決別?刺客?三蔵人生最高の危機!?
物語は新章へ!
三蔵に迫る新たな危機!それは?
はぁ…はぁ…俺は三蔵だ。
俺は今、俺の命を狙う刺客に追われている。
ここは樹海、暗闇の中を息を殺し、大木の陰に身を潜める。
やべぇ…
俺は今まで幾度となく命を狙われ、数々の戦場を渡り歩き、それでも生き残って来たのだけど…
今回ばかりは、マジにヤバい!!
俺は自分の気配を消しつつ、辺り一帯から感じる気配を感じ取っていた。
「あっ…上かぁあああ!!」
俺は上空より感じた殺気に気付き、その場から駆け出し逃げた。
その途端、大木に雷が落ちたかのように轟音をたてて真っ二つに倒れたのだ。
月明かりで刺客の顔があらわになる。
俺は目の前にいる二人の刺客に…涙し、訴えかけた。
「どうして俺達がやりあわなきゃいけないんだよ!」
その刺客とは?
あの中国遺跡での戦いを共に生き残った…かけがえのない仲間のはずのバサラと蛇塚だった。
本当に…何故、こうなったんだ?
俺は思い出す…
あれは俺がまだ中国遺跡の後始末をしていた時の話だ。
「中国遺跡での戦いが本当に昔のようだ…。ここに来て、そろそろ一年くらいになるんじゃないか?」
遺跡には他に蛇塚と大徳が残っていた。
俺達は中国専属の妖怪退治の専門家や、妖魔退治を生業としている寺院と協力しながら、遺跡より逃げ出した魔物を微かな妖気を探りながら討伐。
さらに遺跡の調査なんかを手伝わされていた。
「ふぅ~」
正直、あの遺跡での死闘の後、後始末は任せて逃げてしまおうかと思ったのだが、何でだろうなぁ?俺はまだここにいる。
まぁ、汗をかきながら仕事をして、三食昼寝付き…悪くないかぁ?
これぞ働く男ってやつだよな?
これが人間のあるべき姿なんだ…うむ。
俺は大徳と蛇塚のいる方向を見て不用意にニヤケた。
ん?何だろう?この気持ちは?
まさか恋か!?な、訳ないない!
と、俺は自分自身にツッコミを入れながら仕事をしていた。
居心地が…
悪くねぇんだよ…
だが、俺は解っていた。
たとえ今は同じ道を歩んでいようとも、いずれ…
いずれ…別れの時が来る。
距離が近付けば、近付くほど、その別れは俺の心を砕いていく。
小角の時みたいに…
そうだ!だから俺は…
俺はその夜、一人帰り支度をしていた。
「やっぱり、一人が楽だ!うむ。一人が一番!一人が最高!もう面倒ごとに巻き込まれるのはうんざりってもんよ。あはは!」
そんな時だ。
俺は部屋の外が騒がしい事に気付いた。
(何だ?何かあったのか?まさか魔物か!)
俺は部屋を飛び出して、騒ぎが起こっている屋上へと向かった。
そこには既に数人の僧侶達と、大徳に蛇塚が集まっていた。
「どうした!何かあったのか?」
すると、上空から怪鳥が現れ、そいつは大徳の目の前で札に変わって降りて来たのだ。
あれは式神か!
式神とは俺達のような術者が使役する魔物を特別な札に閉じ込めて、自分の意のままに扱う事が出来る使い魔の事だ。晴明の奴が使っていたから、直ぐに気付いた。
式神は大徳の手のひらの上で巻物へと変わった。
「何て書いてあるんだ?」
大徳によると日本の総本山にいる三千院が送った式神らしく、手紙が記されていた。
大徳はそれを見るなり驚愕していた。
蛇塚なんか顔を真っ青にしているじゃないか??
一体、何が書かれていると言うのだ?
「おい!何が起きたか俺にも教えろよ!」
大徳は俺の問いには答えずに、ただ一言…
「詳しくは話せないが、直ぐに日本へと戻るぞ!座主様の身に…」
なっ?座主の身に何が?
そんな訳で俺達は至急中国を離れて、日本に舞い戻る事になった。
で、今は日本に着いた訳だが…
えっ?展開早いだと?
