猿にも秘密?蚩尤の秘密??
六耳は見事に独角鬼王の仇を討った。
その頃、こっちでも?
俺は剣を手に戦場を翔け抜けて行く。
群がる敵兵達を薙ぎ倒しながら、何処かで戦っているであろう兄者を探していた。
俺の名は蚩尤!
「チッ!囲まれたか」
だが、恐怖はなかった。
何故なら俺は幾度と生死の境を切り抜けて来たのだから。
ついこの間まで俺は投獄されて拷問を受けていたくらいだしな。
今、こうやって生き残り戦っている事自体奇跡ってもんだ。
それどころか逆に身体が軽いし、力が漲るようだ?
どうなっているんだ?
俺は囲む敵兵達に怯む事なく暴れ回る。
気付いた時には、俺は鮮血にまみれ、敵兵達は一人も残ってはいなかった。
「!!」
その時、背後から突如現れた何者かの影が俺を覆った。
鳥肌が立ったと同時に、俺は両腕を掴まれ後ろ向きに軽々と持ち上げられたのだ。
「ガッハハハハハ!」
そいつは異常に両腕が太い奴だった。
異常な妖気を感じる。
間違いない!
こいつは眼力魔王の配下で五魔王の一人…
『腕力魔王!』
俺はもがき暴れるが、びくともしなかった。
「もがくな!もがくな?無駄だ!無駄!お前は死ぬんだよぉ!ホレ?」
「えっ?」
直後、鈍い音と共に俺の両腕が潰され、骨も肉も飛び散り無惨な状態になった。
「うぎゃああああ!」
痛み苦しみ、寝転がる俺に追い討ちをかけるかのように、容赦なく腕力魔王は俺の足を踏み潰した。更に痛みで喉が裂けるような声で悲鳴をあげる。
「ガッハハ!良い鳴き声だ!だが、もう聞き飽きたぞ?煩い奴は黙らせてやろう!」
そう言って腕力魔王は太い腕を振り上げ、俺の頭目掛けて殴り落としたのだ。
当然、俺の頭は潰され、鮮血が飛び散った。
薄れる意識の中、俺はひ弱で無力な自分を呪った。
俺は終わりなのか?
その時、何処からか俺を呼ぶ声が聞こえて来たのだ。
《お前死ぬ気じゃないだろうな?》
誰だ?死ぬ気も何も俺はもう終わりなんだよ?
これ以上、どうしろと言うのだ?
《お前!諦めたなんて言わせないぞ?お前が死んだら…》
その時、俺はこの声が自分の頭の中から聞こえて来ているのだと気付いた。
更に、この声にも心当たりがあったのだ。
でも、そんな…有り得ない!だが、この声の主、そいつは!
「魂喰魔王!」
すると声の主が返事をして来たのだ。
《よく気付いたな?蚩尤よ!》
間違いなかった。魂喰魔王とは、かつて俺が倒した魔王だ。
殺しても殺しても、幾度と再生し復活して来た不気味な奴だった。
最後は俺が首を斬り落として倒した…と、思っていたのだが…
どうしてこいつが俺の頭の中から?
《俺は死なないよ!と、言っても…》
「と、言っても?」
《俺は今、意識のみの存在…俺はもうお前無しでは生きてはいられないのだ…》
口説き文句??
いやいや…
《俺はお前に殺される寸前、お前の肉体を奪おうとお前の魂の中へと入り込んだのだ!》
何と!?
《が、それが俺の過ちの始まりだった。まさかお前が自らの身体に魂を拘束する能力。魂牢獄の力を持つ特殊体者だったとはな。たまげたぜ!》
ハッ?何を?魂牢獄の力だと?意味の解らない事を??
《そもそも魂牢獄の力なんてものは使い道のない能力に等しいからな。だが、俺のような寄生妖怪には天敵だっただけの話。まぁ、そんな事はどうでも良いか?お前が死ねば俺の魂も消えて死んじまうんだよ!お前はどうしたいんだよ?俺と共に死ぬか?生きるか?》
「ケッ!意味は解らないが俺は生きたい!死んでたまるかぁ!俺は生きたいのだ!」
《なら、力を貸してやろうか?》
「力を貸すだと?お前がか?」
《あぁ!お前が死ぬと俺も一緒に消えちまうからよ?お陀仏はごめんだぜ?》
「でも、どうするつもりなのだ?」
すると魂喰魔王は俺に衝撃的な事実を教えたのだ。
《邪魂の飴だよ!》
邪魂の飴?
それは俺が知らず知らずに食っていた例の飴であった。
食っても食っても減らずに、力が漲る不思議な飴の事か?
《あれは死者の魂を飴に変え、喰った者に力を与え、再生し、命を永らえる霊飴さ!お前は知らず知らずに死者の魂を喰らい今まで生きながらえて来たんだよ!》
あの飴が死者の魂だと?
俺は吐き気をもよおしたが考え直した。
例え邪道と罵られようと俺は生きながらえたい!
生きて生きて生きて兄者を支えるんだ!
