憎しみの連鎖!逃亡者、遮那!
仲間達にも信じてもらえず、犯罪者として追われる身になった遮那は?
甲冑、鎧を身に纏い、神具と呼ばれる武器を手に、空を自由に飛び回る雲に乗って魔物を狩る事を生業とする武神。
今、その武神達に新たな討伐指令が命じられた。
武神達は討伐対象捜索のため散らばって行く。
その討伐を果たすべく…
ここは天界の最下層にある森林地帯。
ここに邪悪にて非道な魔物が身を潜めていると情報が入ったのだ。
その討伐対象である魔物とは?
その魔物は天蓬元帥の称号を天より授かっておきながら、魔物討伐の最中にその邪悪な本性を剥き出しにし、同行していた仲間達を惨殺した。
その名を魔神・遮那と言った。
武神達は基本五人体制で討伐に向かう。
五人の武神達は森林の中を捜索していた。先ず討伐チームは武に長けている者、法術に長けている者の二人組。そして治癒に長けている者を合わせ三人…
「……………」
捜索中の彼等が通り過ぎるのを沼の中で身を潜め、気配を消して見ている者がいた。
だが!
このままやり過ごすつもりでいた思惑は、
四人目の討伐メンバーによって外されてしまった。
「右前方の沼の中に何か気配を感じます!」
その者は感知タイプに優れた武神であった。
研ぎ澄まされた感知能力者の前ではいかに気配を消していたとしても無駄だと思い知る事になる。そう!感知能力者には勘違いは有り得ないのだから!
もう一度言おう!
感知能力者には勘違いは有り得ないのだ!
沼に向かって数本の槍が投げ込まれると、沼に潜っていた者が飛び出す。
その者こそ今、討伐対象である魔神・遮那であった。
遮那は直ぐさま目にも留まらぬ速さで感知タイプの武神の前に現れ、その腹に拳の一撃を与え気絶させた。遮那もまた武神として討伐隊にいたから解っていたのだ。
感知タイプの能力者を先に仕留めなければ逃げられないと言う事を…
そして次に治癒に長けた武神を片付ける。
後は法術と武に長けた二人だが、元帥を務めていた遮那には到底敵わずに倒されていく。
だが遮那は油断はしていなかった。
自分の戦いを一人分析しながら見ている存在に気付いていたから…
それは討伐隊のリーダーであった。
討伐隊のリーダーを任される者は他の四人の能力を全て兼ね備えているのである。
「隠れていないで出て来るらぁ!」
討伐隊のリーダーは遮那の前にその姿を現すと己の自己紹介を始めた。
『見事な戦いぶりに驚きを隠せないでいたのだ!噂以上だよ?私はこの隊を任されている。名を呈騎犬神!』
呈騎犬神は遮那に一騎打ちを申し出たのだ。
呈騎犬神が神気を練り上げると、その両掌が光り輝き、遮那に向けて放つ。
『犬光神弾!』
両掌から放たれた二つの光の気弾の形が、輝く犬の形となり遮那に向かっていく。
遮那は寸前で躱すが、その犬の姿をした気弾は遮那の躱した方向に軌道を変え追いかけて来る。
「逃げても無駄だ!私の技が一度放たれれば何処までもお前を追尾し、仕留めるのだ!観念するのだな?」
すると遮那は立ち止まり、己の拳に黒いオーラを籠める。
「観念した…か?」
が、遮那は迫る犬光神弾を振り向き様に拳で殴りつけて消し去ったのだ。
「ばっ…馬鹿な!?あっ…」
その瞬間、呈騎犬神は首筋に衝撃を受けて静かにその場に倒れた。
呈騎犬神の背後には遮那が当て身を打った体勢で立っていた。
「安心するら?殺したりはせんらよ?」
遮那は逃亡の最中ここまで、
同じように討伐に来た武神達を一人も殺さずに逃げ続けていた。
(捲簾…オラ…誰も殺してないらよ…大丈夫らよ…誤解が解けるまで、オラは頑張るら…捲簾、褒めてくれるらか?)
それは捲簾との誓い…
その誓いを守る事が唯一遮那が自分を誇れ、
捲簾に対して面と向かって顔を合わせられると信じて…
だが、いくら遮那が圧倒的な力の持ち主であっても、屈強な武神達を相手に逃げ続ける事がどれだけ困難な事か?
それは傷付いた身体や血まみれの衣服から、これまでの過酷な状況を全て物語っていた。
遮那は今、捲簾と一緒に住んでいたあの地へと向かっていた。
捲簾に会えば何とかしてくれるに違いない!
そう、信じて…
遮那と捲簾が住んでいた住家は天界の中でも下界にある。
そこは幾重にも結解が施された湖の真ん中にある小さな小屋であった。
当然、その周辺には天界から来た武神達が遮那の現れるのを警戒して見張っていた。
辺りが暗くなると同時に遮那は動いた。
誰の目にも入らないように暗闇に紛れ、武神達をすり抜けるように移動して屋敷に入り込む。
だが、そこには捲簾はいなかった。
(捲簾…何処に行ったらか?オラ…帰って来たらよ?)
仕方なく遮那は屋敷を後にしたのだ。
遮那は人目のない場所を選び移動していた。
だが、そんな遮那を追って来ている者がいたのだ。
遮那は立ち止まり、
「誰ら?いくら気配を消していても殺気がだだ漏れらぞ!」
すると、闇の中から一人の武神が姿を現す。
身なりから中級神だと思われる。
「止めておくら!オラには勝てないらよ?」
だが、その殺気は自分を貫くほど強烈だった。
使命感?違う!恐らくは過去に遮那が暴れた時に何か因縁がある者か?
肉親か関係者の敵討ちか?
