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聖輪奇聞・転生記!~神を導きし救世主~  作者: 河童王子
唯我蓮華~破壊神と呼ばれた少年~
312/424

悲しみと別れ再び?弱さを流す涙雨!

宝天を失った幼少の真君


その悲しみは彼を無気力にした。


幼き二郎真君は盗賊に誘拐された上、無二の親友であった宝天を失った。


その後、無気力に動物と戯れるだけの毎日を過ごすようになった真君に対して玉皇大帝は、聖獣を手に入れて聖獣使いの武闘会に出場するように命じた


しかし真君は…


(僕にはもう聖獣はいらない…僕にとって宝天だけが唯一の聖獣…兄弟だったのだから…)


しかし玉皇大帝の命令に従わなければ、玉皇大帝の実の妹である母親にも罰が科せられるのだ。

真君は一人脅え塞ぎ込んでいた。


そこに…


『クゥ~ン』


怯える真君に一匹の犬が寄り添って来たのである?


「あっ…お前は?」


真君に寄り添って来たのはまだ幼い小型犬であった。

以前、怪我をしていた所を真君が見付け手当てをして以来、真君に懐いて今では屋敷の番犬として飼われていた。真君はその犬に『哮天』と名付けた。



宝天を失い無気力になっていた真君を立ち直らせたのも哮天であった。

部屋から出ない真君の裾を引っ張りながら幾度と外に連れ出していたのである。


部屋で篭っているより、外の空気を吸う事が真君には大切だと言うように…


それから哮天に逆に散歩に連れ出される日々、それは真君に僅かながらにも生気を取り戻すキッカケとなっていく。


気付くと真君の傍にはいつも哮天が付いて回っていた。



(お前は…お前だけは僕の目の前から消えないでおくれ…)



真君はその後、聖獣を探しに行く事はしなかった。



(そもそも聖獣なんて探して簡単に見つかるもんじゃないよ。まして、僕に手に入れるなんて無理に決まってる)



祭典までの間…


いや、多分そこで自分は死ぬであろうその日まで、真君は友達である動物達と一緒にいる事を選んだのだ。


(僕が死ねば、母上にまで迷惑はかかるまい…)



真君はその日も朝から動物達のいる森の丘に行っては戯れていた。



「皆…もし僕がいなくなったら…寂しい?僕は皆に会えなくなるのが寂しいよ…」




その時、真君のいる丘に見知らぬ男達の声が聞こえて来たのだ。

この丘は真君の別邸の土地であり、他者が許可なく入る事は許されてはいないはずなのに…


「侵入者?一体…何者が?」




その声の主は神界の武神の屋敷を襲う盗賊達であった。


彼達の狙いは…



「玉皇大帝を始末すれば、あるお偉い方から高い役職を約束されている!失敗は許されねぇぞ!」



真君は息を潜めて隠れていた。


「あああ!」


盗賊の数は、一人…二人…いや?六人はいるだろうと思われた。

盗賊達の狙いは玉皇大帝の命!

真君は泣き出したい気持ちを抑え震えていた。

それは昔味わったトラウマでもあった。


すると盗賊達が動き出す。



(早く誰かに知らせないと!)



が、突然後ろから何者かに身体を抑えつけられたのだ。


「ウグッ!」


それは盗賊達の仲間の一人だった。


「おぃ!変なガキに話を聞かれてたぜ?」


「離せ!」



暴れる真君を盗賊の男は容赦なく後頭部を殴りつけたのだ。

力なく倒れゆく真君に、別の盗賊の一人が刀を抜き近付いて来る。


『おぃ?ガキ!久しぶりだな?』




真君が見上げた先には見覚えのある男が立っていた。

そいつはかつて自分と宝天を拐い、宝天を殺した盗賊だった。


あの出来事の後、瀕死の状態で帰って来た真君によって悪事が表沙汰にされた武人達。表の顔であった武神としての職務を剥奪されて死刑になるはずだったのだが、一人だけその直前に逃げ出した男がいたのは聞いていた。名前は確か・・・開明と言った。


その男が目の前に?


「お前のお陰で今ではこの盗賊団の長に成り下がっちまったぜ!この借りはお前の命で返して貰うぜ?その後は玉皇大帝の命を奪い、俺の復讐をかなえてやるぞ」



が、その時!


『グルル…!!』



開明の前を塞ぐかのように一つの影が飛び出したのだ。


その正体は…


『哮天!』


哮天が盗賊の前に立ち塞がったのだ。

しかし相手は武器を持った盗賊達。

勝てるはずがない。


(ダメだ…殺される!)


