闘神再誕!
父親に命を狙われ、自害したナタは釈迦により新たな命を与えられた。
だが、再生したナタクには欠けてしまったものがあった。
ナタ太子がナタクとして甦ってから、月日が過ぎていた。
成長したナタク(人歳13)は討伐隊の一員として魔物退治の日々を過ごしていた。
ナタクは命じられた任務を次々と成し遂げ、その魔物を狩る姿は無慈悲にて無感情。
まるで機械人形のような冷徹さに仲間である武神達にさえ畏怖されていた。
だが、同時にその美しい容貌と見事なまでに華麗な剣技の数々に、その場にいる者達は目を奪われてしまうのである。
『孤高の少年神』
『美麗の闘神ナタク』
呼び名は沢山あったが、次第にナタクは一人で討伐に向かうようになる。
足手まといはいらない。
自分一人いれば、全てに片が付く。
無謀と思われる討伐もナタクの力量を持ってすれば軽々しく、当時天界を騒がしていた九十六洞の妖魔達を一人で討伐し戻って来たのだ。
それにより武勲を更に上げたナタクは若くして『中壇元帥』の称号を与えられた。
しかも、その称号を与えたのが父・托塔李天王である事から、周りからも父子の因縁が修復したかとも思われた。
そして、世界は戦乱の歴史へと突入する。
この時代、仙界と人界での力関係が乱れていたのである。
神仙でありながら修行を怠る者、人間でありながら仙術を身につける者。
そんな中、人間と仙人が入り混じる大戦が幕を広げたのだ。
後の封神大戦である。
ナタクは兄であるキンタとモクタと共に周陣営に参加しその力を振るった。彼等を率いるのは西岐軍の将の太公望。
彼等の進軍はまさに敵無しと思われていたが思いもよらぬ強敵が現れた。
その者は五色の光を放った翼を羽ばたかせし神…
『なんだ?西岐軍も他愛がないのだな?俺をもっと楽しませてみな!』
その者の名は孔宣…
孔宣は西岐軍の神仙達を相手に余裕をかましていた。名のある武神達も敗れ去り、兄であるキンタとモクタだけでなく父である托塔李天王までもが孔宣に捕らえられたのだ。
そしてナタクもまた傷付き、運よく生き延びたが戦う力は残ってはいなかった。
それでも父を救うために奮い立たせる。
『俺が父上を救う!』
かつて命を狙われ、今も変わらず父子としての関係も築けないままであるというのに…
それでも…
やはり自分にとって父親なのである。
ナタクは再び戦場に赴き孔宣に挑もうとしたが、どうしても足が動かなかった。
疲労?怪我?
違う!
ナタクは初めて圧倒的なる強者を前にして恐怖を感じていた。
己の力量には自信があったはず。
なのに手も足も出ない上に、目の前で仲間達が次々と倒されていく。
一度は己の身を父に捧げ、自害する事にさえ躊躇しなかったと言うのに?
一度は死んだ身だと言うのに?
今更死ぬ事に何の迷いがあると言うのか?
いや、だからこそ恐れるのだ。
死を知ったから、死を味わい感じたからこそ『生』への執着がより強くなったのだ。
(俺は弱くなったのか?)
だが、この状況で逃げる事は許されない。
ナタクも逃げるつもりはなかった。
(どうする?)
決まっていた。
勝算なんかない。
玉砕覚悟の特攻しか残ってはいなかった。
(この身、散ってでも父上達だけでも救い出す!)
ナタクは立ち上がり、一人孔宣のいる地へ向かい挑もうとしたその時だった。
そこに…
『勝てる見込みないのだろ?死ぬ気か?』
ナタクが振り返った先には青い甲冑を身に纏った武神が立っていた。
(いつの間に?この俺が気配に気付けなかっただと!?)
青き甲冑の武神の他にも数人の勇ましい武神達が揃い踏みしていた。
それは神界からの救援部隊であった。
「二郎真君よ?で、策はあるのか?ありゃ俺達が束になっても勝てる気しねぇぜ?」
「直に太公望殿率いる本隊軍がこちらに到着するはずだ!俺達はそれまで耐え忍べば良い」
ナタクは救援部隊達のやり取りを聞きながら、そのリーダー格の男が噂に名高い二郎真君だと気付いた。
(あの男が二郎真君か?)
