転生変化唯我独尊!俺様の前にひざまずけ!
鉄扇の圧倒的な強さに手も足も出ない孫悟空と八戒
孫悟空は両手両足を潰されたうえ、身体を鉄扇の必殺奥義・抜傷扇で斬り裂かれたのだった。
そんな瀕死状態の孫悟空の前に現れたのは、捕らわれているはずの三蔵の幻覚だった。
三蔵は言った。
『転生変化唯我独尊!』
俺様は孫悟空だ!
鉄扇の必殺技・抜傷扇をくらい、致命傷を受けた俺様は今、
まったく動けねぇ…
ダメだ…
意識が薄れていく…
そんな絶体絶命の中、俺様の前に捕われているはずの三蔵が現れたのだ?
ヘヘヘ
俺様にまだ戦えと言うのか?
まったく、猿使いの荒い三蔵だぜぇ!
その頃、起き上がってこられない俺様を見て、鉄扇は勝利を確信していた。
「どうやらお終いのようね?思ったより呆気なかったわよね~!まぁ、仕方ないかな?だって、鉄扇ちゃん強~いし!」
「ば…馬鹿な…猿の奴!くたばりやがったらか?」
「あら?アンタもまだいたようね!」
鉄扇は目を丸くして突っ立っていた八戒目掛けて鉄板を放ったのだ。避ける事もなく直撃した八戒は、木っ端みじんに砕けてしまったのである。
いや、砕けるって変だろ?
それは分身!
「分身って!逃げたの?何処に行ったのよ!あの豚!」
鉄扇が辺りを見回すと微かに音がした。
「何?この音?天井?確か上には!」
鉄扇は天井から聞こえる異音に気付き、見上げると?
そこには三蔵が閉じ込められている天井に吊るされた籠の檻がある。
檻の中では三蔵を救い出そうと八戒が入り込んでいたのだ。
「あっ?ばれたら!三蔵の旦那、逃げるらよ!」
「馬鹿な!どうやって鍵を開けたの?あの檻には結解があったはず?それに、あの坊主を動かしたら爆札で爆発するはずなのに?あっ…あれは!」
見ると、八戒の手には『解除の札』が握られていたのだ。
「あんな物いつの間に?」
それは先に八戒が拾った沙悟浄の皿であった。
しかも皿の裏には数枚の術札が貼付けられていたのである。
「大丈夫らか?三蔵の旦那!」
三蔵は八戒に支えられ、立っているのもやっとの状態であった。
ふらつく三蔵は、
「八戒か…?」
「沙悟浄の奴も来ているらか?」
「あぁ…だが、ここ二、三日の間姿を見せん…何かあったのかもしれん…」
三蔵を救出して安心したのもつかの間、二人の目の前に鉄扇が現れたのだ。
「まったく、逃げれるなんて思ったらダ~メ!」
「キサマ!沙悟浄をどうした!?」
「あら?河童ちゃんはもう帰って来ないわよ!だって…ねぇ?フフフ」
「どういう事ら?帰って来られないって?」
「どういう事でしょうね?教えてあ~げない!」
「奴に何をしたぁー!オオオ!」
三蔵は掌に気を集めるが三蔵の武器である炎の剣が現れなかった。
「クソォ…力が出ん…」
「無理よ?お前の身体からは一週間かけて霊力抜いていたんだからさ!」
「三蔵はん!無理しないらよ!オラが何とかするら!」
「え~?何とかって…どうするつもりなのかな?私に教えてごらんなさい!」
鉄扇は持っていた大扇で扇ぐと、竜巻が発生し三蔵と八戒を吹き飛ばす。
「うぐあああ!」
檻から壁に吹き飛ばされて衝突する三蔵と八戒。
「あ~あ…つまんない!これで終わりなの?本当弱いわよね?男って!」
すると今度は反対側の瓦礫から物音が聞こえて来たのだ?
「ん?」
そこには俺様が埋もれていた瓦礫があった。
するとその瓦礫が微かに崩れ落ち、その中から何かが浮かび上がって来たのである。
それは光り輝く光体?
「今度は何よ!次から次と面倒くさ!」
光り輝く光体は宙に浮いた状態で止まると、更に光りを増しながら、その形を変化させていく。
『転生変化・唯我独尊!』
「眩しい!」
中から声が聞こえて来たかと思うと、辺り一帯を覆うほどの強烈な光を放ち、一面は影を失った。
光の中心には小さな人影が見える。
光に包まれながら、その人影の四肢が伸びていく?
その直後、爆風が辺りを襲ったのである。
それを見ていた三蔵は吹き飛ばされないように堪えながら、その光体の正体を見定めたのだ。
「アイツはまさか?アイツの身に何が起きたのだ!?」
爆風と光が少しずつ収まっていった。
爆風は崩れた壁や柱を粉砕し、砂埃で辺りが見えないまま沈黙が続いた。
何が何だか解らない鉄扇は、自分の城を汚され、衣に付いた砂埃を払いながら頭に来ていた。
「ちょっと~!もう!何なのよ?何が起きたのよ!マジふざけんな!」
そこにいた者達は砂埃が収まっていく中、光りのあった方向を見つめていた。
そこには!
