人として蛇として・・・
闇の空間に落とされた詩織を追う軍斗を止める座主。
その座主を止め、軍斗を先に行かせたのは?
俺は村上健司…
俺はあの日、死んだ。
あれは俺が六歳の時、仲間の光治が村の年長組の連中に虐められ、入る事を禁じられた洞窟の中へと入ってから出て来なくなった時の事。
その後、軍斗が駆けつけて洞窟の中へと入って行った。
目の前には年長組の連中が反省して泣きべそかいていて、
俺は長二と高城、それに千亜と一緒に洞窟の外で待っていた。
「軍斗の奴遅いなぁ…光治見付からないのかな?やっぱり僕も行こうか…」
「止めときな!お前まで迷ったら大変だぞ?」
「僕もそう思う」
「軍斗兄さん…」
仕方なく俺達は待つ事にした。
だけど、その後に待つ悲劇を誰も予想する事など出来なかった。
突然、洞窟が揺れ、異臭と霧が辺りを覆い隠した。
えっ?
状況を考える前に、誰かの悲鳴が聞こえた。そして周りにいた連中が騒ぎ、そして泣き叫ぶ声がした。その中には長二や高城に、千亜の声もあった!
俺は視界がままならない状況で皆の名前を叫ぼうとした時、目の前に黒い影が立ち上がった。
それは見上げる程の大きな顔。
あれ?あの顔は…確か軍斗の母ちゃん?
だが、直ぐに自分の身体が浮いたかと思うと、何かに吸い込まれて、気付くと真っ暗で、何かねっとりした粘液がまとわりつく場所にいた。
??????
恐い!暗い!何?何が起きた?
えっ?えっ?えっ?
狭く暗い場所で声がする。
長二?高城?千亜?皆いるのか?近くに?痛い!
恐らく狭い場所で誰かにぶつかり合っていたんだろう。
痛い!痛い!
けど、直ぐに何かが身体中にかかった。
液体?熱湯?いや?違う…けど、身体が熱くて痛くて…
ぶつかり合った誰かの身体の一部と自分の溶けた頬が引っ付き、剥がれない。
次第に狭く、圧され、潰されるように、そして…
突然の状況に、パニック状態の極限状態の中、ようやく俺は気付いた。
俺は…食べられたのだと…
「うぅうわあああああああ!ぁぁぁ…」
そして、激痛に意識が消えた…
次に自分が目覚めたのは狭い殻の中だった。
生きてるのか自分は?
真っ暗な闇から抜け出したくて、俺は殻を割って、外に出た。
そして自らの変わり果てた姿に俺は声にもならない悲鳴をあげて涙した。
それが第二の化け物としての生。
俺は蛇の化け物として生まれ変わったのだ。
これが、俺の最期であり始まりだった。
村の連中も一夜にして化け物になっちまっていた…
俺は?
化け物になった皆は人として生きていた記憶を持っていた。
しかし何か違った?
状況が解らずに俺は周りに合わせていた。
そんな時に誰かが言った。
「俺は人間だ!化け物なんかじゃない!」
それは人の意識が残っていた男だった。
俺は安堵した感覚になったが、直ぐに気付かされた。
周りの村の連中は化け物の姿となって、その男をなぶり殺したのだ。
「こいつは蛇じゃない!」
「人間は殺せ!」
そして俺は理解した。
たとえ化け物に生まれ変わったとしても、人間の意識が強く残っている者は除外されてしまうと…その日より俺は人である事を隠し、周りの連中に合わせる生き方を選んだ。
逃げるにしても、この蛇神島からは逃げられないのだから…
だけど…俺以外に人間の意識を残した奴はいないのだろうか?
それから俺達は日々、戦闘訓練をさせられた。
いずれ大蛇の王が覚醒したその時に、人間達を根絶やしにするために…
俺は生きるために人間の意識が残っている事を隠して戦闘訓練を続けていた。
俺は素質があったのだろうか?