二郎真君
玉皇大帝の甥であり、数々の武勲をあげた若きエリート神。
その名声はナタクの耳に留まるほどであった。
「で、お前はどうするつもりなんだ?いや、どうしたいのだ?」
突然声をかけられたナタクは物静かに答える。
「少しでも早く捕われた仲間達を助け出す。俺はあの孔宣と戦い挑むつもりだ」
「ふ~ん。では、そうすれば良い!」
そう言って二郎真君はナタクを放置し、仲間達と戦略軍議を始めたのだ。
(なっ!?)
ナタクは別に何かを期待していた訳でもなかったが、あまりの無関心な態度に少々腹立たしくも感じた。ナタクは身体の治癒に専念し動けるようになり次第、再び一人孔宣に戦いを挑みに戦場へと向かったのでる。
「この身にかけても!」
だが、恐怖が自分の意思とは裏腹に身体を無意識に硬直させる。
ナタクはそれでも決意を固めて、一歩足を前に運ぶと同時に隣を共に歩む者がいた。
「何のつもりだ?」
ナタクの隣を歩き、進む者。
それは二郎真君であった。
「何かおかしいか?俺は俺の考えた作戦を実行するだけだが?」
作戦とはナタクと二郎真君が孔宣の気を引き付けている間に、他の仲間達が捕われた者達を救出する手筈なのだと言う。しかし二人だけで強敵孔宣に挑む事がどれだけ無謀な事なのかは本人達が一番理解していた。
「お前死ぬぞ?」
「死なないよ?お前こそ死ぬなよ?ナタク!」
「余計なお世話だ!」
二人は並び立ち向かって行く。
気付くとナタクの足どりも軽くなっていた。
確かに恐怖はある…
しかし、その恐怖を乗り越えてこそ、彼等は更に高みへと到達するのだ。
だが、ナタクの足を軽くした理由は別にあった。
ナタクはその出生[再誕]と父子との経緯。それに類をみない天錻の才により周りから畏怖され拒絶されていた。それは本人から醸し出す拒絶の空気もあったのだが、何よりナタクの隣に並び立てる者が存在しなかった事が理由でもあった。仕方ない事とはいえ、それがナタクの心を更に閉ざし孤立させ、『孤高の美麗闘神』と噂される所以でもあったのだ。
しかし、今ナタクの隣には並び立つ者…
並び立てる者がいた。
仲間…
初めて出会ったのに、不思議とこの二郎真君には自分と似た空気を感じた。だが、この二郎真君は周りが認め人望もあり数多くの仲間もいる。自分とは何もかも違うと言うのに?
一体、何がそう思わせたのかはナタクには解らないままであった。
「とにかく今はなすべき事を!」
その後、ナタクと二郎真君は戦乱の中で倒れていた。
孔宣に完膚なきまでに倒されたのである。
だが戦争は孔宣が突然の戦線離脱と戦況が変わり、太公望率いる本隊が間に合い封神大戦は自軍の勝利と幕を閉じた。
「まったくも~無茶ばかりして~」
救援の部隊にいた楊善に看病されながら、
二人は傷だらけになり、悟ったのだ。
『上には上がいる!』
激戦であった大戦より更に時は流れ今…
「お前は絶対に俺がぶん殴る!」
「アハハ!全くナタクは面白い!」
拳を震わせ怒りを我慢するナタクをからかう二郎真君。
「あんましナタク君をからかわない方が良いですよ~?真君?」
それに二郎真君の親友であった楊善、捲簾大将とも交流を交わしていた。
ナタクは仲間を『友』を得ていた。
確かにまだ近寄りがたい空気はあるが、『孤高』ではなくなったナタクには失われつつあった『感情』が再び蘇ったのだ。
場所は変わり、須弥山の北の神殿。
そこにナタクの父であり、『聖天』なる称号を持つ托塔李天王が一人玉座に座していた。
托塔李天王は目の前に置かれている水晶から、ある出来事の一件を見ていたのだ。
『フン!開明の役立たずめが!せっかくのタリムアを無駄にした上に、玉皇大帝の暗殺にも失敗しおって!だが、まぁ…良い。時が少し延びたに過ぎない…
いずれ全ての最高神を始末する事になるのだからな!
だが、それは…ナタク…俺がお前を消す時とどっちが先だろうな?』
托塔李天王?
まさか托塔李天王が黒幕だったと言うのか?
『全ては…我が野望のために…』
托塔李天王は立ち上がり外に出て行く。
そして頂点に光る星に向かって剣を翳すと。
『全ての段取りを終えた後、俺がお前を殺してやるからな!我が友…帝釈天よ!』
謎はまだ語られず。
次回予告
謎の言葉と恐ろしき野望を持ちし托塔李天王
だが、それが語られるのは先の物語・・・
そして、物語は再び遮那と捲簾の物語へと戻る。




