魂に宿る友!
二郎神君と楊善はついに謎の失踪事件と魔物出現の真相に辿り着いた。
しかし、そこでは?
化け物が多発する事件の真相は、謎の盗賊一味が怪しげな薬を使って捕らえた神兵を化け物へと変える実験をしていたのだ。
その真相を覗き見ていた二郎真君の前に現れたのは、行方が解らないでいた揚善であった。
「と…友達?」
揚善は頷くと二郎真君に盗賊達の目的を話し始める。
「あの盗賊達は、捕まえた神兵をあの怪しげな薬で妖怪に変化させようとしているのです。そう!人工的な神堕ちで神を妖怪にするために!」
「そんな事が本当に出来るのか?」
「みたいですね…妖怪になった者は二度と神に戻る事は出来ずに妖怪として生きていかねばならない…残酷ですね」
「それを知っていてお前は何をしている?直ぐにでも助けなければ!」
「ふふっ…真君からそんな言葉が聞けるなんて驚きですね?君は他人に無関心で一人でいる事を好み、身近な者さえ拒絶しているように見えましたけど?」
「なっ?それは今は関係ないだろ!知っているぞ!お前こそ昔は宮殿ではなく何処か人里の離れた場所でこっそり暮らしていたと言うではないか?」
「あら?他人に無関心な真君が、そこまで僕の事をご存知でしたか?少し嬉しいですね~」
「話を反らすな!悪いが俺は今の生き方に何も不自由を感じてはいない!今までも!これからもだ!」
「寂しい人ですね…」
「それはお前も同じだろ?」
「僕は貴方とは違います…」
『僕にはこの命をかけて守るべき友がいますから!』
「!!」
一瞬、揚善の瞳が悲しみの色に変わったのを二郎真君は見逃さなかった。
そして、その眼差しが自分自身に向けられている事に?
「では、力を合わせて皆を助けましょうか?僕達が力を合わせれば出来ない事はないと思いますよ?」
と、ウインクした。
揚善は作戦を伝えると、二郎真君はやむを得ずそれを承知する。
「さぁ!次は誰にするか…?お前か?それともお前か?」
捕らえられ岩壁に張り付けられた神兵達は身動き出来ずに怯えていた。
盗賊頭は神兵達を物色していると、
『僕なんかいかがでしょうか?』
揚善が盗賊達の前に姿を現したのだ。
「お前!何者だ?それに何を考えている?」
「それがですね?僕くらい美しい神が獣になったら何になるか興味があってね?そうだなぁ~白鳥とか孔雀なんかどうですかね~」
「面白いガキだ!何を目論んでいるか知らんが、実験台は多いに越した事はない!」
揚善の周りに盗賊達が囲み込む。
その時、二郎真君はトカゲに変化していた。
二郎真君の仙術である「変化」は一流であり、侵入には持ってこいだった。トカゲになった二郎真君は気付かれないように捕われた仲間達に近付いて行く。
盗賊頭は揚善に近付き身体を壁に押し付けると、揚善の顎を掴み軽く上に向け口を開かせた。
そして例の薬を飲ませようと口元に持って行く。
「さぁ…飲むが良い!」
「焦らないで…」
揚善の口が強引に開かれる。
「あっ…ああ…」
そして液体が楊善の口の中に流されようとした直後、
『止ぁめろぉ!!』
盗賊頭が振り向いた先には変化を解き、剣を構えた二郎真君が立っていた。
「それ以上汚い手で揚善に触れるなぁ!」
「真…君…」
(…どうして?)
「やはり陽動か?しかし貴様が出て来たら意味がなかろう?」
「問題ない!何故なら俺がお前を倒した後、皆を助ければ良いのだからな?」
「出来るか?お前みたいな小僧に?」
「当然だ!」
(そういえば過去にも一度同じ事があったような…)
二郎真君の頭に過ぎる。
それは哮天の姿…
(俺は何故飛び出したのだ?気付いたら俺の身体は無意識に飛び出していた。
哮天を守るために飛び出した幼少の頃の自分。
何故?飛び出した?解っていたはずだ!
