破壊を呼ぶ来訪者!
たとえ、その身が穢れ忌み嫌われようとも
その心だけは、
光絶やす事なく生きよう。
誰にも信じられず、忌み嫌われようとも
自分の信じる心を信じて・・・
泥の中に根を張りながら、泥にまみれることなく美しい花を咲かせる蓮華の如く!
「唯我蓮華」
ただ、自分は蓮華のようにありたい。
ここは人間界の遥か天空に存在する神聖なる世界…
此処は神や仏が住まう地…
須弥山
そこは『天』と呼ばれる神が支配する神界であった。
この世界に災いを齎す魔の者から、救済と守護を目的として組織された神の軍が存在する。
日夜、鍛練と修業を積み…
凶悪な妖怪に立ち向かうがために…
彼らのような戦闘訓練を積んだ神の事を武神と呼ぶ。
空を自由に飛び回る事が出来る不思議な雲に乗り、神具と呼ばれる神気が籠められた特別な武器を手に今日もまた戦場へと向かう。
世界は無秩序に妖怪や魔物達が蔓延り、暴れ弱き者達を虐げ苦しめていた。この戦乱の最中、武神達は秩序と平和のために今日も戦っているのだ!
そして今も、この世界に入り込んだ黒き来訪者を討伐に向かっていた。
黒き来訪者?
その者はたった一人で神軍に挑んで来た…
馬鹿げている!?
神軍とは神の中でも選りすぐりの武神集団。
その武神が一万の兵で討伐に向かっているのだ。
その来訪者に…
わずか一人の少年に!
武神達は来訪者を見付けるなり戦闘準備を整えると、周りを取り囲み、己の力を十分に発揮出来るように神気を高めていた。
神は神気を高める事でその身を強化し、己の力を何倍にも上げられる。
誰一人油断はせず…
容赦をする事なく…
『かかれぇ!』
武神達のリーダーである将軍神の命令に、一斉に武神達は来訪者に攻撃を仕掛ける。一人一人がこの日のために激しい戦闘訓練を繰り返し、戦う事を義務付けられた武神達。
様々な妖怪や魔物を撃破してきた強者達!
それが…
たった一人の来訪者に…
たった一人の少年に?
全滅寸前の状況にあった。
その来訪者は褐色の肌に黒き髪、大きな瞳の、黒い雲に乗った少年。
そして何より魔が魔がしい黒き神気を纏っていた。
「オラァオラァ!かかってくるら!お前達の力はこんなもんらか?」
それは、異端の神…
黒い神気とは、この世界の神の持つ神気とは似て非なる力。
しかしこれもまた神の力であり、神々はこの黒き神気を…
『魔神闘気』と呼んだ。
「この地には強い神はおらんのか?オラは誰の挑戦もうけるらぁー!」
来訪者は叫んでいた。
その容貌から察するに13~14歳くらい…
まだ少年神であろう。
しかし、その力はこの土地の大人の武神をも近寄らせる事も出来ないほど、底知れぬ破壊の力を持ち備えていた。
来訪者は呼ばれた…
破壊の力に愛されし者…
破壊神と!!
だが、武神達も連戦練磨の強者達。武神達は手にした縄に神気を籠めてその少年に向けて同時に投げつけると、縄は武神達の意のままに少年の躱す方向へと追って行く。
「なんら!ぐっ!?」
少年の手足に縄が絡み付き、その身動きを止める。
『捕縛!』
「やったぞ!これで奴は袋の鼠だ!」
少年を抑え込んだ事に勝利を確信する。
本来なら、捕縛された地点で勝敗が決定付けられたものだから。
「いや、待て?あれを見よ!」
すると、少年は…
『うらあああああああ!』
その黒き神気を身体中から噴き出させ、一瞬にして縛り付けていた神気の縄を引き裂いたのだ。
驚く武神達…
「あっ!」
武神達は少年に気付いたと同時に、一人一人落下して行った。
それは、目にも留まらぬ速さで少年が迫って来たかと思うと、次の瞬間には視界が消えて意識を失い飛行雲から転落しているのだ…
疾風の如き速さと、武神達を一発で仕留める破壊力を持つ剛拳。
少年は素手で武器を持った武神達を相手にしているのだ。
「馬鹿な…強すぎる…これが…」
『魔神族の力なのか?』
魔神族とは、この須弥山の裏世界に住まう神々の事である。彼達の身体的な特徴と言えば褐色の肌に黒い髪。さらに、こちらの神が使う神気とは合い反する黒い神気を使う。
さらに言えば、好戦的かつ強暴で、破壊を好む一族なのだと…
神族と魔神族は長きにわたり抗争を続けていた。
その戦いも、釈迦如来率いる仏神達の力により、和解をみせる事になる。
この須弥山を特別に力のある十二の神に『天』の称号と支配権を与え、統治させたのだ。
この一件より須弥山は帝釈天を筆頭とする十二天が支配する世界となる。
だが再び、争いが勃発してしまったのだ。
十二天の間の抗争…
それは、やがて須弥山を二分する結末となった。
須弥山を境に世界が二つに分かれたのだ!
光の世界と闇の世界!