そして、その武神は何も答えすに剣を抜いて襲いかかって来たのだ。
遮那は手刀に黒いオーラを集中させて受け止める。
「グゥウ!?」
その一撃は予想以上に重かった。
受け止めた遮那の手刀を弾き返す程に!
見立て以上に強者なのか?いや、それだけではなかった。
その武神の一撃には強い魂の力が籠められていたのだ。
魂の籠められた一撃は、その思いの強さと比例する力を発揮する。
つまり、この武神の遮那に対する思い[憎悪]がそれだけ強いと言う事。
「オラに恨みがあるのは解るら!らが、今は待って欲しいら…」
凄まじい武神の猛攻に押されていた遮那も、
「いい加減にするらぁーーー!!」
遮那の振り払った手刀が襲い掛かる武神を弾き飛ばしたのだ。
弾き飛ばされ大木に激突するも、再び立ち上がる武神。
そして、再び向かって来るのだ。
遮那は上空に飛び上がり躱したが、同じく上空に飛び上がって追って来る武神。
「しつこいら!」
その直後、後方の茂みが光った。
だが、それが何か確認する暇もなく武神が目隠しをするように身体で目の前を遮る。
「!?」
同時に遮那は腹部に熱いものを感じたかと思うと、直ぐに強烈な痛みを感じた。
「ゥガァア!」
遮那は堪らずに悲鳴をあげるが、それよりも目の前の状況に目を疑った。
何故なら、今まで自分に襲い掛かって来た武神の背中を何処からか飛んで来た槍が貫き、そのまま遮那の腹部を串刺しにしていたのだから。
「馬鹿な…仲間事串刺しにするなんて…お…お前…大丈夫…ら…か?」
だが、目の前にいる武神は不敵に笑って遮那を睨んでいた。
「まさか…お前!わざとらか?わざと仲間に自分事串刺しにさせたらか?どうして、そんな馬鹿な事を!?」
武神はそんな遮那を睨みつけて言った。
「馬鹿な事だと?俺の力では貴様には勝てない…そんな事は解っている…だが!この身と引き換えにお前を討ち果たす事が出来れば本望…」
「それが…それが馬鹿らと!お前まで死んでしまったら…どうしようもない…らよ?」
だが、その後の武神の怒りに震える言葉に遮那は言葉を失う。
「我が子を殺された親の気持ちが、キサマに解るかぁ!?」
「我が子?お前の子供らか?何の話ら?お前は誰なんら!?」
「忘れただと抜かすかぁ!この外道がぁ!俺の名前は大浄法神!俺の子はキサマを…キサマなんかを憧れていたのだぞ!だからお前が指揮をする討伐隊に志願した。家を出る間際まで…憧れるキサマに会える事を夢見、楽しみにしていたと言うのに…」
誰の事を言っている?
いや!遮那には一人心当たりがあった。
頭に過ぎるのはあの蛇神の一件で自分を慕い、遮那の言葉を信じて洞窟の中で幼い命を散らした少年の姿だった。
『キサマは我が子の心を惑わした挙げ句、あのように無惨に殺したのだぁー!』
「ち…(ちがっ)」
違うとは言い切れなかった。
もし自分に出会わなければ死ななかったかもしれないと言うジレンマ…
「罪を償うが良い!この邪悪な魔物神!」
すると大浄法神の掌が濁るように染まっていく。
『完染掌!』
共に貫かれ身動き出来ない遮那の傷付いた腹部に突き刺すように打ち込まれた。
『うぎゃああああ!』
遮那は悲鳴をあげつつ大浄法神の突き刺さった掌を引き離し、そのまま蹲る。
「ふふふ…やったぞ!俺の仕込んだ毒手を直接貴様に仕込んでやった…これで本望…だ…」
大浄法神はその場に倒れ消えて逝った。
「うぎゃああああ!」
強烈な激痛が遮那を襲う。
呼吸が苦しい。
胸に幾つもの針が突き刺さるような感覚にもがき苦しむ。
そこに先程槍を投げた別の武神が近付いて来た。
その手には剣を握りしめ、遮那にトドメを刺すために…
遮那は痛みで目が開かずに綴じたまま、武神が振り下ろす剣に反射的に手刀を振り払っていた。
「……………?」
その後、その武神からの次の攻撃が来なかった。
不思議と思い遮那が目を見開くと目の前で血を流している若者の姿があった。
それは遮那の振り払った手刀が若者の剣をへし折り、折れた剣先が運悪く若者の胸に突き刺さっていたのだ。
「!!」
「…父上が身を犠牲にしてまで作ってくれたチャンスだったのに…すみません…父…上…。僕は弟だけでなく、父上の敵討ちにも…失敗してしま…い…」
言い終える前に涙を流して倒れる若者に対して、遮那は放心状態でいた。
遮那は静かに立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。
身体中の傷や先程与えられた毒手の痛みは麻痺していた…
けれど、痛みが止まらない。
胸を貫く痛み…
この誤解と憎しみがうんだ悲劇により、新たに二人の尊い命が目の前で消えて逝った。
遮那のその手に染まる二人の血が夢でなかった事を心に刻み込む…
心を抉る痛みが遮那を襲った。
遮那の目から涙が流れると、それは止まる事なく溢れ出し、
遮那は血に染まった手で涙を拭いながら、ポタリ、ポタリ、涙が落ちる。
同じくして、沢山の水滴が落ちて来て大地を濡らす
大雨?
やがて、激しき大粒の雨となって、遮那の身体を打ち当てた。
まるで幼い子供が『道に迷い』行くあても解らずに泣きじゃくりながら
一人、暗闇の中に消えて行った。
次回予告
逃亡中の遮那、そんな時、天界はまだ何も変わらない・・・




