禁忌の巫女・卑弥呼が犯した三つの大罪!?
三蔵は卑弥呼の魂により救われた。
卑弥呼が残した記憶は三蔵を新たな戦場へと足を運ばせた。
しかし、卑弥呼は何を見たのか?
俺は三蔵…
俺は蚩尤を卑弥呼(霊)に任せ一人先に向かった。
それは卑弥呼の霊が俺に伝えたもう一つの侵入者の存在が原因だった。
卑弥呼が身を挺して蚩尤の封印に成功したおかげで、建物の風景が元の本殿へと戻っていく。
おかげで俺は侵入者の気配を追っていけた。
(最上階の隠密祭壇か?)
そこは本来、卑弥呼が未来を見る(予知)ために篭る神聖な場所であった。
卑弥呼…
後は任せてくれ…
俺は走りながら卑弥呼が俺に残してくれた記憶を思い出す。
卑弥呼は三千院の最期のメッセージを受けとった後、それを俺に伝えるべくテレパシーを送ろうとした時だった。
『人間のオンナァー!待てぇー!!』
「ハッ!」
卑弥呼にはカミシニの力を持った魔物の追っ手が迫っていたのだ。
卑弥呼は眠っている法子を抱き抱え、襲い掛かる追っ手達を己の魔眼の力にて撃退していく。
「この女!強いぞ?」
「まとまってかかれば問題ない!」
魔物は卑弥呼を捕らえようとするが、捕まえたと思うと卑弥呼の身体が霧のように消える。
残像移動?
卑弥呼は法子を抱えながら飛び上がると、魔物に向かって踵落としを…
「そんな人間の女如き攻撃!」
が、卑弥呼の足は金色に輝いていた。
いや?その瞳も同じく金色に輝いていたのだ。
卑弥呼の踵落としは魔物の受け止める太い腕もろとも一刀両断にしたのだ。
左右から魔物が襲い掛かるも、卑弥呼は右手に金色の錫杖を出現させると一回転する。
魔物達は一瞬動きが止まると、その場に倒れて消滅した。
「私達に近付くなら容赦はしません!」
しかし…
(やはり私の魔眼の力が弱まっている?どうしてこんな状況で?)
『!!』
その時であった。
突如、目の前の空間が歪み出し、追っ手達が石化したかのように動かなくなったのだ。
「これは!?」
更に法子や自分自身の身体もまた、石化したかのように動かなくなっていく。
完全に硬直すると…
有り得ぬ事か?
人はもちろん神ですら入り込む事が出来ぬ魔物達の襲撃下にあるこの総本山内部にて、別の何者かが侵入し卑弥呼達に向かって近付いて来たのだ。
「いくら神殺しのカミシニの能力を持った魔物とはいえ、『時』を止められたら人形と同じですね?お姉様?」
「しかし、まさか私達が来た時に限って、このような惨状になっていようとは思わなかったわ…」
「二人とも?今は私達の使命が先決です」
そこに現れたのは三人の女達であった。
彼女達の使命とは?
