小角の願い!?
暴走する炎の魔神に、小角より解き放たれた前鬼と後鬼が三蔵に襲いかかって来たのだ。
俺は三蔵。
不動明王の暴走に俺自身のトラウマ…
それだけでも危機的状況だったのに、小角を護るはずの前鬼と後鬼が反乱し?
その姿を変貌させて悪霊となって俺達に向かって襲い掛かって来たのだ!
前鬼と後鬼は言った。
小角の名を『フォン』と?
「フォン?一体、誰の名前だ?」
「フォンとは儂の若き時の幼名じゃよ…」
「幼名?」
すると後鬼と前鬼が俺の存在に気付いたのだ。
「忌まわしき人間…フォン!この怒り!貴様の首を切り裂き喰らって、はらしてやる!」
「待て!兄じゃ…そこにいるのは、三蔵じゃないか?」
「ん?確かに…これは幸い!我々を死に追いやった三蔵に死を与えてこそ、我々の恨みをはらせると言うもの!」
な…何を言っているんだ?
こいつ達は本当に前鬼と後鬼なのか?
こいつ達を死に追いやったって?俺がか?
いつ?何処で?
そんな記憶ないぞ?
分からない…
分からない…
何もかも分からない…
状況が更に悪化し、俺には理解する事も、切り抜ける策を考える事も出来ないでいた。
「三蔵!さがっておれ!ここは儂が…」
「小角!そんな身体でどうするつもりなんだ!無理だ!ここは一端逃げるしか!」
だが、俺は逃げる事は出来ないと分かっていた。
目の前には変貌した前鬼と後鬼…
そして後ろには炎の魔神が控えているのだから…
しかも晴明は意識を失い、小角は致命傷を負っている。
二人を連れて逃げる手段なんか何処にもなかった。
しかし…
「フオッフオッフオッ…諦めるなよ?三蔵!どんな窮地に陥ろうとも、諦めたら道はなくなる…未来を信じて、諦めず前へ進もうとする者には…塞がれた道の中から、光明が差し込み新たな道が開くのじゃからな!」
「お…小角…でも…」
「神様はのぅ~気まぐれなんじゃよ?じゃが、諦めなければ必ず道は開くのじゃ!」
諦めなければ…道が開く?
だが、この状況下でどうしたら道なんて?
そこに前鬼と後鬼が俺と小角に向かって襲い掛かって来たのだ。
「クッソォ!数珠連弾!」
俺は数珠に念をこめて前鬼と後鬼に向かって撃ち放ったのだ!
が、しかし前鬼と後鬼は俺の撃ち放った数珠の弾丸にびくともしなかった。
「こっちじゃ!」
すると小角は俺の腕を引っ張り、駆け出す。
その向かう先は!?
燃え盛る炎の魔神の方にだった!
「おい!小角!そっちには!」
「黙って着いて来るのじゃ!」
炎の魔神から再び業火の玉が放たれる!
俺と小角は躱しながら、魔神に向かって突っ込んで行ったのだ。
前鬼と後鬼も追って来たが、炎の業火に邪魔をされて追い付けないでいる。
「なんだ!この魔神は?」
「邪魔な魔神だ!コイツも消してやる!」
そうか…小角はこれを狙って…
炎を操る魔神に対して、前鬼と後鬼の辺りから冷気が立ち込め、その足元から凍り付いて行く。さらに『氷の氷柱』が出現し、それを投げ付けて来たのだ!
「どっちも、すげぇ…しかし、こんな化け物をどうしたら…」
「三蔵…一つだけ手がある…」
「あるのか?打開策が!?」
すると小角は俺の正面を見て真面目な顔で俺に告げたのだ。
「オヌシがあの炎の魔神と契約し、主となって使役するのじゃよ!」
えっ?
何言ってるんだ?
俺にあの炎の魔神と契約しろだって?
何を無茶な…
デタラメだ…
あの不動鷹仁みたいになるのが目に見えている!
だが、小角の目は俺の目を離さないでいた。
これは、本気の目だ…
俺が…俺が、あの魔神を?
俺は再び炎の魔神を見た。
その膨大なる破壊の『力』が伝わってくる…
俺は唾を飲み込んだ。
人にどうこう出来る品物とは思えない…
それも、俺なんかに…
だってよ…
俺は未だに足は震え、身体が硬直したままだったのだから…
幼き頃の『トラウマ』
それが俺の動きを鈍らせていた。
いや、それだけじゃない…
自信と勇気をも奪っていったのだ…
再び身体から震えが走り目の前が真っ暗になっていく。
「三蔵!しっかりせぇい!」
「!!」
小角の叱咤に俺は我に返る。
すると前鬼が魔神に弾き飛ばされ、俺達の真上に落下して来たではないか!
