怒り爆発?美猴王の獣王変化!
独角鬼王が美猴王を庇い、禁具の矢を受けた。
その時、美猴王は何を思う?
俺様は美猴王だ。
俺様に向けられ飛んで来た禁具の矢は、寸前で庇った独角鬼王によって防がれた。
俺様は無事だったが、代わりにゆっくりと俺様の前に倒れてゆく独角鬼王。
「……………」
うむ。アッパレだぜ!
パシリついでに何かの保険になるかな~?と、今まで傍に置かせてやっていたが、俺様には既に他の義兄弟もいるし、特に使い道もなく思っていた。まさか身を挺して盾となり俺様の命まで救ってくれたのなら、お釣りが出るってもんだぜ!うむ。本当に良くやった!
褒めて使わすぞ?
すると、この現状に気付いた仲間達が集まって来る。
再び敵の攻撃が来ないように警戒し周りを囲む仲間達。
独角鬼王の傍には六耳が駆け付け抱き寄せると、その手を握って呼び掛けていた。
「おまぁえ~!死ぬなぁー!何、死にかけてんだっちよ~?独角ぅ~」
ん?悲しんでるのか?
そうかぁ…
六耳の奴…アイツは何かと独角鬼王の奴と競い合い張り合っていたからなぁ…
一番のライバル?
とにかく一番身近の存在だったから無理もあるまい。
すると、六耳が俺様に向かって叫ぶ。
「美猴王様!独角の奴が何か言いたそうなんです!聞いてやって欲しいっち!」
えっ?
俺様は倒れている独角鬼王に近付き耳を傾けた。
独角鬼王は弱り切った声で俺様に何かを伝えようとしていたのだ。
「す…すまねぇッス…俺…ヘマこいたみたいっすよ…」
「……………」
俺様は無言だった。
独角鬼王は死ぬ。
間違いなかった。
流石の妖怪でも致命傷はある。
金色の槍が心臓を貫いていた。
独角鬼王の怪我は致命傷だったのだ。
助からねぇな…
「お…俺…最期に頼み事しても…良いっすかね?」
「何だ?言ってみろ?」
独角鬼王は弱りきった声で言ったのだ。
『美猴王様!貴方に…俺の…俺の称号!聖天大聖の称号を譲渡させてくだせぇ』
それは心の奥底から吐き出すような叫びだった。
死に際に称号の譲渡だと?
意味解らねぇ~
こいつはイカレちまったのか?
「へへへ…美猴王様の事だから、聖天大聖の称号なんて…死んでも嫌だと言うんでしょうねぇ?」
当たり前だぁ!!
「でも…聞いてくだせぇ…」
「?」
「聖天大聖の称号は役職のない称号だとか、必要の無い無駄な称号だとか言われていますが、それは真っ赤な言い掛かり…いや!とんだ誤った認識なんすよ」
「誤った認識?」
「そうっす…昔、俺にこの称号を譲渡してくれた奴が言ってたんす…」
『聖天大聖…それは役職に縛られずに自由に使命を果たす称号。そう雲のように何者にも捕われず、自由を与えられた者にこそ相応しい。
しかし、その自由を手に入れる事はそう簡単な事ではありません。自由を得る代償にその者は見合う力と器が必要とされるのです。
その力と器を持ってこその自由。聖天大聖とは唯一無二の自由を手に入れられる権限を持つ称号なんです』
唯一、自由を手に入れられる称号だと?
「へへへ…まぁ…受け売りてか、その前任者が勝手に付け足したこじつけかもしれないですがね~でも、俺は信じてる!俺は信じてるんす」
独角鬼王は俺様に腕を伸ばし叫び…
「貴方こそ!その称号に一番相応しい唯一の方だとぉ…貴方なら託せるんだ!俺が唯一惚れた貴方になら!その称号を任せられると!」
独角鬼王は涙を流し吐血しながら、消えかける命の灯を最後の最期にこの願いを叶えるために使っていた。
「お願いします!俺はその称号の器はなかった。でも貴方は…その器を持った貴方なら…」
命の灯が…
「俺はぁ…貴方の夢の先にはもう一緒にはいけないみたいです。…でも、せめて称号だけでも一緒に…貴方の目指す先へと連れて行ってく…だ…せ…ぃ…」
その言葉を残して独角鬼王は息絶えたのだった。
俺は伸ばされた手を握り返す事はしなかった。
ただ、頭の中は白くなっていた。
何だよ?この不快感は?
聖天大聖の称号を無理に押し付けられたからか?
いやいや!これはアレだ?
そう。解ったぁー…!!
俺様は気付いたのだ。
俺様の顔にこびりついた血に。
これは独角鬼王が矢に貫かれて飛び散った血だな?
ふざけるなよ~
拭っても拭っても取れやしねぇよ!
何だよ?これ?
まるで、どんどん溢れ出して来ているみたいじゃんか?
アレ?おかしいぞ?
血って赤くなかったか?
俺様の顔に付いた血を拭っている手には、何故か透明な液体が?
アレ?アレレ??
すると、再び声が聞こえて来たのだ。
あの夢の中で見た男の声が。
『いい加減気付けよ?てか、素直になってみたらどうだ?』
「アン?」
『頭キテるんだろ?怒りを悲しみを感じてるんだろ?』
何を意味不明な事を?
