猿怒る！弔いは眼力魔王の首だ！！
独角鬼の死に怒り悲しんだ美猴王は禁術である獣王変化を唱えた。
自我を失い闘う美猴王だったが、眼力魔王は戦場もろとも破壊する破壊結解を使用したのだ。
俺様は美猴王だ。
俺様は自我をなくす禁術である獣王変化した大猿の姿で、眼力魔王の配下である五魔王に向かっていった。しかし五魔王は戦闘を止めて姿を消したと同時に四本の柱が地中から出現し、残った敵軍もろとも戦場は光に包まれ大爆発した。
物語は少々遡る。
場所は水簾洞闘賊団の本拠地。
そこには残ってアジトを警護していた数千の味方の兵と、軍師にして魔王である蛟魔王が待機していた。彼等［彼女］は仲間達の帰りを今か今かと待っていた。
「何かおかしい…」
蛟魔王は水晶にて戦場の状況を見ながら違和感を感じていた。
ここまでの作戦は全て蛟魔王の指示で動いていた。その奇策で絶体絶命の危機から幾度も好転し、見事に勝利を収めてきたのだが、蛟魔王は現状に釈然としてはいなかった。
確かに自分の策には自信はあったが、あまりにも事が上手く行き過ぎてはいないか？
何者かの手の平で回されているような違和感を蛟魔王は感じていたのだ。
考えてみれば、可笑しい事が幾つもあった。
敵軍の中には非情な眼力魔王に対して不満を抱き、裏切りを考えていた者達もいた。その者達は皆、無理な策にて先行して出兵して来ては俺様達によって返り討ちにあっていたのだ。
まるで邪魔物を消すために使われていたようだ。
それにこの度の戦いでも俺様が一人で出向いた時、相手軍は知っていたかのように待ち構えていた。知っていた？だが、どうやって？
そんな事は自分達の行動が見透かされていなければ出来ない芸当だ。
それとも蛟魔王以上の策士がいるのか？或いは仲間内にスパイが？
有り得ない！
「仲間内の行動は全て隅々まで把握しているんだ。私のストーカーテクニックをナメるな！」
いや？自慢げに言う事じゃないぞ？
そもそも蛟魔王は水晶にて遠く離れた地の状況を見る事が出来る。
これは仙術を使える俺様にも出来る芸当なのだが、自分の分身、或いは媒体になる何かを使って代わりに見せて、その見た物を遠く離れた本体が同じく見る『千里眼』なる術なのだ。ちなみに己の霊体を飛ばす方法もあるが、万が一にも気付かれ霊体を傷付けられたら本体もヤバいのである。まさか相手に策を見られているのか？
それも、有り得ない！
このアジトには幾つも結解が張られている。
例え強力な千里眼でも容易に入り込む事は出来ない…。
『！！』
蛟魔王はその時気付いたのである。
水晶に写る自分の瞳に！
蛟魔王は自分自身の瞳の中に別の存在を感じたのだ。
(バッ…馬鹿な！！)
そこで蛟魔王は全て察したのだ。
「これがお前の能力だな？眼力魔王よ！」
蛟魔王は独り言のように話し掛けたのだ。
すると蛟魔王に対して返事が返って来たのだ。
『良く気付いたな？さすがと言うべきか？蛟魔王』
「まさか他人の眼を通して、物を見る能力とはな？ふざけた能力だ…これまで全てつつぬけだったか？これは千里眼…いや？それとも違うな…そう。これは…」
蛟魔王は眼力魔王の能力の正体を種明かししたのだ。
『お前は魔眼使いだな？』
『…………』
魔眼とは特殊な能力を秘めた眼の事を言う。
その眼を持つ者は『魔眼使い』と呼ばれ、妖怪だけでなく神々からも恐れられていた。
「ふっ…つまりお前の魔眼は他人の眼を通して盗み見する能力か？たいしたことないな？眼力魔王」
『たいしたことないとは無知は困る。私の魔眼の能力はそれだけではないぞ？私の魔が…いや、それはお前が私の所に来た時に、痛いほど教えてやろう』
(チッ！)
蛟魔王は挑発しながら眼力魔王の魔眼の能力を聞き出そうしていた。
魔眼能力者との戦いは魔眼の能力を把握し、どう攻略するかが鍵になるからだ。
何故なら魔眼には持ち手の個性により千差万別で、使われるまで能力が解らないのである。
『それより良いのか？お前の仲間の方は？』
「何が言いたい？」
『全てを見させて貰ったお返しに、面白いプレゼントを用意してやったのだよ！アハハハハハ！』
「何！？」
そこで眼力魔王の声が途絶えた。
同時に蛟魔王は水晶の中に映る仲間達の状況に衝撃を受けたのだ。
そこでは独角鬼王が戦死、俺様が大猿へと変化し暴れ、大地が揺れ動き四本の柱が現れて光り輝いた場面だった。
「しまった！これも罠かぁーーー！」
眼力魔王は蛟魔王の気を戦場から逸らすために、わざと現れ話しかけて来たのだ。
戦場は光に包まれ…
大爆発の後、残った戦場は眼力魔王の城はおろか何も残らぬ更地と化していた。
当然、生き残った者などいるはずもない。
