八百万の里の悲劇【後編】
八百万の里に襲来して来たカミシニ達!
父神イザナギ、母神イザナミの最期にスサノオが怒る!
何の前触れなく八百万ヤオヨロズの里に起きた…
悲劇!
「俺のシマで好き勝手しやがって!奴達…生かして帰さんぞぉー!」
俺はスサノオ…
俺は八百万の里で起きた悲劇を思い出していた。
俺は置いてあった御神刀を手に取り、社を飛び出して黒服の男達のいる方角へと向かったのだ。
俺が着いた時…
そこでは無惨に殺された里の民と八百万ヤオヨロズの兵士達。
それに…
身体中に傷を負ったアマテラスと月読の姿があった。
「こ…これは!姉者!兄貴!無事かぁ!?」
だが、背後に感じる冷たい気配に気付き振り返ると、そこには黒服の男達が笑みを見せてこちらを見ていたのだ。
奴達か!
「グオオオオ!」
俺は雄叫びをあげて、その男達に向かって突進していた。
「待って!スサノオ!そいつ達は…」
「ダメだ!スサノオの奴、逆上して聞こえてないよ!」
俺の刀は男達を捕らえたが、その黒服の男達に余裕で躱されたのだ。
当たらねぇ…
おかしい?
それに何か身体が重く感じる?
ぐっ!なっ?
「うぐわああああああ!」
俺は突然身を襲った激痛に膝をついてしまった。
なっ?何が!?
俺の身体に何が起きてると言うのだぁー!
周りでもアマテラスや月読、生き残っていた里の連中も呻き苦しんでいた。
これは?
こいつ達が何かしたのか?
はっ!
俺は気付いたのだ。
突然起きた全身を襲う激痛。
この里全員を苦しめている元凶…
それは!
「このふざけた赤い雨が原因かぁ!?」
『うぐああああ!』
身体中に毒が回り、熱と痺れ、激しい痛みと苦しみに襲われた。だが、その激痛の中俺は力を振り絞り、御神刀を地面に突き刺して、怒りの力で身体を奮い起こしたのだ!
そして、再び黒服の男達に向かって斬り掛かったのである。
「これは、驚いた…この雨の中、まだ理性を残し、更に立ち上がり私達に向かって来るなんて…
もしかしたら…」
黒服の中央にいたリーダーらしき男が前に出て、俺の振り降ろした御神刀を微動だにせずに、片手を添えただけで止める。
受け止めた男の掌が切れ血が垂れ流れる。
「!!」
手ごたえを感じたかと思ったその時!
そいつの掌から流れる血が生きた蛇のように異様な動きを見せ、俺の持つ御神刀に巻き付いて来たのだ。すると俺の刀が黒く変色しながら粉々に砕けながら消滅していく?
本能的に危険を感じ、俺はすかさず自分の刀を手放し、後方に飛び上がった。
「ハァ…ハァ…」
何だ?奴の血は?
全身が一瞬、鳥肌が立ったぜ!
それに、呼吸をするのが辛い…
喉が焼け焦げているみたいだ…
「グハッ!」
一瞬、意識が吹っ飛び倒れそうになったが、そこを背中から何者かによって支えられたのだ。
「お前達…」
俺の身体を支えたのはアマテラスと月読であった。
「スサノオ…私達も戦うわ…ハア…ハア…」
「…仕方ないですね~弟一人に苦しい思いさせてられないですし…兄の立場としてね?…ハア…ハア…」
二人とも立ち上がるのもやっとのはずなのに…
「へっ!無理しやがって!」
俺達三兄弟は黒服の連中に向かっていく…
その中の一人が頭のフードを脱ぎ、
「たまげた精神力だなぁ~?アライヴよ?こいつ達もなれるんじゃねぇか?俺達と同じカミシニに?」
カミシニだと…?
