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聖輪奇聞・転生記!~神を導きし救世主~  作者: 河童王子
神を導きし救世主!
200/424

何も出来ねぇ・・・

蛇塚より語られる過去の物語


それは出会いと別れの物語



『蛇神降ろし編』開幕!


これは三蔵が俺達の前に現れる六年も前の話。



う…う~ん…


下校の鐘が聞こえる?


いつからだろう?


確か昼を食べた後から記憶がない?


俺は机に顔を伏せて眠りこけていた。


あ…もう下校時間か?


俺が顔を上げると、クラスメートの連中がニヤケながら俺に話し掛けて来た。



「おぃ?いつまで寝てんだよ?軍斗!明日から夏休みなんだから最終日くらい起きてろよな?」



俺はまだ寝惚けながら答えた。



「夏休み?あ~そういえば…そうだったなぁ?だったら、もう少し早く起こしてくれよ!」


すると、グラスの連中は、


「お前の居眠り時間最高記録を賭けてたんだよ!」


「はっ?」


「下校チャイムまで爆睡かどうかをな」



俺がいつ起きるかで、下校途中に行くカラオケを誰が奢るかを賭けていたらしい。


迷惑な話だ…


「軍斗は夏休み何処か行くのか?」



俺は考える事なく答えた。


「夏休みか…無理だろうなぁ?病院に通わないといけないし、バイトもあるしな?」



すると、周りの連中は黙り込んでしまった。

悪気なく聞いた質問に対して、俺の返答を理解したからだった。

こいつ達は俺の家庭状況を知っている。


俺は幼い頃より両親と離れて住んでいる。

そんな俺には唯一妹がいるのだ。

その妹は原因不明の足の病で学校近くの病院で長期入院し、車椅子生活を送っている。

俺はその妹のために、毎日欠かさずに病院通いをしていた。


そんで夜中に朝までバイトに明け暮れ、昼間は学校。

それが俺の学生生活。

まぁ…学校は寝るために来ているだけなんだけどな。



しかし明日から夏休みか…


俺は立ち上がると、場の空気が悪くなったクラスの連中に向かって言った。


「気にするなよ!」


そして俺はクラスの連中を残して、笑って教室を出て行った。


悪いが同情は勘弁頼む!てな話さ…



俺の名前は蛇塚軍斗!


髪は金髪。


一見、ヤンキーに見られがちだが…


ごく普通の…いや、ほんの違うか?


少し曰くつきの高校生だ!



と、言うのは…



俺が一人廊下を歩いていると、目の前から三人連れの女子が向かって来る。


はぁ…またか…また、見えちまった。


俺はすれ違い様、突然、その真ん中を歩く女子に怒鳴り付けた。



「テメェの身体がどうなろうと構わねぇがよ!失ったもんの気持ちを、少しは感じて見ろよ!」



そう言って、その女子の肩を軽く手で払った。

女子達は突然の出来事にア然としていたが…



「何!あいつ!セクハラ?気持ち悪い!突然、触ったわよ!」


「何かされなかった?ゆかり?」



俺に突然、怒鳴られた女子は…


「だ…大丈夫…だけど…」



この女子は「まさか?」と言う顔付きで、振り向かず歩いて行く俺の後姿を見ていた。

俺はそのまま屋上へと向かった。


「あの女…」



見た感じ『普通』の女子高生のようだが、なおさら腹がたつ!

俺の手には、今さっきの女の肩に乗っていたソレが優しく握られていた。


守るように…


俺は屋上に上がると、周りに誰もいないかを確かめた後、ソレに向かって語り掛けたのだ。


「俺には何も出来ねぇ…ただ、お前のために泣いてやるしかな…」



俺はソレを抱きしめ泣いていた。


すると、ソレは…



(どうして泣くの?お兄ちゃんは、どうしてママから僕を引き離したの?どうして?どうして?)



ソレとは…産まれてくるはずだった魂だった。あの女は肩に水子の魂を乗せていたのだ。

水子[ミズコ]とは産まれて来れなかった赤子の魂。赤子の無念の霊の事。


産まれたかった…

抱きしめられたかった…

愛されたかった…

それが叶わずに…

存在すらも気付かれずに…

切り捨てられ消えていく魂…


その魂を相手に俺は語りかけ抱きしめ、泣いてやるしか出来なかった。

そうなんだ…俺にはそう言った霊魂が見える体質なんだ。


見える…本当に、ただ見えるだけ…

他には何も出来ねぇ…



その時の俺は知識も手段も何も解らないただのガキだった。


だから俺は、その悲しい魂のために泣いてやる。


せめて…

俺くらいは、お前の存在に気付いてやりたい…


気持ちを解ってやりたい…


お前の悲しみを!


クソッ!


あの女は、どうやら…そう言う事らしい。


遊びの延長?本気?関係ねぇよ!

身体の関係だけもって、デキテしまったら育てられないからと切り捨てるなんて!


学生だから仕方ない?

育てられないから諦める?

責任なんてもてないくせに…

自分自身を被害者だと言い訳して、この魂を…


オロシタ…



姿が見えないから楽だったか?


まだ表に出ていなかったから何も思わなかったのか?


ふざけんなよ!


魂はあるんだ…


あるんだよ…


お前がした事は…


オロス=コロスって事なんだよぉ!



恋愛を身体の関係だと勘違いしている連中が多過ぎる世の中、俺はそういう霊魂を何度も目にしている。中には、姿がままならい形の魂もあった。

泣いて叫んで苦しみながら、後悔しながら消えた赤子の魂…


苦しいよ…悲しいよ…

どうして?どうして?

