三蔵討伐妖怪連合軍
三蔵に雑に使われる俺様、孫悟空。
いつか三蔵の魔の手から逃れたいと願う今日この頃、こんな事が起きたのです。
皆さんこんにちは…
俺様、孫悟空です。
俺様は昔、地上界天上界を騒がせた超有名な最強最悪の大魔王様だったんです。
なのに…
村外れの大通りに村人達が集まっていた。
そこでは騒がしい音がし、笑い声まで聞こえてくる?
何の騒ぎかって?
どうやら、道の真ん中で大道芸をやっているようだ。
それって、つまり…
「そっちの貴方も!こちらの貴方も!寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!世にも珍しい猿の綱渡りだよ~!何が珍しいかって?見てくれよ?綱は燃え盛り、今まさに燃え尽きようとしている!その上を猿が綱渡りするって趣向だぁ!しかも、その下は油の桶地獄!落ちたらただじゃすまないよぉ~!もし渡りきったら拍手喝采お金じゃんじゃん宜しくお願いしま~す!」
三蔵が手慣れた饒舌で客寄せをしていた。
通行人達は興味本位で足を止めて何が始まるのかと集まり出す。
そこに燃え盛る綱の上に猿が一匹飛び乗ったのである。
それと同時に綱は焼き切れ、猿はそのまま油の桶に転落し…
火だるまになってしまったのだった。
「おおおっ!!」
お客様の歓声があがる。
『出来るぅかぁああ!』
客の歓声の中、油の入った桶の中に落ちた猿が、火だるまになって飛び出してきたのである!!
「マジに出来るかぁ!こんな事!!」
お客達は目を丸くして、その芸を見ていた。
「おおおっ!生きてるぞ、あの猿!!すげぇー!!」
「いや、それよりあの猿…人の言葉喋ってるように聞こえるぞ?まっ!…まさかぁ!」
「あんだよ?なんか文句あっか?俺様は妖か…」
「腹話術なのか!すげぇー!!」
て、妖怪だよ!何が腹話術だって?
人が…いや、猿が火だるまになって、死にかけてるってのに…
何が、スゲェーだ!?
何が、腹話術だ!
「てめぇら…だま…り…」
俺様の怒りは爆発寸前であった。
ここにいる人間全員ぶっ殺す!
「ん?」
《ゴチィン!!》
今にも客に飛び掛かろうとしていた俺様の後頭部を、突然割り込んで来た三蔵が拳で殴りつけたのだ。
「ふぅにゃあ~~」
俺様は目を回し気絶する。
『アハハハ!ボケとツッコミかぁ?アハハハ!!』
何が面白いのか理解出来ないが、ポジティブに大ウケのお客の笑い声の中、気絶した俺様の首を掴み無理矢理頭を下げさせる三蔵。
はっきり言って酷い…
これって虐待じゃ?
『面白いぞ~!!』
俺様達のやり取り(芸)にお金を投げる客達。
三蔵は村人の投げたお金を、錫杖の先端に引っ掛けた袋の中に、全て地に落とさずに巧みに受け取っていた。まさに職人芸である。
「ありがとうございましたぁ~!またお越しくださいませぇ~!」
芸は終わり?
村人が離れて消えて行くのを見届けた後、残されたのは満面の笑みの三蔵と黒焦げた猿。
つまり今の猿は俺様…孫悟空様。
三蔵の奴は集めたお金と俺様を担ぐと、その場を立ち去って行った。
それから、どれくらい経ったであろう?
俺様は意識を取り戻したのだ。
ここはベッドの上?
う~ん…
俺様は頭を働かせ、状況整理を始める。
俺様はベッド…いや、椅子に寝かされていたのである。
ここはどうやら部屋の一室のようだな?
「…俺様は一体?」
記憶が蘇る。
怒怒怒怒!!
俺様の頭から怒りの蒸気が立ち込めていく。
この天下の俺様をコケに、雑に、不憫に扱いやがってぇ~!!
何処だ?三蔵の奴は?
三蔵は部屋の奥にいた。
しかも先程芸で手に入れたお金を、呑気にベッドの上で勘定していたのである。
「こ…この…クソ坊主がぁ!!俺様が死にかけていたってのに何をしとるんじゃい!てか、殺す気かぁ!!」
頭にきた俺様は三蔵に向かって飛び掛かると、俺様の顎を掴み受け止め、軽々抑えつけたのだ。
「バカが…!てめぇが野宿ばかりで、たまには人間の宿屋に入って美味い飯が食いてぇ~などと、ぬかすからだろ?」
「だからって普通死ぬだろがぁ!」
「死ななかったから良かったじゃねぇか?働かず者食うべからずだぁな?」
…だぁな?
じゃ、ねぇよ!
その時俺様は気付いたのである。
三蔵の回りには酒の空き瓶が数本、更には食べ終えた贅沢な料理が??