光の世界を帝釈天を筆頭に、新たに天の称号を与えし四天王が支配し…
闇の世界を梵天ブラフマーと、十二天でこそないが同等の力を持ち帝釈天の友であったビシュヌ神。そして伊舎那天である破壊神シヴァが君臨した。
光と闇の須弥山の間で力の均衡状態が保たれている中、稀に闇の世界に虐げられた魔神族の神が光の須弥山に侵入して来ては、争いの火種を巻き散らすのだ。
そして今も…
「だが、ここ数年の間は特に大きな戦争もなく、侵入して来る魔神も我々で討伐出来るレベルだったのに…」
「どうして今!この時現れたのだ?どうしてこれ程の強さを持っているのだ?どうして…」
「…まだ少年なのだ?」
「お前は一体、何者なのだぁー!?」
すると少年は将軍に振り返り答えた。
『…オラか?』
『オラは…』
そして少年の口から出た言葉は、その場にいた者の全てが耳を疑い、恐怖した。
『破壊神シヴァの子…』
『遮那らぁー!』
その後、将軍神もまた全ての部下を倒し尽くし、眼前に迫って来た少年の拳をくらい、敢え無く落下して行ったのだった。
「ケッ!たいしたことない奴ららったら!」
そして、少年は再び飛びだって行った。
場所は変わり、武神達の集まりし宮殿。
神官達はこの度の来訪者に対して緊急会議をしていた。
「いかがいたしましょう?このままでは、あの者はこの南央殿までやって来る勢いですぞ!」
「中央宮殿からは誰か助っ人は来ぬのか?我々では持ちこたえられません!」
「それは、無理ですぞ…中央でも今は戦争の真っ只中!我々の地によこす兵力なんてありませぬ!」
「何の話だ?」
「知らないのですか?地上より妖怪の軍勢が天界に迫り、中央は今大変な事になっているらしいのです!」
「あれか!猿の妖怪が地上の魔王達を率いて六大妖魔王を名乗り、天界に侵入した話か?まさか本当に中央にまで進行を許すとは…」
「あの六大妖魔王…」
「それで、中央には二郎神君殿や揚善殿が討伐に当たっているとか…」
「では、ナタク殿は?」
「それが…東央殿で、内乱が起きたそうです…ナタク様はそちらへ…」
「何処もかしこもどうなっておるのだ!」
「どうしたものか…」
神官達は天界で起きている、かつてないほどの戦乱の状況と合わせ、
破壊神の少年の存在に手に負えないでいた。
その時である。
武官達の会議の中に、一人の武神が入って来たのだ。
『では、その魔神族の少年の一件には私が出ましょう!』
「おぉ!そなたは!」
その者は、七代目天蓬元帥大玄であった。
天蓬元帥…
天蓬元帥の称号とは、どの武神よりも先陣に立ち、決して退かず!決して負けぬ!と、勇ましき武神にのみ与えられる称号なのだ。
まさに武神最強と呼ぶに相応しい称号!
大玄は歴代の天蓬元帥きっての猛者であり、文武ともに優れた元帥なのである。
「おぉ!そなたがいてくれれば安心じゃ!」
「頼み申す!」
大玄は誰からも信頼と人望も持ち合わせていた。
『我が元帥の称号にかけて!』
「これは、心強い!お任せ致しましたぞ!」
そして、場所は変わる。
武神達の追っ手を撃退した破壊神の少年遮那は…
「チッ!こんな異国の地まで来たと言うらに、全然マシな奴がおらんらよ?それにしても…この土地の果実は美味いら~」
木の枝に寝転びながら、果実を食べていた。
そして破壊神の少年遮那は、次の日も暴れ回った。
滅ぼした地には草一本残らず、怪我人から死者数も増えていき…
破壊者としてその名は知れ渡った。
「つまらんら…弱い連中ばかりで調子狂うらよ…オラは強い奴と戦いたいのら~」
そこに、再び神軍が空から雲に乗って現れたのだ。
「ん?また奴ららか?奴ら弱いらよ…」
すると上空の神軍が二つに分かれ、その中央より一人の武神が現れる。
「破壊者よ!我が前に出て参れ!!」
声の主は大玄であった。
「貴殿と一体一の勝負がしたい!儂は天蓬元帥・大玄!いざ勝負!」
少年は木から飛び降りると、黒い雲に乗って大玄の前に姿を現したのだ。
「アハハ!オッチャン…年甲斐もなくオモロイ事言うらな?オラと勝負したいらか?」
「お…オッチャン」
「言っておくがオラは強いらよ?それで死んでも構わないなら…」
遮那の目は戦いに飢えギラギラしていた。
『殺してやるらよ!』
「ウム。いざ参る!」
遮那はその時気付いたのだ。
この目の前の武神は何か違う?
(この爺さん、強いら…)
先に動いたのは大玄であった。
遮那の頬に大玄の突き出した矛が掠る。
「おっと!てめぇ~やるらな」
遮那の身体から黒い神気が高まり、その瞳が朱く光る。
何より、その口元は戦う事に喜びを感じ、笑みを見せていた。
「足りねぇ…足りねぇらよ!もっと!もっと!オラを燃えさせるらよ!もっとオラを熱くさせるらよー!!」
これが、破壊神と呼ばれた少年の物語の始まり。
神界より消された忌まわしき伝説の始まりだった。
次回予告
異国の魔神の少年遮那
天蓬元帥・大玄との戦いの行方は?
そして、
そんな遊戯の如く破壊を楽しむ遮那の前に現れたのは?




