探偵は古民家で高笑う
早森琴音は依頼人と会っていた。
「初めまして。私が早森琴音です」
「どうも、わざわざお呼びだてして申し訳ありません。依頼そのものもあるのですが、見て頂きたいものもありまして」
ここは古民家。
メールで依頼があったのだが、その依頼は琴音の事前調査に引っかかっていなかった。
また、依頼内容を見ても奇妙で、琴音は直接依頼人と会わないと分からないと思い、すぐ会うことにした。
「古民家に隠された財宝。そういった依頼は私は何度もお引き受けしておりますが」
「ええ。お噂をお聞きしまして」
「ただ、メールで頂いた内容のケースはあまり例がありません」
「はい。その為に、早森先生をお呼びしたのです。並みの人間では探し当てるのは不可能と判断しています」
「依頼内容を確認します。この古民家には江戸時代に隠された財宝があると」
「ええ。ところがです」
「はい。古民家とか言ってますが、これ完全に作り直してますよね」
「はい。流行りのリノベーションという形で作り直しています」
メール依頼では
「既にリノベーションで古民家を新しくしたのだが、その後に、親族からその家には宝があったはずだと言われた」
と書かれていた。
そのリノベーションの内容も添付されており、殆どの全てが作り直しだ。
だが
「業者の聞き込みをしても、それらしき物は出てこなかった」
「はい。リノベーションを担当したのは一流企業の施工会社と、有名なコンサルです。
そのような嘘をつくとは考えにくいですし、そもそも、家の物の整理は私が全部把握しています。
家の解体作業時は立ち会ってもいるのです。
そこでは、梅の入った壺などのどうでも良いものすら、大切によけて確認を求められました」
「そうですね。私もそこの線は薄いと思います。真っ先に考えるのは、その親戚の方が間違っている。次に本当はあったけれども、誰かが既に持ち出していた」
「まず親戚の件です。確かに間違いはあり得ます。
ただですね、もし見つかったところで、本家の財産ですから、その方には配分がありません。
現に、それで黙っていたそうですよ。それが、解体してもなにも出てこなかったと聞いて、慌てて連絡をしてきた。
つまり、本人は少なくともそこに宝があったはずだと確信をしている」
「なるほど」
「そして、次が誰かが持ち出した。可能性はあります。
ただ、ここに住んでいた祖母は、極めて猜疑心の強い方でした。
またケチで有名で、かなりため込んでいました。
親戚の方が言うには、祖母から宝の話を聞いたそうです。
もし万が一盗まれたりしたら間違いなく騒ぎます。現に警察には自分の家から300円盗られた通報したりしていたらしいですから」
呆れた顔をする琴音。
「以上の状況から、あるのではないか?と疑っています」
「分かりました、クライアント。流儀に反しますが、早速探しましょう。真っ先に疑うのは地下です。今回地下は掘っていないのでしょう?」
「ええ。それは疑ったのですが……」
「なにか問題が?」
「土がかなり固いのです」
「ふーむ」
琴音は庭に出るが
「参りましたね。これだけ締まってると地下レーダ探査も表面で反射します。ガチガチですね」
「掘るにしても目処がつかないと……」
「なるほど」
「庭に埋まっているならば重機を持ち出しますが、家の下だと困ってしまいます」
「地下室らしきものは無いのですね?」
「はい。昔はよくあったらしい、地下の保管庫もここにはありません。地方の文化として無かったらしいですし、これだけ土が固いですからね」
琴音は少し考え込む。
「確認ですが、リノベーションと仰いました。再利用した素材は柱以外にありますか?」
「いえ、リフォームと違い、立て組みを残しそれ以外の全ては再利用しておりません」
「柱、柱か。以前受けた依頼で、柱の中に宝を隠したというのがありました」
「なんと!それでは今回も」
「いえ、こんな細い柱ではとても……」
無理だ
「庭、地下、柱、なにか見落としは……」
琴音はゆっくりと歩く。
「ケチ、ケチか。300円に気付くような程の管理能力と……あ!ああ。そっか。なるほど。すみません。ここまでしながら、おばあ様のご挨拶しておりません。御仏壇はありますか?」
琴音は納得すると、依頼人に聞く。
「これは、わざわざ。ええ。こちらです」
仏間に移動する。
とても立派な仏壇。
「これですね」
「ええ。こちらの仏壇が祖母の……」
「そうではないです。ここに宝が入っています」
「な!?なんですって!?しかし、仏壇も当然調べましたよ?」
「この仏壇にはなにが入っているのですか?」
「骨壺ぐらいです」
「おばあ様のではない、違う骨壺は開けて見ましたか?」
「もちろん、移動時に開けて確認していますが……」
依頼人は骨壺を出す。
琴音はそれを持ち上げると失望したように下ろす。
「開きますよ」
「ど、どうぞ」
開くと、そこには焼かれた骨があった。
「やはり、骨……」
「二重底です」
琴音はそう言うと、スライドさせる。
その下にはメモがあった。
「直接金貨をここに入れたわけではないんですね。忘れた時の為のものですか」
番号「13113133」と記されていた。
「金庫かなにかの番号ですか!?」
「開かない金庫なんてあったんですか?」
「……いえ、残念ながら」
琴音は仏壇を慎重に見ると
「1と3だけね…もしかしたら」
仏壇は自動で開くタイプであった。
番号のオンオフを、1と3にして試していると
「わお!」
「な!?」
仏壇が二つに割れた。
「スーパー罰当たりですね。中々アナーキーなおばあ様で、私と話が合いそうです」
「ま、まさか、ここに宝が」
「仏壇って重いから宝があっても気付かなかったんですね」
それにしても、移動させれば音がしないのか?と思い、のぞき込んだが
「……クライアント、300円で通報の意味が分かりました」
全部10枚ずつキチンと縛っており、間を開けないように綺麗に整理整頓されていた。
「鑑定はしませんが、まあ古銭なのは間違いありません。かなりの価値があるかと」
「……こ、こんなところに入れておくとは……」
「見つかってなによりですわ。それではクライアント、ご機嫌よう。依頼金は後で良いです」
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「いやぁ、お金怖いなあ。なんでこんなに簡単に人殺せるからなあ」
依頼人が死んだとの新聞記事を見る
「わたしの報酬はもう貰えましたけどね、牢獄に入れられてもなお欲しいのか、自分は大丈夫と思うのか」
犯人は、財宝のありかを伝えたという親戚だろう。普通では相続されないので、依頼人に探させて、見つかったら強盗殺人を行ったのだ。
「命軽いなぁ。准一にも言っておこうっと。巻き込まれてもいやだし」
琴音は背伸びをして
「今回は瑞希を連れて行かなくて正解です。あの子が巻き込まれるのは嫌ですからね」
横で寝ている瑞希の頭を撫でて、琴音は微笑んでいた。