見覚えのない少年が立っていたのだ。
その姿は金色の髪、緑色の瞳に、高貴な神達が身につける神衣と武具を身につけていたのだ。
違和感を感じるとしたら、その少年の尻には猿の尻尾があり、先ほどまで孫悟空(俺様)が扱っていた如意棒を手に持っていた。
「だ…誰よ??」
鉄扇の問いに少年が静かに口を開いた。
『我が名は、聖天大聖!』
三蔵は少年の容姿に見覚えがあった。
「聖天大聖だと!?」
(俺はかつて見た事がある!あの少年を…そう…地獄で…!
以前、走無常という鬼に孫悟空の魂を地獄に引きずり込まれた時に見た…
孫悟空の魂の姿。間違いない…やはりアイツは!?)
「孫悟空だと言うのか?」
「つまり猿らよな?えっ?どういう事らよ?」
二人のやり取りを聞いていた鉄扇も、目の前の少年が、先程まで戦っていた口煩い猿だと気付いたのだ。
「あん?何?つまり何?さっきの猿が人間に化けただけって言うの?ちょっと驚かさないでよ!マジ興ざめだわ!」
鉄扇は少年(俺様?)を無視して、三蔵の方向へと向かって行く。
「クッ!」
三蔵が身構えた瞬間、眼前には既に鉄扇の顔が迫っていた。
何という駿足!
三蔵が反応するよりも先に、鉄扇は間合いを詰めたのだ。
「は~い!捕まえた!」
鉄扇が三蔵の首に手を伸ばした
その時!
(あれ?)
目の前にいたはずの三蔵が鉄扇の前から消えていたのだ?
(えっ?何処!?)
鉄扇が後ろを振り向いた先には、人の姿をした俺様に抱き抱えられた三蔵がいた。
「嘘?いつの間に!」
金色の少年になった俺様は無言で八戒に三蔵を託すと、八戒は戸惑いながら引き受けた。
「ああ?ああ!任せるらよ!」
「お前…」
俺様は三蔵達を後にして、鉄扇のいる方向へとゆっくりと向かって行く。
「久しぶりだ…この感覚……」
そんな俺様に対して苛立つ鉄扇が叫ぶ。
「ちょっと何無視しているのよ!その坊主返しなさいよ!」
鉄扇は俺様に向かって扇を投げつけたのだ。
扇は巨大化しながら向かって来る!
俺様は臆する事なく向かって来る扇の方向に掌をかざし、波動の気を放つと、巨大化した扇は木っ端みじんに粉砕した。
「う…嘘…?」
俺様の口元が緩む。
「ニタァ~」
「…?…?」
そしてついに俺様が声を大にして叫んだのだ。
「ククク…がぁははははは!力が漲ってきやがぁったぜぇー!」
俺様の顔が冷酷な顔へと豹変する。
「この姿こそ!かつて地上界・天上界をも恐怖に陥れた最強最悪の妖魔王!聖天大聖・孫悟空様の本来の姿なのだぁー!がははははは!」
俺様は鉄扇を見下ろす様に睨みつけると、その目つきはガラ悪く、
三蔵曰く『金髪ヤンキーのガンタレのような面だそうだ』
鉄扇の奴は一瞬怯むも直ぐに冷静さを取り戻す。
「くたばりぞこないのくせに生意気よ!猿のくせに!男の分際で!ざけんじゃないよ!」
再び鉄扇の周りに無数の鉄板が浮かび上がる。
鉄扇はそれを自在に操りながら、俺様目掛けて一斉に飛ばして来たのだ。
が、今の俺様には傷付ける事はもちろん!
触れる事もなかった。
すべて紙一重で躱しながら一歩一歩鉄扇に向かって近付いていく。
「くっ…鉄扇攻守!」
浮かび上がる紅色の鉄板が、攻撃防御の陣形を作っていく。
先程まで俺様を苦しめていた鉄扇の奥義だ!
が・・・
俺様は陣形が完成するよりも先に、鉄扇の間合いに入りこみ、
「アッ!」
鉄扇の腹部に拳を打ち込んだのだ。
その衝撃で鉄扇は血を吐き苦しみながらも、俺様と距離をとりつつ更に攻撃を仕掛けてくる。
敵ながら根性ある奴だ!
だが、俺様に根性で勝てると思うな?
迫る俺様の拳を躱した鉄扇が俺様に扇を突き付け、互いに攻防となった。
先程までの劣勢が嘘のように俺様は鉄扇を追い詰めていく。
「だったら!これでどうよ?」
鉄扇は両手に鉄の扇を構えて、神気と妖気を融合させる。
「抜傷扇!」
扇から放たれた真空の刃が、俺様に向かって来る。
俺様を致命傷にした厄介な技だ!