格闘といった体術は周りより長けていた。
そのお陰で人間だとバレずにすんだ。
しかし、一番の問題は蛇神化であった。
人の姿から蛇神の姿へと変わるのだ。
蛇神化は人間である理性を消しかける。
より狂暴化してしまうため、俺は人間の意識が残るギリギリの所で蛇神化の練習をしていた。
当然、最初は上手くいかずに周りから『人間みたいな奴だ』と言われて、俺は正体がバレる事を避けるために逆ギレして貶した奴を叩きのめした。
周りは人間と同等に見られて逆上したと思ったに違いない。
そんな中、噂が入って来たのだ。
仲間の中に人間の意識を残した奴がいるらしいと!!
俺は自分ではないと悟られないように見て見ぬふりをするつもりだったが、その噂の相手が…
幼馴染みの千亜だと知って、いてもたってもいられなくなった。
ある日、長二と高城が話しているのを聞いた。
『もし千亜が人間側なら、喰らっちまおうぜ?』と…
俺も誘われたが、断った。
俺は知っていた。
長二と高城の奴は完全にあっち[蛇]側なのだと…
それに蛇神の力も桁違いだと。
怪しまれないように俺は奴等に言った。
「あの女は俺の獲物だ!俺が飽きるまで手を出すんじゃえよ?」
俺は強がってみせた。
運良く長二と高城は納得してくれた。
だが、俺の獲物[千亜]を狙う奴等もいた。
そのために俺は更に力を手に入れなければならなかった。
拳に蛇神の力を集中させる。
すると腕の骨が盛り上がり皮膚を破って拳を覆う。
『蛇骨鉄甲』
その破壊力は凄まじいものであったが、力を得ると同時に俺は自分が人間から離れていく恐怖と不安に襲われた。皮膚に蛇の模様が浮き出て、生の肉を食べたくなる衝動にかられた。
理性が消えたら俺は俺でなくなる…この蛇神の力を得るために、俺は人間でありながら二度と人間には戻れない…引き返せないのだと覚悟した。
俺や長二、高城は蛇神達の中では優遇種らしい…
母なる蛇の女王自ら産み落とした血統種は最初の洞窟にいた軍斗の父親である頭領と、その側近の八人の部下達。それに洞窟の入り口にいた俺達だけなのだ。
その者達は蛇神の力が桁違いだった。
他の連中は大蛇の王復活の余波に魂があてられ、島の医者に投与された蛇神の薬により蛇神化したらしい。
それからというもの千亜は飼われたかのように俺の傍に置く事にした。
気付くと俺は長二と高城と同じく高位種の地位を手に入れる事が出来た。
そのお陰で千亜には誰も近付かなくなったのだ。
そんなある日、夜更けに小屋で二人になった所で俺は千亜に言った。
「千亜?お前、人間だろ?いや?人間の意識がまだ残っているんだろ?」
だが、千亜は震えて何も言い返さなかった。
当然か。警戒しているに決まっている。もし自分が人間側だとバレたら、俺に喰われると思っているんだろうか?
俺は溜め息を付いた後、もう一度千亜に言った。
「千亜…俺も人間だ…こんな力を持って皮膚まで蛇みたいだがな…心は!魂は人間なんだ!」
俺の台詞に千亜は目を丸くしていた。
逆に、千亜がもし蛇側だとしたら、俺の正体を周りの連中にバラす…そうなったらおしまいだ!その前に俺が自ら千亜を殺す!