いや、それが…中国を出た後の記憶が曖昧なんだよなぁ?
確か…俺は日本へ出発するべく準備をしていて…
で、その後…
「よし!いざ日本へ!」
「おい!」
「どうした?蛇塚?」
「その格好はなんだ?」
俺はフンドシ姿で海を泳ごうとしていた。
「さぁ!急ぐぞ!」
「気合いは良いが、状況解っているのかぁ?お前は!」
「ん?別にフンドシ姿だからと言って、ふざけてる訳じゃないぜ?俺は泳いで日本へ帰るぞ!乗り物なんてごめんだからな」
「めんどくせ~!あ~!もう良いや!大徳さん?お願いしても良いっすか?」
「うむ」
すると大徳が目の前から消え、俺の背後に立ったかと思えば…
『ゴォチン!』
俺は後頭部に衝撃を受け意識が吹っ飛び、気付いたら日本にいたのだ。
あ~頭、いてぇ~
そして俺達は直ぐさま、三千院達の待つ総本山へと向かった。
座主か…
俺は走りながら考えていた。
あの…あの女…
俺は少し躊躇していた。
なぜなら、その座主って女とは…まあ、いろいろとあったもので…
だけど、今はそんな事を考えている場合じゃないようだな?
座主に何が起きたか解らないが、この一件に片が付いたら俺は…
コイツ達の前から消えようと考えていた。
だから、せめてこの一件の間だけでも…仲間ごっこしていたい…
そのためにも、必ず救ってみせるぞ!
俺達は総本山の階段を駆け上がり、座主の待つ本殿の前に着く。
俺は辺りに気を張る…
座主の身に何が?総本山がひっくり返る事件だと?
怪しげな妖気は感じないようだな?それに総本山も荒れた形跡もない…
魔物に襲われたとか、そういう訳でもなさそうだ…
それとも妖気を消す事の出来る魔物か?
いや、考えても見れば日本には三千院やバサラが残っていたわけだから、それも取り越し苦労だったな…後は病…怪我?
本殿の奥を早足に大徳と蛇塚が先に入って行き、俺も後を着いて行く。
本当に何が起きたのだ?
だが、この時の俺はまだ気付いてもいなかった。
これから先、俺がとてつもない窮地に落ちてしまう事を…
本殿の中を進むと、座主のいる部屋の入り口の前で三千院とバサラが待っていた。
三千院は大徳に何かを伝えると、先に蛇塚が部屋に入って行く…
俺も…
「待て三蔵!」
「どうした?」
蛇塚は真剣な顔で俺に言った。
「お前は最後に来い!俺が先に特攻に出る!」
何?特攻だと?一体、中で何が起きているだよ!?
「どういう意味だ!」
「後は頼むぞ…」
「えっ!?」
そして、蛇塚は一人座主の待つ部屋に入って行った。
しばらく沈黙した後…
『うわああああ!』
部屋の中から、蛇塚の叫び声が聞こえて来たのだ??
「蛇塚!!」
三千院達は拳を握りしめ顔を反らしていた…
「クッ!蛇塚には荷が重すぎたか…」
「何がどうなってんだよ!マジに一体中で何が起きているんだよ!」
だが、三千院は何も答えなかった。
俺はやむを得ず真言を唱え、炎の剣を手に座主と蛇塚のいる部屋の中へと駆け出し飛び込む。
「待ってろ!今行くぞ!」
そこで俺が目にしたのは…
きょとんと俺を見ている座主と蛇塚であった?
あん?どういう事だ?
そこに三千院達が入って来たのである。
「三蔵!それがどういう事か解るか?」
「何の事だ?」
俺は状況把握と辺りを見回す。
「別に何も?」
…ん??そこで俺は気付いた。
何かいる!
座主が何かを抱いている?
それは…赤子!?
「何で赤子がここにいるんだ?」
「馬鹿かお前は?」
「はっ?誰が馬鹿だって?」
俺の行動にバサラもため息をつく。
「馬鹿だな…間違いなく…」
「意味が解らんぞ!はっきり言え!」
すると座主は俺の方向を見ながら…
(確か、視力を失っているんだったな…)
俺に告げたのだ。
『貴方の子供です。三蔵』
はぁ………はい?
えっ?
今、何と言った?
