探偵はセグーの堤防で高笑う(後編)
マリ共和国セグーの堤防。
その一角で、早森琴音はしゃがんでいた。
「風村。多分このあたりです」
「ふむ。どうする?」
風村はスコップを持っているが
「そうですね。多少は埋もれているはずですから、ちょっと掘り起こしますか」
「ああ」
堤防の一角で地面を掘る風村。
その辺りは死角となっており、注目する人もいなかった。
「Y a-t-il un trésor dans cet endroit?(宝はここにあるのですか?)」
案内人が聞く。
琴音は真っ直ぐ堤防を指差し
「Il y a peut-être un trésor à la clé(多分宝は埋まっています)」
琴音は答える。
「むい?」
瑞希は翻訳機を見ながら
「おねーちゃん。今の『宝は多分埋まっています』であってる?」
「ええ。素晴らしいですね。翻訳機の新型を買ったかいがありました」
瑞希の頭を撫でる。
「琴音、それ日本製?」
「そう言って売っていますが、まあ中国のODMでしょう。でも優秀ですから気にしません」
「スマートフォンより良いのかね?」
「この新作は、手続きを省いて世界中で通信出来ますからね。それが良いです」
話をしている間に。
「琴音、固いのに当たった」
「ふむ。そんなに深くないですね」
掘った先をペタペタ触る。
「瑞希、頭を使いましょう。いいですか。この堤防になにかを隠した。問題はそれを回収すること。隠すのは大事です。しかし回収出来なければなんの意味もないのです」
「うん」
「ここは川の手前です。水はいくらでも侵入する。ましてや、隠したのは19世紀の話です。地下の浸水を完全に防ぐすべはない」
ペタペタと地面を触り続け、堤防の壁を見る。
「地面の下に埋めるのは現実的ではない。だから、堤防の壁に埋めているんです。地面にはその目印が書いてある。形から想像するとこの辺りだと目星をつけていました。風村、見てください」
「……薄くて見えないが、星か?」
「帝国の紋章のようです。これが目印」
瑞希に向き合い。
「宝は絶対そこにある。そう思って堤防の壁をご覧なさい」
「……」
じっと見て壁を触る瑞希。
案内人は疑いの目で彼らを見ていたが
「え?あ!!!琴音!これ!見つけた!」
瑞希の目線。
そこに継ぎ目があった。
「正解です。子供の目線なら見つかる。探すのは大人。子供の目線は死角になる。そもそも隠すのに大きなスペースは要らない」
「ふむ、手で開くか?」
「そこまで簡単ではないでしょう?スコップでこじ開けましょう」
スコップの先を挟み、思いっきり力を込めると
『ドンっ!!!』
石の壁が倒れた。
「豪快な開け方だな」
「多分もっとスムーズに開く方法はあったと思うんですが、100年前ですから」
二人はノンビリと話していると
「Trésor(宝)!!!」
案内人がその穴に入り込む。
「待ってください!!!罠はありますよ!!!」
しかし
『Aaaaah!!!!!』案内人の悲鳴。
「やばい!」
「風村!灯りをつけて慎重に行ってください!私は通報します!」
「ああ!」
案内人の背中に矢が刺さっていたが、重傷ではなかった。
当局に連絡し、看病と、中の捜索をお願いした。
その結果宝はあった。
のだが。
「湿気でめっちゃ錆びてますね」
「金はいいんだがな。あんまりないし」
堤防の中は湿気でボロボロになっていた。
「まあ、宝はあった。ということで」
「アフリカで湿気対策はしないわな」
「砂漠はすぐそこですからねぇ」
琴音は宝を見ながら
「価値なんて大して無いんでしょうね、これ。でも私は満足ですよ。皆さんの顔見れましたし」
なんでこんな場所に宝を隠したんだと、マリ共和国の官僚は呆然としていた。
「占領されてから100年以上出されないなんて想定しなくて良いんですよ。普通はね。長くて10年持てばいい。私は、この場所に隠したのは正解だと思います。現に見つからなかったわけで。
不正解だったのはですね。宝隠して死んじゃった事ですよ」
「この仕掛け作った人は凄いですよ。敵から財宝を守りきったのですから。悪いのは見つけられなかった無能どもです」
気持ちよさそうに笑っていた。




