天才でなくてはならぬ!三千院の決意!私はお前ともう一度・・・
大徳とバサラの壮絶なる死・・・
三千院は二人が残したメッセージを解読出来るのか?
そして、亡者大徳との戦いの行方は?
私は三千院…
私は大徳とバサラの最期のビジョンを見た上で、目の前に立つ操られた亡者大徳の屍と戦っていた。大徳の拳を紙一重で躱しながら。
大徳の力をそのまま受けてはダメだ!
力を受け流さねば…
だが、ほんの少しでも見極めを誤れば、その力の渦に飲み込まれ、私の身体はひとたまりもないだろう。
仲間として共に戦っていた間は心強かったが、今は私にとって最強の敵…
大徳…
この私が初めて心許し、認めた友…
小角様の下で初めて出会い、最初は不器用な奴と侮り見下していたが、アイツは見る見る力を付けた。この私を追うように…
私に追い付こうと努力し切磋琢磨するお前は短期間で力を付けて、私と同等…いや、私以上の素質をも開花させていく。
そして私の背中を任せ、今では私と並び立つ程に成長してくれた。
そんなお前とこんな形で戦う事になろうとは…
「大徳!いつまでもそのような醜態を晒さぬよう、一思いに終わらせてやるからな!」
大徳の攻撃を躱しながら私は明王天地眼の力を額に集中させる。
すると私の手には神気で光り輝く弓と矢が握られた。
『天地降魔三千天弓』
私は大徳から距離を取り、大徳に向けて光の矢を射ったのだ。
光りの矢は大徳を捉えた!
(終わりだ…)
…かに思われた。
だが光りの矢は大徳に命中する直前で消失したのだ。
それは、大徳の身体から噴き出す光り輝くオーラによって。
「大徳…お前!既に極めていたのか!」
そのオーラは紛れもなく私の力と同じ『天地眼』であった。
(私の天地眼の力を籠めた矢が、大徳の天地眼のオーラにより打ち消されたのか?まさか亡者になっても天地眼を操れるとは思わなかった…)
『!!』
すると大徳が真言を唱え始めたのである。
『オーン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ!』
「まさか…!!」
私の目の前で大徳が大威徳明王へと変化したのだ。
(やはり、そう簡単にはいかぬか…)
「ならば私も全力を出さねばななるまい!」
『オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バザラ・ウン・パッタ!』
私もまた真言を唱え、その姿を降三世明王へと変化させた。
『降三世明王・一真!』
降三世明王と変化した私に向かって来る操られし大威徳明王。
手加減は出来ぬ…情けは出来ぬ…それは私自身が一番知っていた事。
負ける訳にはいかないのだ!私は天才だからな!
しかし、本当に強くなったな?
大徳よ…
この私を追い詰める程にまで…
いつしか私は己を天才だと自負する事で、大徳、バサラ、蛇塚、三蔵達の手本とならねばならぬと感じていたのだ。
私自身、お前達に負けぬように隠れて鍛練を積んでいたのだぞ?
やがて天才なんて言葉が恥ずかしく感じて来たほどだ…
だが、あえて私は天才でなくてはならない!
天才でなくてはならないのだ!
そうでなければ、この未曾有の窮地からも、目の前で苦しむお前の魂をも救ってやる事も出来ぬからな!
私は両手を広げて構えを取る。
大徳の左右から繰り出される手刀や蹴り、正拳の連打を受け流しつつ私は魔眼・鷹の眼を発動させていた。紅色に輝く瞳の奥で大徳の魂を見ていた。
やはり、もぬけの殻か…
大徳の魂が宿っていない抜け殻…
友の姿をした人形…
死者の魂を!
我が友の亡きがらを辱める所業!
許せんぞ蚩尤!
私は大徳に掌手を放ち、弾き飛ばすと、呼吸を一気に吐き構えを取る。
大徳は弾かれながらも踏ん張り堪え、天地眼を発動させて同じく構えを取っていた。
『天地明王の拳!』
大徳は次の大技に全ての力を籠めるつもりのようだな。
大徳よ…お前との決着がまだついてなかったな?
出来る事なら、生きているお前と拳を交わしたかったぞ!
「受けてたとう!」
私は覚悟を決めた。
『さぁ来い!我が友よ!』
二人同時に動いた。
大徳の放つ渾身の一撃が放たれる。
私は意識を集中し大徳の拳を躱し、手刀を突き付けた。それは瞬時に先の先をイメージし、数手先を読む。幾度と見てきた友の拳を…我が魅とれる程の逞しき友の拳…
その拳を凌ぎ、躱した!
その僅かな隙を抉じ開け、私は手刀を大徳に…
「なっ!?」
躱した筈の大徳の拳?
それが、数ミリ?僅か数ミリ軌道が変わったのだ?
