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探偵は地下室で高笑う

人が死んでいた。


真っ青な顔でその死体を見守る男女3人。

被害者の顔見知りなのか、3人とも驚愕の表情を浮かべている。


その輪に加わっていない、平然としている少女が宣言した。


「それでは、お宝を探しましょうか」




「ま!まて!まてーまて!ひ、ひとが、幸司(こうじ)が死んでいるんだぞ!」

興奮して叫んでいるのは小林勝二(こばやしかつじ)

この館の主人である。


「そ!そうです!さっきまで元気だったんですよ!こんな事になるなんて!」

その妻小林良美(こばやしよしみ)


「宝は大事だか、まずは犯人を見つけるのが先だろう!」

死んでいる高木幸司の兄、高木俊三(たかぎとしぞう)



死んだ幸司を含め、この4人が、早森琴音をこの館に招いた。


この館に存在すると言われる、隠し財産の居場所を探すために。


招いた琴音に、依頼内容を伝えていたのは勝二。

その間に良美はお茶やお菓子を出しになんども離れた。


俊三は最初は同席していたが

「幸司が来ない」と探しに行ったのだ。


すると、俊三の悲鳴が響き、皆で玄関に行くと、幸司の死体があったのだ。



「これが殺人なのかどうかも分かりませんし、警察の仕事です。速やかに110番されれば良いだけかと」


「し、しかしだな!現場を荒らしたりしたら、警察が」

「そうですね、警察は屋敷の中を荒らすでしょうね。それでよろしいのですか?」


琴音は冷静に言う。


「私の予想するお宝の場所はここではありません。現場は荒らさない。では、警察は?現場検証はここだけに終わりませんよ」


青ざめた顔の勝二。


「表に出せないお金なんです。警察がくる前に回収するしかありませんよ」



四人で固まって動く。

この中に殺人犯がいるかもしれない。

そう思うと、離れて移動するのは恐怖だった。


「早森さん、あなたは探偵だ。犯人の予想とかするのか?」俊三が聞く。


「いいえ。私は宝探し以外に興味ないのです。犯人が知りたいならば、腕利きを紹介しますが、そいつは警察の犬なのでわざわざ頼む必要もありません」


そこまで言うと

「ちょっと前に話題になった『クライムストライク』というブログは憶えていらっしゃいますか?」

「ええ!知ってるわ!犯人を次から次へと当てたブログでしょう?」良美が答える。


「そいつです。そいつなら電話で概要伝えれば犯人がわかります。とはいえ関わらない方が良いです。人格はクソですから」



そんな話をしながら、地下室に降りる

「地下室?しかし、ここは…」勝二が喋ろうとするが

「何回も調べた。そうでしょうね。一番怪しいですから」


「そうだ。壁や床怪しいところは全部…」

「私の宝探しの基本は、盲点を探す事です」

「盲点?」


「私が受けるのは、クライアントが懸命に探したのに見つからない品ばかりです。なぜ見つからないのか?それは人間の盲点をついた隠し場所にあるからです」


「それがこの地下室のどこか?」

「そうです。ありがちなのが天井」

上を見上げる。


「地下室の上に物を隠す。意外と見逃す人が多い。地下と言えば、床と壁。そんな固定観念」


「な、なるほど!」感心する勝二。

「でも今回は違います」


振り向く琴音。

「人は通った後ろを気にしない」

琴音は階段に戻る。

「通った後は調べた気になる。部屋ならばいい。しかし階段は?」


そう言うと

「これもありがちなトリックですが」

階段の三段目。

琴音はおもむろに手をかけ


「引き戸になると」

「な!なんだと!」


階段の三段目に手をかけた琴音は、それを横にスライドさせたのだ。

すると中が空洞の穴が開いていた


「とは言え、ここからでは入れません」

あくまでも階段の段差だ。

人が通れる広さではない。


「うむ。どう入るのだ?」

「ここから先は予想でしかありませんが、私の推理が正しければ、壊すしかないですね」


「は?」


「この館の宝とはなにか」

突然歌うように琴音は語った。


「階段、スライド、段差、この大きさで通れる物はなにか。そう、なにならば放り込めるか」


三人は、怪訝そうな顔を浮かべる


「お宝、お宝でしょうね。私はこの館のことを様々な角度から調べました。その一族のことも」


顔が青ざめる三人。


「高木家と小林家。名字が違う、血のつながりもない家族が仲良く暮らしている館。家族には様々な形がある。けれども奇妙だ」


「ま、まさか、親父のいった、隠したもの、とは」

勝二が震えながら言う


「御名答」

地下室にあったバールを持ち、引き戸に引っ掛ける。


「お宝とは!!!」

ガンっ!!!!!

