守るために!軍茶利明王・蛇塚軍斗!!
詩織は蛇神を産む定めにあった。
生き残るためには詩織が戦う運命に身を投じるという事だ。
だが、その宿命を引き受けようと蛇塚軍斗が立ち上がる。
俺は蛇塚軍斗…
詩織の代わりに蛇神の魂を引き受けた俺は、その身に感じた事のないような激痛を受けていた。
体内で何かが動いている?
無数の蛇が体内を蝕み、うごめいているようだ…
身体の中で蛇が動く度に激痛が走る。
『うぎゃああああああ!』
目から、鼻から、耳から、口から身体中の至る場所から血が噴き出した。
寒い…苦しい…怖い…
今にも意識が吹っ飛びそうだった。しかし意識を失ったら最期だと理解している。目の前で俺を心配して泣きじゃくる詩織を前にしても余裕がなかった。
だが、俺がやらなきゃ詩織がこの苦しみを味わうんだろ?
そんな事はさせない…
俺は死んでも死ねない。
詩織を…詩織を守ってやれねぇと。
俺は、あいつの兄ちゃんだから・・・
「俺が詩織を守ってやるんだぁああああああ!」
その時、体内で何かが回転したような感覚がした。
同時に俺の体内から凄まじいオーラが噴き出したのだ。
何だ?これ?
声が聞こえた。
《蛇塚軍斗よ!その意思と魂の強さ!見事だ!お前の中で感じる力とはチャクラ!お前は力の根本たる七つのチャクラを回し、神を受け入れるための器を手に入れたのだ!》
ちゃくら?
俺は神を受け入れられるのか?
《我はいずれ、この娘より産まれ転生するが定め!それまでの間、我が魂の片割れを!我が力を!お前に託そう!我が名は軍荼利明王。蛇神の王たる明王だ!》
ぐ…軍荼利明王?
『分魂!』
詩織の体内から光が飛び出して来て、俺の胸の中へと入っていき俺の魂と同化した。
すると俺の身体は更に輝き増して、嘘のように身体の痛みが消えたのだ。
いや、それだけじゃない…
俺の中のチャクラが更に速く激しく回転し、身体の奥そこから信じられない力が漲って来たのだ。そして俺は!?
俺の姿は、俺を助けてくれた奴達が変化したような神(明王)の姿に変化していた。
(これが、俺か?)
詩織は目を丸くしていた。
「恐いか?」
俺が尋ねると、詩織は首を振りながら俺に抱き着いて来た。
「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ!」
俺は詩織の頭を撫でると、
「よし!こんな所からは、さっさと出ようぜぇ!」
俺は辺りを見回すと、辺りは一面の闇…闇…闇…何処を見ても闇だった。
どうしたらここから出られるんだよ?
「お兄ちゃん!見て!」
俺は詩織の声で気付いた。
次第に闇が俺と詩織のいる光の空間を浸蝕して来ていたのだ。
辺り一面闇に覆われ見えなくなって来る。
怖がる詩織を見て、俺は無意識に気を高めた。
『ハアアアアアア!』
俺の身体から輝く神気が、ほんの僅かだが辺りを照らす。
今頃気付いた…この闇の中…何かいる?
闇にうごめく怨念の声が至る所から聞こえて来た。
薄気味悪いぜ…
早く、この場所から出ないと気が変になりそうだ…
その時…俺と詩織の身体に黒い影が巻き付き始めたのだ。
「きゃあああ!」
「うわっ!何だよ!」
影は次第に俺達の自由を奪い、絡み付き、強い力で闇に引きずりこもうとする。
「クッ!」
このままじゃ引きずりこまれる。
せっかく、詩織を助けてやれると思った矢先に死んでたまるか!
その時、俺達を呼ぶ声が耳に入る。
『軍斗!詩織!』
えっ?
俺と詩織の前に現れ、絡み付く闇の触手を力任せに引き契り、俺達の名を呼ぶ…
その人は!!
何で?
「父さん!?」
それは、頭上に角のある大蛇の化身・夜刀ノ神の姿をした俺達兄弟を殺そうとした父さん。
『すまなかった…』
父さんは言った。
『私が一時の間、闇を押し止める。その間に…闇を抜けるのだ!軍斗よ!』
えっ?
『ウォオオオオオ!!』
父さんは凄まじい覇気で闇を押し広げていく。
俺は躊躇しながらも、その化け物の姿をした父さんの目に昔見た…憧れていた頃の強く優しい、尊敬する父の姿を見たのだ。
俺は意味も解らないまま、父さんの合図で詩織を抱えつつ、闇の果てに向けて軍荼利明王の持つ光の神気を放った。その先で漆黒の闇の奥から閃光が弾け外界への道が開く。
あの先が抜け道に間違いない!
俺と詩織は顔を見合わすと、外界に向かって飛び込んだのだ。
俺は振り返ると残された父さんが、再び闇に飲まれて行く姿が見えた。
後に知ったのだが、転生者には転生前の魂と現世の魂の意識が同時に共存していると言う。
もしかしたら…
俺達を助けてくれた父さんは、昔の父さんなのか?
それは今となっては解らない。
だけど俺は、そう信じたいと思った。
俺が軍荼利明王の試練を突破し、闇からの脱出を試みていた頃、外の世界では?
次回予告
三蔵「なあ?分魂って何だ?」
蛇塚「ああ、ちょっと説明が必要だったな?実は俺の明王と俺の契約はお前達とは少し違うんだよ?」
三蔵「俺の不動明王との契約と?」
蛇塚「お前達は己の明王の魂と契約し、その明王の魂をその身に宿しているんだ。一方、俺の明王である軍茶利明王の魂はいまだ妹の詩織の中にある。そのため俺が神の力を得るために軍茶利明王の魂の半分を分け与えられて、その力を使う。それが分魂の術ってやつなんだ」
三蔵「いまいち解らないが、半人前って事か?」
蛇塚「お前に言われたくない!」




