天才三神?
玉皇大帝と楊善の秘密の会話
それは、二郎真君との魂の絆!
二郎真君が聖獣・哮天犬との契約を得て、揚善との友の誓いを結んでから月日が流れていく。
既に二郎真君と揚善は訓練生から武神候補生として着々と実力を上げていた。
「それがさぁ~今日来ているんだってさ?」
「来てる?誰がだ?」
揚善が言うには訓練所にもあんまり顔を出さずいつもさぼっている男が、珍しく来ているとの事であった。だが、驚く事にその者は二郎真君、揚善と同じく首席で訓練所を卒業し、二人と同じく武神候補と噂される猛者だと言うのだ。
周りの者は二郎真君、揚善と合わせ『天才三神』と讃えられているのだと…
「俺には関係ない!」
「そんな事言わないで見に行こうよ~?気にならないの?真君は?」
「興味ないな」
「まぁ~真君が気になる相手は僕だけで充分だしね?」
「相変わらず!お前は!」
しかし二郎真君も気になってはいたのだ。
訓練所にも来ず神力検査にだけ現れては、顔も出さずに消えていく謎めいた若者。
ちなみに神力検査とは?
『武器術』『闘拳術』
『仙術』『札術』
『神通力』『学識』
『兵法』である。
中でも二郎真君は『仙術』『兵法』『武器術』『闘拳術』が秀でていた。
変わって揚善は『武器術』『札術』『学識』『神通力』が秀でていた。
二人とも他の候補生達とは桁違いの猛者であったのだが、その若者は全科目で二人の成績の二番手に位置していたのだ。
二郎真君は揚善に引っ張られ、噂のもう一人の天才を探し始める。
「いないですね?まさか、もう帰ってしまったとか?」
「だから!俺には興味ない!いい加減帰るぞ!」
「そんなぁ~もう少しだからさぁ~訓練生達の話によると、この辺りで見かけたらしいんだよ?」
「ふん!」
すると揚善が辺りを見回して、丁度自分達の方に向かって来ている若者を見て声をかける。
「仕方ないなぁ~!じゃあ向こうから歩いて来る彼に尋ねてみて手掛かりなければ諦めるからさ?」
「勝手にしろ!」
揚善は自分達の方にたまたま歩いて来た若者に気付く。
「じゃあ、彼に聞いて見るからね!」
揚善は向かって来る若者に話しかけたのだ。
「すみません?あの~尋ねたい事があるのですけど?」
「何でしょう?」
「この辺りで…あれ?彼の名前何だったかな?」
楊善は目的の相手の名前を覚えていなかったのだ。
「馬鹿者!名前も解らずに探していたのか?お前は!!」
「ごめんよ~」
「あの…」
「あっ、ごめんね?呼び止めてしまいましたね?すみませんでした」
「では、私はこれで…」
「迷惑をかけた」
若者は立ち去っていく。
若者は通り過ぎながら二人を見て呟いていた。
「あの日以来ですね?二郎真君と揚善…」
この若者、後に二郎真君と揚善と運命の出会いをする事になる。
倦簾であった。
「今日は残念でしたね?また次の機会に…って?ん?どうしたんだい?」
「ん?いや…さっきの男、どこかで…?」
二郎真君は何故か意味の解らぬイラつきがわいて来ていたのである。
「胸元まで出かかっているのだが、思い出せん!何だったかな?」
そんなこんなで、再び時は流れて行く。
武神の候補生であった二郎真君は武神候補生卒業生代表として、上官から天界闘武祭に出場するように命じられていた。
天界闘武祭とは最高神クラスの神々が見守る中、選ばれし若き武神候補生達がその磨きあげた力と力を競い合う闘技祭である。
選ばれし者は、選りすぐりの猛者が十二人!
その中には揚善の姿もあった。
「真君!やっぱり君も参加するのだね?」
「当たり前だ!この武闘祭が終われば俺達は正真正銘の武神なのだからな」
「でも、他の候補生達もなかなか優秀な強者達ばかりだよ?」
「他は関係ない!一番の…」
ライバルは…と言いかける前に台詞を止めた。
この揚善を下手におだてると、調子に乗る事が解っていたからだ。
すると楊善が周りを見回しながらキョロキョロしていた。
「真君…いないね?」
「ん?誰がだ?」
「ほら?もう一人の天才君だよ!」
「まだ気にしていたのか?お前は?」
結局、その後も二人はもう一人の天才に出会う事は出来なかった。そもそも本当に天才なのか?いや、噂が噂を呼んでいるだけではないのか?なにせ、その者の姿を記憶している者が一人もいないという不可思議な存在だったから…
武闘祭の待合室にて揚善は待機している闘技者を見ていた。
「お前にしては落ち着きがないな?」
「いやね?ここには今僕達を合わせて十一人なんだよ?他は僕が知った顔だから該当者なし」
「また例の奴を探しているのか?」
「大正解!」
「つまり、今度現れた者が噂の奴か?」
「そういう事!」
そして、その者は遅れて現れたのだ。
その者はヘラヘラした顔付きで、周りの者に遅れた事を謝罪しながら挨拶していた。
一目見て二郎真君は腹がたった。
そのへたれた態度が無性に苛立ったから…
(はて?以前にも?)