「うぐわああ!」
辛うじて躱すが、俺はしりもちをついてしまった。
情けない…
カッコ悪くて仕方ないぜ
意気込んで儀式に参加しておいて、何てザマだ…
俺の目から涙がこぼれ落ちる。
「三蔵よ…心配する必要はない…お膳立ては、すべて儂がしてやるぞぃ?そのために…儂は今まで…今日、この日のために何百年も生き永らえて来た訳じゃないからのぅ…」
「お…小角?」
その時の俺は、小角の言っている意味がサッパリ分からなかった。
これが、時を越えた縁によるものであったなんて知るすべもなかったから…
俺と小角の前には、再び前鬼と後鬼が迫って来ていたのだ。
「くそぉ!身体が欲しい…身体さえあれば…あの血のたぎる実感が欲しい!」
邪悪なる悪霊の塊である前鬼と後鬼は今まで小角の作った仮初めの身体に宿り式神として力を奮っていた。しかし小角の呪縛より解き放たれた今、その有り余る力を制御出来ないでいたのだ。
「ならば手に入れれば良い!器はすぐそこにいるではないか!」
「何?そうか!そうだな!」
前鬼と後鬼は狙いを魔神から俺に変えたのだ!
その目は獲物を狙う獣の目であった…
すると前鬼と後鬼は両手をあげて邪気を高め始めると、二人の真上には妖気の塊の渦が集まっていく。次第に前鬼と後鬼はその渦の中に取り込まれ融合したのだ?
『貴様の生きた『身体』を俺達に明け渡せ!』
一つの巨大な妖気の渦と化した前鬼と後鬼が俺に向かって襲い掛かって来たのだ。
そうか…
俺の身体でも何でも持って行くがよい…
そうすれば…
この悪夢から…
早く楽に…楽に…
その時、俺は幼い日の生きる目的も希望もなかった自分の姿が過ったのだ!
嫌だ…嫌だ!
これじゃあ…本当に昔と同じじゃないか?
小角と晴明と一緒に旅をしながら、俺は変わった…
あの時間を無駄になんかしたくないんだぁ!
「嫌だぁー!お前達なんかに…お前達なんかに俺はやらない!やらない!俺は生きたいんだぁー!」
俺は術札を構えて身構える。
生きたいと…死にたくないと心から願った途端、嘘のように身体が動いたのだ。
まるで、死神の呪縛から解き放たれたかのように…
「それで良い…生きる事を望む事は、未来を諦めぬ心の表れじゃからな!諦めぬ者には…」
『道が開かれる…』
「その道を儂が切り開いてやろうぞ!」
小角は自分が羽織っていた修験僧の衣を脱ぎ捨てると上半身裸になったのだ。
その身体には血で施された文字が刻まれていた…
「儂はもともと強力な特殊体能力者であった…じゃが、この忌まわしい能力は永年に渡り封印しておったのじゃ…じゃが、今日のこの日…解禁せん!我が能力は…」
『死霊使い』
「つまり強力な霊媒体質なのじゃあー!」
小角が叫んだ瞬間小角の胸に黒い穴が開き、悪霊を引き込み始めたのだ!?
それは、俺に向かって来た金角と銀角の悪霊の軌道をも変える!
「なぁ?なにぃー!?」
そして己の胸に開いた穴に吸い込んだのである。
「小角!」
同時に、小角の身に変化が起きたのだ。
その身体は黒く染まり肉が膨れ上がっていく?
「グガガガガガガガ!」
口元から牙が伸び、更に小角の額からは金と銀の角が突き出て来たのだ!
その姿は『鬼神』
鬼神小角となったのだ!!
「お…小角が…鬼になっちまった…俺は…俺はどうしたら良いんだ?教えてくれ…教えてくれぇー!」
『オヅヌゥー!!』
その時、
俺の脳に直接声が聞こえた。
それは小角の声だった。
《三蔵、お前がこの儂ごと、この忌まわしい鬼を滅っするのじゃ…》
「小角…小角なのか?無理だ…無理だよ!俺にはそんな力なんてない…ある訳がないんだ…」
《三蔵、力ならあるではないか?お前の目の前に…》
「小角…あの炎の魔神の事を言ってるのか?それこそ無理だ…なんで…なんで俺が…」
《三蔵、お主なら出来る…お主は儂の自慢の弟子じゃからのう?それに儂には見えておる。お主が不動明王を従え、勇ましい姿で戦う勇姿をなぁ…。その弟子のお前に一つ頼みたい事があるんじゃが良いか?》
…小角?
何だよ…まるで、死ぬみたいな事…
小角は死なない…死なせない…
《フォッフォッフォッ!無理じゃよ!前鬼と後鬼に身体を奪われなくとも、儂の身体はそう長くなかった…放って置けば、儂と一緒にこの鬼達も共倒れになるじゃろう。じゃが…頼む…儂を…儂を人の意識があるうちに逝かせてはくれないかのう?儂をお前の手で救ってはくれないかのう?》
のう?三蔵…
「!!」
ひでぇよ…小角…
どうして俺が損な役回りをしなければならないんだ?
でも!
そんな事を言われたら…
俺は…
俺は…!!
次回予告
三蔵「小角・・・フォン
それに前鬼と後鬼との因縁に、俺との関わりを知りたくば!
37話以降を読み返すと解るらしいぞ?
って、何を俺は宣伝みたいな事を言ってるんだ?俺は?
さて、次話!いよいよ少年編のクライマックスだ!
ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
俺は炎を背負い生きる!!」




