探偵はトイレで高笑う
早森琴音は、ビルの見取り図を眺めていた。
「ビルと言うのは、いくらでも宝を隠すスペースがある。問題はそれがどの段階からか。設計段階からなにかを隠すつもりだったら、可能性が多過ぎて絞り込むのが困ります。
ただ、そうでなく。出来上がったビルに、何かを隠すとなれば、それは絞り込める」
「うん。じゃあ今回は?」
「ビルの設計と建築は大手。恐らく設計段階では考慮されていない」
「じゃあこことか?」
「うん。そうですね。何回も取り出すタイプの宝ではないですから、そのスペースは考えられます。後は実際にビルを見回って、設計図ではあるはずなのに無いスペースとかを見回りますか」
「うん!」
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琴音は、事前調査で、ビル内に隠された宝を探しているという話を掴んだ。
しかし、そのビルは老朽化が進み、解体予定だったのだ。
しかし、その解体予定をまたずして、その企業は探し回っていた。
「ビルを解体すれば必ず出てくる話でしょう? 重機で壊す前に、手で内装とか剥がせばいい。その作業ですら壊れかねない、脆いものなのですか?」
疑問は尽きない。
たが、調査の中で理解した。
「金が無いのか~」
倒産寸前。その為宝のありかを必死に探していた。
「依頼人が私に頼むのはあり得ないけど、一応調査しますか」
そうやって調べているうちに、風村から
「なんか、琴音に頼むか悩んでるらしいよ」
と連絡がきた。
「あらま。金銭面がヤバいから、私には来ないと思っていたのですが」
「琴音は、見つかった財宝の何割と言う契約もしている。見つからない宝よりも、減った財宝の方が良いんじゃないかと」
「なるほど~。まあ依頼が来たら受けますよ」
「ああ、正式に来たら回す」
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それから二週間。
ついに、その会社は決断した。
このままでは倒産は免れない。
解体をする費用ももはやない。
「クライアント。初めまして早森琴音と申します」
「御高名は聞いております。実はこのビルの中に、先代の隠した宝があるのです。ただ、それがいくら探しても見つかりませんで」
「ビルの設計図と合わせて確認されましたか?」
「ええ。探せるところは探しましたが……」
琴音はその部屋をぐるりと見渡して。
「まあ、大体分かりました。行きましょうか?」
「え?どちらに?」
「宝の在処です」
驚くクライアントを横目に、誰もいないビルを歩く。
「今日は会社はお休みなのですね」
「そうですね。今日は誰も来させていません」
琴音はなにかを考えた後
「宝の基本はですね。手元にあり、見つかりにくく、出すのはともかく、確認するのは容易な場所です。なにしろ、宝の価値があればあるほど、それが大丈夫か? 盗まれてないか? と心配するのは人として当たり前の話です」
「なるほど。それでは先代の宝も……」
「ここです」
そこは
「は?」
そこは
「これは、トイレ?」
「ここ、先代の社長さんしか使ってはいけなかったトイレでは?」
「そ、そうです! 先代の間は絶対に使わせませんでした!」
「お掃除も先代しかされなかった」
「ええ! 前時代的な考え方で。トイレ掃除は自分でやれと。自分も率先して専用のトイレを掃除していました」
「ここに宝を隠していたから、人を入れたくなかっただけです」
「しかし、ここも探しましたよ? 棚や天井など……」
「結構面白いもので、人には共通の死角があります。これもそうですね。天井を探すのに、その下を見ない。同じように空間はあるのに」
「え!?」
「用を足しながら、確認してたんでしょうね。取り出す必要もない。宝が無事だと確認出来ればそれでいい。なので、ここ」
琴音はタイルを外す。
「おお! こ、ここに! 宝が!」
「旧札ですね」
中身はビニールにくるまった札束だった。
「お宝の場所はこちらです。見つかってなによりですわ」
琴音は気持ちよさそうに笑っていた。
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「振り込み無いんだよな」
「結局倒産したみたいですよ、あの会社」
「その金どーしたんだよ。その社長?」
「旧札だから、換金する時に色々言われますからね~。どう考えても脱税ものですし、まあアレですから。持ち逃げでは」
「嫌だねぇ。まあ恐喝してみるよ」
「お願いします」
琴音は風村の事務所を出ると
「本当はお宝は、もう一個あるんですけどね。あのビルはしばらくあのまんまだし」
琴音は、誰もいないビルで察したのだ。
このクライアントは、見つかった財宝を隠そうとすると。
本来ならば手伝いで誰か呼んでもおかしくない。
そもそも、宝探しも、社長と役員の一部しか行っていなかったのだ。
「倒産に伴いビルは競売にかけられる。その後見つかった宝はどうなるんですかね? 社員の皆さんに配られるといいですね」
琴音は笑っていた。