うまく聞き取れなかった。
状況が全く飲み込めん?
つまり…何だ?あっ?えっ…その…何だって?
「けっ!認めたくはないけどよ!お前と卑弥呼様との子供だよ!」
「あっ!何を言っているんだ!そんな心当たり…………………」
あ・り・す・ぎ・る!
「馬鹿な!それは!まさか…あれでかぁ??」
そこにいた者は同時に頷いた。
俺は…
俺は……
「認めん…認めんぞ!それに、お前はそれで良いのか!」
座主は俺に微笑みながら頷いた。
「マジか…!」
そんなバカな??
ないないないない!
「いや!てめぇ達!俺をからかっているのか??ドッキリか??カメラは何処だ!」
「いい加減諦めよ!男らしくないぞ?」
大徳は俺に落ち着けと促す。
嫌だ…絶対に認めん…
俺に子供?男らしくない?責任?何、それ?知らん!知らんぞ!
認めてたまるかぁー!
俺は三蔵なんだからぁー…
俺はしゃがみ込み頭を抱える。
そんな…俺は今まで一人で生きてきた。
誰かと絡むとか…一緒に生きるとか考えた事ない…
それがコブ付いた??
それに、どうやって接すれば良いのだ?
分からん…分からん…
俺は実の親を自分の能力で危めてしまい、一人野犬のように生きてきた…
それでも、生まれながらの強運と神通力でこの世界に入ったが…
そこでも俺は一人だった。
一度は小角や晴明と心を交わした事もあった…
俺の人生は、そんな安らぎすら認めてくれやしなかった…
俺と接する奴は皆、死ぬか不幸になる…
疫病神…いや、死に神か?
この先…誰と絡む事もなく…一人で生きて、一人で終わる…
俺の一生は、この生き方しか出来ないと感じていた…
いや、許されないと!
そんな自分に…突然、妻子なんて?
無理だぁあああ!
『俺は絶対に認めんぞー』
そうだ…遠くへ行きたい…
このままでは、自分が自分でなくなるような気がした。
今までの人生を、全てなかった事にするような…
『はっ!』
我にかえると、目の前に座主(卑弥呼)が立っていたのだ。
俺は後ずさろうとすると、俺の指に何かが掴まった?
「えっ?」
俺の手を掴んだそれは、俺の?赤子の手?
今まで感じた事のないような温もりが…
温もりが…
赤子の手から俺に伝わって来て…
何とも言えない気持ちに襲われた。
身体が震える…
恐怖?
いや…もっと違う別の感情?
俺の凍てついていた魂に陽射しのような温もりが差し込んでくるような?
そんな俺の心を見透かしているかのような座主に…
「お…俺は…お前の名前も知らなかった…お前に…とんでもない事をした…そんな俺を…許すだけでなく、家族になれと言うのか?」
《私の名前は卑弥呼》
「…テレパシーか?」
《そして、この子は間違いなく私達の…》
俺は卑弥呼が言い終える前に…
「却下ダァーッ!」
「おい!三蔵!テメェ~!往生際悪いぞ!コラァ!」
俺は…
『知らないもんは、知らないんだぁ~!』
そう言って、その場から駆け出し逃げたのだった。
その時、卑弥呼の目から一粒の涙が落ちたのを俺は見て見ぬふりをした。
俺が去った後、三千院が蛇塚とバサラに命じた。
「お前達、あの馬鹿者を連れ戻してこい!」
蛇塚とバサラは静かに頷き、消えた。
(ヒミコサマヲナカシタ…)
と、呟き。
二人が俺を追って、去った後に三千院が卑弥呼に尋ねた。
「卑弥呼様?目から涙が?」
「えっ?あ…目にゴミが入ったみたいですね?気付きませんでしたわ」
この笑えない状況に一人気付いた大徳は三千院に、
「よりによって何故にあの二人に頼んだのだ?三千院?」
「何か問題でも?」
「………」
大徳は思った。
(卑弥呼様も三千院も天然だからな…)
大徳は天井を眺め一人祈る。
「三蔵…生きて戻れよ?」と…
そんなわけで俺はバサラと蛇塚に追われているのだ。
俺は全ての経緯を思い出し、踏まえた上で解った事があった。
全て、自業自得だったのだと…
「待て!まてまてまて!」
俺の制止も聞かずに二人は襲い掛かって来た。
(ヒミコサマヲナカシタ…)
既に俺を連れ戻すという目的を忘れている!