それは…友を失いたくないから!)
二郎真君は盗賊頭に向かって飛び出すと他の盗賊達が道を塞ぐ。
だが、二郎真君は慌てる事なく疾風の如き剣さばきで目の前の盗賊達を斬り捌いていたのだ。
盗賊達は自分が斬られた事さえ気付かずに、血を流して倒れる。
「ほぉ~」
次々に襲い掛かろうとる盗賊達に、今度は盗賊頭の後方から気功弾が放たれたのだ。
盗賊頭が振り返ると、そこには両掌を合わせて構えている揚善が立っていた。
「今の攻撃なかなかの腕だな?お前達、俺様の部下にならんか?」
すると二郎真君は楊善のいる場所に移動し、揚善も剣を抜いて互いの剣を交差させて叫ぶ。
『外道に仕えるつもりはない!』
「残念だ!なら早々に死んで貰おうか?いや、手足を引き契り動けなくした上で、再び実験台にしてやろう!」
すると残った盗賊の部下達が縛り上げた神兵達を引きずり、その口に例の薬を強引に飲ませたのである。
「ヤメェロー!」
すると神兵はもがきながらその身体が膨張し、次第に半人半獣の化け物へと変わっていく。
『ウギャアアアア!!』
化け物と化した神兵が二人に向かって襲い掛かる。
二人は今まで一度も合わせた事のない連携で迫り来る化け物の攻撃を躱しつつ…
(すまぬ!)
同時に化け物を斬り裂いたのだ。
だが、休む暇なく洞窟の奥からは再び別の化け物が襲い掛かって来たのである。
「真君!油断してはダメだよ!」
「お前もなぁ!」
(何だ?この気持ちは?背中を預けられる…心強い?安心?どんどん力が漲るようだ?これが仲間なのか?)
群がる化け物を二人だけで倒して行く。
まさに若くして天才と呼ぶに相応しい勇猛ぶりに、盗賊頭も驚きを隠せないでいた。
「馬鹿な…!!たった二人で…しかもガキの分際で!!許さん!お前ら!」
「!!」
「お前達は俺を怒らせたようだな?まとめて始末してくれるわ!」
盗賊頭の気が高まって行くと、その背後から巨大な大虎の聖獣が現れる。
『聖獣変化唯我独尊!大虎変化!!』
盗賊頭は大虎の鎧を纏い変化したのだ。
「あ…あれは?まさか…!」
二郎真君に幼少時代の辛い記憶が蘇る。
この盗賊頭は間違いない!
あの日、あの時…
自分の前に現れた盗賊の頭領?
そして、宝天と哮天を殺した宿敵であった。
次第に怒りが込み上げてくる。
「お前はあの時の!!」
解らなかったのも無理はない。
盗賊頭である開明は素性を隠すために、己の顔を変えていたのである。
「あぁ?お前、俺を知ってい…?そうか!」
開明もまた二郎真君の姿に、幼少の姿が被って見えた。
「お前はあの時のガキか?生きていたのか?なら生かして置く必要もない。お前には恨みがある!再びこの手で殺してやるぞ!」
「それは、こっちの台詞だ!」
すると揚善が隣に並び立つ。
いや…
『お前は俺達が倒す!!』
しかし開明の凄まじい攻撃は、流石の二郎真君と揚善も防戦一方であった。
聖獣変化…
人神が聖獣の力を借りるだけでなく、その魂を一体化する事で計り知れない力を発揮するのだ。
それはいくら天才と呼ばれている二郎真君と揚善でさえ、手に負える相手ではなかった。
「クゥゥ!」
「真君!」
開明から振り下ろされた爪から放たれた斬激余波が二郎真君に迫った時…
「真君!!」
揚善が身を挺して二郎真君を突き出して庇い、自分は逆に斬撃の傷を負う。
そして二郎真君の目の前でゆっくりと倒れて行く揚善の姿を見て、
「…お前…どうしてそこまで…!?」
二郎真君は倒れた揚善を抱き抱え胸が熱くなっていた。
「揚善!大丈夫か?お前、どうして俺を!?」
揚善は微笑みながら二郎真君に答えた。
「…友を守るのに理由なんかない…ですよ…」
そのまま揚善は気を失ったのだ。
「グフフ!次はお前の番だぞ?大人しく死にさらせ!」
怒りで身震いする二郎真君は開明を睨みつけ、再び手にした刀を握りしめる。
開明の振り下ろした爪を刀で受け止める二郎真君であったが、その刀は粉々に砕け散り二郎真君は抱えていた揚善もろとも吹き飛ばされた。
(俺は負けん!俺は守らなければならない!)
