小角の一番弟子!?
晴明の安否を確かめんと遺跡に向かおうとする三蔵は、
三千院に完膚なきまでに叩きのめされたのだった。
俺は三蔵だ…
俺は今、総本山の寺院にある道場に座している。
頭にはタンコブ残し…
そうなのだ。
俺は三千院と言う明王を使役するリーダー格の男との一騎討ちをした。
壮絶なるバトルを…バトルを?
「あんなのバトル何かじゃねぇよ…」
一方的だった。
俺は確か…一時間程奴に向かって、ありとあらゆる攻撃を仕掛けたが奴は一歩も動かずに指先だけで…俺を…俺を…
「くそったれぇー!」
結局、俺は最後には力尽き倒れたのだ。
そして奴は最後に俺にこう言い残したのである。
「弱い!今のお前では遺跡に行っても無駄死にするだけだ!」
「な…何だと?くそったれぇ!」
「力を付けて出直すが良い!それまでお前を連れて行く訳にはいかぬ!」
「何だと…?」
…それは力があれば連れて行くって事か?
「二週間だ!二週間だけ待ってやる。それまでに私が納得出来るほどの力をつけてみよ!無理ならお前は置いていく。そして遺跡には私達四人だけで向かうから、お前は大人しく留守番しているのだな?」
俺の目の前に立ち塞がる俺と同じく『明王』を魂に宿す四人の男達。
「!!」
「だが、力の使い方が何も分からぬお前では、今から足掻いても時間の無駄であろう?お前にはその男を付けてやろう」
すると、俺の目の前に四人の男の一人…
確か大徳と言う大柄の男が倒れて身動き出来ない俺を担ぎ始めたのだ。
連れて行かれる際…
「待て!放せ!おぃ!ロン毛!」
「ロン毛ではない!私は三千院だ!」
「だが、何故にこの大男なんだよ?百歩引き下がって、お前が俺を強くさせた方が手っ取り早いだろうが?」
俺は担がれ身動き出来ない状態で軽口を叩く。
「ふっ…残念だが私は天才なのだ。どうやら天才と言うものは教える事が苦手でな?教える事に関しては、その大徳の方が向いているのだよ」
この男…自分で自分を恥ずかしげもなく天才と言い切りやがったぞ?
ロン毛もそうだが、マジにナルシストなのか??
「それに、その大徳はお前とも因縁深い関係がら好都合であろう?」
「因縁深いだと?この男がか?こんな奴知らんぞ?」
「ふっ…お前の師である役行者(小角)殿の一番弟子である、その大徳にお前を託そう」
今、何て??
小角と言ったか??
「なっ!?この男が小角の一番弟子だとぉー??」
「少しはマシになって戻って来い!」
俺は三千院を睨みつけ…
「ケッ!二週間なんていらねぇ!三日で十分だぁ!」
「フム。元気なのは分かるが、あんまり俺の肩で暴れるな」
「うぎゃあ!」
そう言って、大徳は俺を担いだまま俺の頭にゲンコツを食らわし気絶させて、出て行ったのだ。
薄れゆく意識の中…
俺は必ず強くなって、晴明のいる遺跡に行くと誓う。
だから、待っていろ…よ…
せ…せぃめ…ぃ…
と、まぁ~
これが成り行きで、俺は運ばれた道場にて正座していた。
それにしても~
「いてて…まだ頭がズキンズキンしやがる…まるでハンマーで殴られたようだ…」
そこに、例の男…
大徳が道場に入って来た。
こいつが…小角の一番弟子だって?
そういえば昔、聞いた事がある気がする。
俺と晴明が一番弟子の座を競っていた少年時代に小角が俺達に言った台詞の事を。
「一番弟子じゃと?ホホホ!残念だったのぅ~?一番弟子は既に他にいるぞよ~」
その男は俺達よりも年上で、小角が日本に来て初めてつくった弟子らしいのだ。しかもその男は小角の持つ術の全てを学び、極めた男と言っていた。
何処の誰かと尋ねたが、小角は…
「心配せぬとも、いずれ運命に導かれ出会う事もあるじゃよ!ふぉふぉふぉ!」
そう言って、たぶらかされたのだ。
だが、マジに今…
その運命?てやらで、俺の目の前に現れ立っているのだ。
小角は預言者だったのか?
つくづく実感する。
…この男が?
すると大徳は、俺の目の前に立ち俺の頭をグシャグシャに撫でた。
「止めやがぁれぇ!」
俺は大徳の手を払いのける。
「元気な奴だのぉ~ハハハ!」
「お前…本当に小角の弟子なのか?」
「ふむ。ああ!間違いないぞ。と、言っても…二、三年足らずだったがな」
「二、三年?」
つまり、その二、三年でこの男は小角の術の全てを学び、手に入れたと言うのか?
「では、改めて自己紹介をしよう!」
『俺の名前は大徳力也!大威徳明王の魂を宿す守護者だ』
「大徳…力也…」
「さて早速だが、お前には力の使い方を教えてやろう」
「待て待て!俺はまだお前から教えを学ぶとは言っていないぞ!」
「まだ、そんな事を言っているのか?早くしないと晴明殿が危険なのだろ?」
「あぁ!だから、俺がお前をぶち倒せば…修行しなくても良いんだよなぁ?あの赤髪ロン毛野郎には遅れを取ったが、お前には負ける気がしねぇぜ!」
そう言って俺は…
目の前の大徳に殴り掛かったのだ。
「ふっ…実践的に教えた方が覚える性分らしいな?良かろう!」
俺の渾身の一撃が大徳の身体に直撃した。
やった…た…たた…たた?
