天才であるがために?三千院の戦う意味!
若きしの大徳は小角の下で三千院とともにいた。
そして彼等は三体の明王鬼神を相手に出たのだ。
俺は大徳力也…
俺は三蔵と蛇塚に、三千院と出会った時の話を聞かせてやっていた。
そう。あの時の俺達は敵対しあっていた。
俺と小角殿。そして三千院の奴は、人間との契約が失敗した明王が鬼と化した『明王鬼神』の討伐に出向いていた。
明王保持者としての責務でもある。
俺達は山に登り、明王鬼神達の居場所を探していた。
いや、居場所は驚くほど直ぐに解った…
それ程悪意に満ちた邪気が三つ、その一帯から感じ取られていたのだから。
俺達は身を隠しながら、その方向を目視した。
(かつて、俺の前に現れた鬼神とそっくりじゃねぇか…)
そこには、間違いなく三体の鬼神が三竦みで争いあっていた。
どうやら、鬼神達は主導権争いをしているようだ。
が、その力は拮抗し身動き取れない状態だったのである。
「どう致しますか?小角殿?」
「これ程とは思わなんだ…」
「…………」
三千院は暫し黙った後、俺達に提案した。
「あの鬼神達は今、お互いを牽制していて身動き取れないでいます。その隙を狙い、一気に封じてしまうのはどうですか?」
「そうじゃな…だが、油断は出来ぬ!お主達は儂の合図があるまで動かぬのじゃぞ?」
「解りました」
小角殿はそう言うと、直ぐさま行動に移った。
鬼神達に感づかれぬように近付きつつ、移動しながら奴達の四方に結解を張っていく。
流石とも言える段取りで完成していった。
「思ったよりも楽に終わりそうだな…」
そう思った瞬間だった。
「何か嫌な感じがする…」
三千院が再び鬼神達を見た時、三千院は叫んだのだ。
「小角殿!危ない!」
それは小角殿が最後の結解を張り終える間近だった。
三千院の声に反応した小角殿は、背筋に寒気を感じその場から飛びのく。
直後、小角殿の張っていた結解が吹き飛び、そこから一体の鬼神が現れたのだ。
「馬鹿な!感づいておったのか?いや、罠か!」
小角殿の背後には、もう一体の鬼神が逃げ場を塞ぐように現れていた。
「小角殿が危ない!俺達も出るぞ!」
「そう簡単にはいかなそうだぞ?」
小角殿の救援に飛び出そうとしたその時、俺は背筋に寒気を感じる。
俺達の目の前にも、もう一体の鬼神が迫っていたのだ。
小角殿は状況を踏まえた上で…
『狼神変化唯我独尊!』
※ロウジンヘンゲユイガドクソン!
小角殿の前後に二体の鬼神が現れ、そのまま小角殿の中に取り込まていく。
小角殿?その変化は一体?
そこには、狼の形の鎧を身に纏った小角殿が、毅然と立っておられたのである。
「二体の鬼神の魂を己の魂の中に取り込んだのか?面白い…あのような技は初めて見る…」
と、冷静に分析している三千院に鬼神が襲いかかる。
「来たぞ!」
俺と三千院も同じく戦闘体勢に入ったのだ。
『俺達の魂の中にいる明王よ!力を貸してくれ!』
だが、明王鬼神の力は俺達の予想を上回っていた。
その膨大なる覇気が俺達の身体を拘束し、金縛りにしたのである。
「小角殿から教わった例の業は修得しているだろうな?」
「もちろんだ!」
それは、己の気を身体中に張り巡らせ、同時に己の細胞組織にまで気を送りながらコーティングする秘術。それは己の膨大なる力で自分自身の身体が壊れないように。
それが出来たなら、己の持つ力を限りなく限界にまで解放出来るのだ。
「ウォオオオオ!」
「ハアアアア!」
俺達の細胞レベルにまで気が行き渡り、満たされていくのが解る。
そして、気合いで金縛りを解いたのだ。
それにしても三千院の奴…
俺が何年もかけて修得した業を、いつの間に?
いや、こいつは確かに見ていた。
奴は俺の修業を見ながら、その業の原理を把握した上で、自力で修得したのか?
認めたくはないが、本当に天才だよ!お前は!
俺が凹むほどにな…
だが、その天才ぶりが今の俺にとって心強いのも確かだった。
俺達は向かって来た明王鬼神の拳を左右に躱した後、同時に攻撃に転じる。
その手には、己の気より構成された『金の錫杖』を握り。
金の錫杖の破壊力は気の練り方次第で鉱石をも砕く事が出来るのだ。
「ウォオリャ!」
俺の渾身の一撃が、明王鬼神の首元に命中した。
やったか?
