虎穴に入らざれば虎子を得ず!
虎先鋒に手も足も出ない美猴王達、
そして美猴王は虎先鋒の奥義・虎穴に倒れた。
俺様は美猴王!
俺様は虎先鋒の「虎穴」なる技をくらい敗れた。
「苦しめずにトドメを刺してやろう」
虎先鋒が倒れた俺様に近付くが、その先を阻むのは剛力魔王だった。
「再戦、希望」
「どのみちお前も殺す予定だ。構わないぞ」
剛力魔王から強烈な覇気が放たれ、身体が黒く変色していく。
「今度は討ち漏らしたりはせん」
「今度は、負けない、倒す」
二人は互いに向かって同時に飛び出した。
しかし二人が衝突する寸前、二人の間に飛び出して地面を砕き、割って入る者が妨害した。
「邪魔、するな。お前、負けた。次、私だ!」
「お前…立ち上がれるのか?」
二人の妨害をしたのは虎先鋒に敗れたと思われた俺様、美猴王だ。
「俺様、負けてねぇ~し!全然負けてねぇ~し!」
「邪魔、次は私、出る」
「俺様だって言っているだろ?剛力魔王!だったらお前からぶん殴るぞ!」
「やって、みろ?私、負けない!」
俺様は剛力魔王と睨み合うが、そこに虎先鋒が口を挟む。
「お前達遊んでいるのか?夫婦漫才なら地獄に落ちてからやるのだな?」
「夫婦魔王じゃねぇーし!」
「お前、殺す!」
今度は虎先鋒に怒る俺様と剛力魔王。
三つ巴になるかに思えたが、
「それに、この剛力魔王には牛角って奴がいてな?もうチュッチュッしているんだぞ?本当に激しくチュッ…」
「カァーー!!」
俺様の暴露発言に剛力魔王は顔を赤らめてモジモジし始めると、そのまま壁に移動して…何か…変になってた。取り敢えず戦線離脱で良いのか?よく解らないが?
「さ~て?待たせたな?虎先鋒」
「変な奴らだ。だが、今度は確実にお前に死を与える!」
「やれるものならな」
しかし俺様はやせ我慢していたのだ。
さっきの虎先鋒の放った虎穴って技は確実に俺様の身体に致命的なダメージを与えていたから。
もう一度食らったら、もう立つ事は出来ないだろうな。
だが、疼くんだよ!えっ?痛み?違う、違う!
俺様の戦闘本能が強い奴を相手に、戦いたくて戦いたくて疼くのだ。
「虎先鋒!今度はお前が俺様の前にひざまずけ!」
俺様と虎先鋒は再び拳と掌打のぶつかり合いを繰り出す。
激しい衝撃が俺様と虎先鋒を中心に壁に亀裂を作った。
虎先鋒の圧縮した妖気防御と攻撃に、俺様の石化し燃え盛る拳の猛襲。
一歩でも隙を見せれば、再び『虎穴』なる技が俺様を襲うだろう。
先の見えない打撃戦!
だが、俺様にも攻略の手立てがあった。
それは俺様は打撃戦の最中にわざと腕を弾かされたのだ。
その隙を見逃さず、再び虎先鋒が『虎穴』を放った。
一撃必殺の『虎穴』が繰り出された時、俺様もまた見逃さなかった。
虎先鋒が虎穴を放つ瞬間、全ての妖気が腕に集約する僅かな溜めの間があるのを。
俺様は虎先鋒が虎穴を放つ際に腕を引いた溜めの一歩前に飛び出していた。
もしタイミングを誤れば、さっきよりも強烈な一撃を食らうだろう。だが!
『虎穴に入らざねば虎子を得ず!』
俺様は虎先鋒の引いた限界域の腕にもう一発連続の拳を放つ。
「馬鹿め…残念だったな?」
だが、虎先鋒の虎穴は逆の腕から放たれたのだ。
抉るように俺様の顎を捉え、突き上がるように顔面が弾かれ、更にもう一方の拳から放たれた『虎穴』が俺様の腹に風穴を開けた。
「!?」
虎先鋒は俺様の腹部に開かれた風穴の先から何かが覗き見える。
その風穴の先に見えるモノは?まさかの?
そう。俺様の背後から俺様が駆けて来るのが見えたのだ。
「ぶ…分身か!?」
虎先鋒の目の前で倒された俺様の分身が前のめりに倒れる。
「小癪な。分身を盾に使い、本体が私の虎穴の妖気集中の間に攻撃を仕掛けるつもりだろうが甘い!分身事、本体も片付けてやるぞ!」
虎先鋒は再び妖気を拳の一点に集中させる。
妖気集中を間に合わせ、目の前に突っ込んで来た俺様本体に放つ。
虎穴は本体の俺様を貫き、風穴が開くと同時に煙となって消えた。
「まさか!?」
鳥肌が立った。
自分の足下からの強烈な殺気が迫るのを察知したからだ。
それは最初に風穴を開け倒れた方の分身?