その中の一番幼い娘が、時の呪縛にて硬直し動かぬ卑弥呼と法子に近付き手を差し出す。
「まさか!?」
動かぬはずの卑弥呼の姿が目の前から消えたのだ。
居場所を探す女達の目の前には法子を抱え背後から気配を感じた。
「貴女達は何者ですか?」
振り返ると、時の呪縛の中でも自由に動ける卑弥呼が三人の女達に向かって問う。
三人の女は動ける卑弥呼に驚きを感じていたが、直ぐに…
『これも救世主の力か…』
と、納得した上で卑弥呼に答えた。
『私達はノルニル!宇宙樹ユグドラシルから参りし時の番人!』
ノルニルとはノルン三姉妹とも呼ばれ、『必然、現在』を司る次女ヴェルダンディー、『運命、過去』を司る長女ウルド、『存在、未来』を司る末女スクルドの三女神である。
「そのような貴女達が、どうしてこのような場所に?」
ベルダンディーは卑弥呼に対し、敬意を示した上で恐るべき事実を告げたのだ。
「私達は禁忌の巫女である貴女を、始末しに来たのです…」
「禁忌?私が?私が何をしたと言うのですか!?」
するとスクルドが目にも留まらぬ速さで、卑弥呼の目の前に迫って来て…
「今から死ぬ貴女には、どんな理由を説明しようと意味はないと思います!」
光の剣を手に襲い掛かって来たのだ。
卑弥呼はスクルドの攻撃を躱しながら問う。
「ノルニル!理由を教えて下さい!」
「問答無用です!」
「ならば仕方ありません!私も死ぬ訳にはいかないのですから!」
卑弥呼は魔眼を発動させるとスクルドの剣を眼前で躱し、掌に集めた気でカウンターを放ったのだが、それを読まれていたかのようにスクルドは卑弥呼の視界から消えて、頭上から姿を現して剣を振り下ろして来たのである。
「残念ね?私は未来を先読み出来るの!貴女の動きは見え見えよ?」
「!!」
スクルドの剣が卑弥呼に迫ったその瞬間…
『お止めなさい!スクルド!』
ベルダンディがスクルドを止めたのだ。
スクルドは渋々剣を引くと…
「どうして止めるの?お姉様!」
すると今度はウルドが前に出て来て、卑弥呼に告げたのだ。
「救世主卑弥呼!貴女に説明致します。貴女が犯した禁忌が世界に及ぼした影響を!」
「私が禁忌?世界に及ぼした影響?」
卑弥呼本人も知り得ない事実が、三人の女神から語られた。
「本来、この世界に選ばれし神を導きし救世主は、卑弥呼一族最強の資質を持ち合わせた貴女だったの。しかし、この世界の時間軸になんらかのズレが生じたのです…
本来なら西暦2000年に起きるはずのラグナロクが天使達の襲撃と言う形になっただけでなく、救世主である貴女がまだ幼少だった事が事の始まり…
しかし、それは貴女の母親が代理に救世主を果たす事で、一旦の集結を迎えるはずだったのです。その後、貴女は完全な救世主として覚醒する…
それが新たな歴史の改変だった。
本来の未来はそうなるはずだったの…
時間軸のズレは貴女の責任ではなかったにしろ、その後の貴女の行為は本来訪れる未来を歪ませる程の大罪へと…禁忌を犯す事になったのです」
「!!」
「その一つ…貴女は西暦2000年の神戦にてアナザーワールドの扉を救世主の力にて開き、異界の神(明王)をこの世界に招いてしまった事!
貴女のいる世界とは別の十二の世界が貴女の開けた扉を介して繋がり、やがてそれは融合していく・・・アナザーワールドとは禁断の世界!
その扉をこじ開けるなんて神をも怖れぬ行為…
この行為は、この後の世界に必ず新たな災いを招き入れる事になるのです。
貴女のそれは枝分かれした時間軸から、世界に災いを起こすであろう孔雀明王や邪神ロキ!他にも様々な凶悪な神々をもこの世界に呼び集める形となり、それは交わるはずのなかった別々の世界を強引に貴女のいる世界に統合させる結果になったのよ。
多種多様の神々は、あたかも同じ時間軸に共存していたかのように顔を合わせ、疑問すら感じなくなっていく…
その乱れた偽りの世界を修正させるべく、因果率は集まりし神々を消去するために、カミシニなる新たなイレギュラーの者まで生み出す結果となったのです。
それが、新たな悲劇を呼ぶ事になるとも知らずに!
異なった世界の統合…
それは歴史の改変!
この先の未来が予測不可能な程、かつてない最悪な未来が待ち受けている。
そして、更なる禁忌…
それは、貴女が『救世主』である事を放棄した事です!」
「私が救世主を放棄?」
するとウルドに代わり、ベルダンディが答えた。
「それは神戦の後でしたね?貴女が瀕死の少年を見付け助けた事が一番の禁忌!
