大男
かつての育てのおばさんを、生き抜くために殺した蛇塚
後悔と懺悔、だが立ち止まっているわけにはいかなかった。
俺は蛇塚軍斗…
俺は今…
見上げるほどの大蛇に睨まれ、身動きの取れない状態でいた。
せっかく戦うための手段を見付けたと言うのに…
「こんなの有りかよぉおお!」
大蛇は怯える俺を獲物と判断すると、容赦なく襲い掛かって来たのだ。
俺は我に返り飛びのくようにジャンプすると、そのまま闇雲に駆け出す。
もう走っているのか?足が浮いてるのか?解らないようなそんな感じになっていた。
自分の意思と違い足がついて来ない?
とにかく逃げなきゃ!
逃げなきゃ!
「食われちまう~!」
俺は無我夢中に走る。
後ろなんて見ていられない…
けたましく、建物が崩壊し崩れ落ちる音が聞こえる?
後ろから俺を追いかけて、建物を壊しながら口を広げた大蛇が迫っているのだ。
『うぅうわああああ!』
俺は叫びながら逃げ走っていた。
クソォー!目茶苦茶こぇええー!
俺は走りながら落ちていた鍬を拾い上げ掴む。
そして、半壊している建物に這い上がると、
「逃げてばかりじゃ時間の問題だ!なら、一か八かだ!」
俺は逃げながら左腕に傷をつけて血を流す。
俺は振り向くと同時に口を広げて間近まで迫っていた大蛇に向けて血を振り付けたのだ。
俺の血が大蛇の後頭部にかかったのを見て、俺は大蛇に向かって飛び付き後頭部目掛けて、持っていた鍬で突き刺した。
『フィギャアアアア!』
大蛇の叫び声が響き渡る。
我ながらマジに無謀だと感じる。
一歩間違えれば、俺は大蛇に傷一つ付けるどころか、ひと飲みにされて餌になってしまうのだからな!でも、や…やったのか?
だが俺の攻撃は浅く、大蛇は再び起き上がると、頭に乗っていた俺を振り落としたのだ。
「うわあああああ!」
俺は隣の家にまで飛ばされて、そのまま崩れ落ちる建物の中に生き埋めになった。
死んでたまるか!
『生き抜く!』
その一心で俺は這い擦って瓦礫から抜け出した。
俺の下半身はまだ瓦礫に埋まったままで動けないでいた。
そんな俺を待ち構えていたかのように、頭上にはヨダレを垂らした大蛇が見下ろしていた。
大蛇は俺が身動き出来ないのを確かめた後、ゆっくりと俺に向けて口を開くと、
食われ…る!
大蛇の顔がそんな俺に迫ると、
「!!」
轟音とともに俺のいた瓦礫の山は大蛇の突進によって砂埃に覆っていく。
俺は…食われた?いや?生きている?
何が起きたんだ?
俺が恐る恐る目を開くと、俺の前には?
崖から落ちた時に俺を救ってくれた大男の背中があった。
さっきは意識が朦朧として気付かなかったが、この男は修行僧の姿をしていた。
瞬間、俺は何処から現れたのか?
別の修行僧の姿をした男に抱き抱えられてその場から助け出されたのだ。
そいつは銀髪の男だった。確かこの男も崖から落下した時に助けてくれた奴達の一人だったな?
「なぁ?おぃ?あの大きい奴を放っておいて良いのか?」
見ると、大男は大蛇の前で一人残っていたのだ。
「いくら奴が大男でも相手はその数倍もある大蛇だぜ?逃げなきゃダメだろ!」
だが、銀髪の男は無表情で俺に言った。
「問題ない…」
問題ないって?
問題ないわけないだろー!
俺は残った大男に向かって叫んだ。
「逃げるんだよ!オッサン!」
その直後…
俺は口を開けたまま動けなくなった。
何故なら獲物を奪われた大蛇が頭に来て大男に向かって襲い掛かると、大男は怯む事なく向かって来た大蛇の頭を拳で殴り飛ばしたのだから。
大男に殴られてぶっ倒れる大蛇を見て俺は茫然としていた。
正直、チビッタ。
すると銀髪の男は俺を呼び、指をさして言った。
「あの病院に行く」
はっ?
「何を言っているんだ?確かに怪我はしちゃいるが、病院に行っている暇なんかねぇよ!」
銀髪の男は首を振ると、
「あそこでお前は、この里の真実を知る事が出来るはずだ」
それだけ言って、銀髪の男は俺を残して先に病院に向かって歩いて行く。
「この里の真実だって?」
俺は銀髪の男を追いかけ病院に向かおうとしたその時、再び凄まじい轟音が聞こえた。
それは大蛇と大男のいる方向だった。
そこで再び俺は見た!