「何、これ?」
「…………」
「俺様のは?」
「……さぁ?」
このクソ坊主は俺様が生死の境をさ迷っている間に、一人で美味い御馳走を食ってやがったのだ。
「がぁ!?お前ばかり狡いぞ!俺様にもよこしやがぁれぇ!」
「ザケロ!これは俺のだ!」
三蔵と俺様は残っていた肉を奪い合い、喧嘩するのであった。
皆さん…
こんな扱い…
どう思いますか?
と、俺様と三蔵が馬鹿をやっている頃…
まさか俺様達のいる場所から遠く離れた地で、俺様達の旅を脅かす不穏な動きがあったなんて。
人里離れた山奥に、やけに立派な屋敷が建っている。
そこは人が入り込めないような険しい山奥。
こんな場所に一体何者の?
その屋敷は昔の高貴な人間の隠れ屋敷だったらしいのだが、現在では流行りの病で絶滅して誰もいないはず。にもいかかわらず?
屋敷の中からは明かりが燈され、奥から人の声が聞こえて来るではないか…?
一人、二人?
いや!かなりの人数の声が聞こえて来る?
屋敷の中には腕に自信のありそうな猛者達が揃い踏みし、他の猛者を威嚇し牽制しあっていたのだ。
そこに屋敷の主らしき者が遅れて現れ、呼び集めた来客達に向かって話しを始める。
「今日は遥々私の誘いによくぞ集まってくださった!名のある猛者達よ!」
主の一声に、周りの者達がざわめき始めたのである。
ある者は阿鼻叫喚を!ある者は唸り声を?そこはまるで獣達のたまり場の様であった。
いや?獣達…
そこにいる者達は人ならざる者達?半人半獣の化け物達であったのだ!
こいつ達は『妖怪』と呼ばれる者達。
今、地上界の人間達は『妖怪』と呼ばれる化け物達によって支配されていたのである。
「おい?俺達を呼び出したのはお前か?」
「俺達に何のようだ?事と次第によっては生かしておかんぞ!」
荒々しい化け物達は屋敷の主に向かって罵声を浴びせ叫びまくっていた。
周りの者達もそれに連れられるかのように騒ぎ立てる。
「まぁ、待て!お前達よ?俺達を呼んだからには何か大事な用が有るのであろう?霊感大王よ?いい加減説明しろ!」
鎧を纏いし体格の良い武人らしきその妖怪の一声で周りは静まり返った。
その妖怪の名前は『混世魔王』
今、この地上界で最も勢力のある大妖怪の一人であった。
また、この屋敷の主である『霊感大王』と呼ばれた妖怪もまた、名のある大妖怪ばかり。
「流石は混世魔王殿、話が解る器をお持ちでいらっしゃる!」
周りの妖怪達が二人の大妖怪の持つ底知れぬ存在感に生唾を飲みこんだ。
丁寧な言葉と裏腹に混世魔王と霊感大王から洩れ出る妖気が、その場にいた妖怪達を黙らせ、冷たい空気を走らせたからだ。
この二人は今、この地上界の覇権をかけた戦を何度も繰り返している二大勢力であった。
霊感大王は広間にあるテーブルの中央に座ると、そこには既に数人の妖怪達が座していた。霊感大王は周りが静まり返り、自分がこれから話し出す内容を今か今かと待ち構えている妖怪達を見据えた後、ようやく本題を話しはじめる。
「良く集まってくれました。皆様もご存知であろう?最近、我々妖怪を金儲けで退治する人間の僧の話を?」
そこに、頭が馬のゴッツイ妖怪が話に割り込んで来たのだ。
名を『九頭馬』この妖怪は妖怪盗賊の首領であり、混世魔王と霊感大王の勢力争いに割り込む程の強力な力を持つ妖怪であった。
「知ってるぞ!確か『三蔵』と呼ばれる人間の悪僧であろう?」
三蔵の名前があがり、周りの妖怪達が再びざわめき始める。
三蔵の名前は妖怪世界では既に悪名として知れ渡っていたからだ。
「確か、異界の神を使役すると聞いたのじゃが?」
「不動明王なる神だとか」
中央のテーブルに座している黄眉大王、百眼魔王の二人の妖怪もまた、侮れぬ妖怪である事は間違いなかろう。いや、彼等の他にも陰を潜めている強力な妖怪達がちらほらいるではないか?
そうなのだ。
霊感大王は地上界にて選りすぐりの妖怪達ばかりを選抜し、収集していたのだ。
「では、本題を話しましょう!この地を支配している我々は、互いに幾度と繰り返し抗争を起こしています。勢力を拡大する目的のはずが、大事な仲間や部下が命を落とす事も少なくなかろう?その最中での三蔵と呼ばれる人間の脅威…このままでは、我々は戦力を衰え続け、いずれ滅びてしまわないだろうか?」
「何が言いたい?」
「私は提案する!我々妖怪達の連合を発足する事を!」
妖怪達が突然の霊感大王の提案にざわめき始める。
その提案に黄尾大王が反論する。
「ふふふ…面白い提案じゃが、叶わぬ事よ!何故なら我々は争い続け過ぎた!私もお前には恨みがある!貴様の傘下に下るつもりはないぞ!」
「確かに…我々は因縁強すぎる!」
「ふふふ…」
霊感大王はまるでそう返答される事を解っていたかのように不適に笑い出す。
「何がおかしい?」
「別に貴方達に私の傘下に入れと言うのではないのです!」
「?」
「我々は暫しの間妖怪同士の抗争を休戦し、その人間の僧の首を取る事を最優先とするのですよ!それなら無駄に勢力を落とす事もなく邪魔者を消す事が可能!そのために協力するも良し、個人で動くも良し!」
混世魔王がその真意に気付き頷く。
「ふっ…解って来たぞ?お前の考えが!」
「解らぬ!それに何の得があるのだ?」
「察した者達もいよう!そう!その三蔵の首を先に手に入れた者が、この地を統べる妖怪達の支配者!王となるのだ!」
「なんと!」
「そして首を取れなかった者達は、その勝者に敗北を認め配下となる事を誓うのだ!」
霊感大王の案に、そこにいた妖怪達は歓声をあげた。
まさに一石二鳥の案に!
