戦線離脱?猿も崖から落ちる?
水廉銅闘賊団は十魔王の一角であり、暴食の雷獣王・雷我の奇襲
対する獅駄王は難攻不落の魔王である雷我を倒したのだった。
俺様は美猴王
俺様率いる水廉銅闘賊団は十魔王の一角であり、暴食の雷獣王・雷我の奇襲により危うく壊滅する所だったのだ。雷我の強さは桁違いだった。牛角も蛟もいない中、この俺様が挑むが手も足も出せずにいた。
…そんな所に雷我を相手にかって出たのが獅駝王だった。
恐るべき強さを見せる雷我を相手に獅駝王は戦いの最中に成長していき、ついには難攻不落の十大魔王である雷我を倒したのだ。
しかし勝利の喜びもつかの間、獅駝王は再び倒れ、眠ったまま起きなくなった。
そんなわけで俺様は目覚めぬ獅駝王を残して、次の魔王の本拠地へと先に進む事にしたのだ。
「獅駝王様の事はお任せ下さい!命に代えても目覚めるまでは必ず守り抜きますので!」
そいつ達は獅駝王直属に仕えていた三人の妖仙だった。
そして俺様は水廉銅闘賊団を従え、進軍する。
次の黄風魔王は険しい山脈を幾つも越えた先に本拠地の城があるのだ。
だが、そこまでの道のりの中で俺様達は待ち構える黄風魔王の配下と数度にかけて交戦していた。数では断然有利かと思っていたが、雷我との戦いで数十万の三割以上が怪我や命を落とし獅駝王と同じく戦線離脱した。
俺様は残った仲間を引き連れて進軍していたのだ。
「しかし~この霧の中じゃ先に進めんぞ?」
俺様達は山脈より続く森の中を歩いていた。
前後、共に深い霧で視界を奪われ身動き取れずにいたのだ。
そこで、岩猿、気火猿、水猿が先頭を歩く。
「こんな場所で襲われたらたまったもんじゃないよな?」
「怖い事を言うなキャ!」
「しかし、ここは敵の陣地だからな?何が起きてもおかしくないきゃ?」
三猿達は俺様の本軍より先に出て偵察を任したのだ。
この霧には微かだが妖気を感じる。つまり何者かの術の可能性があるのだ。そこで三猿達にその原因を突き止めるように先に向かわせたのである。
黄風魔王の軍との戦いは今まで戦って来た魔王の軍と少し変わっていた。
今までの力任せの戦いではなく、奴らは奇っ怪な術を使い、進む場所に数々の罠を仕掛けて来たのだ。
「罠見っけ!」
気火猿は炎の印を結ぶと、指先から目の前に見える大木に向かって炎弾を投げつける。大木に炎弾が命中すると視界がボヤけ出して、目の前への道が無くなり熔岩の谷が出現したのだ。
「気付かないで進んでいたら、あの熔岩の中に落下してたな?」
「先を進むウキャ!」
と、こんなように三猿は俺様達の進む道に仕掛けられた罠を前以て発見して行く。
すると俺様の隣に従う六耳が俺様の顔を見て問いかける。
「美猴王兄貴?どうしたのですか?浮かない顔をして?」
「あぁ…戦力差があったのに、敵の罠で大半近く仲間を失った…もう少し慎重に考えないと全滅するかもしれねぇと思ってな?」
罠は厄介だ…
戦わずして仲間が減っていく度に、嫌と言うほど味わったから。
これこそ対集団戦での戦いなのだと実感した。
蛟魔王の奴が得意だったよな?
「三猿達が前以て罠を解除してくれてるお陰で今は罠もなく楽になりましたよ。それに負傷者は直ぐに後退させ、治癒部隊の所まで戻しているから死傷者はそれほどじゃないですよ?」
「それでも戦う前に罠なんかで死んだ奴らは浮かばれねぇよ!」
「兄貴…変わりましたね?」
「そうか?」
俺様が変わった?実感はなかった。
ただ…失ってから受ける痛みは嫌だった。
これ以上、仲間を減らせられねぇ!
「先に進むぞ!」
と、その時だった。
突如、霧の中から音が聞こえて来たのだ。
「!!」
そして仲間達の悲鳴が響き渡る?
「何が起きた!?」
すると森の巨木が動き始め道を塞ぎ始めたのだ。
いや?前方だけじゃない。後ろもか?閉じ込められた?
仕掛け罠か!?
すると仲間達が一人一人倒れていき、同時に強烈な眠気が襲う。
霧に睡眠の術が施されていたのか?
「油断するな!炎術を使える者は前方の大木に向かって一斉射撃!」
仲間達が印を結ぶと、火炎放射が一斉に放たれる。
大木は燃え盛り、前方への道が開かれた。
「道が開いた!全軍急ぎ、この場より抜け出すぞ!」
俺様は駆け抜けるように飛び出すと、後ろから六耳の叫ぶ声が聞こえた。
「兄貴ぃー!そっちは危険だぁー!」
えっ?
大木を抜け出した瞬間、俺様の足場が消えて深い亀裂の穴へと落下してしまったのだ。
「うぉおおお!」
俺様は咄嗟に金斗雲を呼ぶが、来ない。
それどころか妖気が全く使えないじゃないか?
どうなってやがる?
これは俺様にこびりついた霧のせいか?
水滴となって濡れてる場所から妖気が抜けているようだ?
これも罠だったか!何者かの術か!?
俺様はなすすべなく地中深くへと落下していく。
どれくらい経っただろうか?
俺様は倒れて意識を失っていた。
そんな俺様を何者かが背負い運んでいるようだった。
誰だ?
