探偵は廃病院で高笑う
日曜日。瑞希と琴音は仲良く出かけていた。
二人とも顔が整っているため周りから振り向かれる。
「おもちゃー」
「瑞希はどんな玩具が好きなんですか?」
玩具屋の前で立ち止まる二人。
その玩具屋は古い店だった。
「わかんなーい。みんなゲームしてるけどー」
昔の玩具が多い店。
「これほしー」
「水鉄砲ですか。いいですね。瑞希にはそういうほうがいいです」
琴音はにこにこ笑い
「おばあちゃん、これください」
「はいはい。かわいいねぇ」
そういって瑞希の頭を撫でる。
「近くの子かい?」
「いえ、東京から来ました」
「そうかい、そうかい」
店主は嬉しそうに笑っていた。
二人はまた道を歩くと
「おねーちゃん、ハンバーグたべたーい」
「ええ瑞希。事前にお店は決めていますから」
琴音は町の定食屋といった、少し古い感じのお店を選び入る。
「おう、いらっしゃい」
店主の老人がにこやかに招き入れる。
「ハンバーグ!」
瑞希が元気に言う。
「瑞希、ハンバーグにも種類がありますよ」
「わあ! 本当だ!」
二人は楽しそうにメニューを見た後
「チーズハンバーグ定食と、オムライスで」
「はいよ。少し待っててくれ」
頼んだ後も二人は楽しそうにメニューを見ている。
「このあたりの子かい?」
気になって店主が聞くと
「いえ、用事がありまして。祖母の墓参りです」
店主は感心したように頷く。
「いや、偉いな。二人だけで来たのかい?」
「一緒に来たのですが、両親は少し話し合いがありまして」
真っ赤な嘘なのだが、店主はそのまま信じる。
「そうかい、そうかい。お、もう出来るから待っててくれよ」
店主はオムライスとハンバーグを作り二人に渡す。
「すごーい!」
「美味しそうですね、瑞希。いただきましょう」
二人は笑顔で楽しそうに食事をする。
「子供達の笑顔もいいもんだなぁ」
店主はにこやかに笑う。
「ごちそうさまでした」
「はいどうも」
二人は満足げにして店を出る。
「おいしかったー!」
「ええ。素晴らしい味でした。満足です」
琴音もにっこり笑い
「多少は報酬がないとね」
二人はその町の外れにある建物にいく。
「おねーちゃん、ここー?」
「ええ。ここが目的地です」
琴音は迷わず建物に近づく。
そこはボロボロの建物。
ドアを持ってきていた道具でこじ開け進入する。
「ヘルメットをつけてね。毒物などの危険はないはずですが、落下物の危険はあります」
「うん!」
二人は折り畳み式のヘルメットを装着し、中に進入する。
「宝、私たちにとって宝とはなんでしょう」
琴音はなぞなぞのように瑞希に問いかける。
「うーーーーん」
少し悩んだ後
「……大事なもの?」
「大正解」にっこりと笑う琴音。
「他人の大切なものを暴くのが私たちの存在意義。私たちにとっての宝とは、他人が求めてやまない、命を懸けても欲するもの。それを暴くこと」
琴音は地下に降りる。
「電波は通じますね。まあ録画してから送れば良いだけなのですが、リアルタイムのほうが面白いですし」
そういって、琴音は電話をする。
「どうも」
『うわー、本当に琴音からの電話だー。マジで興奮するんだけど。あ、そうだ。事件なんてどうでもいいから、この場でテレフォンセッ……いてぇぇ!!!』
『真面目にやれ! 状況は!?』電話口の准一が怒鳴られている。
琴音は大の電話嫌いだがらその琴音からの電話で准一は興奮していた。
「今から動画で見せるわ。署長さんは?」
『しょちょー、動画にするってー』
テレビ電話モードに琴音は切り替え、目的の部屋に近づく。
瑞希はあらかじめ琴音に指示された通り、携帯型のライトを照らす。
なにもない部屋。
なにがあったのかの形跡もわからない部屋。
その床を映す。
『地下か?』
『地下ピットの中ですね』
琴音は携帯を置き、床にある鉄蓋を開ける。
そしてライトで照らすと
「……ビンゴ」
『本当にあったのか!?』
携帯から署長の絶叫。
「瑞希、ライトを貸してください」
「はーい」
ライトで床下のピットを照らす。
そこには
『……い、いまどき、ありえ……ない』
床下のピットには祭壇が供えられていた。
その祭壇は奇妙な形をしている。
『署長、だからいったじゃん。あの病院跡地は怪しいって』
病院跡地。
元々ここには病院があった。
それが過疎化により人口減が続き、この病院も廃院となった。ところが
『近辺での旅行者の失踪が多すぎた。おそらくこの病院の実質的な経営者である町原氏が信仰する教団がやらかしていたんじゃないか』
准一は署長に頼まれ、過去の迷宮入り事件の真相究明推理をしていたのだ。
そのうちの一つがこれだった。
10人以上の失踪。そして不自然に多い病院の病死者数。
『ヘボって有名だったらしけど。わざとだったんだろうね』
准一の話に琴音は頷き
「目的は知りませんが、儀式で人殺しの必然性があったんでしょうね。まあそこはいいとして。准一、ものは見つかった。すぐにでも展開を」
『りょーかーい』のんきに准一は応える。
そして、琴音はカバンから大型の無線機を取り出し
『全員動くな!!!!!!!』
無線から響く声。
そして、上からあわただしく降りてくる複数の足音。
