三蔵の結婚と破局??
三蔵の心は卑弥呼を求め、ついに二人はゴールインしたのだった。
そして、今?
俺は三蔵…
え~俺、結婚しました。
と、言っても…まったくもって実感ないのだけどな?
ちなみに式は秘密裏に身内だけで行われた。
卑弥呼が座主である事は側近中の側近しか知らされていないトップシークレットだからだ。
あはは…結婚っかぁ…
まさか、こんな日が来るなんて考えてもみなかった…
本当なら、小角や死んだ両親にも祝って欲しかったんだが、それは今となっては夢物語なのは理解している。
しかし俺を中心に周りには三千院と大徳、バサラと蛇塚が囲むように座っていた。
そこに重臣達が何人か入って来て、俺に挨拶をしていく。
正直、知らない奴にお祝いされても嬉しくもない…
俺は顔を引き攣りつつ笑顔を作ってみる。
笑顔って意外と難しい…
すると、俺と卑弥呼の祝いに晴明が駆け付けてくれたのだ。
「中国遺跡ぶりだな?三蔵」
「あぁ…」
「全くお前には毎回毎回驚かされてばっかりだ…まさかお前が結婚とはな?」
「正直、俺自身が一番驚いているんだからな!」
「おめでとう…三蔵!」
「ありがとう」
俺と晴明は強く握手し、かつての蟠りを捨て、お互い抱きしめあった。
鼻血は出なかった。
「ん?」
見ると蛇塚が突然挙動不審にソワソワし始めたのだ?
どうしたんだ?アイツ?
その理由は直ぐに解った。
入り口から二人の来客が入って来て、俺の方に挨拶に来たからだ。
その一人には見覚えがあった。
「空海!」
空海とは、かつて俺が幼少期に死にかけた所を助け出し、こっち側(密教)の世界に入るきっかけになった人物であり、小角に引き合わしてくれた人物だ。
実は卑弥呼の付き人でもあるらしい。
後に俺は小角と旅に出たから、それっきりだった…
「久しぶりだな?いつぞやは世話になった。いや、ありがとうと言うべきだよな?俺が今生きているのも…」
すると空海は…
「三蔵!本当に大きくなった。それに逞しく強さを感じるぞ?これも小角様のお陰よな…」
俺は胸が熱くなった。
「あぁ…小角が俺を導いてくれたから…今の俺がいる。あんたが俺と小角を引き合わせてくれたからだよ!本当に、ありがとう」
空海は感慨深く「うむ」と頷いた後、一緒に連れて来ていた娘に目配せをし、車椅子を押しながら自分の席に向かっていった。
誰だ?あの女?歳は俺くらいか?
見た所、一般の人間に見えるんだが?
娘は車椅子に乗っている所を見ると、足が悪いのか?
髪の長い細身の色白な娘…
なかなかの美人だ…
(お近づきになりたい!)
おっと!
俺は今から結婚するのだった!すっかり忘れる所だったぜ!
いや、忘れるなよ…俺。
すまない…卑弥呼…さん
罪悪感が…
と、そこに蛇塚が呟く。
「詩織だよ…」
へ?詩織って確か蛇塚の妹だよな?
そういえば、蛇塚と妹の詩織は空海の所に世話になったと聞いていたが…
ちなみに空海と蛇塚は師弟関係なんだ。
その割に、二人は挨拶もしていなかったように見えたが?
気のせいか、二人ともソワソワしていたようだし…
ん?
見ると、蛇塚の妹の詩織は空海が座した隣に座り直し空海の手を握っていた。
んん?
蛇塚は言った。
「まさか…」
「まさか?」
「まさか詩織がファザコンだったなんて…」
「エッ?」
そうなのだ…
聞いてビックリ、何と空海と蛇塚の妹の詩織は…そういう仲なのだと!?
「歳が離れ過ぎてるよ!うううっ…空海さんとは師弟関係にはなったが、義兄弟になるなんて…アアア!」
「……………」
「しかも、詩織の方から猛アタックしたんだぞ?俺は今後、空海さんとどう接すれば良いんだよ!」
「た…大変だな?」
内心、シスコンの蛇塚には相当な打撃だろうなぁ…
と、そこで周りの連中がざわめき騒ぎ出した。
今度は何だ?
「三蔵!卑弥呼様の用意が出来たようだぞ?」
大徳が俺に告げると、俺が振り返った。
そこには白衣の結婚装束姿の卑弥呼が現れたのだ。
そこにいた奴達はもちろん、卑弥呼の美しさに…俺さえも目を奪われ釘付けになってしまった。
「綺麗だ…」
すると卑弥呼は俺の隣に座り、俺に微笑む。
俺、マジで結婚するのだなぁ…
と、そこに卑弥呼付きの女官が現れて、赤子を連れて来たのである。
忘れちゃいけねぇ…
俺は奥さんだけでなく子供もいるんでした!
