玄三と役行者!
幼少期の三蔵。
その生い立ちは過酷なまでに非情に、彼の心を壊し閉ざさせた。
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俺は三蔵!
俺は座主の間で捕らわれた後、暗闇の牢の中で一人思い出す事は、
幼きあの日の俺であった。
そう。
家を焼き、目覚めた場所は見知らぬ寺であった。
そこで知った真実…
それは、自分の忌まわしき力のせいで、父さんと母さんを死に追いやってしまった事だった。
その現実を突き付けられた幼き俺は、その日を境に心を閉ざした。
俺《僕》は…
その後、身寄りのなくなった僕が連れて来られた場所は自分と同じような境遇…
特殊な力を持って産まれてきたが故に両親から突き放され、孤児になった子供達が集められし寺であった。
境遇が同じならもしかしたら?友達が出来るかも?
そう考え連れて来られたのだが、それは誤算だった。
僕の力はそんな集団の中にいても、桁外れに異質だったのだから…
僕の力に周りの者達はどんどん離れていき、後は一人の時間だけが過ぎていた。
だが、あの頃の自分は心を閉ざしていたため、それも苦にはならなかったのかもしれない…
僕は一人空を見上げ流れゆく雲だけを見上げ、無気力にただ生きていた。
早く…死にたいな…
それが、口癖になっていた。
そんな僕を不憫に感じて見ていた者がいた。
「玄三…」
その人物とは?
あの惨劇の夜に僕を助け出し、この寺に連れて来た僧侶だった。
僧侶の名は『空海』
この寺には過去に実在した『能力者』と同じ名を持つ者達がいる。
それは『名』と『力』を継いだ者もいれば、
その『魂』を継いだ者達もいるという。
魂を継いだ者達の事を、人は『転生者』と呼んだ。
転生…輪廻転生…生まれ変わり?
それを確かめる手段なんてない…
だが、その者達は間違いなく生前の記憶を持っているというのだ。
そんなある日、僕がいつものように一人で雲を眺めていると、三人の子供[同い歳か?少し上くらいか?]が近寄って来た。
どうでもよい早く終わらせて…
僕はここでも『イジメ』にあっていた。
大人の知らない場所で僕は暴行を受けていた。
何故?
僕が周りと合わせないから?
僕がいつも一人でいるから?
苛立つ?気持ち悪い?
きっと彼達は怖いのだと思う…
何が?
それは僕…
彼達は本能や無意識的に実感しているんだ!
僕が自分達と違うと…
僕の力に対しての不安と怖れから、彼達は暴力でそれを解消しているのだ。
そんな時、僕に暴行をしていた一人の少年が言った。
「なぁ?知ってるか?こいつ親を殺したんだってよ!」
ここにいる子供達は多かれ少なかれ同じ境遇。
両親に忌み嫌われここにいる。
「本当かよ?羨ましい!僕も捨てた親なんか殺してしまいたかった!」
羨ましいだって?
何が羨ましいだって?
誰が誰を殺して羨ましいだって?
親を手にかけて…
それが自分の持つ力の影響のせいで…
お前達には解らない!
ふざけるな…
その時、僕に再び異変が起きる。
僕を中心に冷気が噴き出し、虐めていた少年達を取り囲んでいた。
少年達は怯え始める。
暫くして異変を感じた空海上人や大人の僧侶達が駆け付けた時、
そこには、血だらけの少年達が泣き叫びながら悶え…
その手を血で染めた僕が茫然と立ち尽くしていた。
「……化け物!」
誰が言ったのか分からなかったが、確かにそう聞こえたのだ。
僕に居場所なんてない…
誰にも必要とされない…
この世界にいてはいけない存在!
そして僕は…
自ら寺の地下にあった牢屋に逃げ込み、膝を抱えながら引きこもった。
その部屋には誰も近付けられぬほどの『拒絶』の霊気が張りめぐらされていた。
誰も近寄るな…僕に関わるな!
