宴の席が用意されたのだ。
美しい格好の女達が舞を踊り、楽器を奏で始める。
意味が解らなかった。
俺達は仲間内で顔を見合せ警戒しながら、牛角兄者の判断を仰ぐ。
「腹が減った…食おう。それにせっかくの宴の用意を無下に出来んだろ?」
「いや、しかし、毒とかあるかもしれないし?」
「その時は、その時だ!」
少し疑ろうよ?
たまに思う。
牛角兄者は少々天然だ…
俺は皿にあった肉を摘まむと、
「おぃ?炎狼?」
「へっ?」
強引に炎狼の口に押し込み飲み込ませた。
「………」
「………」
「大丈夫そうか?」
炎狼は涙目で頷いた。
「良かった!牛角兄者?食べても平気そうだぞ!」
「俺を毒味役にさせないでぇええ」
俺に訴える炎狼は放って置いて、俺達は宴の料理を食べる事にしたのだ。
だが、警戒を解くわけにはいかん。
緊張が走る。
だが、周りは酒を飲み、ドンチャン騒ぎが始まった。
ドイツもこいつも…
あ、兄者は良いんだよ?兄者は?兄者は自由にやってください。
俺は一人で緊張し、意識を奥の部屋に向けた。
あの先に玉面魔王がいる!
玉面魔王がいる!
いる!
ドキドキ…
ドキドキドキドキ。
≪お前、緊張の仕方が言葉と違っていないか?≫
「んなっ?そんな事はないぞ?断じて」
≪俺はお前の心と繋がっているんだぜ?嘘は見え見えだぜ?なぁ?兄弟?≫
「………」
俺は自分の中にいる魂喰魔王に何も言い返せないで黙ってしまった。
その時、玉面魔王の女官達が静まりかえり、列を作って主が現れる用意を始めたのだ。
ついに現れるのか?
あの美人がぁ!
玉面魔王は華やかな着物を纏い、静かに俺達の前に現れた。
俺だけでなく、他の連中もその姿に魅とれて動けないでいた。
更に醸し出す色気…
じゃなくて、醸し出す妖気は俺達を硬直…あ、下ネタじゃないぞ?
金縛りにしたのだ。
玉面魔王は静かにこちらに向かって歩いて来る。
辺りを冷気が立ち込め、俺達はただ見ているしか出来なかった。
玉面魔王の向かう先には牛角兄者がいた。
このままでは、牛角兄者と玉面魔王が一触即発??
俺はどうする?
どうする?どうする?
決まっているじゃないか!
俺は牛角兄者を支えるだけなんだ!
その直後、玉面魔王が牛角兄者に向かって足早になった。
俺は意を決して玉面魔王の前に立ち塞がる。
「邪魔ぞぇ!」
俺は玉面魔王の振り払ったピンタで、壁まで飛ばされてしまった。
こんなに力の差が?
俺は頭を押さえながら、牛角兄者と玉面魔王がどうなったかを確かめた。
「!!」
俺は…
何もかも終わったと思い、ただ涙した。
そこには、牛角兄者に甘える玉面魔王が身体を摺り寄せていたのだ。
「妾の好みな男~妾はお前を夫に迎えると決めたのだ~妾はお前に惚れたのじゃ!」
が、牛角兄者は…
「俺に惚れただと?俺に女は不必要だ!もし俺が欲しいなら俺に見合う女になれ?」
「何と?妾に向かって傲慢な態度?」
「俺はお前の力を借りに来た。もしお前が俺達の仲間になって、それ相当の仕事をすれば俺はお前に惚れるかもな?」
「ほほほ!良かろう~妾を見ているが良い?そして妾に跪くほど惚れさせてやろうぞ」
そんなわけで、案外いとも簡単に玉面魔王を仲間に率いれたのだ。
余談だが、玉面魔王には先に蛟魔王から一通の手紙が届いていたと話。
手紙にはこう書かれていた。
「最高の男をお前にあてがってやる。だから私がいない間、水廉胴闘賊団を助けてやってくれないか?」
玉面魔王は最初、その手紙を読むなり破り捨てた。
「妾を顎に使うつもりか?蛟!」
実は蛟魔王が地上の魔王になる前に、玉面魔王とは幾度か争った事があったと言うのだ。
「何が男をあてがってやるだと?世の男は妾の美しさの前に跪くしか出来ない愚かな生き物、オホホホホホ!」
が、その手紙には水晶が一緒に入っていて、その水晶から牛角兄者の映像が写し出されたのだ。
その牛角兄者の映像を見た玉面魔王は、一瞬で恋に落ちたのだ。
ちなみに俺達を襲ったのは、牛角兄者以外は邪魔だったからだと。
そして、同時に…
俺の初めての恋も終わったのだ。
次回予告
またまた物語は新たな展開に突入!
それは、あの有名な物語の真実へと?