その少年は死ぬ運命にあったはず。
にもかかわらず貴女は少年を助けてしまった。
貴女はその少年を生かすために貴女の魂の半分を少年に移す行為をした。
そのおかげで少年は息を吹き返し命を取り留めると同時に、貴女の救世主の魂をも受け継いでしまったのです。
それが意味する事は、この世界に救世主が二人存在すると言う事!
しかも、本来の救世主が持ち得る半分程度の力を持った半人前の救世主が二人!
このままでは、絶望的な未来への脅威に対して唯一の望みであった救世主がいない世界…
それは絶望と混沌…
世界は消える…
貴女のしでかした気まぐれが世界を滅ぼすのです!」
卑弥呼は女神達の話を聞きながら…
「その話が本当だとしても、それでも私は自分のした行為に後悔は致しません」
「貴女!開き直る気?貴女のせいで世界が終わるのよ!」
スクルドは卑弥呼に対して怒りを覚えていた。
「いえ、貴女達の話を聞いて、私は確信したのです!死ぬはずだった子供とは三蔵…私の行為が三蔵を生かし、更に明王で繋がれた仲間達と廻り会えた。それには必ず意味があると信じています!世界は必ず変えられると信じています」
「信じている?ふざけないで!貴女はそんな根拠のない理由で世界を滅ぼすつもりなの!?」
「決定づけた運命からは神でさえ逃れる事は出来ない!世界は終わるのです!」
スクルドとベルダンディが卑弥呼に迫る。
災いである卑弥呼を討つために。
『終わらせたりしない!私…いえ、三蔵が!
私が見た未来には、三蔵が世界を救うべく光り輝く救世主として現れると…』
だが、卑弥呼の願いは次の言葉で打ち砕かれた。
「その未来はもう失っているのです…」
「それは、どういうことですか?」
「ならば、もう一度見てみなさい?世界の終わりを!!」
「!?」
突然、卑弥呼の瞳が光輝き、未来の映像を映し出したのだ。
それは、卑弥呼が今まで見ていた未来の映像と同じ。
世界の終わりに訪れる破滅の日、
希望の光を持った救世主が現れる。
その者は間違いなく…
三蔵だった。
「世界は三蔵により救われる…」
「その未来映像には続きがあるのです。良くご覧なさい?世界を滅ぼす闇の存在を!」
「闇の存在?」
「闇の存在。それは混沌の使者と呼ばれる世界を滅ぼすために現れる存在」
すると卑弥呼に再び未来の映像が入ってくる?
その未来は卑弥呼の知らない新たな改変された未来だった。
救世主として立ち上がった三蔵と対峙する闇の勢力を束ねる混沌の使者?
「!!」
救世主三蔵の前に現れた混沌の使者は、紛れもなく…
卑弥呼自身だったのだ!!
「貴女は未来の救世主になるはずが、未来を混沌へ招く者へと成長してしまうのです!」
混沌の使者である卑弥呼は救世主である三蔵に剣を突き刺し、三蔵は卑弥呼の名を呼び絶命する。そして混沌の使者・卑弥呼は世界を混沌に…無にしたのだ。
卑弥呼は顔を覆い言葉を失った。
更に未来は絶望を卑弥呼に与えたのだ。
「貴女の今見た未来はこれから起きる私達の知る滅びた未来…」
「貴女達は何を?」
「私達は失いし未来から来たのよ!」
「それでは私が見た未来は?」
「これから起きる未来の顛末…」
「ならば、私が本当に混沌の使徒であるのなら、私の命を貴方たちに捧げます!でも今は待ってください。今、私が死ねば娘が魔物の追手から生きて逃げれません!約束します」
「それは無理です」
「どうしてですか!?」
ベルダンディーは言った。
「貴女はまだ罪を犯したの!それが一番の問題なの」
ベルダンディは卑弥呼の犯した最後の大罪…いや、それは俺と卑弥呼が犯した大罪を告げた。
「貴女の最後の大罪…それは!」
ベルダンディーが指差したのは法子だった.