その男は目立つ長い赤髪に、ムカつくような笑みをみせていた。
「まぁ、この後…奴達が生きていられたらの話だがなぁ~!」
赤髪の男は自分の片腕に傷を付けると血が流れ落ちる。
「何の真似だ?」
「自虐な人なのですかね?」
「油断しないの!月読はさっき見ていたでしょ?あいつ達の血は!」
…血?
あいつ達の血がどうなんだって言うのだ?
すると赤髪の腕から流れ落ちる血が次第に形を成していく。
『ブラッド・クレイモア』
その血は二メートル近くの『巨大な剣』へと変化したのだ。
「よし!アートだぜぇ!さぁ~赤く染めるぜぇ!」
「こいつは!」
その瞬間、目の前から赤髪の男が視界から消え…
「うぐわあああ!」
「きゃああああ!」
振り返るとアマテラスと月読が、赤髪の男に斬られたのだ。
「なっ!アマテラス!月読!」
俺が叫んだ時…
「グゥ…」
「戦いの最中に油断大敵だぜ?お兄さんよ~!」
赤髪の大剣が俺の腹部を貫いたのだ。
「あが…あがが…」
俺は崩れ落ちるようにその場に倒れた。
まさに瞬殺だった。
だが、奴達は俺達にトドメを刺さずに俺達の前から去って行った。
・・・どうして?
赤い雨が降り続ける。
そこはまさに血の海になっていた。
なっていた…
俺達は兄弟と共に八百万の里に入り込んだ侵入者達と戦った。
しかし…
力及ばず…
俺達三兄弟は生死の境をさ迷っていたのだった。
ダメだ…
身体が動かねぇ…
悔しい…
俺達は…何も出来ないままこんな所で無駄死にするのか?
父神と母神…
死んでいった同族達の無念を晴らせないまま…
クソ…クソ!クソ!クソ!
その時、強烈な光が俺達三人を覆ったのだ?
≪そんな状態でも、まだ諦めない心…戦う意志は残っているかい?≫
誰だ?
頭の中に直接声が聞こえやがる?
≪まだ戦う心があるのなら、私が貴方達に生き残る力!再び戦う力を与えてあげる…≫
何だと?
ふっ…俺は…奴達にまだ負けちゃいねぇー!!
奴達を皆殺しにして、地獄に堕とすまでは絶対に死なん…
「死んでたまるかぁー!」
≪もう一度問うよ!今、ここで楽(死)になっていれば、これから未来!苦しむ事も傷付く事もないのだよ?敢えて茨の道…地獄への階段を進むと言うのかい?それでも良いのかい?≫
「みなまで言うなぁー!」
俺とアマテラス、月読が謎の声に対して同時に答えたその時、強烈な光が更に強まり俺達三人を照らした。
身体が焼き焦がされるようだ…
更に身を焦がす強烈な痛みが俺達兄弟を襲った。
「うぐわああああああああああああああああああ!」
どれくらい経っただろうか?
俺達兄弟三人は目覚めた…
「…俺達は…俺達は生きているのか?」
「の…ようね…」
「…それにしても…さっきの声は一体?少年のようでしたけど…」
「分からねぇ…ただ、俺達はまだ生きているようだ!再び戦える!カミシニと名乗る連中を全員地獄に堕としてやるぞぉー!」
「スサノオ!私達も同じよ!」
「それより今は里の皆が心配です!生き残っている仲間を探しましょう!」
「そうね!」
「悪いが、俺は奴達を追う!」
「待ちなさい!そんな病み上がりでどうするつもり?返り討ちにあうのが関の山よ!それより今は仲間の安否が先よ!」
「はい!あの者達は後回し…」
俺は荒ぶる心を抑え、アマテラスの言葉に従った。
「仕方ねぇ…な」
俺達は病み上がりの身体を引きずりながら、社に向かったのだった。
そこで再び最後の地獄を味わう事になるとも知らずに・・・
二度と忘れられない地獄を!
そこにいたのは…
見た事のない化け物達だった。
虫のようなモノ?
植物みたいなモノ?
