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聖輪奇聞・転生記!~神を導きし救世主~  作者: 河童王子
神を導きし救世主!
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あの日の再来?鬼のいる医院?

三蔵は不動明王の転生者である光明[ミツアキ]と出会う事が叶った。


そして三蔵と同じく転生者探しに出たこの男もまた・・・


俺は今、一人…


明王の転生者のいる地に向かっていた。

俺の守護神・大威徳明王を手に入れるがために。


俺の名は大徳力也…




話は遡るが…

俺達は卑弥呼様の占い水晶に世界各地の何処かにいると言われる明王の転生者達の姿が浮かび出されていく。幸いと言うべきか、明王達は皆日本に転生していた。


三千院と蛇塚に至っては身内であった事は驚きであったが、三蔵とバサラ、それに俺に関しては一人一人転生者のいる地へと向かう事になったのである。



俺が向かった先…


そこは長野県だった。

俺は此処に来る途中で、いろいろと噂を聞いた。

そこは人気の少ない町から外れた小さな医院。


鬼のいる医院…


この医院では夜な夜な奇妙な呻き声や、何かが壊れる音が聞こえて来るらしい。

その上、小動物の死骸が転がっていたり、何か腐ったような異臭がすると噂されていたのだ。

不審に感じた近所の住人の通報で、何度か警察が出向いたらしいのだが…

どうやら、以前この医院の主人が警察組織の上の関係者の手術を行い、命を助けた過去があった事と、裏金を渡した事でうやむやにしたと言うのだ。


「………」



俺は医院の前で立ち止まったままでいた。


俺には…


この医院と、転生者に心当たりがあった。



『剣崎医院』



剣崎か…もしやとは思ってはいたが、やはりそうだったか…



卑弥呼様の水晶に映し出されたのは、この医院のみであった。

医院と聞いて、俺にはピンときた。

そして、この医院に辿り着き、看板の『剣崎』の文字を見て確信したのだ。


『菜々子さん…』



俺にはかつて愛した人がいた…


愛した…


いや、実際片思いだったのかもしれない…


まぁ…思い出と言っても、ほんの短い『時』だが、俺にとっては掛け替えのない幸せな『時』

俺を孤独から抜け出させ、人としての優しさを持たせてくれた…


それが菜々子さんだった。


が、俺の馬鹿な行動から、その大切な『時』は止まった。

幼い子供達の『時』を道連れにして…


「ふぅ……」



俺は深い溜息をつくと、その医院に入ろうと決意する。


ガチャガチャ…


(開かない?休みか?)


すると、暫くしてから中から足音がして、鍵を開ける音がした。

俺は心の何処かで、菜々子さんにまた会えると心が躍ってしまっていた。

だが、菜々子さんは過去の記憶を失っているはず…


俺の事は憶えてはいまい…


それでも構わない…


菜々子さんを一目見たい…


たとえ、既に人妻であったとしても…



(ふふふ…俺って案外、未練がましい奴だったのだな…今後は蛇塚の奴をからかうのは控えよう…うむ)


そして、ゆっくりと扉が開いた。

しかし中から現れたのは、頬がこけ、身体付きも痩せた眼鏡男だった。

男は扉を開けるなり、悲鳴をあげた。


そこに現れたのは見上げるほどの修行僧の衣を纏った大男だったのだ。

無理もあるまい。

男は俺を見上げながら腰を抜かすようにへたりこむ。

そして脅えながら「すみません…もう、医院は閉めてしまっているので…」と言って、再び扉を閉めようとしたのである。


「待ってくれ!」


俺は閉めかけた扉を掴み強引に開けたのだ。

当然、眼鏡男は俺の力に負けてへたりこんでいた。


「何だ!君は?警察を呼びますよ!」



俺は眼鏡男を覗き込み直感した。

この男が、菜々子さんの旦那なのだと。

俺はとりあえず、


「私は、通りすがりの修行僧です。この医院の噂を聞いて参りました」



と、咄嗟に嘘をついた。



「修行僧?何かの宗教か何かですか?止してください!どうせ周りから変な噂を聞いて来たのでしょうが、結構です!どうせ金儲けの宗教なんか信じませんよ!私は!」


「うむ。お金は一切かかりません」


「ボソッ(いや、正直お金はいくらかかっても構わない…)」


「?」


「とにかく帰ってください!失礼します!」


「待つのだ!」



直後、俺は旦那の後ろに見える部屋の中から、異様な気を感じたのだ。


「少し、お邪魔する!」


「まっ…待て!あんた!」



俺は旦那が止めるのを無視して、強引に医院の中に入って行く。

そこで俺が見たのは!


「何だこりゃあ?」



医院の中は、壁から床まで血だらけになっていた。

そして、手術台には切り刻まれたかのように散らかって落ちている骨や肉片…


ここで何を?