「いってぇ~!」
俺は拳を戻して距離をとると、自分の拳を擦り跳び跳ねたのだ。
何て身体してやがるんだよ!
まるで、鋼鉄をぶん殴った感じだ…
ならば!
俺は懐から数珠を取り出し気を籠めると、
「だったら、これでどうだぁー!」
『数珠連弾!』
数珠連弾…俺の必殺技である。
数珠に気を籠めて破壊力を増し、弾丸のように弾き出す攻撃である。
「ん?面白い技だ…だが、荒過ぎるな?」
俺から放たれた数珠は、大徳を捕らえた。
「ンナッ!」
俺は目を丸くした…
大徳は俺の飛ばした数珠を、難なく全て片手でキャッチしたのだ。
「こうなったら…」
奴はパワー系のはず!
だったら、こっちはスピードで掻き回して、もう一度最大級の攻撃をくらわす!
そう計算して俺が飛び出そうとした時、奴が俺の視界から消えていた??
何処に行った??
辺りに見当たらない?
上かぁ!
俺が見上げると大徳が飛び上がり、拳に気を集中させて落下して来たのだ。
「うわわわ!」
俺は慌て転げながら大徳の攻撃を躱す。
すると大徳の一撃が道場の真ん中に直撃し、
轟音とともに床をめり込ませ、沈むように陥没した。
「なっ?なっ?化け物かよー!」
さらに大徳の攻撃は止まらなかった。
大徳は俺に向かって突進して来る!
その手には何処から持って来たのか?
黄金に輝く錫杖を手にしていた。
「これが…人間の力なのか?人間にこんな…」
確かに俺は、幾度となく化け物じみた奴達と戦った事がある。
しかし、それは人でない者達であった。
化け物であったり、神の転生者であったり。
しかし、目の前の大徳は…
いくら神の力を宿しているとはいえ、間違いなく人間なんだぞ??
大徳の錫杖は俺の眼前で止まっていた。
負けた…
完全に…負けた…
俺は仕方なくその場に座り込み、大徳に従ったのだ。
「こ…降参だ!分かったよ…お前に従う…」
俺は大徳の修行を受ける事にしたのだ。
そして大徳が俺に与えた修行は基礎中の基礎からだった。
「本当にこんな事をやらなきゃいけないのか?もっと楽に…必殺技みたいな技を教えてくれた方が直ぐに強くなれるんじゃないか?」
「甘ったれるな!」
大徳が激怒する。
「基礎が出来ないのに強くなりたいだと?必殺技があれば強くなれるだと?思い上がるなよ!三蔵!」
「なっ!」
突然、大徳の顔付きが変わり、俺は畏縮したのだ。
「お前はどうやら自分の力を過信しているようだな?」
「過信だと?ふっ…俺は強い!」
「俺や他の奴達にあれだけ負けてもか?それとも、負けた事すら分からぬウツケか?実際、俺達はお前相手に力の半分も出してはいなかったのだぞ?」
「くっ…」
悔しかった…
だが、確かに俺はこいつに勝てない。
いや?恐らく他の連中にも勝てる気がしねぇ…
だが…だが…
「…認めたくないのであろう?己の弱さを!己が今まで生きて来た…信じてきた全てを否定されるようなもんだからな?」
「ぐぅうう…」
何も言い返す事が出来なかった。
「それに基礎が出来なければ、応用なんて出来はしない!お前は己で気付いていなくとも、その身には基盤たる基礎力が詰まっているのだ!それも、役行者殿がお前を…お前を…」
大徳は言葉を濁した。
「小角が俺のために何を?」
更に大徳は俺に問う。
「三蔵!お前にとっての力とは何だ?」
「力?そりゃあ…俺の存在の証みたいなもんだろ?」
「では、何のための力だ?」
「何のって?そりゃあ…自分自身を守るため!生き抜くためだ!」
「お前は、本当に昔の俺に似ているな…」
「はっ?」
「己の力を過信していた頃の…馬鹿な俺と…」
「?」
「そして、その馬鹿な傲りから…俺は大切なもの全てを失った…」
「それは…どういう意味だ?」
「役行者殿がおられなかったら、出会わなかったなら…俺は…俺は今、生きてはいなかった…あの方が俺を生かしてくれたのだ」
「お前…小角との間に一体何があったんだ?」
「ふむ…少し昔話を聞かせてやろうか?」
「あっ、あぁ」
俺は何故だか、この大徳の話を無性に聞きたくなったのだ。
それは…
小角の事もあるが…
この男に、俺と同じ匂いを感じたからだった。
次回予告
三蔵「大徳か・・・今まで、脇の脇にいたキャラが突然意味あるキャラとして、しゃしゃり出て来るとは・・・仕方ない!
主人公を奪いに来た新参者に本当の主人公の有り方って奴を俺が教えてや・・る
えっ?何だとーー!!
次の話には俺の出番がないだと???
なんてこった!!!!!」