「乗ったぞ!その案!」
「私もじゃ!」
周りの妖怪達も参加を申し出る。
この中には自分よりも強い妖怪や、天敵となる妖怪達もいる。
そんな妖怪達と無駄にも等しい争いを続けるよりも、人間を相手にした方が楽だと考えたのだ。
例え、その人間が手に余る力を持っていようとも、寝首さえかければ、全てを手に入れる事が出来ると…
妖怪達の雄叫びと歓声。
『三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!三蔵殺す!うおおおおおお!!』
「では、皆様承諾と言う事で宜しいかな?では…」
『妖怪王の座をかけた!三蔵の首争奪戦ここに開始です!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
霊感大王の合図にそこにいた妖怪達が我先にと飛び出して行った。
先ほどの騒がしさと打って変わって静まり返る屋敷。
いや?
そこには、まだ何匹かの妖怪達が残っていたのである。
「話しを持ち掛けたお前が早々に出ないのは何故かな?霊感大王!」
「私はこのゲームを楽しんでいるだけですよ?」
「食えぬ奴よ…それに…」
混世魔王と霊感大王もその場に残っていた。
直ぐに飛び出さなかった妖怪達は、やはり一癖二癖ある者達ばかりであった。
残った者は先に攻めた者達により疲れ果て、弱りきった三蔵を楽に始末する事を考えていたのだ。当然、先に向かった連中では悪名高い三蔵は倒せないと踏み、漁夫の利を得ようと。
と、そこに…
「ん?知らぬ奴がいる…奴は誰だ?霊感大王?」
「奴は…確か…」
部屋の隅に一人、霊感大王に出された御馳走を呑気に食事している者がいたのだ。
その者は、褐色肌の…
豚の妖怪であった。
違和感がある…
そう。それほど強そうに見えない豚の妖怪が何故にこの場所に?
そこに別の妖怪が絡んで行く。
それは一度暴れ出したら手に追えないと言われる。
先程の『九頭馬』であった。
「おい?ちび豚よ!貴様は何故行かなかった?」
ちび豚と呼ばれた妖怪は九頭馬を無視して飯を食い続ける。
「……!」
一瞬呆気に取られたが、無視をされ頭にくる九頭馬。
「この黒豚がぁ!俺を無視するつもりか!」
激情した九頭馬が豚妖怪の首を掴もうとした時、
今まで飯を食っていた豚妖怪が九頭馬に向かって叫んだのだ!
『それ以上近付いたら、二度とお天道様見れなくなるらぁぞ?』
突然の黒豚妖怪の気迫に気圧され、その場に立ち止まる九頭馬だったが、直ぐに冷静になって再び黒豚妖怪の頭をつかみ掛かろうとした。どう見てもハッタリだと感じたからだ。
『動くな!九頭馬!』
そこに今まで黙って見ていた混世魔王が九頭馬を制止させたのだ。
「なっ?どういう事だ混世魔王!俺がこんなチビに負けると言うのか!?」
「いや…そうは言わん…ただ自分の足元をよく見てみろ…」
「足元だと?」
その時、九頭馬は気付いたのである。
『!!』
足元に落ちているウンチに??
「なっ…いつの間に!?」
そう!後一歩!後一歩足を踏み出していたら、九頭馬は間違いなくウンチを踏んでいた!踏んでいたのだ!ウンチを踏んだ者なら解るであろう。
その感触と臭い…気持ち悪い違和感を!
そして、その後の仲間達からのイジメ!
「危なかったらな?もう少しでお天道様を見て歩けなくなる所だったらよ?」
そう言うと、豚妖怪は静かにその場を後に去って行った。
その場にいた妖怪達は皆感じた…
『恐ろしい奴だ…色んな意味で…』
と、まぁ…
そんなこんなで変な黒豚妖怪の事も気になるが、
連合を組んだ妖怪達が今、俺様と三蔵[主に三蔵]に迫りつつあった。
次回予告
俺様達が知らない場所で、妖怪連中が良からぬ事を計画しているようだが関係ねえぜ!ん?しかし考えてみたら・・・俺様!巻き添えじゃねえかよ!とにかく次話も続くぜ!