馬鹿な事を!
この悪童で残虐かつ冷酷な俺様が怒りを?悲しみを?ありえねー!!
男は言った。
『だったら…どうしてお前は…さっきからずっと胸を締め付け、涙を流して泣いているんだ?』
「!!」
俺様はそこで我に返り気付いたのだ。
自分自身の状況に…
俺様は目の前で命を落とした独角鬼王の前で立ち尽くしたまま涙を流していたのだ。
そこに、
「はぁ~い?大失敗したぜぇ~」
離れた場所から敵軍の中にいた奴の声が聞こえた。
「親玉[美猴王]狙ったのに雑魚が邪魔して矢が当たらなかったぜぇ~ふざけるなよ~!」
そいつは鎖の付いた大鎌を持った野郎だった。
見た目から敵軍の将軍らしき鎧を纏い、その強い気から魔王の一人だと解る。
いや!そんな事はもうどうでも良い!
怒りが!悔しさが!悲しみが!
濁流の如く俺様の中で渦巻いていくのが解る。
すまねぇ…独角鬼王…
どうして俺様は死に際のアイツの手を握ってやり、奴の遺言である称号の譲渡を気持ち良く受けてやらなかったんだ?
それは俺様のプライド?
違う!
確かにそれもあったが、俺様は今の今まで、理解していなかったのだ。
仲間が死ぬって事の意味が…
確かに今まで戦いの中で死んでいった奴は何百…いや!何千何万といた。
戦争だから仕方ねぇ…所詮は駒だから…
そう本気で思っていた。
しかし、独角鬼王のように俺様の身近にいた奴が目の前で死のうとした時、俺様はようやく気付いたのだ。
その強き喪失感を…
溢れ出す悲しみと呼ばれる感情に…
「アッアア…アアアアア!」
俺様の体内の血液が凄まじい勢いで流れ出し、その血は妖気と交わり身体が熱くなっていく。
そして俺様は唱えたのだ。
『獣王変化唯我独尊!』
それは獣型の魔王レベルの強さを持つ妖怪にのみ唱えられる力。
獣の野性の血と妖気を混ぜ合わせる事により、本来持つ限界を超える力を一気に解放させる変化術。俺様の身体の筋肉が膨れ上がり、その体毛が伸び、その姿は十倍に巨大化した大猿へと変化したのだ。
『グゥオオオオオ!!』
金色の大猿と化した俺様は飛び上がり敵軍の中へと降り立つと、激情の赴くまま暴れまわった。
それは仲間達にも刺激を与え、再び敵軍との激しい混戦が始まったのだ。
そんな中、俺様の変化に気付いた牛角魔王は…
「馬鹿者がぁ!獣王変化は確かに凄まじい術だ!だが両刃の剣!その術は本能に飲み込まれ自我が保てなくなり、暴れ狂いながら獣のまま力尽きる禁術なのだぞ」
確かに俺様の自我はなかった。
ただ怒りに身を任せる獣となっていた。
が、俺様は獣と化していても無意識にも狙いを絞っていた。
それは、憎い仇の鎌野郎だった。
俺様は鎌野郎に向かって行く…
「ケッ!身の程知らずがぁ!おもしれ~切り刻んでやらぁー!」
が、鎌野郎は別の魔王に肩を掴まれ攻撃を止めた。
「時間だ…」
「チッ…時間切れかよ?仕方ねぇな…」
鎌野郎は仲間の魔王に従い戦うのを止めた。そ
して、その場から離れようとする。
そこに俺様が飛び掛かり殴り掛かったのだ。
俺様の唸りをあげた拳は…
新たに横から入って来た大柄の魔王の交差させた腕によって受け止められた。
「フン!俺の名前は怪力魔王!その程度の力では俺には勝てないぜぇ!」
『!!』
「怪力魔王!お前も時間だ!戻れ!眼力魔王様の命令だ!それともお前も死にたいか?」
「おぅ!今戻るぜ?」
怪力魔王は俺様の拳を掴み空中へと投げ飛ばしたのだ。
凄まじい勢いで投げられた俺様は柱に激突する。
見ると、敵軍の中心には五人の魔王が立ち並んでいた。
その中の魔王の一人が指を鳴らすと、五人の魔王達の姿がボヤケだして消えていく。
待て…逃がしてたまる…か?
その時、同時に大地が揺れ始めたのだ。
戦場を囲むように巨大な五本の柱が地面を盛り上げそびえ立っていく。
「な…何が起きているというのだ?あれは、一体?」
牛角魔王はこの状況に不安が過ぎる。
戦場にいた敵味方関係なく全ての者達が、その柱を見上げたまま立ち止まっていた。
そして五本の柱の一つ一つの炎が消えていく。それはカウントダウンへの秒読み。
この状況になすすべなく立ち尽くす。
柱の全ての炎が消えたと同時に戦場を凄まじい光りが照らしたかと思うと…
戦場一帯を巻き込み強烈な光と共に爆発したのだ。
次回予告
それは仲間の自軍ごと巻き込む大爆発だった。
生存不可能の中、美猴王達は?