だが、同じ技を何度もくらわねぇ!
俺様は寸前で躱しつつ、
「さぁ~て!お仕置きの時間だぁぜぇ…女!」
目つきが更に悪くなる俺様。
更にヤンキー化する俺様!
滅茶苦茶強い俺様!
さぁ!崇め讃えよ!
俺様最強伝説の始まりだぜ!
そして俺様は自主規制である中指を立てて、叫んだのだ。
『俺様の前にひざまずけぇー!』
俺様は怯む鉄扇の腕を掴み上げると、そのまま放り投げ壁に叩きつけたのだ。
「あぎゃああ!」
苦痛に悲鳴をあげる鉄扇。
そこに、躊躇なく妖気の波動弾が放たれたのだ!
「がっはははは!くらえ!くらえ!くらいやがれぇー!」
鉄扇は壁に埋もれボロボロになりながら、床に落下していく。
「まだまだ俺様の怒りは治まらないぜ?」
俺様は倒れている鉄扇の髪を掴み上げ、更に頬をひっぱたく。
「…あんたってサドね!ペェッ!」
鉄扇は俺様を皮肉り唾と一緒に血を吐き出したのである。
「あぁ!極限的にな!」
俺様はトドメとばかりに如意棒を抜き、振り上げ、鉄扇目掛けて降り下ろしたのだ。
が、
その如意棒は鉄扇の眼前で止まったのである?
俺様の振り下ろした如意棒の先に、
鉄扇を守るように、人間の姿をした沙悟浄が割って入って来たからだ。
咄嗟に攻撃の手を止めたおかげで、如意棒は沙悟浄の前で止まったのである。
そして沙悟浄は懇願するように俺様に言った。
「孫悟空兄貴!お願いします!鉄扇さんを殺さないで下さい!」
「何言ってるんだ?退け!さもないと…」
「どきません!私の話を聞いて下さい!」
突然の割り込みに鉄扇も驚いていた。
「どういうつもりよ河童ちゃん?私に慈悲なんて必要ないわ!」
沙悟浄は鉄扇に振り向き手を振り上げる。
その手を見て、ひっぱたかれるかと思った鉄扇は目をつぶると?
「大丈夫です…私が守りますから!」
沙悟浄は優しく鉄扇の頭を撫でたのだ。
「…えっ?」
(ポッ…)
鉄扇は一瞬沙悟浄に顔を赤らめたが、我に返ると同時に自分の懐から扇を出して竜巻を起こし、砂埃を舞い上がらせながら俺様達の前から消えたのである。
俺様と沙悟浄は鉄扇の竜巻に不意をつかれ、鉄扇を見失ったのだ!
見ると鉄扇は城の天井をぶち破り、城の外へと逃げ去っていた。
「アハハハハハ!今日はこのぐらいにしてあげるわ!だから、覚えてらっしゃい!この次は必ず…」
鉄扇は竜巻と共に消えていく…
(河童ちゃんまたね… )
一瞬の出来事に俺様は茫然としていたが、我に返った。
「あああ?河童!逃げられちまったじゃねーか!」
「だ…だって~」
「だって~じゃねーや!一発殴らせやがぁれ!」
「きゃっ!」
「ふん!今からでも追って…」
追いかけようとする俺様を三蔵が止めたのだ。
「待て!猿!」
「三蔵?悪いが今の俺様は無性に暴れたいんだ!三蔵でも止められねぇぜ?怪我人は黙ってやがれ!」
「何だと?」
三蔵は逆らわれて御立腹だが、今の俺様は手が出せないと思うぜ?
だから黙っ…だま…
《ポォン!》
あれ?
「あー??」
俺様の姿が?
可愛いくプリティなお猿さんの姿に戻ってしまったじゃないかぁ~?
あれ?あれれ?どうなっているの?
あっ・・・
見ると、三蔵が指を鳴らしながら怒りの形相で俺様を見下ろしていたのである。
あ…ごめんなさい…
逆らってごめんなさい
俺様…いや…ぼ…僕はイタイケナお猿さん…
ちょっと調子に乗っちゃたかな?
オチャメだったよね?
だから、謝るから、
許してね?テヘッ!
俺様は三蔵に殴られたのでした。
あ~腹減ったなぁ~
タンコブ痛いなぁ~
でも… 一見落着だぜぇ!
次回予告
孫悟空「キィタァーー!!俺様かっこいい!俺様すげえーー!俺様滅茶苦茶ツヨーーーーイイ!俺様の時代キィタァーー!!」
三蔵「あんまり調子こいてると、近いうちに痛い目に合うからな?」
孫悟空「あははははははははははははは!」
沙悟浄「まさか、この三蔵の一言が次話の伏線になっているなんて・・・」