仲間?それとも黄風魔王の手の者か?
ダメだ…
また眠くなってきやがったぞ?
それにしても、何か良い匂いだなぁ…
そのまま俺様は再び睡魔に負けて眠っていく。
「ん?むにゃ?」
再び俺様が目覚めたのは見覚えのない部屋のベッドの上だった。
俺様は飛び起きると、警戒しながら部屋の中を見回して気配を探ってみた。
ここは何処だ?
すると刃物を板に叩く音が聞こえて来たのだ。
誰かが料理をしているのか?
立ち上がろうとすると力が入らずに崩れ落ちる。
俺様の身体は崖から落下した時に幾度とぶつけ、落下の衝撃で重傷だった。
妖気が消えているみたいで治癒力が追い付かず、自然回復の状態に任せるしかなかった。
そんな俺様の身体には包帯が巻かれ、傷口には薬草が塗られていたのだ。
そこに俺様の物音に気付いた何者かが入り口から顔を見せた。
そいつは髪の長い、妖気を全く感じない猿?いや?猿に似ている毛がない裸猿?
いや?この生き物は…
人間って奴だ!!
昔、見た覚えがある。
猿に似た生き物で、異常に弱く、力無い種族。
この地上界ではそこそこ多く、知性もある事から妖怪達の下僕として財宝や食料を貢がせたりしていた。しかも非常食、つまり妖怪にとっては餌にもなるのだ。
俺様は普段、猿に似た人間を遠い同族種として餌にする事はなかったが、今は体力も衰え腹も減り、限界状態なのだ。目の前にいる人間は雌のようだな?雌は肉が柔らかく食べやすいと聞く。
俺様は目の前の雌人間に飛び掛かろうとした…が、足元がふらつき、そのまま倒れてしまった。
「えっ?」
倒れる俺様の身体を人間の雌が抱き支えたのだ。
このまま喰らって…
俺様は人間の雌に抱き抱えられながら、再びベッドに寝かされる。
「あんた?死にたいのかい?そんな怪我で動いたら、せっかく助かった命が無駄になっちまうよ?」
この雌が治療してくれたのか?
だが、こんな怪我!
俺様は妖気を籠めて再生力を高めようとしたが無理だった。
「おぃ?雌!お前が治療したのか?」
「………」
「何を黙っている?」
すると頭を殴られた。
へっ?へっ?へっ?
何で?
何で俺様が下等な人間の雌に頭を殴られたの??
猿と人間って猿のがエライよな?
なのに何故なん?
人間の雌は俺様の胸ぐらを掴み、睨みながら言った。
「あんたさ?起きて最初の言葉がそれかい?違うだろ?先ず言うべき事があるよね?」
この人間の雌は何を言っているのだ?
意味不明理解不能ちんぷんかんぷん??
「先ずは礼が先じゃないのかい?あ・り・が・とって?私があんたを崖の底に倒れてるのを運んで、治療してやったんだよ?」
えっ?礼を言うの?「ありがとう」って言うの?下等な人間に?
だって相手人間だよ?猿が人間に頭を下げるの?この美猴王様が??
「おま…」
「そのぐらいの礼を言えないんじゃ、あんた大した妖怪じゃなさそうだね?礼を軽んじる奴に誇りも何もないからね?」
「!!」
「どうせ戦場から恐くて逃げて来たくちだろ?」
「待て待て待て待て!聞き捨てならん!俺様はこう見えても軍団長なんだぞ?」
「はて?そんな軍団長様が何故一人で倒れているのさ?仲間から見捨てられたのかい?そりゃ~礼も言えない軍団長様じゃ部下も付いて来ないよね?」
「礼は言えるぞ?俺様は!だが、俺様のプライドにかけて人間なんかに頭を下げてたまるか!」
「あっそ?じゃあ、良いわ?」
「当たり前だ!俺様を何だと…」
「じゃあ、あんたに用意した食事もあげる必要ないわよね?礼もないんじゃ、食べさせる義理もないしね?勿体ないから私が全部食べて来るわ~」
と、部屋を出て行こうとする。
えっ?飯?
「ありがとうございます」
「何だって?聞こえないよ?」
「ありがとうございます!ありがとうございます!助けて運んでくれて治療してくれて、本当にありがとうございます!心より感謝致します。今までのご無礼申し訳ありません!」
「あんた…プライドは何処に言ったのさ?」
「礼儀を重んじる事は当然の事!だから、俺様に~」
目を輝かせる俺様に呆れた女は、呆れながら仕方なく作っていた飯を運んでくれたのだ。
俺様は目の前の飯に食らい付いた。
異常に腹が減っていたからな。
それに早く体力付けて仲間のいる戦場に戻らないといけないからな!
飯を食べ終えた後、女は俺様に言った。
「私の名前は麗華!あんたは?」
「飯をくれたから名前ぐらい教えてやらぁ!聞いて驚け?俺様の名前は今、地上界で超有名な聖天大聖・美猴王様だぜ!」
「ふ~ん?」
「驚いてないようだな?ならば俺様の武勇伝を聞かせてやるぞ?」
「結構。私は戦争なんかする連中に興味なんかないから」
「え~~??」
「それに私、この村からずっと出てないから外の話をされても解らないわよ」
「それでも俺様の英雄話を聞いてみても良いと思うぞ?むしろ聞いてください!」
「くどい!てか、お願いになっているじゃん!」
と、これが俺様美猴王と人間の女、麗華との出会いであった。
次回予告
まさかの戦線離脱の美猿王
そこで美猴王は人間を知る。




