儀式前夜!玄三、三蔵になる?
小角に連れられてやって来た場所は不動寺院と呼ばれる裏の世界の寺院であった。
そこの神主である不動鷹仁は大掛かりな儀式を行おうとしていたのだ。
その儀式のメンバーに選ばれるがため、成長した玄三と晴明が己の力を見せつけたのだった。
儀式のメンバーに見事選ばれた玄三と晴明はこれから行われる儀式が、
不動明王の召喚だと知るのだった。
俺は玄三だ!
俺達は今、不動寺院と呼ばれる寺にいた。
それは、これから行われる大掛かりな儀式のためである。
儀式とは、不動明王と呼ばれる魔神を呼び出し、
不動鷹仁と呼ばれる男と契約させると言う内容だったのだ。
「そんな話…信じられない。ありえない!」
突然、晴明が小角から話を聞いて取り乱す。
その話とは、正に信じがたい内容であったのだ。
それは、西暦2000年に起きた終末の戦いの話。
突如現れた12ヵ所の次元の穴…
そこから現れた謎の魔物の群れ…
世界を守るために立ちはだかった選ばれし人間達…
その戦乱の中…
一部の人間達にだけ目撃された、次元の穴より現れた光輝く魔神達…
魔神達は突如現れ人間達の手助けをし力を使い果たした後、封印の箱の中に消えていったと言う。
その箱を、人間達は過去の神話より『パンドラの箱』と名付けたのだ。
何故なら、その箱の中には魔神だけでなく、次元より現れた魑魅魍魎達をも巻き添えにして封じこんでいるのだから…開けてはならない箱。
まさしくパンドラの箱なのである。
人間達はその後四つの箱の封印を開き、中より現れた魔神を選ばれし人間の体内に封じて、力を制御する事に成功したのだった。
が、しかしその時の犠牲者もまた数知れず。
だが、引き換えに人間達は神の『力』を制御する事により、新たに起きるであろう破滅の未来への対抗手段を手に入れたのである。
人間達は、その魔神を光り輝く魔神。
『明王』と呼んだのだ。
俺はこの時、小角の突拍子のない話を聞いて、またいつものホラ話か?
もうガキじゃないのだから、騙されないぞって!
と、全然信じていなかった。
まあ、話に乗ってやるかな?
「で、その魔神を再び呼び出すのが、今回の儀式の目的って訳か?こりゃ、しんどそうだな?」
「命懸け…って訳ですね」
「うむ」
「さらに私達の役目は、その魔神明王を不動鷹仁殿の体内に封じる事と言う訳ですね?」
「それは、まだ分からぬがな。フォッフォッフォッ!」
小角はまるで何が起きるか知っているかのようだった。
「?」
「それより、そろそろ準備良いぜぇ!」
「うむ!」
「私も、いつでも良いです!」
俺達は、寺院にある道場を借りていた。
俺と晴明は小角の立ち合いのもと…
「うりゃあああ!」
「せいーー!」
実践組み手をおこなっているのだ。
俺の繰り出す連打を、晴明は無駄のない流れるような動きで、躱していく。
俺の動きが『動』なら晴明は『静』。
まさに正反対の戦いをする俺達は、実践さながらの修行をしているのだ。
俺の拳が、蹴りが、晴明を捕らえられない?
(クッ!…やはり、ムカつくけど、晴明は強い…)
だが、晴明もまた、
「…………」
(玄三の奴、相変わらず無鉄砲な攻撃だ。しかし、油断出来ない…
一発でも当たれば、私も立ってはいられないだろう…
早めに決着をつけさせてもらうぞ!)
俺は右拳を放ちその勢いのまま身体を翻して、晴明の顔面向けて飛び蹴りをくらわす。
晴明はその俺の蹴りをしゃがみながら躱し、立ち上がる勢いのまま後方に飛んだのである。
「いくぞ!」
晴明は指を前に出して、星の図を描くと同時に、晴明から俺に向けて術札が放たれたのだ!
「くっ!」
俺が術札を躱した途端、目の前で術札が爆発を起こしたのだ。
爆札か!
俺が見上げると、三枚の術札が浮かんでいる?
「やべぇ!」
術札から俺に向けて雷が降って来たのだ。
俺は転がりながら躱しつつ、早九字を描く。
『臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!』
ちなみに早九字とは、縦横交互に線を引くのだ。
最初に左から右へ、上から下へ。
それをずらしながら、碁盤のようなマスを描くのだ。
どうだ?
邪気を払う力があるらしいから、やってみるとどうだ?
早九字を行った後、俺の身体から『気』が高まっていく。
すかさず数珠を取り出し…
『数珠連弾!』
数珠がマシンガンの様に俺の手から放たれ、晴明の術札を貫いていったのだ。
「ふふふ!これで、七十一勝七十一負三十四引き分けで、勝率が並ぶな?」
「お前は計算も出来ないのか?私が勝てば、七十二勝七十負三十四引き分けだろ?」
お互いの気がぶつかり合いながら、間合いを詰めていく…
『いくぞー!』
数分後、俺は気絶していたのだ。
あれ?
