遮那と捲簾！そして歯車が残酷に回りだす！
満身創痍の遮那が再び廻り出会えた捲簾は、その正体が観世音菩薩だと明かしただけでなく、遮那に対して殺意を向けて来たのだ。
満身創痍の遮那が再び廻り出会えた捲簾は、その正体が観世音菩薩だと明かしただけでなく、遮那に対して殺意を向けて来た。
捲簾が掌を向けると、その指先が光り輝き閃光の如く光の刃が放たれ遮那を襲う。
「止めるらぁー！け…捲簾はそんな事は…しないらぁー！」
遮那は光の刃に身体中を串刺しにされながらも、捲簾に向かって訴える。
手足を貫かれ、血を流しながら叫び続けた。
が、しかし…
捲簾の攻撃は躊躇なく遮那に襲い掛かる。
驚異的な再生力と身体能力。
僅かな反射能力で躱しているため致命傷だけは免れていた。
（嘘ら！何かの間違いら！捲簾がこんな事するなんて…そうら！捲簾は誰かに操られているのじゃないらか？）
だが、捲簾ほどの者がたやすく操られるはずがない。
そんなのは解っている。
しかし、信じたくなんてなかった。
目の前の捲簾は偽物？
いや、間違いなく本人である事は遮那自身が解っている。
捲簾を見間違うはずがなかった。
だが、違う…
違う…違う！違う！違う！
「オラは！捲簾を信じているらぁ！」
すると今度は遮那の叫びに捲簾の攻撃が止まった。
そしてゆっくりと近寄り掌を遮那の眼前にまで近付けると、
「本当に遮那は優しい子ですね？こんなにされても私を信じるなんて…」
遮那の頭を優しく撫でたのだ。
「け…捲簾？」
（…元の優しい捲簾に戻ったらか？）
安堵した瞬間、捲簾の遮那の頭を撫でていた手が髪を掴みあげ、もう片方の手刀が喉仏を貫く。
「フギャア！」
遮那は涙目で退きながら、嗚咽していた。
「フフッ…ピィピィ煩わしい声を潰してあげました。これでもまだ囀りますか？」
(声が出ないら！！それだけじゃない…呼吸が出来ない！？気道が裂かれた？）
血を吐き出しながら遮那はもがき、見上げた先の捲簾は汚いモノを見るように自分を見下ろし、血で汚れた自分の手を布で拭き捨てたのだ。
「アッアッアッ！」
「驚く程の再生力ですね。今潰した喉がもう再生されてるなんて？本当に化け物ですね？」
捲簾がこんな事…
こんな事…
「でも、その再生力も万能ではありません。お前の首を切り落としてしまえば再生も出来ないはずですからね？」
「ほ…本当に…本気で言っているらか？何かの間違いじゃないらか？嘘なら嘘と言って…（欲しい）」
「まだそんな事を？本当に愚かな子ですね？ほんの気まぐれで飼っていただけなのに、やけに懐いてしまったようだ！アハハ！」
すると振り払った捲簾の手から放たれた斬撃が遮那を襲うが、
遮那は身体を左右に、最小限の移動で辛うじて躱した。
遮那は目の前で起きている現実に変わりきった捲簾の姿に落胆していた。
《騙されていたらか？オラは？…全てマヤカシ？全てが嘘？全て…なかった事…偽りらったらか！？》
遮那の心が壊れていく？
遮那は俯き涙を流していた。
《苦しい…辛いら…どうして？こんなに苦しまなきゃならないら？身体中だけでない…心が…締め付けられ…砕けるようら…こんな痛い思いを…何故オラはしているらか？》
思考回路が既にショートしていた。
頭の中が白くなり、頭を打たれたようにグルグルと回り出す。
《偽りの優しさにオラは！オラは惑わされていたらかぁ！？偽り！偽り！偽り！偽り！
ふっふふふ…馬鹿ら…オラ…オラは馬鹿ら！偽り…それなら…もういらないら…全てなかった事にしてやる…こんな偽りの世界なら…全てを…》
再び顔を上げた遮那の瞳の色は血のように赤く染まって行く。
更にその額には第三の眼が見開かれていた。
『こんな不条理な世界！オラがこの手で世界を破壊してやるら！』
遮那の身体から尽きかけていたはずの力が沸き上がる。
その漆黒の気[魔神闘気]が荒々しく広がり天界の空を染めていく。
凄まじい暴風が吹き荒れ武神兵達は雲に乗っている事もままならず、二人から距離を取る。
『ようやく本気になったようですね？では、私も本気でお前を殺して差し上げましょう』
遮那に対抗するかのよう捲簾の身体から神々しい身光が発っせられ、その光背から四十本の光の腕が出現する。その姿は！？
『千手観音』
千手観音とは千手を持つ仏神。
しかしその名の如く千本の腕を持つ訳ではない。
本来は四十本の腕で、その一本の腕が更に二十五本の役目を果たす。
つまり千本の役割なのだ。