違う!それこそ本体である俺様だったのだ。
俺様は立ち上がりなから渾身の一撃を虎先鋒の腹目掛けて殴ったのだ。
「うぐぅわ!」
虎先鋒は吐血しながら膝をつき、俺様の前に倒れる。
「どうだ?今度はお前が俺様の前に倒れただろ?」
「まさか本体を囮に使うとは…」
虎先鋒は足が震えて立つ事が出来なかった。
だが、俺様も腹に穴が開いて血が大量に流れ落ちる。
もう立ってられる限界をとっくに越えていたが、俺様は意地と負けず嫌いと頑張り屋さんのド根性で堪えたのだ。
俺様は腹に再生力を籠める。
少しずつ傷が塞がっていくが予想以上に重症であった。
てか、致命傷かも…
因みに剛力魔王はまだ照れ照れしながら、壁に頭を擦り付けていた。
そんで虎先鋒もまた同じく動けずにうずくまる。
どうやら痛み分けのようだな?
「はっ!!」
だが、俺様はそんな状況で新たな強力な妖気を感じたのだ。
そいつは天井を破壊し気流の上に乗りながら、ゆっくりと降りて来たのだ。
その妖気圧に流石に剛力魔王も我に返る。
「マジか?」
俺様は立っている事も出来ずに膝をつく。
間違いない。
この桁違いの力の持ち主は一桁ナンバークラス!
奴が黄風魔王なのか?
黄風魔王は掌をこちらに向けると、気流の渦が俺様を通り抜け?そのまま後ろで倒れていた例の保護した少年を囲んだのだ。
気流は少年を宙に浮かして黄風魔王へと移動させる。
「待てぇー!」
その時、目覚めた少年は何を思ったのか?
黄風魔王に抱き付いたのだ??
えっ?えっ?えっ?
どういう事だよ?
「怪我はないか?」
「はい。父上!」
えっ?えぇー!?
あの助けた人間のガキが黄風魔王のガキだって??
次に黄風魔王は倒れている虎先鋒を気流に乗せ宙に浮かばると自分の場所へと移動させる。
「虎先鋒。お前ほどの者が、それほどの状態になるとはな?」
「も…申し訳ありません…黄風魔王様!」
「お前は良くやってくれた。気にするでない」
俺様は三人を見上げながら
「あいつが黄風魔王で間違いなさそうだな?」
が、その時?
「あの者は誰だ?アイツは黄風魔王様ではないぞ!」
「な…何?」
叫んだのは虎先鋒に気を失わされていた刀剣魔王であった。
刀剣魔王は黄風魔王直属の配下だった。
その刀剣魔王が目の前に現れた黄風魔王を黄風魔王じゃないと言う。
しかし虎先鋒は黄風魔王と言う。
どっちもこっちも違う事を言われると俺様はパニクるじゃねぇかよ!
「刀剣魔王?どういう事だ?アイツは黄風魔王じゃねぇのかよ?」
「姿だけじゃない…魂の色が違い過ぎる。全くの別人だ!」
そのやり取りを、当事者である黄風魔王が割って入る。
「刀剣魔王か?お前こそ裏切っておきながらよく言う」
「我は黄風魔王様の配下であり、お前のような者に従った覚えはないわ!」
刀剣魔王は両手に刀剣を携え妖気を籠める。
「その化けの皮を、我が剥がしてやろう!」
『巧千帝刀剣』
※タクチテイトウケン
刀剣魔王は飛び上がると黄風魔王に向かって、その刀剣を降りおろす。
その斬撃は壁と天井をも両断し黄風魔王に迫った。
「・・・」
斬撃が迫ると黄風魔王は刃に掌を翳す。
すると荒波のような突風が刀剣魔王を押し返したのだ。
「負ける…ものかぁ!そんな突風我が剣で斬り裂いて…」
が、その突風はカマイタチとなり、刀剣魔王の身体に無数の斬り傷を作っていく。
「うぐぅああ!」
ついに刀剣魔王の身体は押し戻され、反対側の壁に飛ばされ衝突した。
俺様もまた荒れ狂う突風の中で身動きが出来ないでいた。
そして飛ばされそうになった時、目覚めていた怪力魔王に支えられる。
「大丈夫か?」
「あぁ…お前も大丈夫か?」
「まだ身体中が痛むが、そうも言ってはいられん状況だ…それにお前も重症だろ?」
「………」
ハッキリ言って、直ぐに帰って治癒術を施して貰った後に、痛い場所を擦りながら安静にしたかった。冷や汗が滝のように流れる。
もう…帰る!
と、言いたかったが、俺様はようやく最初から抱いていた違和感に、あの本物か偽物か解らない黄風魔王が現れた時に…感じてしまったのだ。
いや?考えてみれば、あのガキにも同じ何かを感じていたから…俺様はガキを見捨て、放っておけなかったから保護したのだと思う。
そして、次の黄風魔王の言葉を聞いた時に、俺様は全ての謎が一つの答えへと結び付いた。
「俺がこの世界に蔓延るお前ら妖怪全てを消し去ってやろう」
やはり、そうだ…
こいつは妖怪じゃねぇ!
人間だぁ!
しかも…
黄風魔王とガキからは微かに…
蓮華の香りがしたのだ。
次回予告
満身創痍の美猴王達の前に現れた黄風魔王!
その謎も含め、
絶対絶命の状況下で、どうなる次話??