「どうして法子が大罪なのですか!?」
「その娘は世界から存在が許されないイレギュラーなのよ!」
「イレギュラー?」
「死ぬはずだった男が生きて新たな救世主になるだけで大罪なのに、その男との間に産まれた娘こそ…新たなる災いの火種なのです!」
「その娘は未来、世界を救う光の救世主と滅ぼしえる混沌の使者になる両方の資質と未来を持った不確定要素!」
「救世主として覚醒するならまだ良いけど、そうでなければ?無より産まれしその娘こそが、世界を消し去る宿命を持った災厄に他ないの!」
「私達はこれ以上世界の理を乱されたくないのです。さもなければ、やがてユグドラシルの木が枯れてしまう!私達は未来を見守り導く役目があるのです」
「そのために貴女とその娘には死んで戴きます!」
「!!」
三人の女神は同時に卑弥呼に襲い掛かる。
しかし卑弥呼は意を決して立ち上がる。
その瞳は戦う意志があった。
「私は戦います!例え未来が絶望でも、私が…いえ?三蔵が未来を変えてくれると信じて!」
卑弥呼は力が思い通りに発動出来ないまま、法子を守るように庇い三人の女神の攻撃を凌いでいく。だが、ついに卑弥呼の魔眼の光が完全に消え覚悟したその時!
強烈な光と神圧が、三人の女神達の攻撃を払いのけたのだ。
卑弥呼もまた何が起きたか解らないまま、気付くと法子が目の前から消えている事に気付く。
『法子!』
すると光の中から、何者かの声が卑弥呼の脳に直接聞こえて来たのだ。
《この娘は私が戴きます!》
魔眼の使えない卑弥呼は身動き出来ずにいた…
三女神もまた身動きが取れないでいた。
「馬鹿な…何者なの?今は私の力で『時』を止めているはず!」
「姉さん以外に時を操れる者がいるとでも言うの!?」
「異界の神か?でも逃がさないわ!」
だが、ベルダンディーが二人を止める。
「二人とも!無理みたい…残念だけどこの時間にはもういられない…タイムオーバーよ」
「もう時間なの?」
「やむを得ないわ。これ以上この時間に滞在すれば私達が時間軸を狂わしかねない」
三女神は、卑弥呼の目の前から霧のように消えていったのだ。
だが、残された卑弥呼は今だに光の主からの強烈な威圧感で身動き出来ずにいた。
「貴方は何者ですか?法子を!私の娘を返して!法子ぉーーーー!」
その卑弥呼の叫びに目を覚ます法子…
「…ん?母様?」
同時に時は再び動き始めたのだ。
卑弥呼が残された有りったけの魔眼の力を解放させて呪縛を打ち破り、光の主と法子を追い掛けようとしたその時だった。
『もう、逃がさないぞ?女!』
「!?」
背後に迫っていた蚩尤に背後から触手で貫かれ、命を絶たれたのだった。
法子はその惨劇を目の当たりにして、再び気を失い…
光の主は、法子を連れてその場から消えた。
それが卑弥呼が俺に残した記憶の全て…
クソォ!蚩尤の野郎…
法子を喰らったと俺に話したのは、俺を挑発し、絶望に陥れるためだったのか?
だが、俺は…
涙を拭い取り、決意したのだ。
卑弥呼…
俺の命はお前から貰ったもんだったのだな?
俺の中にはお前の魂が宿っているのだな?
だったら、俺とお前は永遠に一緒だ!
だから、一緒に取り戻そう…俺とお前の愛の証たる…
最悪なる娘…
法子を!!
そして、俺は追い付いたのだ。
法子を誘拐し連れて行った謎の侵入者の前へ!
次回予告
三蔵「卑弥呼・・・
俺は必ず、法子を救ってみせる!
だから・・・信じろ!
俺を信じろ!!
お前が最期まで信じた俺を信じるんだ!」