『私の光の腕から繰り出される神速の刃をお前に与えてやろう』
『捲簾！お前はオラが殺してやるらぁー！！』
ついに二人はお互いに本気…
いや？
殺し合いを始めたのだ！
遮那の背後に噴き出す魔神闘気が凝縮した八本の黒い鞭が現れる。
『八又の黒鞭』
そこに天空の空を千本の光の刃が舞い散り、遮那に向かって降り注ぐ。
『千手貫音菩殺』
その速度は神速の刃。
躱す事等不可能と思われたが、遮那は向かって来る光の刃を黒鞭を振り回し叩き落とす。
見えている訳ではなかった。
今までの繰り返す数万の武神達との死闘の中で無意識に身についていた防御術。
闘神としての本能が研ぎ澄まされ、躱す事が出来ないはずの攻撃を耐え忍んでいるのだ！
『うらぁああああ！殺す！殺す！殺す！殺す！殺す！殺す！殺す！殺す！殺してやるらぁー！』
遮那と捲簾との激しい戦いが行われている最中、忉利天にある善見城の中からその戦いを見ている者達がいた。この世界を統治する四天王達である。
『侮る事が出来ぬ強さだ』
増長天の言葉に広目天と持国天が賛同する。
『このままでは、いずれ天に刃を向ける芽となる事は必然』
『早いうちに摘むが得策ですか？』
すると毘沙門天が何かを起動させたのだ。
『ふっ…既に準備は出来ている』
その手にしている物は新たに作り出された宝貝兵器であった。
だが、そこに発明者である揚善が扉を開き慌て入る。
「お待ち下さい！天よ！その宝貝は禁断兵器とお伝えしたではありませんか？それを解き放つなんて私は聞いてはおりません！」
「緊急時にやむなく禁断兵器を発動して何か不服なのか？」
「しかし…」
揚善の目に入った天の標的は己の友である捲簾と、
かつて捲簾の屋敷に訪れた時に見た少年（遮那）だった。
「これには何か訳があるはずです！私が二人を説得致しますから、もう暫しお待ち下さるようお願い致します！」
「却下だ！」
「えっ？」
「天に刃向かう者に慈悲など不要！」
広目天は強行し、その宝貝兵器に己の神気を籠めて発動にかかったのである。
（そんな事…）
『させはしません！』
すると揚善は広目天に向かって飛び掛かったのだ。
『控えよ！天に背く乱心者がぁ！』
が、そこに増長天が揚善に掌を向ける。
その直後、力が抜けるようにその場に膝を付いて倒れる揚善。
更に広目天の瞳が妖しく光ると、揚善の周りに黒い影が出現した。
「こ…これは！？」
影は包み込み沈ませるように揚善を影の中へと引きずり込む。
「うっ…うわぁあああ！」
そしてその場から消し去ったのだ。
『余計な手間をとらせおって！馬鹿な奴だ！闇の牢獄にて天に逆らった事を後悔するが良い』
そして再び四天王達がその禁断の宝貝を手にし、発動させようとした同時刻…
釈迦如来を呼びに向かっていたモクタが、捲簾と遮那の戦いに気づき足を止めていた。
「捲簾さんが観音菩薩様の正体を曝しているだと！？どういう事だ？いや！そんな事より何故遮那君と戦っているのだ？」
モクタはこの事実とともに釈迦如来がいる客間へと急ぐ。
「この事態を食い止められるのは釈迦如来様だけだ…」
だが、モクタが釈迦如来のいる客間の扉を開け…
そこで目撃した。
「そ…そんな馬鹿な事が！？」
そこには血にまみれ、床に倒れている釈迦如来の姿があった。
そして…
その場に立ち尽くす金蝉子の姿があった。
「…金蝉子？何があった？まさか…お前が？お前が師である釈迦如来様を手にかけたのかぁー！！」
モクタが飛び出そうとした時であった。
「邪魔だ！」
金蝉子の神気がモクタを壁にまで弾き飛ばしたのだ。
モクタは一撃で意識が消えかけながらも、立ち上がろうとするが…
（馬鹿な…何だ？この強さは…！？闘技場で交えた時とは桁違いだ！ま…まさか！！）
金蝉子は口許を緩ませ…
「ふふふ…あはははは！手に入れた！手に入れたぞ！釈迦の力と記憶の全てを！俺は今、全能なる神を越える神となったのだぁー！」
そして倒れているモクタの横を通り過ぎ様、言った。
『全て思い出した…この偽りの世界を消し去る事が俺の…』
そう言い残し、金蝉子の姿は消したのだ。
モクタは立ち去る金蝉子の姿が消えて行くのを何も出来ないまま、
そこで意識を失ってしまった。
それぞれの運命がこの日を境に動き始める。
そして今、時間軸がもう一つの時を残酷に進めていた。
次回予告
様々な事件が勃発する中で、遮那と捲簾の戦いは続く・・・
そして、物語の終わりの先には？
次話！唯我蓮華～破壊神と呼ばれた少年～
完結！！