あの特別な殺気は間違いない!
八つ当たりからの…
『嫉妬だぁあああ!』
俺は二人の攻撃を躱しながら、バサラに叫ぶ。
「忘れたのか?あの中国遺跡で共に戦い、芽生えた友情を!」
「お前には感謝している。たが、それとこれとは話が別だ…」
「別じゃな~い!」
さらに蛇塚に背後から逃げ場を塞がれた。
「大丈夫。安心しろ?俺達を信じて無駄な抵抗は止せよ?」
「全然大丈夫じゃない!そんな血走った目で安心も信用も出来るか!」
二人は己の気で金の錫杖を構成すると、上空から降り下ろして来たのだ。
俺も金の錫杖を構成し受け止める。
「うがぁああ!全然手加減してねぇじゃないかぁ~~」
「五体満足とはいかないだけだ!」
「ちょっと、待てぇ~い!!」
俺は堪らずに二人に蹴りを噛まし、距離を取る。
だが、二人は軽々と身を躱すと、印を結んだのだ。
『オン・アミリテイ・ウン・ハッタ!』
『オン・バザラ・ヤキシャ・ウン!』
し…真言?
すると、二人の姿が金剛夜叉明王と軍茶利明王へと変化したのだ。
って、オィオィオィ!
冗談だよな?
マジにコエェエ!!
俺も慌てて、真言を唱える。
『ナウマクサマンダバザラダンカン!』
俺の姿が炎を纏う不動明王へと変化する。
「こんなんで俺の人生決められてたまるかぁー!!」
「この外道がぁー!」
軍茶利明王と化した蛇塚と、不動明王と化した俺の拳が激突する!
凄まじい衝撃にお互い弾かれる。
えっ?
すると背後から金剛夜叉明王と化したバサラが閃光の如く錫杖を突き付け、俺は紙一重で躱しつつも、
「こりゃあ~たまらん!」
俺は堪らずに後方にジャンプし距離をとる。
そこに!追い打ちをかけ、蛇塚は指先を噛むと血が垂れる。
すると拳に紅色の蛇が出現して、その神気が高まる。
「くらえ…」
『ヘビメタル・インパクトォオオ!!』
それは蛇塚の超必殺技であった。
己特有の蛇神の血の力を明王の力に合わせる合体技!
ただし、中国遺跡の戦いでの一件で血の力は半減したらしい。
それでも、その破壊力はハンパなかった。
大地を削り、上空へ昇ったかと思えば隕石の如く俺に向かって落下して来たのだ。
「うぎゃあああ!」
蛇塚のヘビメタルインパクトは大地に直撃し、爆発した。
砂煙の中、上空へと飛び上がる俺。
命からがらの脱出だった。
「へへん?そう簡単にヤられてたまるかってん?『ふぎゃあ!』」
が、逃げた先に俺の顔面に何かが直撃した。
それは、バサラの投げた金の錫杖だった。
「当たった…」
俺は額から流血し、そのまま力なく落下したのだった。
お…おわた…
が、運良く?俺が落下した場所は川で、そのまま流されていったのだった。
ぜぇ…ぜぇ…
俺は流されて、二人から逃げ延びた場所で岸に上がった。
マジに死ぬ所だった…
あの二人、味方の間は心強かったが、敵に回すとこんなに危険だったなんて…
そこで、俺は川に映る自分の顔を見た。
俺の額から血が垂れて流れている。
マジに殺される所だったぜ…
流血が川に流れ鮮血に染まる。
そこで俺は嫌な記憶が過った。
額からの流血…
染まる血…
あぁ…そうか…あの時みたいだ…
俺が幼少の時に親から受けた虐待…その時に…
「………」
あれ?えっ?
その時、俺は忘れている何かがある事に気付く。
俺は何か大事な事を忘れている?
一体、何を?
俺は額を押さえ、その記憶を辿る。
あれは、確か…
次回予告
それは三蔵が忘れていた記憶
それは、忘れてはいけない約束!
それは、救世主誕生と運命の廻り合いだった。