つまり…出来婚…すいません。
少し話は遡るが、俺と卑弥呼との間に産まれた子供には、全くと言って良いほど特別な『力』が備わっていなかった。
俺と卑弥呼との子供なら、もしかしたら化け物じみた力を持っているのではないかと期待され、周りから霊力診断なるものを行うように勧められたのだ。
元来、霊能力は産まれた時に何らかの力が現れ、感知出来るそうだ。俺の方も物心ついた時には目覚めていたしな?卑弥呼一族はその中でも人並み外れた力を持っているらしい。
が、やはり…
俺達の子供には、力は感じられなかったのである。
これが意味する事は?
三千院曰く、必要ないからだと言うのだ。
必要ないと言うのは、次の世代に力が必要ないと言う事!
それは、今の世代…
俺と卑弥呼の生きている時代に世界を揺るがす何かが起きると言う事を暗示しているのだと…
卑弥呼はそれを聞いて、
「良かった…」
「ん?」
「出来る事なら私達の子供には辛い戦いを味わう生き方などして欲しくないですから…」
確かに…そうだ…
そのためにも…
「まぁ、何が起きても俺が何とかしてやるぜ?何せ俺は、神を何かする救世主なんだろ?任せておけよ!」
「少し違いますわ…」
とまぁ~そんな経緯があったのである。
あっ…
そういえば、紹介がまだだったよな?
俺と卑弥呼の子供について?
ん?先ずは男か女か知りたいかだって?
どうしようかな~
よし!勿体ぶらずに教えてやろうか?
俺と卑弥呼の子供は女…
つまり、娘だ!
名前は俺が決めたのだが…
『三蔵 法子』
どうだ?良い名前だろ?
ちなみに…
昔、ちょっと知り合った女の名前をまんま使ったと言う事は秘密にしてくれ?
だって、仕方なかったのだ。
他の連中が早く決めろと急かすもんだから…
女の名前なんて、そう簡単に決められないし、ましてや自分の娘の名前…
で、無意識に口に出したのが、昔知り合った女の名前だったわけだが…
やはり、この事実は墓場まで持っていこう…
アハハ…
そんなこんなで、儀式の段取り、ドンチャン騒ぎと…
俺と卑弥呼と祝言は無事に終わった。
俺と卑弥呼は本当の意味で夫婦になったのだ。
その夜…
俺はずっと先延ばしにしていた事にケジメをつけるべく、
ある男の部屋に向かっていた。
それは中国に行く途中に蛇塚が言っていた。
その会話で話した内容は、
「三千院さんが、一番あの野郎を恨んでいるんじゃないですか!」
「どういう意味だ?」
「本当なら…不動明王は、貴方の師が!」
「その話は止めろ!」
あの会話は三千院の叱咤によって蛇塚は黙り込み終えた。
三千院の師?不動明王?何の事だ?
で、その後に大徳に聞いてみたら思いがけない名前が出て来たのである。
『うむ。三千院の師は、お前も知っていよう?不動鷹仁殿なのだ』
なっ?不動鷹仁だと??
不動鷹仁…
俺が不動明王を手にした日、俺の前に不動明王との契約しようとしたが失敗し、死んだ男…
「あの不動鷹仁が三千院の師だって!?」
そんな訳で俺は…
(あいつが、俺を憎んでいる…)
三千院の奴は俺に何も言わないが、とにかくケジメをつけなきゃ気持ち悪いからな?
三千院…
俺は三千院の休んでいる部屋の前にまで着くと、中に入るかどうか迷っていた。
(何て切り出せば良いのだ?)
すると、部屋の中から声が聞こえて来たのだ?
誰か先客がいるのか?
その声の主は三千院と…
エッ?まさか……??
卑弥呼だとぉおお!?
「何故、卑弥呼が三千院の部屋に?しかも、こんな夜分遅くに?」
エッ?エッ?エッ?
俺は嫌な予感が頭を廻る。
まさか浮気では??
そんな馬鹿な…ありえん!
卑弥呼に限って…
絶…対!
多分…
(絶対にそんなはずは…)
俺は涙目になりながら、中からの声に耳を立て盗み聞きしていた。
「座主様…」
「三千院…二人でいる時は、私の事は名前で呼んで下さいと言ったではありませんか?」
「しかし…」
「私の事は卑弥呼と呼んで下さい…」
「解った…卑弥呼…」
エッ?エッ?エッ?マジか?こりゃマジか?
何これ?もしかして…
もともと二人はデキテいて、俺の不始末から子供出来ちまったから…
仕方なく卑弥呼は俺と一緒になって…でも、お互い二人は忘れられずに?
夜な夜な密会!?
いや、もしかしたら…
俺との結婚も俺を神をナンタラにさせるがための策だったと言うのか?
子供も、もしかしたら…三千院の子供では!?
嘘…マジ?
俺は放心状態になった。
さようなら…俺の短い幸せ…
その時、三千院の部屋の襖が力強く開いた。
『何者だぁ!そこにいるのは!』
あっ…!
ばつが悪い状況下、俺はいたたまれない空気の中、硬直してしまった。
次回予告
三蔵「おわた・・・俺の短い幸せ、さようなら~
そして、涙よ!こんにちわ・・・」




