三蔵に迫る危機!車遅国三国師の陰謀!?
車遅国にやって来た三蔵一行だったのだが、来て早々罠にかかり、一行は離れ離れになってしまった。
やれやれ・・・あ~久しぶりだな?
俺は三蔵だ!
「あの~…」
「…………」
隣で沙悟浄が俺に何か言いかけている。
が、俺は無言で先を進む。
俺達は車遅国の王室にいたはずなのだが、三妖怪国使の罠にかかり孫悟空と八戒と離れ離れになってしまったのである。多分、孫悟空と八戒は一緒にいるであろう。
俺はと言うと、城の地下に迷宮のように続く洞窟の中を歩いていた。
そして一緒にいるのは使い物にならない沙悟浄だけなのだ。
「あの~三蔵様ぁ~!ここは何処なんでしょうか?城の地下にこんな洞窟があるなんて不思議ですよね?」
確かに城の地下に、迷宮になる程の洞窟なんて奇妙だとは思う。
「それにしても、やけに喉が渇くな…」
「多分、この洞窟が塩岩石で出来ているからじゃないですか?」
「何?塩岩石だと?」
俺は洞窟の岩を指で触り口につけた。
塩辛い!
確かに塩だ・・・
しかし何故?
「私が思いますに、この土地を枯らすためじゃないですか?」
「どういう意味だ?」
「この車遅国は以前とても栄えた国だったのですが、突然の日照りで水は干からび、大地は枯れた事があったのですよね?」
「つまり、あの三匹の妖怪達はこの国の地下に、何処からか運んで来た塩岩石を埋めて大地を干からびさせたと言う事か?そんな馬鹿な?」
「そんな馬鹿みたいな現実みたいですね」
「何と効率の悪い…」
「それでも結局この国を手に入れたのですから、継続は力って事なんですね!」
「この国の王がマヌケなだけだ!」
ん?
コイツ・・・
意外に頭がきれる奴だな?
しかし、なんか・・・
無性に腹が立つのは何故だ?
沙悟浄と一緒にいるとムカつく!いらつく!腹が立つ!
この三々七拍子が俺を苦しめる。
恵岸行者に言われて仲間にしてみたのは良いが、全く使えないときたもんだ・・・
俺のストレスが限界に達していた。
仕方なく懐からマイルドヘブン[タバコ]を取り出す。
「ん?残り二本か・・・」
クソォ!
せっかく今まで大事に吸ってきたのに、もう底がついていたのか!
仕方ない。
我慢・・・
出来ん!!
俺はタバコに火を点けた。
「ぷぅはぁ~」
「あの~三蔵様?それは何ですか?」
「ん?そうか?知らないか?これはタバコと言うもんだ!俺の命の源みたいなアイテムだな!アハハ!」
「は…はぁ~」
沙悟浄は興味津々に俺の吸う紙状の煙草を見ていた。
そんなやり取りの最中、俺は歩く足を止めたのだ。
「どうなさったのですか?」
俺は無言で視線の先に向けて祈りをこめた。
「!!」
そこには、武装した僧侶の亡骸が転がっていたのだ。
しかも何体も・・・
「この方達は?」
「この国に潜入した武闘寺院の者達だ」
「武闘寺院!?」
武闘寺院とは、人間に害をなす妖怪に対抗するために人間達が組織した退魔集団。
「そう言えば、恩のある方に頼まれたと仰っていましたね?」
「昔、借りがあってな…。この国に潜入を任せた者達が一人も戻って来ないから、調査を頼まれていたのだが、まさか全滅していたとは・・・」
「それにしても・・・」
俺も気付いていた。
噛みあとか?
この亡骸はまるで猛獣にでも襲われたかのようだ。
「!!」
「あああ!」
その時だ。
俺達は良からぬ気配を感じたのだ。
俺達の前に獣が現れたのだ。
いや、獣の妖怪か!?
大虎のような?
虎に見えるが、妖気を感じる?
これは・・・
「妖獣か!」
妖獣とは獣が妖力を身につけた化け物である。
知性は獣並だが、その分本能のみで人を襲うから厄介なのだ。
「あの国師達はこんな化け物も飼っていたのか?」
「はっ?はい!みたいですね!」
「では、沙悟浄行って来い!」
「はい?」
俺の指示に沙悟浄は真っ直ぐと見つめ返してきた。
「・・・」
「・・・」
「早く行け!」
「私がですか?」
「当たり前だ!」
何を言ってるのだ?