と、泣きながら訴え消えていく…


お前達のせいじゃねぇ…

悪いのは、「今」生きている者達なのだから。


だが、俺が一人騒いでも何も変わらない…


痛いほど知っている。

過去にも何度かあった。


そん時、俺は周りから狂人扱いされたっけな?


誰も霊魂なんて信じなかったから…


何度か少年院や病院に送られた事もある。

だから、その時の俺は諦める事にした。


この世の中に救いなんてないのだと…


世の中の不条理に俺は落胆した。


だから俺には、泣いてやる事しか出来ねぇんだよ…


ごめんな?無念だよな?辛いよな?


俺が抱きしめてやるよ…


俺が…お前達を愛してやるから…


だから…再び産まれてくる事を諦めないでくれよ?


きっと…今度こそ…お前達を愛してくれる親が現れるから…


お前達は今度こそ生きて幸せになれるからさ?


愛されるから…


お前達だけは諦めないでくれよ…


そう。


諦めたら不幸である事を受け入れてしまう事になる。

幸せを放棄してしまうんだ!

それだけはダメなんだよ!


泣いて訴える俺に赤子の霊は言った。




(泣かないで…お兄ちゃん…僕は…もう…逝くよ…今度は…産んでくれるママに…ママに……)



赤子の魂は涙を流しながら昇って逝った。


これで良かったのか解らない。


そして俺はその赤子の魂を見送る。

赤子は最後に俺に言った…



(今度は…ママに必要にされたいな…)



と…


俺は、また泣いた。




そして力尽き、俺は一人、屋上で意識を失ってしまった。

魂を送るってのは、それだけの「力」が必要なんだ…



後に俺の師に聞いたら、それもまた供養なのだと聞いた。

念仏も言葉を使った言霊を使い、霊の魂を霊界へ送るのだが、俺は感情と思いを乗せた泣くと言う言霊を使い、無意識に霊界への道を作ったのだと。


俺は馬鹿だから見て見ぬふりは出来ねぇ…


だから、今みたいな供養を幾度と繰り返した事か?


馬鹿だなぁ…俺…



数時間後、目覚めた俺は学校を飛び出し、急ぎ足で駆け出した。


急がないと…


着いた場所は病院だった。


正直、病院は苦手だ。


言わずと無駄に見えて仕方ないからなのだが、だが、アイツが待っているから仕方ない…


俺の愛するアイツに…


俺は行き慣れた病室にまで行くと部屋には一人の少女がいた。

少女は俺に気づくと笑みを見せて俺を出迎えたのだ。


少女と言っても、俺より二つ下の14歳。

細身の色白の透き通った肌に、整った顔立ち。

髪は背中まで伸びた茶色…あ、染めている訳じゃないぜ?

地毛で薄い茶色の髪なんだ。


「遅れてごめんな?待ったか?」



その少女は俺の…


「お兄ちゃん…」



蛇塚詩織。


俺の自慢の妹だ!



「調子はどうだ?」


「もぅ!調子も何も私は足が使えないだけで、他には何処も悪い訳じゃないんだから!」



妹の詩織は原因不明の病気で足が不自由だった。

なので、部屋の隅にはいつも車椅子が置かれていた。



「そうだったな…でもよ?何かあったら心配だろ?兄ちゃんやお医者さんに何でも言うんだぞ?」


「お兄ちゃん過保護過ぎだよ!」


「そうか?全然普通だよ?」



俺は妹を車椅子に乗せて病院の外に散歩に出た。


「・・・」


さっき詩織はそう言っていたが、幾度と原因不明の貧血で倒れる事があった。

それは詩織にも、少なからず俺と同じ力があったからじゃないか?


苦しみもがく霊魂の念を受けやすいのだろう…


だが、やはりその時の無知な俺にはどうしてやれば良いのか解らないし、何も出来なかった。



「風…気持ち良いね」


「寒くないか?」


「うん。大丈夫」



俺が唯一心を許せ、落ち着ける時間。

それが、妹と一緒の時間だった。

詩織には過保護だとか言われているが、俺が妹に救われているのかもしれない。


何故なら俺は、いつも孤独感が拭えなかったから…


俺は周りの奴達と違うから!


そんな俺が唯一、心を許せる相手が妹の詩織なのだから…


しばらく詩織と話をしてから、俺は詩織を病室に戻した後、



「また来るからな!」


「ありがとう…お兄ちゃん」



一人、俺は住んでいるアパートに帰って行く。

辺りは、もう暗くなっていた。

正直、誰もいない部屋に帰るのはどうしようもなく虚しい。

俺はいつもの習慣でポストに手を突っ込むと、中には一通の手紙が入っていた?

差し出し人は俺と詩織と離れて暮らす父親からだった。



(親父?珍しいな…てか、手紙なんか初めてじゃないか?)



そして、手紙にはこう書かれていたのだ。



【軍斗、戻って来い。近いうちに儀式が行われる事になった。詩織を連れて里に戻るべし。…父より】




儀式?


あぁ…あの祭の事か…


確か十年くらい前にもあったような?


あれ?どんな祭だったかな?


記憶にない…


確かに昔…


その時、俺の視界がふらついたのである。


あれ?記憶の中に霧が?頭が割れるように痛む!


儀式か…行かなきゃ…な…


どうして?解らない…


ダメだ…頭が回らない…意識が…


ダメだ…もう考えるのは止めよう…


俺は倒れるように部屋に入り、そのまま眠ってしまったのだった。







その儀式が俺と詩織の運命を変える事とは知らずに…


あの惨劇が待ち受けていようとは、その時の俺に知るよしはなかった。


次回予告


蛇塚「あの日の俺は・・・まだ、何も出来ないガキだった」

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