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第4章 借金ダメ。絶対

 それから数回。美音と航生は鬼篭山へと足を運び、現地での聞き取り調査をした。

 幸か不幸か、その問題の鬼とは一度も遭遇しなかった。そして最初にきいたカブトムシからの情報より有力な情報は得られていない。

 最近では、SNSにも目撃情報が乗るようになり。いよいよ、緊急性が高まって来ていた。


(んー。素人にはなかなか難易度が高いやねー)


 前回のアリンコ事件を円満解決できたのは、本当運がよかっただけだ。

 凌生もそこをわかった上でのテストだろう。

 二度の幸運などありはしない。その上で、美音がどう処理するかを見極めたいに違いない。


(焦って怪我したら、やだしー。解決に失敗して私が見込み違いだったと判定されるのはかまわないんだけどー)


 せっかく上がった航生の評価がまた下がってしまうのは避けたい。

 下がっただけでなく、養子に出されたら取り返しがつかない。


(やっぱ、家族は一緒にいるべきだもんね。その為にも頑張りますか)


 と、密かに決意を新たにしてると、前の席に座った航生がメニューから顔を上げた。


「な、これ旨そうだぞ。美音も食う?」

「んー。お腹あまり減ってないからいい。何? 航生、昼ご飯食べてないの?」

「いや、食った。でも、腹へってきた」

「そっか、じゃあ、頼みなよ」

「おう」

 

 今二人は学校から少し離れた喫茶店に来ていた。

 あまり進展しない鬼対策について、話し合うためである。

 時間は、午後3時半を回ったところ。

 4人掛けのテーブルに向かい合って座っている。

 頼んだものはすぐに運ばれてきた。

 航生の前にはハンバーグとライスのセット。美音の前にはチョコレートケーキと紅茶。

 航生は目を輝かせて、早速食べ始めた。


「食べながらでいいから、聞いてねー」


 聞いてくれるか若干の不安を感じながらも、美音は話し始める。


「まずおさらい。これまでに分かった事は、大きく分けて二つ。今人間を襲っている鬼は、数週間前までは人前には姿を現さず、ひっそり山で暮らしていた。けれど、何かのきっかけで人前に姿を現すようになり、人を襲い始めた。二つ目は、鬼が怪我して可能性あり、それもその部位は目」


 ほとんどカブトムシからの情報だ。優秀なカブトムシだった。いつかまた会えるだろうか。


「この二つを考え合わせると、一つの仮説が考えられる。鬼は怪我をしている、それを負わせたのが人間だから、怒りを感じて人間を襲っている」

「そうだな。それでどうする?」


 航生ちゃんと耳を貸してくれていたらしい。

 美音は紅茶を一口飲む。


「これはあくまでも推測に過ぎないからなあ。裏付けるには、鬼に一度会いたいよねー」


 そうなのだ。人聞き?(虫聞き?)ではなく、実際の鬼を見てみたい。百聞は一見にしかず。鬼に会えば、きっと多くの事が分かるに違いない。


「ああ。けど、結構山へ行ったのに、全然会えねぇ」

「そうなんだよねー」


 頻繁に山に行っているのに、会えない。避けられているのか。


「どうしたら、会えるかなぁ? やっぱり夜に行った方がいいのかなー?」

「だめだ。夜の山は危険だ。ましてあの山は鬼の他にもいろいろな妖がいる」

「じゃあどうしよう?」

「鬼を誘いだすアイテムを使いますか?」

「おう!? 伝田さん、いつの間に!?」


 突然の台詞とともに、美音の隣に伝田が滑り込んできていた。


「失礼。お話をきいて、お手伝いしたほうがよろしいかと思いまして」


 伝田は飲み物を頼むと、話を続けた。


「おい! なんで美音の隣に座るんだよ!」


 ハンバーグを食べる手を止め、航生は伝田を睨む。


「いや、男の隣より、女の子の隣を選ぶのは当然でしょう」

「なに! てめえ! 美音から離れろ!」

「あーはいはい。航生落ち着いて。伝田さんも話進まなくなりますから、航生をからかわないでください」

「申し訳ありません。この頃の航生さまがあまりにお可愛いので、つい」

「てめえ!」

「はいはい、航生落ち着いてねー。伝田さん、もう勘弁してあげてください。それで、先ほどおっしゃってた鬼をおびき出すアイテムなんてあるんですか?」

「ええ。鬼好香(きこうこう)と言いまして、まさに字のごとく、鬼が好む香りです。これを炊くと鬼が寄ってきます」

「なんだ。そんなよいものがあったなら、最初から言ってください。そうすれば、もっと早く解決できたかもしれないのに」

「すいません。ただ、そのお香、とても高いんですよ。だから今回使用はなるべく避けられるべきかなと」

「おいくらですか?」

「一つ十万です」

「十万!? た、高いですねー」

「ええ。作れる人が限られているので。これでも効果が一番低いものでの値段です」


 効果が高い物はいくらするのか。聞くのが怖い。


「でも、秋月家ならば、出せる金額では?」

「ええ。ただ、今回別にどこからか依頼された訳でないですし、費用は自己負担です。そして、こういった場合は、任された航生さまが負担するようになってます」

「ええ!? 経費で落ちないんですか?」

「はい。無事、解決できたら、その解決方法に応じて、報奨は支払われますが。解決できなければ、お金をかけた分だけマイナスになりますね」

「はあ。厳しいんですね」

「ええ。そして航生さまは結構力任せなところがありまして、現状マイナス方向に針がかなり傾いております」

「あーそうなんだね。んー。どうしようか?」

「俺は大丈夫だぜ。今更いくらか借金が増えたところで、気にしない!」

「いや、気にしなさいね。借金なんて、ないほうがいいし。あれば、それが弱みになるでしょ」

「さすが、美音さま。それでは今回、鬼好香は使用なさりませんか?」

「いえ。できれば、早く解決したいので、2つ用立てていただけますか?」

「かしこまりました」

「代金は、伝田さんにお渡しすればよいですか?」

「ええ。構いませんが。美音さまが、お支払いを?」

「はい。ためていたお金がありますから」

「だめだ! 俺が受けたんだから、俺が払う!」

「はいはい。それは借金全部返してからにしましょう。今回は私が払うから。私たちはチームだからね」

「けど!」

「大丈夫。報奨もらえるようにがんばればいいだけだからね」

「おや。美音さまは報奨がでるような解決ができると?」

「まあうん。頑張ってみます」

「これは頼もしいですな。では、早速用意いたしましょう。では」


伝田は一口コーヒーに口をつけると、伝票を持って席を立った。

どうやら、ここはおごってくれるらしい。


「ありがとうございます」


 伝田の背中に礼をいう。

 凌生指示か、伝田の裁量か不明だが、これで鬼との対面のめどがついた。


(さて、どんな鬼さんかなあ)


 美音はまだ不満顔の航生をなだめながら、作戦を練った。




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