「逃げろ!哮天!逃げるんだ!!」



だが、哮天は盗賊達を威嚇したまま動こうとしなかった。



(どうして…これじゃあ…あの日と同じじゃないか…)


「何だ?この犬は?」


「邪魔だ!殺してしまえ!」



盗賊達が邪魔な哮天に襲い掛かる。

真君はその様子を倒れながら見ている事しか出来なかった。



「無理だ…哮天…逃げるんだよ!言う事を聞いて!」



哮天は果敢に盗賊達に迫るが、健闘虚しく盗賊達に捕まってしまった。


「あっ!」


盗賊達は哮天の足を掴み吊るし上げる。


「あんまり時間もない!早く始末しろ!」


「今、首を落としてやりますよ!」



盗賊の一人が哮天に手をかけようとしたその時であった。


『止めろ!!』




盗賊達の前に今度は短刀を構えた真君が立ち上がったのだ。

しかし、その手は恐怖に震えていた。

盗賊達は真君をナメてかかっていた。

その目は弱い獲物で狩りを楽しむ狩人のように…


「ヒィ!」



真君が目を綴じた所を盗賊達は刀を突き付ける。


『ゴオオアアアア!!』




その直後、盗賊に足を掴まれ吊されていた哮天が凄まじい咆哮で吠えた。


「何だ?どうしたと言うのだ!?」




突然の咆哮にたまらず耳を塞ぐ盗賊達。

すると哮天が掴まれていた盗賊の男の腕に噛み付き逃げ出して、真君を庇うように立ち塞がったのだ。しかもその姿はいつもの姿とは違っていた。その身は神気に満ちあふれ、その額には『第三の眼』が開かれていたのだ。


「哮天?」


『ウグルルル…』



「こいつ…ただの犬じゃねぇ!聖獣犬だ!それもかなり強力な!!」


(えっ?)


助けられた真君でさえ驚いていた。


(哮天が聖獣?)



盗賊達は刀を抜き出し今度は本気になって構える。


「うおおお!!」



盗賊達の刀を哮天は素早い身のこなしで躱していた。


「哮天…お前は一体?」



哮天の咆哮が放たれると、凄まじい振動で盗賊達を弾き飛ばす!

ただ一人、例の解明を抜かして…



「こりゃ面倒な犬だ…だがよ?俺には敵わないぜ?」



すると盗賊長の背中から巨大な神気が立ち込めたかと思うと、その背後に大虎の聖獣が出現したのだ。さらに…


『聖獣変化唯我独尊!大虎変化!』



開明の身体に大虎の鎧が纏われる。

その両腕には虎の爪の装具をはめていた。


『破壊双虎爪!!』



開明の降り下ろされた腕から放たれた斬撃は、大地を切り裂き真君に迫る。



「うわあああ!!」


『キャイイン!!』



哮天は真君を庇い楯となったが、その衝撃で真君もろとも弾け飛んで行く。

満身創痍の真君は霞んだ目で哮天を探した。


「こ…哮天……」



だが、真君の目に入ったのは剣を振り上げる開明であった。


(あっ…)


開明の振り下ろした剣は真君を庇おうと飛び出してきた哮天ごと真君の心臓を貫いたのだ。

真君の視界から光が消えて行く。


(ぼ…僕は死ぬの?)



闇の中に包みこまれるように、深く深く沈んで行くような感覚が真君を襲う。


闇が凍えるように凍てつく。


これが、死?


『ゥオーーン!!』


『!!』



真君は突然の獣の雄叫びに、我に返り目を覚ました。

そこには血だらけの真君が倒れていた。



(僕は…生きてたの?どうして?確か僕は心臓を貫かれたはず?)


『ハッ!』


真君は辺りを見回した。

盗賊達の姿はない?

それは真君が死んだのを確かめ、この場から去っていた。


(僕はどれくらい気を失っていたんだ?)


それより…


『哮天!!』



真君は身体を引き摺りながら、倒れている哮天に近付く。


同時にポツポツと雨が降り始めた…


(う…うそ…だ…)



真君はそこに血まみれになって息絶えた哮天を目にしたのだ。

真君は血まみれの哮天を力の限り抱きしめた。


身体が震える…


「あっ…あっ…あっ…」



次第に雨が強くなって来たが、真君にはそれすら気付かなかった。


何故なら、真君の視界は既に止まる事なく涙が溢れていたから…


その雨に打たれ真君は…


自分の状況を理解した。


自分は哮天に生かされたのだと…


自分の命は…


哮天によって貰った命なのだと…


降り荒れる雨の中…


真君は亡き友に誓った。




「僕が弱いから…僕に力がないから…僕が哮天を死なせたんだぁ…

いや、哮天だけじゃない!宝天だって僕のせいで死んだんだぁ…


ああああああ…こんな辛い思いをするなら…僕はもう…


友達はいらない…


もう…こんな辛い思いは…したくない…


失うくらいなら…最初から何も…いらない…」




真君は空を見上げ、振り続く雨に打たれながら涙を流し声を枯らすほど泣き叫んだ。

その涙は滝のように流れていた。

もう流す涙なんか残らなくても良いと思えるくらいに…



その後、盗賊達の暗殺計画は失敗に終わった事を知る。


次回予告


宝天と哮天を失った真君。


そして、彼はどうなったのか?


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