「むっ…無理です!あんなのに勝てる訳ないじゃないですかぁ~?」
「無理なのか?」
「はい!」
「返事は良いな?」
「ありがとうございます!」
「では、お前には何が出来るのだ?」
「何でしょう?」
「特技は?」
「皿洗いから掃除!家事全般なら任せてください!」
「それが戦いに何の役に立つ?」
「さ…さぁ…?」
「そうか…なるほど…」
「?」
俺は一息つくと、沙悟浄に近付く。
「では、お前に出来る事を教えてやろうか?」
「えっ?何でしょうか?私、一生懸命頑張ります!」
俺は沙悟浄の胸元を掴み持ち上げたのだ。
「えっ?えっ?三蔵様?何をするのですか?」
そこに妖獣が俺達に向かって襲い掛かって来たのだ。
『ウグオオオ!』
「河童よ…お前に出来る事は…」
「はい~??」
「俺の盾となって俺を守る事ダァーッ!!」
俺は沙悟浄を妖獣に向かって投げたのだ。
「キャアーー!」
『ウグオオオ!』
妖獣の爪が飛んで来た沙悟浄に襲い掛かる瞬間、
「いやぁあああ!」
沙悟浄の頭の皿が強烈に発光したのだ?
『秘技・河童手裏剣!』
沙悟浄の皿から光る手裏剣があちらこちらに飛び回っていく。
あの術は威力はないが、目眩ましの効果があるようだ。
そして、
《ゴチィン!!》
沙悟浄は妖獣に頭を衝突したのである。
目を回す妖獣と沙悟浄。
「ふっ…やれば出来るじゃないか?」
「しゃ…しゃんじょう~しゃま~酷いでふ~」
安心したのもつかの間、
『ガサッ…グルルル!』
そこに新たな妖獣が何匹も現れたのだ。
「くっ…まだいやがったか…」
よし!また、コイツを使っ・・・
ん?
「ブルブル…」
沙悟浄は隅で俺を見て怯えていた。
ちと、やり過ぎたか?
『ガアアアア!』
妖獣が沙悟浄を追いかけ回し始めたのだ。
沙悟浄は紙一重で妖獣の爪を避けながら逃げてはいるが、
「うぎゃあああ~誰か助けてくださぁ~い!」
鼻水を垂らし涙を流しながら逃げていた。
情けない奴の姿を見た俺は
「仕方ない!俺が戦うしかないか?やっぱ?」
『ナウマク・・・』
俺は真言を唱えようとした。
「うぎゃあああ!」
ん?
見ると沙悟浄に妖気が高まっていたのだ?
あいつ何をするつもりだ?
『か、河童の~』
沙悟浄の周りに水流が噴き出しながら集まり始めていく。
『川流れぇ~!!』
《ザバァ~!!!》
沙悟浄の回りから水が噴き出し、濁流となって洞窟に溢れ出したのだ??
濁流は妖獣を巻き込み
そして・・・
俺や術を放ったはずの沙悟浄まで巻き込み、洞窟の中を流していく???
・・・って!
「ばっ!馬鹿者ぉ~!場所を考えて技を使いやがぁれぇ~!」
「しゅみませぇ~ん!」
俺達は濁流に流されていく。
まるで、
水洗便所に流されている気分だった。
と、変に冷静に考えつつ
「うっ!い…息が…もたん…ゴホッ!」
「うぐわぁあああ!」
俺は濁流に飲まれ意識を失い、流されていった。
ん?うう…う・・・
どれだけ気を失っていたのだろうか?
俺が意識を取り戻すと同時に、自分自身が今置かれている状況を把握した。
俺は縄で縛り上げられた状態で、目隠しをされていた。
また捕われたのか?
すると、背後から何者かが俺の目隠しを外しているのが解った。
ん?
俺の前には車遅国の王と、三人の妖怪国師がこちらを見下ろしていたのだ。
部屋の周りには武装した兵士達が、いつでも俺を捕らえられるように待機していた。
ここは?
最初に俺達が落とされた場所か?
どうやら振り出しに戻ったようだな。
それにしても・・・
俺の隣では、まだ気を失って眠っている沙悟浄がイビキをかいて眠っていたのだ。
コイツは・・・
本当に、まったくもって使えねぇー!
それに孫悟空と八戒も何をやっとる!
どいつもこいつも使えん!
俺の苛立ちはMAXになっていた。
暴れるか?
そんな事を考えている俺に、車遅国王が話し掛けて来たのだ。
「そなたを再び連れて来たのには理由があるのだ!そなたの噂を聞いた事のある者が城におってな?聞く話によると、そなたはそれはそれは強い法力を持っているとか?そこでだ!余興として私の前でこの三人の国師と、法力勝負をさせてみたくなったのじゃ!」
なぬ?