その数ミリは命取りの単位の誤差だった。
私は大徳の拳の引力に身体が引っ張られ、そして大徳の拳が私の脇腹に突き刺さった。その一瞬、時が動き出したかのように私は弾き飛ばされていた。
何てことだ…
私が読み違えただと?
いや、違う!
大徳は私をイメージし幾度と修練を積み重ね、それは成長した今でも続けていたに違いない。 数千、数万…いや?それ以上…この私を想定して幾度と正拳突きを繰り返し、イメージした私を相手に修行を積んだのだろう。
大徳の拳は私の数千数万先の読みを凌駕する修練の賜物!私を相手に身体が無意識に反応し、僅か数ミリの誤差を生み出したに違いない…身体に染み込んだ魂の拳だったのだ。
身震いする執念。
お前は私が認める好敵手だった。
私は血へどを吐き、自らの腹部を見た。
私の身体は致命傷に近い状態だった。
私もまた本能的に後方へと飛び、僅かだが大徳の拳の渦から逃れていたのだ。
私は…
「あっ…あ…あははは!」
血を吐きながらも笑いがこみあがった。
大徳よ…ついにお前は私を越えたようだな?
見事だぞ?あっちへ逝ったら聞かせてやるよ。
だが、しかし!
勝負には負けたが…
私は、ここで終わる訳にはいかないのだ!
私にトドメを刺そうと大徳が一歩一歩近付いて来るのが解る。
そして私を見下ろし拳を振り上げた時…
『教令輪身・金剛!』
私の身体から凄まじくも激しいオーラが噴き出したのだ。
そのオーラの爆発で、大徳が吹き飛ばされる。
これが私の奥の手…
瞬間的に己の力を爆発させる秘奥義!
三蔵が使う金色の魔眼の爆発的な力を私なりに解析して、自己流的に身につけたのだ。だが、この奥義には弱点があった…
著しく魂の消耗が激しいのである。
使い続ければ確実に死ぬ!
だが、今の私には心配無用!
しかし、三蔵はこのような奇跡的な力を平然と使っていたのだな?
まさに本当の天才…
いや、神才なのだと実感する。
まさに救世主たる力!
だが、やはり未熟…
普段から悪態や外道じみた事をすれこそするが、その心は誰よりも澄んでいる。
あいつは心が鬼に成り切れない奴…
いや、あいつは心を鬼にしてはならないのだ!
私は先程から三蔵がここに向かって来ているのを感じていた。
三蔵にこの大徳と戦わせてはならない!
三蔵の事だ…
身を挺して、傷付き、大徳の魂を救おうとするのは目に見えている。
無駄だと知りながらも…
既に、大徳の魂が此処にないと解っていても…
それではダメなのだ!
時間が惜しい…
あいつには悲しみを乗り越えてでも、先に向かってもらわなければならないのだからな!
再び立ち上がる大徳に私は構えを取る。
(汚れるのは、鬼と化すのは私だけで良い!友を再び殺すのは…手を汚すのは私だけで充分だ!)
私はふらつきながらも壁に手をつき、立ち上がる。
そんな私の身体は光り輝きながら修復されていく。
失われた臓器が復元し折れた骨が戻っていく?
瞬間再生?
違う…これは金の錫杖の要領である。
気で無機物を作るのではなく、人体をイメージし構成したのだ。
つまり、私の気が尽きれば消えてしまうのだ…
蚩尤のような再生力のような………
殺しても死なぬ化け物とは違う不便な技だ…
それにしても最後まで大徳とバサラが託してくれたメッセージを解けなかったとは、天才の面目丸つぶれだよ…
あの世に行ったら、お前達に笑われるな…
ふっ…
出来る事なら、もう一度お前達と酒を酌み交わしたかったぞ…
(やり直せたなら…)
『!!』
(まさか!)
その時、私は二人のメッセージの謎に気付いた。
「うぐわぁああ!」
私が油断した直後、前方から現れた大徳の放った正拳が直撃したのだ。
『天地・明王の拳!』
私の背中が焼けるように、皮膚や肉だけでなく臓器や骨を消し去っていく…
咄嗟に後ろ蹴りで大徳を蹴り放し、同時にイメージした気が己の身体を作り上げていく。
(自分の身体に無駄な気は使えん…)
「次の一撃に、私の全てを籠める!」
私は弓と一本の矢を構成すると、上空に向けてから今一度構え直した。
(既に準備は出来た!)
大徳が矢を放たせまいと再び迫って来ていた。
「遅い!お前の魂!我が命と引き換えに弔ってやろう!これが私の最後の一矢だぁ!」
強烈な閃光が戦場を照らし、消えていく意識の中で、私は卑弥呼にテレパシーを送ったのだ。
後は頼むぞ、我が妹よ…
そして、救世主三蔵よ…
未来を託そう。
次回予告
三蔵「俺がたどり着いた時・・・
なあ?これは、夢なんだよな?
誰か俺に夢だと・・・言ってくれ・・・」




