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探偵は花壇の中で高笑う

 早森瑞希は、学校の教師鈴原に相談をしに来た。


「鈴原せんせー。最近ちょっかいが多い」

「ふむ。話を聞かせてくれるかな」


 鈴原は、自分から相談に来た瑞希に喜んでいた。


 それだけ、彼は鈴原を

 大人を信用しているということ。


 それは大きな一歩だった。


「なんかね、ちゅーさせてくれって、女の子がたくさん」

「ああ、女の子達はおませだね」


 瑞希の顔は整っている。

 人気があった。


「基本的には、断っていいんだよ。泣かれたりしたら相談しなさい」

 ゆっくりと瑞希の話を聞く。


 瑞希はある程度話すと、スッキリしたようで

「ありがとう! せんせー!」


 瑞希は笑顔で手をふり、職員室を出て行った。


「……鈴原先生は素晴らしいですわ、あの瑞希君が、あんなに笑顔に」

 瑞希の担任が羨ましそうに話しかけるが。


「大丈夫ですよ。もうすぐ、あの笑顔は皆に向けられます」

 鈴原は確信して話をしていた。


「忍耐が必要なんです。教育に必要なのは忍耐です。結果を焦ってはいけません。子供たちは、必ず育ってくれます」



 家に帰ると、瑞希は

「おねーちゃん!」

 琴音に抱き付く。


「お帰り、瑞希」

 にこにこしている琴音。


「おねーちゃん、ちゅーしよ?」

「あらまあ、なんでですか?」

「クラスでね、女の子達がうるさいの。ちゅーしようって」


「? ああ、それで、同世代の女の子達とするぐらいなら」

「うん、おねーちゃんとしたいなぁ」


「ほっぺで良ければ」

 琴音はそう言って、瑞希の頬にキスをする。


 琴音の髪の匂いに、瑞希は顔が赤くなり。


「キスって、ドキドキする」

「ふふふ、本当におませさん」

 琴音は愉快そうに笑った。



 依頼が来る前に、事前調査をする琴音だが、その事前調査の段階で、宝を見つけてしまうケースもある。


 今回がそうだった。

 宝は、昔のマンモス団地。

 今は半分廃墟のようになっている場所。


 そんな団地にお宝が存在していた。


 そして、それを探していた依頼人は

「死にました、と」

「事故だそうな」

 風村と、いつものコーヒーショップで喋る琴音。


「じゃあ、あのお宝はどうなるんだろ?」

「どこらへんにあるんだ? 団地内なら解体作業中に出てくるし、地面でも浅ければ、基礎工事で出てくる」


「どうでしょうね? ちょっと見に行きますか」



 瑞希を連れて、琴音は宝探しにやってきた。


 埼玉県にあるマンモス団地。

 かつては栄えた場所。


 それがもはや半分廃墟と化していた。

 昼間なのに、人の姿は殆どない。


「瑞希、こっちです」

「だれーもいなーい」

 かつては子供たちが遊んだであろう公園。

 そこの遊具は老朽化のため、取り外され、遊べないようになっていた。


 そこのベンチに座る二人。

 すると


「おやおや、めずしい、子供たちかえ」

 顔がな皺だらけの女性が来る。


「こんにちわ、おばあちゃん」

「こんにちわ」


「よく挨拶できたねえ。賢い、賢い。誰かの家の孫かい?」

「違いますが、用事がありまして」


「おやおや、こんな場所に用事かい?」


橋本克はしもとすぐるさんという方がいらっしゃったはずです」


「ああ、すぐるさんね、懐かしいねぇ。憶えてるよ」

「その方の息子さんが先日亡くなられました」


「おや、まあ。まだ若いだろうに」

 実際は62だが、彼女に比べれば大分若い。


「その方の依頼で探し物をしています」

 実際は橋本は琴音に依頼をしていない。

 その前に死んだ。


「探し物。橋本さんのいた家かい?」

「いえ。目的地には着いています。ここです」

 公園のベンチに座りながら


「橋本克さんは、公園の整備をされていたそうで」