だが、明王鬼神は何事もなかったかのように俺の錫杖を掴み、そのまま俺事投げ付けたのだ。
「うがあああああ!」
俺は地面に転がりながらも体勢を整え明王鬼神を睨む。
そこでは三千院が明王鬼神と交戦している。
明王鬼神の攻撃を紙一重で躱している三千院。
あの拳が直撃でもしたら、一たまりもあるまい…
三千院の額にも汗が垂れ落ちていた。
「せぃやああ!」
三千院の錫杖の突きが明王鬼神の胸元に直撃した。
ダメだ…俺の一撃ですら、びくともしなかったのだから…
だが、三千院の一撃は明王鬼神を突き飛ばしたのだ。
馬鹿な!何故??
腕力には自信のある俺の攻撃ですら、びくともしなかったのに?
すると三千院は、背中越しに俺に言った…
「フッ…私とお前の一撃は一緒じゃない!腕力ではないのだ。大切なのは気の質だ!もっと繊細に!純度を上げるのだ!さもなくば、お前は死ぬぞ?今までの努力が無駄に終わり、無惨にここで死ぬだけだ!」
俺が無駄死に?
ふっ…フザケルなよ!
俺は死ねない…
俺の命は…俺の命は俺だけのものでないのだからなぁ!
そう…幼くして死んだ孤児院の子供達と約束したのだ…
俺はあの子達の分まで生きて、新たな悲劇を生ませぬために戦い抜くのだと!
『グゥオオオオオ!』
俺は雄叫びをあげて魂の底から気合いを入れた。
そして、三千院と交戦中の明王鬼神に向かって突進して行った。
再び繰り出した俺の錫杖は明王鬼神に直撃し、今度は快進撃の如く吹き飛ばした。
「全く…最初からそうやれば良いのに!不器用な奴だ!」
「ホザケ!誰もが貴様みたいに出来ぬから、人は足掻き苦しみ、そして乗り越えた先に成長するものなのだ!」
「…………」
「それに俺には背負うものがあるのだ?貴様とは違うのだ!」
「私にだって背負うものもある…」
「?」
「私の師のためにも…」
「お前の師である不動鷹仁殿は健在なのだろ?」
「あぁ…生きてはいる…だが、戦士としては死んだのだ!あの方はもう戦えぬ身体なのだ…」
それは後に聞いた話なのだが、三千院が不動鷹仁殿と二人だけで明王との契約を果たした時の話…まだ若い三千院は明王が繰り出す攻撃を凌ぎきれず、足を躓き、その場に倒れたのだ。
そこに明王鬼神と化した明王の拳が放たれた。
(ダメだ…躱せない…)
三千院は覚悟し目を綴じたが、明王鬼神の拳は三千院には当たらなかった。
「?」
そこで三千院が目にしたのは、三千院を庇った不動鷹仁殿が、明王鬼神の拳を背中越しに身を挺して受けた姿だったのだ。
「一真よ!諦めるな!諦めたら、そこには死しか残らぬのだぞ!」
「師匠!お退き下さい!」
「退かぬよ…たとえ生き残れたとしても、一度でも諦めた者は肉体だけでなく精神が死ぬのだ!魂が死ぬのだ!お前は生きろ!足掻き、もがき、苦しんでもなお諦めず!前のめりに生き抜いてみせよ!」
「ぁあ…」
「大丈夫…お前は(…私の息子)…天才だからな?」
不動鷹仁殿の身体は血だらけになっていた。
身体中の骨や腱が完全にイカレテいるのが解った。
目や口から血がこぼれ落ちて、三千院の顔に垂れる。
「師匠!解りましたからお退き下さい!私は諦めません!生き抜きますから!」
その時、三千院は不動鷹仁殿の顔に、今までに見た事のないような優しい顔を見たと言う。
これが父親としての不動鷹仁殿が、三千院に向けた愛情だったと気付かずに…
三千院を庇った後、不動鷹仁殿はゆっくりとその場に倒れたのだ。
「師匠…うっ…うわあああああ!」
これも、三千院にとって初めて見せた感情だったのかもしれない…
その後、三千院は見事に明王と契約を果たしたのだ。
「私は諦めぬ!負けぬ!生き残る!それが天才だからな!」
「天才さんよ?今回ばかりはお前の天才に頼らせてもらうぞ!」
「馬鹿を言うな?相手の力量を見計らえ!私一人では無理に決まっているだろ?私はお前の力もアテにしているのだからな!だから足手まといにだけはなるなよ?」
なに?こいつが俺をアテにだと?
アハハ…アハハハハハ!
「フム。では、参ろう!三千院!」
俺と三千院は明王鬼神に向かって行った。
その頃、小角殿は…
「うぐぅ…」
二体の明王鬼神に苦戦を強いられていた。
次回予告
三蔵「なんか解る気がする!身近に何でも出来る奴がいると焦りもするが、負けるかと背伸びすると、引っ張られて自分も伸びる感じがするもんな?」
大徳「ふむ。だが、そこで腐ってしまえば、そこで成長は終わる。結局は己の気の持ちようだ!」
三蔵「しかし・・・腹は立つ!」
大徳「それは否定せん」
三千院「ヘックション!」
晴明「ヘックション!