怪獣のようなモノ?
とにかく異業の化け物達が里全体にうごめいていたのだ。
「何だこいつ達?奴達の仲間か?何処から湧いて出て来やがった?」
「なんて悍ましい…」
「とにかく奴達を何とかしなくては…生き残った里の皆を探せませんね!」
俺達は月読の刀を借り構えたのだった。
今は生き残った仲間を探さないと…
俺達は化け物に向かって行った!
刀を降り、奴達の身体を斬り裂きながら…トドメを刺そうとした。
その時!
『待ってぇー!』
突然アマテラスが叫び俺を止めたのだ。
「どうした?」
「二人とも…驚かずに聞くのよ…」
「?」
「この化け物の魂に…同調してみて…」
「あん?何を訳分からない事を!俺は早く…」
「ヤレッテ言ってるだろぅ!」
アマテラスが激しい感情を向けて怒鳴ったのだ。
訳分からねぇ…
俺はアマテラス姉に言われた通り、化け物達に魂を同調させた。
馬鹿な!?
う…嘘だろ?
俺はアマテラスの言葉の真意を理解したのだった。
それを察してアマテラスが頷く。
月読もまた目を背けていた。
こいつ達…
この化け物達は…
里の連中が変貌した姿だというのかぁ?
俺達は刀を落とし戦意を喪失した。
やめろよ…
どうしちまったんだよ…
どうしてお前達…
化け物なんかに?
その時、声がしたのである。
「コロシテ…コロシテ…コロシテ…コンナ…スガタ…デ…
イキテ…イタクナイ…」
この声は?
俺は再び、化け物と化した里の仲間達を見たのだ。
「!!」
そこで俺達は目にした。
化け物の目から涙が零れているのを…
そして再び声が?
「ワタシタチニ…マダ、イシガ…アルウチ…ニ…
コロシテ…バケモノ…ノママ…イキテイタ…クナイ…
イシキガ…ヒトトシテ……アルウチ…ニ…」
「………」
言葉が出なかった。
仲間達は分かっていたのだ。
もう二度と元に戻れないという事を…
そして覚悟しているのだ!
俺は落とした剣を再び拾い上げた。
アマテラスと月読も無言で剣を拾い上げる。
せめて…
楽に死なせてやるよ…
それが同族としての…
生き残った俺達が出来る唯一の…
弔いだぁーー!
俺達は仲間達の変貌した化け物達を斬り裂いていく!
仲間だった者達を…
友だった者達を…
俺達は…
手にかけていった。
そこには俺に懐いていたガキ達もいた…
俺達は涙を流しながら…
斬って!斬って!斬りまくったのだ…
そして心に刻んだ…
絶対に忘れねぇ…
お前達の血の臭い!
肉のきり裂かれる感触!
忘れねぇ…
痛いだろうな?
苦しいだろうな?
もっと生きていたかっただろうな?
悔しかっただろうな?
お前達の無念…
俺達の魂に刻んだぜ!
ああ…誓うよ…
俺達八百万ヤオヨロズの神は、お前達同族の無念を己が魂に刻み込み…
カミシニと呼ばれる奴達に『復讐』を誓うと!
だから…お前達の魂…
俺を信じて!
安らかに眠ってくれよ…
俺達三兄弟は仲間達の返り血を浴びながら、目に涙を流し、全ての化け物と化した同族を・・・斬ったのだ。
これが、八百万ヤオヨロズの里に起きた赤い血の悲劇の一日であった。
次回予告?
三蔵「言葉が出ねえ・・・」
俺は涙を流していた。
アマテラス「分かってくれたんだね?」
三蔵「・・・マジに俺の出番なかっ・・・あっ!!」
アマテラス「あんた?その口にドラム缶突っ込むわよ?」
三蔵「じょ・・・冗談です!」
月読「あっ・・・スサノオ君がドラム缶を担いで来ましたよ?」
三蔵「きゃああああああ!!」