だが、その千亜の反応は俺を安心させた。
「嘘…健司君なの?」
「あぁ…お前は千亜のままで良いんだよな?」
千亜は緊張の糸が切れての安堵か?涙を流していた。
俺も…この蛇神島の孤独と緊張、いつバレるかの恐怖から…
初めて心許せる相手に出会えたのだ。
それから千亜と俺は昔の話を何時間も飽きずにしていた。
千亜はその中でも軍斗の事を嬉しそうに語っていたな。
「千亜は軍斗が好きなんだな?」
俺は何も考えずに口に出した。
千亜は顔を真っ赤にして首を振っていた。
「軍斗兄さんはそんなんじゃないよ!えっと私なんか相手にしていないし、ほら?私と軍斗兄さんは従兄弟[妹]だから?」
「ば~か?従兄弟[妹]同士は結婚出来るんだよ!」
が、その台詞はタブーだった。
「私…もう人間じゃないから…」
「ごめん…俺はそういうつもりじゃなかったんだよ」
不器用な俺に千亜は言った。
「良いよ…気にしていないから?ね?」
軍斗…
軍斗と詩織はあの件以来会っていない。
生きているのか?
それとも、あの日に?
それからまた、数年が経った。
突然、長老である夜刀ノ神様が皆を集め、儀式を行う事を告げた。
ついに大蛇の王覚醒の日が来たのだと!
大蛇の王が光治である事は知っていた。
そこで、この蛇神島に二人の兄妹を呼び寄せると…
その兄妹とは?
あの惨劇の日に運良く島から逃げ押せた蛇塚軍斗と蛇塚詩織の事だった。
軍斗?軍斗が生きていたのか?それに詩織も?
俺と千亜は喜んだが、直ぐに恐怖に震えた。
あの二人が戻って来たら必ず死ぬ!!
いや、殺されてしまうから!!
俺と千亜は二人で密談した。
他の連中にばれないように、島の外れにある防空壕のような洞窟の中でした。
ここは幼い頃に軍斗達と秘密基地にしていた隠れ家だった。
「千亜?それで良いな?」
「うん」
俺と千亜は結束してある作戦を立てたのだ。
蛇神島に来る軍斗と詩織を島の連中から守る作戦を。
俺と千亜は長二と高城、それに蛇神島の真の支配者である光治と一緒に軍斗と詩織を出迎えた。
軍斗…詩織…
本当に生きていたんだな?
どうやら軍斗と詩織はあの日の出来事を全て忘れているようだった。
記憶喪失?
けど、都合良かった。
先ず、長老の元から戻って来た二人を再び出迎える。
作戦開始だ!
手始めに詩織を千亜に任せた。
千亜は詩織に状況を説明し、隠れ家に連れて行く。
そして俺は軍斗を連れて行くのだが、俺の傍には長二や高城に光治がいる。
奴等にバレないように軍斗を引き離す…
俺は演じた。
軍斗から悪者に、光治からは仲間に思われるように!
俺は軍斗の胸ぐらを掴み、崖の上から突き落としたのだ。
蛇神でない軍斗に興味を無くした光治達は、これで騙せるはず…
落下した軍斗は?
ちゃんと考えている。
下には詩織を安全な場所に連れて行った千亜が先回りして待機し、落下する軍斗を受け止める算段だった。
千亜にも蛇神としての力はちゃんと備わっていたのだ。
それは念力みたいなものだった。
落下する岩を軍斗に見立てて落下させては何度と練習した。
だから大丈夫!
…のはずだった。
詩織を連れた千亜が二人とも長老の部下に拉致されたのだ。
では、軍斗は?
千亜が受け止めるはずの軍斗は??
まさか…俺の手で軍斗を殺してしまったのか?
俺は後悔の念で身震いした。
だが、落下した場所をいくら探しても軍斗の姿はなく、
奇跡でも起きて助かっていて欲しいと願った。
そして俺は直ぐに頭領の所へと向かったのだ。
奴等には千亜が先走り我慢出来ずに詩織を喰らおうとして連れ去ったと思わせた。
そこで千亜は返して貰ったが、詩織は返しては貰えなかった。
結局…作戦は見事に失敗した。
泣き、悲しみ、後悔する千亜に俺は何も言ってやれなかった。
ただ…ただ?
だが、後に俺達は驚かされた。
軍斗の奴が生きていたんだ!!
マジに奇跡が起きたのだ!
あの崖から落ちてだぞ?
一体、どうやって?
そんなのは関係ない!
今度こそ軍斗を俺の手で助けてやる!