「あれが、これから武神になる者の姿か?」
「でも…彼…」
「何だ?」
「美形だね。僕と並ぶくらいに…」
「…………」
(そうだった…揚善はナルシストな所があった…)
集まりし十二人の猛者達は一人一人自己紹介を行う。
この自己紹介はとても貴重なのである。
戦場に赴く際に生きて帰れる保証はない。
自己紹介とは名前だけでなく、
その戦場へ命を預け預かる者同士の儀式のようなものであったから。
万が一命を落とす者がいれば、生き残りし者がその者が残して来た家族に報告を託される。闘技祭とて力量が拮抗し全力を尽くす以上、万が一にも死者が現れても仕方ないのだ。
そして最後の若者が自己紹介をした。
「どーも私、倦簾と言います。辺境のしがない村出身です!いやぁ~皆さん遅れて本当にすみません!こんな日に遅刻なんかしてしまいまして~つい庭の花に水をやっていたら、時間が過ぎている事に気がつきませんでしたぁ~アハハ」
周りの空気が冷たくなる。
それはそうだろう。
我々はこれから死力を尽くして戦い合うと言うのに…
フザケているとしか思えなかった。
案の定…その後、倦簾に口を聞く者は一人もいなかったのだ。
「馬鹿者か?」
「なんか…」
「ん?」
「わざと嫌われる事を意識した行動に思えるんだよ…」
「どういう事だ?」
「昔の君に似ているんだよ…」
二郎真君は怪訝な顔をする。
「うん。真君は最近でこそ丸くなったけど、君とは違った…他人を寄せつけない…そんな雰囲気を彼から感じる。それに…何だろう?魂の色が似ているような?」
二郎真君は意味が解らなかった。
「…俺と奴が似ているだと?有り得ん!」
そして、最後に倦簾と名乗る若者が二郎真君と揚善に挨拶に来た時だった。
「あ、お久しぶりですね?お二人とも!あ、あの後からお二人の噂は耳にしていましたよ~いゃあ~有名人ですね!」
二郎真君も揚善も意味が解らないでいた。
「以前、お前と俺達が会っただと?何処でだ?」
すると、揚善が!
「あーー!前に人を尋ねた方ですよ!」
「ん?そういえば…いや、待てよ?それより前に?」
二郎真君は倦簾の顔をマジマジと見ると、
「へっ?」
「このムカつき苛立つ感じは以前に…何処かで?」
「ニコニコ」
「気のせいか?」
…………。
「!!」
「気のせいなんかじゃなーーーい!!」
二郎真君は倦簾の胸倉を掴み、怒鳴り立てる。
「お前は訓練生時代に討伐調査に出た先で、一人逃げ出した奴じゃないか!」
「あら~お久しぶりですね~!あの時はお世話になりました~」
「何がお世話になっただ!あの後、俺達がどんだけ大変だったか解っているのか!」
「ひぇ~!で、でも、そのおかげで彼と仲良くなれたし聖獣を手に入れたんじゃないですか~?でしょ?でしょ?」
「それはそうだが…って、ん?」
(何故、それを? こいつ!やはり何処かで隠れて見ていたのか?)
一瞬、力が緩んだ隙をついて、倦簾は二郎真君から逃げ出して行ったのである。
「不思議な方ですね?あの倦簾と言う人物は…」
「全く!訳解らない奴だ!」
掴みどころのない倦簾の登場に、二郎真君も揚善もただ戸惑いを感じていたのだ。
そんな彼等を陰から覗き見る者がいた。
(ふふふ…あのガキ共!ようやく見付けたぜ?俺の恨み憎しみ!怒りをキサマ達の無惨な死を持って償わせてやるぞ!)
次回予告
二郎神君と楊善が武闘祭にて暴れ活躍する!
だが、そんな彼らを狙う者が?