その時、二郎真君の頭に何者かのテレパシーが入って来たのだ。
『二郎真君よ!お前に問う!何故、お前はそこにいる?友を救うためか?それとも武神としての誇りか?』
「お前は!?」
それは先に逃げ出したかと思われた、とぼけた訓練生の声であった。
だが、その声には威厳があった?
『二郎真君よ!お前の力は何のためにあるのだ!?』
二郎真君はその問いに答える。
「それは…」
「…力が欲しい!…守る力が!…友を……友を守る力が!!」
その時!
二郎真君の胸が突然光り輝いたのだ!?
(これは?)
その時、二郎真君の中に別の声が聞こえて来たのだ。
その声に聞き覚えはなかったが、何故か懐かしさを感じた?
二郎真君の身体から抜け出た光は、二郎真君の目の前で浮きながら止まると
『真君…僕は…ようやく……君の力になれる…
僕はあの日、肉体を失った。
だけど・・・僕はずっと君の傍にいたんだ!
君の魂の中にいたんだよ?
仲間を拒み…拒絶する君の心が…僕の魂をも拒み続けていたんだ…
だけど今の君となら…』
「俺の中にいただと?お前は…まさか!?」
二郎真君は全てを察した。
この声の主に答えるように、応えられるように叫んでいた。
「お願いだ…俺に…俺に力を貸してくれ!力を…友を守れる力を俺に貸してくれぇ!!」
『哮天!』
二郎真君の身体が洞窟の中を照らすほど光り輝き、その力が漲って行く。
そして唱えたのだ。
『聖獣変化唯我独尊・哮天!』
二郎真君の身体は白光りして輝く聖獣犬の甲冑に身を纏い、
目の前に成長した哮天が現れたのである。
その背中には『三尖両刃刀』なる先が三つに枝分かれした刀を乗せていた。
「この俺と共に戦ってくれるのか?」
哮天は頷くと、二郎真君も頷きその刀を手に取り構える。
『我、弱者のために!友のためにこの力を奮おう!我が誇りを捧げよう!!それが俺の力を奮う意味!ならばそれが永遠なる友の誓いだ!』
同時に二郎真君の額が割れて『第三の眼』が開かれる。
「生意気なガキが!そんな虚仮威しで俺に…『グッ!』」
向かって来る盗賊頭の額に何かが突き刺さり、その動きが止まる?
(クッ?身動きが取れないぞ?どうなってやがる!)
それは額に刺さった羽が開明の神経系を刺激し、一瞬だが身動きを止めたのである。
その直後!
二郎真君の振り下ろした三尖両刃刀の一撃が…
『ウギャアアアアア!』
開明を真っ二つに斬り裂き消し去ったのだった。
そして勝利した二郎真君は、その手を胸に置き…
(哮天よ…俺には…新たな『友』が出来たぞ?喜んでくれるか?)
そんな二郎真君を揚善は複雑な気持ちで見ていた。
(哮天?君は真君の力になれて幸せだね?
だけど僕も…彼の傍で力になるから!
例え自ら羽ばたく翼は失おうとも、僕は彼が与えてくれた魂でこの姿へと転生した…
僕はこの足で、真君の傍で共に歩き続けるよ…いつまでも…)
揚善の掌には紅く輝く鳥の羽根が握られていた。
次回予告
楊善の秘密が今、明かされる!
それは、友情の証!!