まさか負けたのか?
いや、隣で晴明も気絶してた…
て、事は??
「フォッフォッフォッ!どうやら七十勝七十一負け三十五引き分けじゃったようじゃな?」
「クソォ~!」
「引き分けか…私も修行不足だな…はぁ…」
落ち込む俺達を見て、小角が優しい笑みで見ていた。
そして、真剣な表情へと変わる?
「さてと…」
「そろそろ準備の時間か?」
「いやいや!儀式は深夜2時からじゃ!儂は少し出て来るぞぇ~」
「何処に行かれるのですか?」
あ~なるほど。
「晴明、小角が一人で出掛ける場所と言ったら…アレだろ?」
そうなんだ…
小角が一人で出掛ける時は決まって…
アレなんだ…
アレとはアレで…
そう、大人の遊び場…
『キャバクラ』
一度、俺と晴明も連れて行かれた事があるが、
派手な衣装の女達が馴れ馴れしく話しかけて来て、酒を飲まされ…
※俺と晴明はソフトドリンク
とにかく落ち着かない場所だった。
晴明なんかずっと顔を赤らめ、下を向きながら黙り込んでいたな~
逆にお姉さんに玩具にされていて、少し同情した…
仕方なく、俺と晴明は留守番をする事にした。
二時間程すると、小角が酒で顔を赤らめながら戻って来たのだった。
「玄三?起きておったのか?時間まで休んでいたらどうじゃ?」
「あぁ…803…804…」
俺は逆立ちをしながら、腕立てをしていた。
「よし!1000!」
俺は腕立て伏せを止め、小角の傍に近寄ったのだ。
「本当、小角は女好きだよな?なのに、どうして独り身なんだよ?」
「ふぅ~」
「?」
「そういえば話してなかったな?儂は一度奥さんがいたことがあるんじゃよ」
「んな?マジか!その奥さんって、今何処にいるんだよ?」
「逃げられた…」
「あい?」
「夜逃げされたんじゃい!何度も言わせるなぁ!」
「あ…あはは…」
「じゃが、夫婦の時は本当に幸せじゃった…」
小角は昔を懐かしむかのように、空(天井)を見上げていた。
「で、今は女好きな変態爺さんか…」
「うるさいわい!」
「あはは!」
「そうじゃのう。儂が産まれて来て、本当に愛した女性は三人…そう、三人おった…」
「三人もか?」
「一人は、儂と夫婦になった女。それに、初恋の一度だけ出会った娘…そして…儂の…」
「?」
「そう、儂を命懸けで守り、身代わりになって死んだ姉さん…じゃな…」
「!!」
その時、俺は小角の目から一粒の涙が落ちたのを見逃さなかった。
そこに…
「小角様!お帰りになられていらっしゃったのですか?」
「晴明!起こしてしまったか?スマヌのう?」
「いえ!」
すると小角が思い出したかのように、俺に言ったのだ。
「そうじゃ…玄三!」
「なんだ?」
「お主に与えるモノがある!」
「なんだよ?改まって?またビール券とかならいらないぞ?一応、未成年だしな!」
「違うわい!」
「じゃあ、なんだよ?」
「玄三!お前に与えるモノとは…」
『尊名じゃ!』
「尊名?」
「役行者の名において、玄三!オヌシに名を与える。オヌシは今日から、三蔵と名乗るが良い!」
「はっ?駄洒落か?」
と、言うのも俺の名前は、三蔵玄三
三蔵と書いて、ミクラと読むのだ。
「小角様!まさか、玄三は、あの三蔵法師の転生者なのですか?」
「と、いう訳ではないのじゃがな…」
「やはり、ノリと勢いか?」
「いや!よく聞くのじゃ!本来『三蔵法師』と言うのは称号みたいなものなのじゃよ。その称号を玄三!オヌシに儂から『三蔵』の名を授けると言うのじゃ!」
「授けるって勝手に良いのかよ?」
「馬鹿者!儂は中国にも顔が広くてな?そこのお偉い方より『三蔵法師』の尊名を一人授ける権利を戴いておるのじゃよ!」
「とんでもない爺さんとは思っていたが、マジかよ?てか、何故俺に?」
「さすが、小角様!!」
「晴明には不必要な称号じゃろうし、何よりお主には今後、必要になるじゃろうからのう」
「意味分からないが、そっかぁ…よし!今日から俺は三蔵だぁ!…って、しっくりこないなぁ。アハハ…」
そこに不動鷹仁の使いの者が呼びに来たのである。
『皆様、お時間です!』
俺達は立ち上がり、気を引き締める。
そんじゃあ、儀式とやらをチャッチャとやってやりますかぁ!
次回予告
三蔵「は~い!どうも!こんにちは~!三蔵です~!今日は名前だけ覚えて帰ってくださいね?」
三蔵「て、漫才かよ!」
三蔵「さて、いよいよ次話は儀式の始まりだ!しかし不動明王とは一体?
まあ、俺がいれば問題ないぜ!ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
暴れるぜぇーー!!」