近付けば僕はお前達を傷付け……殺す!
自害する勇気はなかった。
だから、少しでも早く消え去りたくて…
ご飯はもちろん水さえも絶っていた。
ただ…早く死にたくて…
消え去りたくて…
僕が地下に篭ってから一週間が経っていた。
空海はそんな僕の事を案じていた。
「どうしたものか…」
「玄三の作り出した結解は我々ですら入り込むことが出来ません…」
「結解か…拒絶の念が無意識に結解を作り出したのだろう」
「無意識であの力…我々の想像を逸しています!」
「だが、それ以上に懸念するべきは…」
次第に、拒絶の力は妖気へと変化して来ていたのだ。
「このままでは、あの少年は…」
間違いなく本当の化け物になってしまう。
「それでは?」
「あの方をお呼びするしかあるまいな…」
「我々修験道が開祖にて神変大菩薩の贈り名を戴きし呪術者。役行者…」
「小角様を!!」
小角とは一体何者なのだろうか?
その者が僕に何をすると言うのか?
「では、早速…」
「しかし、お言葉ですが…」
「ん?ん……そうだなぁ…あの方は…自由気ままな人だから…」
「とにかく探して見ます…このままでは、あの少年が危険です」
空海は全国に散らばる僧侶達に、役行者の捜索を依頼したのだった。
役行者は捜索を始めてから一週間程で見付かったらしい。
空海は到着したばかりの役行者を早速僕のいる地下牢に案内していた。
「しかし、役行者様…まさか、ハワイにいらっしゃるとは思ってもみませんでしたよ…」
「ホホホ…それにしても助かったぞぃ!」
「…………」
そうなのだ…
捜索依頼中に突然、役行者自身から寺に連絡が入ったのだ。
「ハワイでバカンスをしていたのだが金の持ち合わせがなく、悪いが金を用意して届けて欲しい」と…
「呆れ果てましたよ…」
「そう言うな…まぁ~隠居の身じゃからのう?老い先短い老人の唯一の楽しみなんじゃよ。それとも老人はバカンスを楽しんではダメなのかのぅ?儂…泣いちゃうぞ?」
「そうは言っておりませんが…噂で聞きましたよ?以前にも他の寺に金の援助をしてもらったとか?」
「あの時も助かった助かった…フオッ」
「フオッ…じゃ、ありませんよ!その歳でキャバクラ行って、金が払えないから助けて欲しいなんて!お金を届けに向かった若い僧侶が恥ずかしくて泣いておりましたよ!」
「一緒に楽しめば良かったのに…真面目じゃから…まったく若いお姉ちゃん達に笑われておったぞ!まったく修行が足らん!」
「何の修行ですか!」
「あんまり怒らないでおくれよ…老い先短い老人に…」
「そんな時だけ老人ぶらないでください!それに……」
(貴方は何百年…いや、何千年生きていらっしゃるのですか…)
「全く…世間体を考えてくださいね?」
役行者は不老不死だとか時を渡る能力があると言い伝えられている。
他の転生者と違い、この役行者は伝説上に伝わりし本人なのだ。
「儂はいつまでも現役ピンピンじゃよ!」
「恐れ入ります…」
そして空海は役行者を僕がいる牢の扉の前にまで案内した。
「ここが、例の…」
空海は役行者の顔付きが変わったのを見逃さなかった。
真剣な眼差しに、それでいて?
まるで何かを懐かしむような?
『ようやく…再び…』
「?」
空海に役行者が発した言葉の意味は理解出来ないかった。
どうじに役行者がかつてから聞かされていた探し求めていた相手なのだと直感した。
「では、行って参る」
「お気をつけて…」
役行者は一人扉を開き、牢の中へと入って行った。
そこは、淀んだ重い気が充満していた。
並大抵の者なら近寄る事はもちろん、強引に入ろうとするなら押し潰されてしまうだろう。
これが、まだ10歳そこそこの少年の念の力とは誰も予想出来ないくらいの重圧。
「まるで天の岩戸から天照大御神を引きずり出す気分じゃわい…それに…」
(あの方達二人の出会いに似ておるわい…)
それがどういう意味なのかは小角しか分からない。
そして僕もまた、その異質なる者の気配に気付き警戒していた。
僕は一人…闇に堕ちていた…
近寄るな!誰もいらない!