「で、どうする?俺はもう虫の息だぜ?手足はもちろん口さえ開かないんだよ!」
例の飴は戦いの最中に地面に転がっていた。
だが、腕は腕力魔王に潰され手に取る力も残ってはいない。
すると魂喰魔王は俺にアドバイスしたのだ。
《教えてやる!俺は別名『触手魔王』と呼ばれているんだ!少し痛むが我慢しろよ?》
えっ?
すると俺の身体が震えるように揺れ動き出したのだ。
その後、俺は全身に激痛が走り再び悲鳴をあげた。
俺の傷付いた身体から内臓が剥き出しになり、意志を持ったように動き出したのだ。それは身体から飛び出すように伸びて行き、目的の飴を拾い上げると俺の口の中へと放り込んだのだ。
「うぎゃうぎゃうぎゃああああ!」
激しい痛みを感じたが、死者の魂を取り入れ俺は再び蘇る。
しかも、見る見る失った身体が再生していき、失った腕も生え変わって行く。
そうだったな…
牢獄の時も今までの戦場中でも、傷付いた時も俺はそうやって生きながらえた。
仲間だった奴達の魂を喰らい、誰かも解らない奴達の命を贄にしてでも、俺は生きたいと強く願う。俺は…俺は死にたくないんだぁ!
気付くと痛みはおろか傷付いた身体も再生していた。
そして力が漲って来たのだ。
更に俺は転がっていた数個の飴を拾い上げ口の中へと放り込むと、妖しい笑みで落ちていた剣を再び手に取り、
「待てよ~コラァ?」
俺を仕留めたと次の獲物を求め立ち去ろうとしていた腕力魔王を呼び止めたのだ。
周りには既に誰も生きてる奴はいなかった。
「んぬぬ?」
腕力魔王は驚いた顔で俺を見ていた。
そして言ったのだ!
「お前、キモッ!」
「…………」
えっ?何で?
見ると俺の腹部から内臓が触手のように飛び出していたから。
自分でも…キモッ!
「うっ…うるせー」
すると魂喰魔王の声が再び聞こえて来たのだ。
《触手は自在に使えるぜ?相棒よ!》
チッ!相棒かよ!
調子乗りやがって!この寄生虫がぁ!!
まぁ、使えるなら使うに越した事はないが…
「いけぇーー!」
俺の腹部から伸びた触手が腕力魔王の身体中に絡み付いていく。
触手は俺の意思で自らの手足のように使えた。
「何だこりゃ?ふん!ふん!ふん!」
腕力魔王は力任せに触手を引き千切ろうとするが、力が入らない?
その上、俺に力が流れ込んで来たのだ。
「どうやら触手から相手の生気を吸収出来るようだな?便利なもんだぜ!(キモイけど…)」
俺は触手で宙吊りにし身動き出来なくした腕力魔王に向かって駆け出すと、手にした剣を振り下ろした。
「うぎゃあああ!」
断末魔の中、俺の剣は腕力魔王の頭上から股下まで一刀両断にしたのだ。
「や…やったのか?俺が倒したのか?」
すると腕力魔王の身体が光りだしたかと思うと、その光りは腕力魔王の骸から抜け出し、俺の持っていた袋の中へと吸い込まれていった。
「これは?」
袋の中には新たな飴が入っていたのだ。
しかも他のより少しでかく、色も違うような?
これはまさか腕力魔王の邪魂の飴なのか?
俺は新たな飴を口に入れようとすると、
《止めとけ!それを喰ったら死ぬかもしれねぇぜ?相棒よ?》
俺は直ぐに口に入れるのを止めた。
「なぁに?どういう事だ?飴は力を与えてくれるんじゃないのか?」
《そのデカイ飴はお前のレベルでは容量が大きいのだ!万が一誤って喰ったりしたら、お前の身体は耐えられずに木っ端みじんになっちまうかもしれねぇぜ?気をつけるんだな!》
何て恐ろしい…
しかし俺の身体は気付くと完全に回復していた。
だが、この力は他の連中には秘密にしておかなければならない…
何せ仲間の命をも糧にして生きながらえるのだからな。
特に外法を嫌う兄者には話せ…な…いよな。
そこに俺を呼ぶ声が?
『蚩尤!お前が腕力魔王を倒したのか?でかしたぞ!』
振り返った先には遅れてやって来た牛角兄者が立っていた。
「五魔王の一人を仕留めるとは大したもんだ!さすが俺の弟だ!」
そういって俺の肩に手をやったのだ。
俺は嬉しかった。
例え外道と他者から罵られたとしても、兄者を支える事が俺の生き甲斐なのだからな…
「兄者よ!次に行こうぜ?」
「あぁ!」
俺と牛角兄者は眼力魔王の城塞へと向かったのだ。
その先に…
更なる強敵が待っていようと知らずに…
次回予告
次話、いよいよ出番が少なかった美猴王が五魔王の一人と一騎打ち!
しかし、そいつは美猴王にとって・・・