ありえない…これは映画か?こんなんハリウッドだろ!
そこでは突進して襲い掛かって来た大蛇の開けた大顎を、大男が両手で掴みながら受け止めている姿だった!?
「人間じゃないのか?あの大男!」
確かに二メートル近くはありそうだが、相手は起き上がると、身の丈…二十メートルはありそうな大蛇なんだぞ?
そうか!あいつは未来からやって来たサイボーグに違いない!
確か…
ドラえ…じゃなくて…ターミ何とかって奴だ!!
昔、映画で観た記憶がある!そうだ!きっと、それなんだぁ!!
と、俺が意味不明な思考回路を巡らしていると…
大男が俺に向かって怒鳴る。
「小僧!ボサッとしているな!目障りだ!さっさと行くが良い!」
なっ?なっ?
俺は大蛇よりも大男の怒鳴り声にちびりそうになった。
いや、既に少し…いやいや…もう乾いたぞ!
仕方なく俺は大男を残して、先に病院へと向かった銀髪の男を追って走り出したのだ。
この里の真実とやらにも興味があったしな…
俺を見送り、残された大男は、
「真っ直ぐな少年だ…熱く…真っ直ぐな目をしていた…ふふふ…
座主様に助けるように言われたが見所ある少年だ!」
すると大蛇が大男を尾で弾き飛ばしたのである。
「ウグオオオ!」
大男は壁に叩きつけられ、崩れ落ちる建物の中に生き埋めになった。
が、直ぐに瓦礫は持ち上がり、何もなかったように平然と大男は出て来たのだ。
大男は腕を回した後に指を鳴らし、
「遥か昔…日本の神話にて、大和平野の三輪山に大物主大神と呼ばれる巨大な大蛇がいたと言う。まさにそれ如くの化け蛇だ!」
大男は大蛇を見上げながら、それでも余裕の顔付きであった。
そんな男に腹を立てた大蛇は、再び大男に向かって襲い掛かる。
が…
『明王の鉄槌!』
大男の身体から光がほとばしると、大男の頭上に光り輝く巨大な拳が現れ、大蛇の頭を叩き潰す。大蛇は地面に頭を埋め込まれたが、直ぐに大蛇の尾が男に巻き付き、絞め付ける。
「ウムム…凄まじき生命力なのは認めよう?だが!全くもってユルいわ!…これじゃあ、授業参観の時に絞めるネクタイの方が百万倍キツイわぁー!」
男は絡まり締め付ける大蛇の身体を力任せに引き千切ったのだ。
流石の大蛇も奇声をあげて動かなくなった。
「さてと…次行くか?」
男が再び上空を見上げると、そこには…
「…ひぃ…ふぅ…みぃ…四体か?」
今仕留めた大蛇の倍以上ある大蛇が、大男を見下ろしていたのだ。
「肩慣らしには調度良い数だ」
大男はゆっくりと大蛇に向かって行く。
その口元は不敵に笑いながら…
その時、俺は銀髪の男と病院に向かっていた。
この男…さっきから俺が詳しい事を教えろと問いただしても、無言で歩いて行くだけ?
無視!シカト!マジに腹がたつ!
銀髪の髪だけでも目を奪われるのに、女みたいな綺麗な顔しているくせして、冷たい表情で、何を考えてるか解らない奴だ。
そして俺達は病院の入り口近くにたどり着いた。
この病院…
この田舎島には珍しく、都会にあるような立派な施設だった。
いつから建っているのか知らないが、この病院には島の人間じゃない医者達が住んでいたっけ?
確かにこの島には医者なんかいなかったから仕方なかったとは思うが、今思えば島以外の人間が住んでいたのは不思議な話だ。
毎年毎年、理由も解らず注射をしに出向いた事だけは覚えている。
注射が終わると、いろんなお菓子をくれたから、嫌じゃなかったが。
月ごとに定期検査をしに通っていたのは今思えばおかしな話だよな?
そう思えるのは、俺と詩織が島を離れて都会で暮らしていたから思う訳で…
多分、島の連中は不思議とは思ってはいなかったのだと思われる。
むしろ当たり前だと感じていたかもしれない。
そう…ごく当然の日常の中で行われていた。
まるで何かの実験のように…
そして俺はこの意味深な病院の中へと、この謎の銀髪の男と一緒に入って行く。
次回予告
蛇塚「あの日、俺は全てを失う・・・」
三蔵「何だと?何があったんだよ!?」
蛇塚「マジに・・・うん。ギリギリだっかもしれない」
三蔵「へっ?大丈夫だったのか?」
蛇塚「・・・・・・」
三蔵「おい!!」