「そうなのよぉ。真面目な人でね。亡くなるまで、毎日一人で公園の手入れをしていたわ」


「そうですね、心配だったのでしょう。宝の無事を確認するのは、心の安寧に必要」


 琴音はほほえむと

「瑞希、掘りますよ」

「うん!」


「おや、そこは?」

 花壇。花が植えてあった場所。

「橋本克さんがいらっしゃった時は花が絶えたことはなかったはずです」


「そうそう。綺麗でね」


「公園の花壇を手入れしている人が、土を弄っても、誰も不審に思わない。そして、花壇を荒らせば目立つし、万が一の時に異常に気付きやすい」


「あら、じゃあ、克さんは花壇になにかを埋めていたの?」

「そうですね。ありました」


 琴音はそれを掘り返した。


「克さんの息子さんはこれを探していたようです。探し物で来られませんでした?」


「息子さんだったのかしら? 何人か知らない人達が騒いではいたけれど」


 琴音は頷いて

「私は目的の物が見つかって満足です。お家ってまだあるのでしょうか?」


「ええ。部屋はそのままね」

「ではそちらに捧げておきます」


 琴音は中身も見ずに箱を取り出して、橋本克が住んでいた部屋に案内され入った。


 荒らされた部屋。

 宝探しをしたのだろうか、ボロボロになっている。

 仏壇もなかった。


 それを見て


「ここに捧げても意味は無さそうです。おばあちゃん、橋本克さんと仲は良かったのですか?」

「ええ。公園でよく話したわね。真面目な人でね。一人で公園を整備していたの」


 年寄り特有の、同じ話の繰り返しにも関わらず、琴音は真剣に聞き。


「荒らされた部屋よりも、親しかった人に守られた方が良いはずです。これ、克さんの遺品としてお譲りしていいですか?」


「ふふふ、良いわよ」

「一応、警察にも届けますが、まあ権利者みんな死んでますし、没収にはならないと思います。思い出の品は、親しい人が持つのが良いと思うんですよね、わたし」



 箱の譲渡は、琴音が准一に手を回し、警察を介して穏便な形で彼女に渡された。


 しかし、彼女は中身にはなんの興味もなく、箱を開けることなく、仏壇に置いていた。


「これも、なにかの縁かねぇ」

 彼女は橋本克によく口説かれていたのだ。

 お互い老人という年でも、恋愛はする。


「ポックリ逝ったものね。私もそうありたいわ」



 1ヶ月後、痴呆になることもなく、健康で出歩いていた彼女は、肺炎で亡くなった。


 苦しむ事もなく、眠るように亡くなった彼女に、家族達は

「苦しまずに、家族に迷惑かけることなく亡くなったんだ。おばあちゃんらしい」

 と感謝していたのだが、問題が湧き上がった。


 仏壇にあったその箱の中身

 それは貴金属類だった。


 価値は数億。

 しかも警察も

「取得した経緯は届け出済みで、彼女の所有物であることに間違いない」

 と家族に伝えた。



 その結果。



「いや、あのまま埋めておけば良かったんですかね?」

 琴音が風村と話す。


「クライアントの祖母に、あの宝を渡していたのか」

 風村が面白そうに笑う。


「亡くなった後に騒いでる分だけまだいいのか。生前に、おばあちゃんの仏壇確認してたら、あのおばあちゃん大変な事に巻き込まれてたかもしれませんしねぇ」


 風村の所に、あのおばあちゃんの孫から依頼が来たのだ。


 遺産相続で揉めた家族を殺したいので、それを隠蔽するコーディネートをお願いしたいと。


「依頼は周り巡るものだな。運命という言葉は重い」

 風村は重々しく言う。


「そうですね、運命。良い言葉です。私が今瑞希と暮らしているのも運命なのでしょうね。最近は毎日が楽しいですよ。共に語る人間がいるのは楽しい」

 琴音は嬉しそうに笑い


「あの、おばあちゃんも、私に会うのが運命だったんですかね?」

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