つまり、俺をお遊びに付き合わすつもりなのか?
面倒な・・・
いや、待てよ?
孫悟空達が来るまでの時間稼ぎになるな。
仕方ない・・・
それにこの俺が、あんなチンケな妖怪達に負けるとは思えんしな!
「良かろう!俺が相手してやろう!」
「ほほほ!では、勝負してもらおうか?」
そんな俺と車遅国王とのやり取りの中、当事者でもある虎と鹿と羊の頭をした三人の国師達がコソコソ話を交わしていたのである。
(うむむ…国王の馬鹿が!余計な事を考えやがって!)
(だが、兄者よ?この法術合戦で三蔵を殺せば、霊感大王の奴に一泡吹かせられるんじゃないか?)
(では、どうやって?)
(ふふふ…俺に考えがある。俺の話術に任せておけ!)
すると、羊の頭の妖怪が俺と国王の前に現れたのだ。
「待ってください国王よ!我々とこの坊主が同レベルの法力があるなんて我々を侮辱しているのですか?」
「それは、どういう事だ?」
「我々はこの大地に雨を降らせたのですよ?雨を降らすなど、この坊主に出来るとお思いですか?」
「ふむ。確かに…」
車遅国王は俺を見ると言い放つ。
「お前に雨を降らせる事は可能か?」
「雨を降らせるのは無理だ!」
「そうか…やはり…無理か…」
「だがな!」
そう言うと、俺は自分の身体を拘束していた縄を力任せに引き裂き立ち上がったのだ。
「なんと!」
「貴様!たかが縄抜けで勝ったつもりか!」
「馬鹿を言うな?よく見てろよ!」
続けて俺は真言を唱えたのである。
俺の背中から不動明王の業火が天井高く燃え盛り、城の周りを炎で覆い尽くしたのだ!
更に炎を自在に操って見せたのである。
「おおお!これは凄い!」
「雨は無理でも炎を使うのはどうかな?それとも、このままこの国全体を炎で覆ってみせようか?」
「待て!充分だぁ!うむ。見事だぁ!三蔵とやら!」
俺は炎を納めた。
「うぐぐ…」
悔しがる羊力という妖怪。
「次はどうする?どんな勝負をするつもりだ?」
今度は羊力と虎力と鹿力が同時に前へ出る。
「ならば、次はこれだぁー!」
「お前にこんな真似が出来るか?」
「やれる物ならやってみるが良い!」
そう言い放つと、
羊力は熱湯の油の中に飛び込み、虎力は自分の首を切り落とし、そして鹿力は自分自身の内蔵をむしり出したのだ!
なっ?
何てグロテスクな!!
すると、三人の身体は見る見るうちに再生し始めたのである?
「おおお!」
驚きつつも感心する車遅国王に、
「これが再生の術でございます!国王よ!」
「ビックリしたが確かに凄い!死なないとはまさに人間離れした術だ」
「お褒めいただきありがとうございます。では、三蔵よ?貴様もやってみろ!」
で、出来るか!
「くっ…!」
鹿力の奴は自慢気に俺にナイフを手渡し、「やってみろ?」と俺に手渡す。
コイツ達は俺に同じ事をやらせて死なせるつもりか?
これでは、ただの自殺ではないか!
どうする?
「さぁ?やって見るがよい!」
クソォ!
俺は渡されたナイフを見つめたまま考えていた。
マジにどうする?
「そんなの簡単じゃないですか?」
えっ?
「妖怪なら出来て当たり前じゃないですか?てか、妖怪だから出来るんですよね?術なんか関係ないですって~」
あっ・・・
それは目覚めた沙悟浄だった。
そして俺からナイフを取ると、指先に傷をつけて血を垂らす。
が、直ぐに傷はふさがったのだ。
「ですよね?」
「なるほど!」
その場所にいた全員が納得した。
「妖怪だから、死なない」
てか、殺せば死ぬが、再生力は人間の数百倍なのだ。
何故に今までそんなくだらない事に気付かなかったのだ?
ふぅ~
とりあえず今回の話は疲れたから、続きは次話にするか・・・
次回予告
孫悟空「あはは・・・三蔵イラついていたな~怖い怖い」
八戒「お前、自分に面倒がないと完全に他人事らな?」
孫悟空「そっか?確かに最近三蔵に殴られる回数減ったな~」
八戒「・・・・・・」
孫悟空「そんな事より次話は車遅国最終決戦だぜ!」