誰も必要ない!
僕は一人だ…
僕はこのまま一人、消えていきたい。
そこに足音が聞こえて来たのだ。
閉ざされた部屋の扉が開かれていく。
そこに現れたのは、修行僧の姿をした一人の老人だった。
誰?
その老人は僕の押し潰さんとする気の中を、平然と歩いて近寄り…
目の前に座って僕を覗いた。
まるで懐かしい者を見るかのように?
そして老人は僕に言ったのだ。
「生きなさい。そなたには、まだ必要とする者がいるのだから」
「!!」
その後、三時間ほど沈黙が続いた。
そして先に焦らされ言葉を発したのは僕だった。
「そんな者はいない!僕は一人だ…僕は必要ない人間なんだ…」
「ようやく喋る気になったようじゃな?ふふふ。必要とされていない?何を言っておる?儂がいるじゃよ?」
「誰だよ?僕はお前なんか知らない!」
「そうじゃな。儂はお主をよく知っておるぞ?」
「お前の言っている意味が分からない…」
「それに、必要とされていないなら必要とされるように努力すれば良かろう?」
「そんなの無理だ!皆僕から離れる。避ける。逃げて、消えていく。無理なんだよ…僕は誰とも混じりあえないんだ…」
僕には希望なんてなかった。
誰も僕を救えやしない。
このまま朽ち果てるのが唯一の救いなのだと信じていた。
「努力したのか?頭で考え泣き言言って諦める前に、死に物狂いになってみるがよい!行動するが良い!足掻いてみるが良い!」
「お前に何が分かる!僕は父さんと母さんを!!」
すると、その老人は思いがけない行動と言葉を発したのだ。
「大丈夫じゃ…儂にも出来たのじゃ…お主にも必ず乗り越えられるはずじゃ…」
「えっ?」
まるで僕の全てを見通した上での言葉。
そしてその熱い眼差しから同情ではなく、共感めいたものを感じた。
それでも僕は反抗した!
「僕に関わるなぁー!僕を一人にしてくれー!僕には誰も必要ないんだぁー!!」
すると老人は突然僕を強く抱きしめ…そして言った。
「大丈夫…お主にはそれが出来る…お主にはそれが出来るのじゃ…」
無理だ…
「それでは…お主は何故…そんなに寂しい顔をしておるのじゃ?
儂には誰かに理解して欲しい…
辛くて、寂しくて、誰かに縋り付きたいと言っているように見えるのじゃがな?」
「!!」
「儂はお主の味方じゃよ」
ああ…
聞きたかった言葉だ…
僕が一番欲しかった言葉だ…
僕の力が抜けていく?
何故?この老人の言葉が僕の心を揺さぶるのか?
初めて会った見も知らないこの不思議な老人の言葉が?
僕の押し潰していた感情を噴き出させ涙が溢れてきた。
「僕は…僕は…生きたい!誰かに…必要と…必要とされたい…
誰かに…愛されたい…愛されたいんだよぉー!ああああ…!」
老人は泣きじゃくる僕を抱きしめ頭を撫でていた。
俺がまだ10歳の頃の…
人の温もりを…
優しさを知った日…
これが、この老人…
役行者…
小角との初めての出会いであった。
次回予告
三蔵「あれが、小角との出会いだったな・・・
そして、その後・・・ん?
あ~!!
突然だが、俺から大事な事をお前達に言わねばならない!
次話は読まないで良いぞ?うん!
飛ばして八話から読むと良いぞ?それが良い!
万が一読むなら・・・ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
燃やすぜぇーーーー!」
※次話・・・「玄三の初恋!?」