「初めまして、皆様。早森琴音と申します」
気が付けば、琴音達は周りを囲まれていた。
フードを被った集団。だが琴音も瑞希も平然としている。
「皆様方の計画は本日を持って終了です」
フードを被った者たちは黙ってにじり寄る。
「この依頼は警察からではありません。町原小百合さんのご依頼です」
「……!!!???」足を止める男たち。
「『罪深い兄の所業を止めてください。そのためにも、兄を見つけてあげてください』とのことでした。ご依頼通り見つけ出しました。祭壇に捧げられたミイラがクライアントのお兄様。私はあれをクライアントに届けなければなりません」
男たちがためらっている間に警察官達は部屋に殺到する。
「先ほどは目的は知りませんと言いましたが、実際は予想がついています。小百合さんのご病気を治すために、お兄さんは教義通りに儀式を行われた。儀式が効いたのかは分からない。けれども、小百合さんは余命幾ばくもないはずが、いつまでも生き続けた。そう、兄よりも。その兄の遺言は、自分が死んでも儀式を続けること」
琴音は薄く笑い
「滑稽と人は言うかも知れませんが、私から言わせれば結果が全てです。人を殺してまで妹と生かそうとして、実際に自分より長生きした。きっと満足なんでしょうね」
男達は警官に囲まれて連れていかれる。
その男達の背中に向かって
「で、あなた方が必死に探していた隠し財宝ですが」
男達の足が止まり、振り向く
「そらそうですよね。こんな狂った行為、いくら宗教だーって言ってもこんな人数ついて来ない。それに誰かが漏らしますよ。この鉄壁の沈黙には理由がある。それが隠し財宝。町原氏には隠し財宝がある。でもいくら探しても出てこない」
琴音はにこやかに笑い
「町原氏が無くなってから儀式は行われなかった。理由は儀式をやる意味なんて無くなったからです。ただひたすらに隠し財宝を探した。だが見つからない。そのうちに誰かが言い出した。『あの儀式に隠し財宝の秘密があったのではないか』藁をもすがる気持ちで、また儀式は行われた。いや、行われようとした。ねえ、叔父様。ハンバーグ美味しかったですよ」
男の一人は食堂を営んでいた男。
「大正解です。あの儀式に隠し財宝のヒントはあった。町原氏は馬鹿ではない。最愛の妹を救う儀式をやらない不届き者には財宝など渡さない」
連行しようとした警官達も琴音の言葉に聞き入っている。
は
「儀式にヒントがある。そこまで至れば答えは一つ。あの地下ピットで大勢で人殺しをして儀式をする。その事でなにが変わる?」
困惑する警官と、男達。
そこに明るい声で
「うん! 分かったよ! お姉ちゃん!」
「はい、瑞希どうぞ」
にこにこしながら答える瑞希。
「息が苦しくなる!」
「大正解」嬉しそうに瑞希の頭を撫でる琴音。
男達の困惑は消えない。
「換気しますよね? こんな地下にあるピットで大勢でなんかやれば換気をする。今までもしていた筈です。その換気どうしていました?」
「ど、どうって……空気を送り込む装置で地上から送風機を……」
「壊れてると思いますね」
男達の困惑した顔。
「どうやって後継者達が儀式をキチンとしているか、死後管理出来るか。隠し財宝の噂を流しておくこと。そしてその発見は儀式を行う事でしか分からないこと。絶対に使うもの。それは空気を送り込む送風機」
そして、上から准一が降りてくる。
「いやー。琴音の電話の声はセクシーだったなぁ。マジで今度テレフォンセッ○スしよーよ」
笑いながら、その手にはホースを繋ぐタイプの送風機
そして署長と部下がホースを持って降りてくる。
「だーいあもーーんど♪」
楽しそうに、准一は送風機を横にする。
そこから、ダイアモンドの結晶がこぼれ落ちる。
『おおおおおおおぉぉぉっっっ!!!』
男達の絶叫
「病院は儲かっていたようですね。ヤブと評判だったそうですが、それと同時に、薬を過剰に出してくれる病院としても有名だったそうで。薬に依存するタイプの人達は殺到していた」
琴音はゆっくりとお辞儀をして
「これが私の見つけた二つの宝。兄の亡骸と、信徒たちが探していた財宝」
そして高笑いし
「あなた方に足りなかったのは、感謝の心ですわ」
「結局、なんだったのか、署長に説明しないといけないんだけど」
准一は目の前に座っている琴音と瑞希に言うのだが
「適当に書きなぐればいいじゃないですか。シスコンのおっさんが、妹好きすぎて儀式殺人してました。で、自分が死んだ後にも儀式やってくれって頼んだのにやらねーから財宝探せなかったおっさん達が困ってたと」
「なーにから突っ込めばいいのかなー」
呆れたように見ている准一と
「瑞希、本当に賢くなってきましたね。後は経験さえつめば大丈夫ですよ」
「うん♪」
楽しそうに笑う二人。
そんな二人を見ながら
「……まあ、琴音が幸せそうだから、いっか」
そう言って書類を書いていた。
これで完結となります。
多くの方に読んで頂き本当にありがとうございました。
一応このあとの物語の構想もあるにはありますが、予定は未定です。
いつものような終わり方で完結というのがこの作品らしいかなと思っております
本当にありがとうございました!