俺は険しい顔で追いかけて来た旦那を見た。



「心配しないでください…それは、牛や鶏なんかの動物の肉ですから…」



旦那は見られたくなかったモノを見られ、壁際にしゃがみ込んでいた。



「挨拶がまだでしたね?私のこの医院で医師をしている…いや、していたと言った方が正しいですかね?剣崎と言います」



旦那は仕方ないと、事の全てを語り始めた。


それは、この旦那と菜々子さん…


それに、娘さんの話だった。




「私達の親子は、それは幸せな家庭でした。

医師である私に、美しく優しい妻…

それに可愛い一人娘。自分で言うのも恥ずかしいのですが、誰もが羨むほど幸福な家庭だったと思っています。しかし…

いつまでも続くと思っていた幸せも、あの日の出来事から脆く壊れていったのでした…

それは…」



『妻の死…』



えっ?


その時、俺は自分の耳を疑った。

そして、その意味を理解した時俺の中の時が止まった。


菜々子さんが…どうしたって?



「もともと身体が丈夫だった訳でもありませんでした…心臓麻痺…私が医院で診察をしている間に娘と車で買い物に出て、その運転中…菜々子は突然胸に痛みを感じて苦しみ、そのまま事故を起こしてしまったのです」



菜々子さんが死んだ…だと?


「私は医師なのに!仕事が忙しい事にかまけて、菜々子が病を患っている事に気付かなかった!事故の後運ばれて来た菜々子に、私は成すすべがなかった…どうする事も出来なかった」



剣崎は自分自身への怒りから壁を殴ると、その手から血が滲む。



「医者が大事な指を痛め付けるのは止しなさい!」


「…医者なんて、名ばかりですよ…」


「噂で聞いたぞ?以前は名のある名医だったと!その手は人を救う事が出来るのだぞ?」


「…何が医者ですか!愛する妻を…掛け替えのない大切な人を救う事が出来ないで、何が医者と言うのですか?私には誰も救えたりはしないのです…」



俺にはこの男の苦しみが解る。


俺もまた、あの日…


菜々子さんを救う事が出来なかったのだから…


責める事なんか出来ぬし、お門違いだった。


その時、俺はこの旦那が話を止めて俺の顔を見ている事に気付いたのだ。



あっ…


俺の目から一粒の涙が流れ落ちていた。

俺は涙を拭い、咳ばらいをする。

驚いた旦那は…



「貴方…もしかして、妻のお知り合いなのですか?」


「いや…すまない。俺は涙もろい体質なんだ…で、娘さんはどうなったのだ?やはり事故で?」


「いえ…娘は無事でした…ただ、あの日以来…」


「あの日以来?」



旦那は目を伏せながら震えるように言葉にした。


「…鬼と化したのです」


「鬼だと?どういう事だ?」



「娘は妻が亡くなった後、暫く寝込んだまま目を覚まさなかったのです…身体的な理由よりも、精神的な理由でしょう。そして、娘が目覚めた時…あの子は私に言ったのです。


肉を食べたいと…


当然、少しでも早く立ち直って欲しかった事もあり、あの子が望んでいるので、私は直ぐに肉を焼いて出したのですが…娘は出した肉には目も向けず、まだ調理していない生肉に食らい付いたのです!私は止めようとしましたよ?だけど、あの子は止める私を片手で放り投げたのです。

子供の細腕とも思えない力で!それから…

あの子は、血のしたたるような生肉しか受け付けてくれなくなったのです。

私は医者として、娘が何らかの病気じゃないかと思い、数え切れないほどの資料を読み漁り、ありとあらゆ治療法を試し、手を尽くしました…

だけど、結局…何も解らないまま…

私が唯一出来る事は、娘に動物の生肉を運ぶだけでした。


あの子は…喜ぶんですよ?

血の滴る生肉を食べながら、満面の笑みで…


医者として!父親として!

何も出来ない私は無力です…

私は…!!」




旦那は自分自身の無力さに涙を流しながら語っていた。

俺は旦那の肩に手を置き、


「俺ならあんたの力になれる!いや、俺はそのために来たようなもんだからな!」


「えっ?」


「では、娘さんのいる場所に連れて行って貰おうか?」



すると旦那は、不思議と突然現れた怪しい俺の言葉を信じ、娘のいる部屋へと案内をしてくれた。そこは、医院から少し離れた別荘であった…


ここに、いるのか?


菜々子さんの娘…



大威徳明王の転生者が…

次回予告


あの日をやり直せられるなら・・・


俺は、この身も惜しくはない


だが、二度と戻らないのであれば・・・


俺は、繋がれた運命の縁の中で、足掻き、もがき、闇の中でも必ず・・・


残された一欠けらの希望を・・・


必ず掴みとってみせる!


それが、俺の代償だと信じて・・・

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