しかし、俺の傍には千亜の他に高城もいた。
もし高城が暴れたら俺には止められない。
こうなったら!
俺は軍斗に喧嘩を売った。
高城より先に俺が軍斗を始末すれば[したように見せられれば]、後は俺が気絶でもさせた軍斗を喰らうとか言って連れて行き島から出してしまえば。
この計画には自信があった。
大丈夫!高城は馬鹿だ!食う事しか考えてない知能の低い馬鹿だ!問題ない!
俺は軍斗に突っ掛かりボコった。
高城に怪しまれないように俺は蛇神の力を使う
。だが、それがまずかった。
俺の意識が次第に見境なくなり暴走し始めたのだ!
止まらない…
これではマジに軍斗を殺してしまう?
止まれぇー!!
その時、いち早く俺の暴走の異変に気付いた千亜が飛び出したのだ。
千亜は蛇神の力を使い蛇神化し暴れる俺にしがみつき、軍斗から引き離してくれた。
千亜によって助けられた俺は、直ぐに自分の蛇神化を解いた。
「ありがとな?それにしても…」
俺は千亜を見た。
「お前、蛇神化出来たんだな?」
「隠していたわけじゃないんだけど、この姿は嫌いだから…」
千亜は元の姿に戻る。
「夜刀様にしか見せていないの…」
「だから、蛇神化出来なかったお前に他の連中が手を出さなかったんだな?でも、何故そんな特別扱いなんだろう?」
「万が一は…私が儀式の贄になるかもしれなかったから…」
…はぁ?
「じゃあ?何か?もし詩織を助けられたとしても、代わりに千亜が贄になるのか?そんなの許せるか!」
「それでも良いと思った…」
「!!」
理由は解った。
軍斗から詩織を引き離したくないからだろ?
自分が身代わりになればとでも考えてるんだろ?
俺は…
「千亜!これを機に俺達も島から出るぞ?」
「えっ?そんな事?」
「見たろ?軍斗の他にも変な連中いたの?奴等は強い!奴等が島の連中を引き付けているのに乗じて島から出るんだ!」
俺は再び立ち上がった。
「当然、軍斗も詩織も連れ帰る!」
そして俺は千亜を例の隠れ家に残して、再び戦場に向かった。
だが、何もかも上手くいかない…
詩織は既に儀式に入っていた。
夜刀様が傍にいる以上手出しは出来ない。
せめて軍斗だけでもと俺は軍斗に再び戦いを挑む。
先ずは気絶させ、連れ帰る!
なのに、なのに!
俺は空海ってオッサンに投げられ、しかも軍斗にまで負けてしまったのだ…
軍斗…
馬鹿…お前のためにやっているのに!
俺は軍斗と拳をまみえあった時に、軍斗を怪我させまいと無意識に力を抜いてしまった。そこに隙が出来たのだ。けど、俺の思い以上に軍斗の奴が詩織を救いだしたいという思いが凌駕していたからに違いない。
そこまで詩織を?
なら、俺はもう邪魔はしない!
軍斗…
お前の好きな通りにしろ!
詩織が光治によって祭壇から闇の中へ落とされ、俺は飛び出した軍斗を止めに入った侵入者の女[座主]の前を塞いだ。
だが、女は言った。
「貴方は人間ですね?」
俺を人間だと?
俺を?
その瞬間、俺は金縛りにあった。
女は静かに俺の横を通り過ぎる。
その際に女は言った。
「後は私に任せてください?彼は私が救います…」
そして女は怯む事なく闇の中へと軍斗を追って飛び降りたのだ。
軍斗…
詩織を連れて俺と一緒に生きて帰ろうな?
千亜も…
千亜も待っているから!
次回予告
闇の空間の中、詩織を追う蛇塚軍斗!
そこで、生死の境目に陥った時蛇塚は目の当たりにした。
三蔵「・・・何を??」
蛇塚「詩織・・・俺が!兄ちゃんが助けてやるからな!!」