階段を破壊し、砂埃が舞う、そんななか

「ご覧ください!!!これがこの館のお宝!!!」


舞い上がる砂埃から見えるもの、それは


「骨」

呆然と呟く良美。


「勝二さんのお父様の弟さんでしょうね。叔父にあたりますか」

「な、なぜそれがわかる!」


「解説なんて必要ですか?警察がくる前に隠すべきかと」


「…宝とは、この骨のことか?」

地下室に降りてからずっと黙っていた俊三が喋る。



「それともう一つ」

まだ残る砂埃をかき分けながら

「皆さんにとってはこれがお宝かと」


三人は絶句した。それは

「な、なに、その大きさ…」


(とむら)いに宝石を捧げる文化は海外には多くあります」

琴音はその宝石に手をかける


「これはサファイアですね。500カラットはある。値段は低く見ても5000万。実際は億越えでしょうね」

そして

「そんなのがゴロゴロと」


「な!なに!?」三人はそこに殺到する

すると


「な!なんだ!なんなんだ!これは!!!!」

床には、色とりどりの宝石が転がっていた


「弟さんに対する弔いの宝石ですよ。あの引き戸はそのためのものです。宝石を投げ込んでいたんです」


「な!なんでそんなことを!?」

「わたしは殺人関連は専門外なので、そこらへんの心理はなんとも」


琴音は歌うように

「勝二さんのお父様は弟さんを愛しておられたが、なんかしらのことで死んでしまった。単なる事故死や病死なら隠す必要はない。まあ殺人でしょうね。弟さんである和樹(かずき)さんは行方不明扱いですし」


3人を見つめる琴音

「憎くて殺したわけではないのか。それとも後悔の念は後から湧いてきたのか、弟さんの死体を隠すため地下室を作り、その階段の奥に埋めた。その間はまあ、焼いて骨にでもしてたんでしょうけれども」


「骨を階段の奥に入れるときに、最初の弔いをしたんでしょうね。おそらくこのネックレスは首からかけていたものですよ」

ネックレスを手に持つ。


「高木家と小林家。勝二さんのお父様は、弟さんの友人を大事にされた。そのフィアンセをも保護した。それがこの奇妙な共同生活の始まり」


そして

「これがその弔い。これこそがお宝。弟さんを死なせてしまった弔い。その償いこそがお宝」


震える俊三を琴音は見ながら

「ああ、懺悔とか自供とかしないでくださいね。わたしはそんなもの興味ありません。私にとっては!宝を見つけ出すこの瞬間が!全てなのですから!」

高笑いする琴音。


幸司を殺したのは俊三。

早々に琴音は結論にたどり着いていた。

わざわざアリバイ工作までした跡まで見つけた。

だがそんなものはどうでもいい。


「あははははは!!!さあ!存分に宝石と骨を回収されてください!!!警察に踏み込まれたら大変ですからね!!!」

====================



琴音はいつものボサボサではなく、正装で准一に会っていた。


「君が、あの時刻に、あの屋敷に招かれた事実までは消えない」

准一は憂鬱そうに言う。

「事情聴取とか?」


「ああ。そうなるな」

「それはやめてください」

時間の無駄だと手を振った


「で、宝はあったのか」

「当然です。私に失敗はあり得ません」

「犯人は俊三か」

「そんなもの、あなたの領域でしょう?」

「琴音の意見が聞きたい」

「殺人に関しては、あなたが間違えるなど有り得ない」


答えるようで答えていない琴音。


「ありがとう、琴音。なんとか誤魔化すよ」

「助かります」


琴音は部屋から出る。



「琴音、僕は殺人なら間違えないか」

准一の問いかけ

「風村が絡まなければ」静かな目で答える琴音。


「一つ貸しだ。琴音。今度デートしてくれ」

「…だったら事情聴取でいいですよ」

「事情聴取は全部で3日ぐらいかかるぞ」

「しかたありませんね。1日だけですよ」

「ああ」



警察署から出る琴音。

警察の応接室に招かれていたのだ。


「まあ、1日ぐらいは我慢しますか」


そして

「ああ!!!早く次の宝を見つけたい!!!自らの馬鹿さ加減に絶望した顔が見たい!!!」

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