いや？先に戦場より離脱し立ち去った眼力魔王と五魔王率いる一軍以外は…
ここは再び場所が変わって水簾洞闘賊団の本拠地。
そこには傷付き、身体中ボロボロの俺様・美猴王が眠っていた。
「！！」
俺様は目覚めると同時に飛び起き、状況把握につとめる。
死んじゃいねぇようだが俺様はどうなったのだ？
周りには同じく怪我をして寝かされている仲間達。
「俺様は確か禁術を使って大猿になったはず？」
俺様の姿は元に戻っていた。
訳が解らねぇ…
すると、そこに蛟魔王と牛角魔王が部屋に入って来たのだ。
「お前達！俺様は…いや！俺様達はどうなったのだ？どうやって生き延びたのだ！？」
俺様の問いには蛟魔王が答えてくれた。
あの大爆発の寸前、蛟魔王は仲間達にも隠していた秘術を発動させたのだ。
「印！」
蛟魔王は印を結び術を発動させる。
数千数万の術札が出現し飛び散ると光り輝き、それは蛟魔王の眼前から消える。
次に術札が出現したのは爆発間近の戦場だったのだ。
術札は爆発と同時に、状況が解らずに慌てふためく仲間達の身体に貼り付いていく。
すると身体が宙に浮き光に包まれ、突如背後から出現した歪みから現れた『手』によって次々と引っ張られていく。
『空間転移術！』
それは蛟魔王の法術。
蛟魔王は世界でも数少ない空間移動術師であった。
蛟魔王はその術で遠く離れた戦場から、仲間達を引っ張りあげたのだ。
更に引っ張りあげた暴れる大猿姿の俺様を蛟魔王と牛角魔王が力付くで抑えつけた後、鎮魂術で荒魂を鎮めて元に戻してくれたのだと。
「そっかぁ！そんな事が？ありがとうよ！蛟魔王！それに牛角！」
だが、蛟魔王と牛角魔王は沈黙したままだった。
「どうした？」
「三割…」
…はっ？
蛟魔王の言葉の意味は？
「私が救出出来たのは、戦場にいた三割程度だよ」
それって…
つまり、他の連中は皆？
「あの状況下で全滅しなかった事だけでも奇跡だったのだ」
牛角魔王の言葉に俺様は悔しさと無力さで拳を握り締めた。
俺様達を救いに来てくれた数万以上の仲間達が代わりに死んだ事実。
眼力魔王は俺様達を全滅させるために、自分の配下達事犠牲にしたのだ。
それは部下を駒としか思っていないから出来る所業…
それは俺様と同じ？
俺様は眼力魔王と同じなのか？
奴が使った罠[禁術]は、五行粉砕法陣と呼ばれるもので、属性の違う四本の柱と、中心に起爆となる物を発動させて爆発させる術。
起爆となる物とは禁具である矢だった。
矢は突き刺さった魂を媒体に発動し、その魂を起爆させたのだ。
本来、その矢は俺様の魂を使い発動するはずだった。
俺様の魂で仲間達事全滅させる事が眼力魔王の本来の策だったのだが、庇った独角鬼王の魂を使い爆発したのだ。爆発する寸前、死んだはずの独角鬼王の身体が揺れ動き、膨らみ、炸裂した姿を想像すると、俺様の胸が痛み苦しくなった。
『ぜってぇ…許せねぇ！眼力魔王…奴は必ず俺様がぶち殺してやる！』
「美猴王…」
「？」
牛角魔王は言いにくげに怒りに震えながら言った。
「その怒りは獅駝王の奴の分も籠めてくれ…」
はっ？
俺様は辺りを見回した。
う…嘘だよな？獅駝王の奴がいない？
「悪い…助けられなかったよ…」
『！！』
「生き残りがいないかくまなく探したが・・・」
馬鹿な…あの殺しても死なないような獅駝王が？
俺様達と義兄弟の契りを結んだ獅駝王がか？
あの爆発に巻き込まれて死んだと言うのか？
嘘だよな？
牛角魔王と蛟魔王は顔を伏せて首を縦に振った。
そして俺様は如意棒を杖にして静かに立ち上がると、牛角と蛟魔王の目を見て言った。
「今度は一緒に来て貰えないか？連戦続きなのも準備も何も出来てないのも解っている…」
牛角魔王と蛟魔王は何も言わずに武器を手にしていた。
考える事は同じか…
この俺様が仲間達のために弔い合戦か…
自分が一番信じられなかったが、どうやら俺様は…俺様は今！
「この怒りを抑えておく事が出来ねぇ！今にも今にも爆発しそうだぁ！今、俺様は極限にまでブチ切れているんだぁー！」
俺様は如意棒を握り締めて歩き出す。
右隣には牛角魔王が並び立ち、左側には今まで戦場に出て来なかった蛟魔王も立つ。
その後を付き従うかのように、六尾と三猿達が続いた。
その後ろには蚩尤や戦う準備を既に終えていた兵士達が行列を作った。
「今から俺様達水簾洞闘賊団は逃げた眼力魔王を追って、ぶちのめす！！仲間への弔いは眼力魔王の首だあーーー！！」
今度こそ…
最終決戦の始まりダァーッ！
次回予告
水簾洞闘賊団は逃げた眼力魔王の軍を追い、新たな眼力魔王の居城へと殴りこむ。
だが、眼力魔王には守護する五人の魔王が待ち構えていた。
